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とある軍の宿舎で  作者: 夢見 隼
秋の道筋
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あきらかな紅葉にあきみちる―5

 小さな電子音で、僕は目を醒ました。

 枕元に手を這わせ、その音の発信源を掴んだ。そして、耳元に持っていきながら寝ぼけ声で応答する。

「――もしもし」

『……もしかして、寝起きだったかな? 葵』

 その楽しげな声は――空也、だ。

 僕は脳みそを覚醒させていきながら、通信機を左肩と耳で挟み込むと、左手で目を擦ってから応じる。

「――ああ、悪い。ちょっといろいろ話し込んでいて、な」

『紅葉から聞いている。そっちがいろいろ根回ししてくれんのは助かるよ。こっちがアポ取ろうとしたら一か月はかかるからな』

「ん……そうか、なら、良かった」

 僕は通信機を再び左手で取り上げて耳元に宛がい直す。

『こっちもいろいろと手配が終わってね。銃弾も手配したが、本当に一ダースで良かったのか?』

「お前らを信頼しているからな。むしろ、こっちがライフル持っているのは、そっちとしては心外なのではないのか?」

 自分が武器を持つことは、それすなわち、西国の警備に疑いを持っていることだ。

 だが、彼は飄々と笑って告げる。

『はは、こちらもお前を信頼しているからな』

「――さよか」

 僕は息をつく。今に始まったことじゃないが、本当、こいつらはあっさり信じる。

 それが好ましく、そして何より心配な点だ。

 僕は軽く欠伸をしながら、枕元の水差しを取ってコップに水を注ぐ。そしてそれを一気に飲み干してから空也に声をかけた。

「それで、彼女は何て言っていた?」

『ん? ああ、アポを取った相手か。まぁ、最初は胡乱な声だったが、お前の名前を出したらもう、サクサク交渉が進んだよ。お前さんの声が上手い交渉材料になったな』

「そうか。後で彼女にも連絡しておかないとな」

『事が済んだら連絡してやれ』

「ん」

 僕は軽く頷きながらベッドに腰を下ろす。そしてまだ寝ている紅葉の横顔を見つめながらその髪をそっと梳いた。そして、空也に要件を訊ね直す。

「それで、ご用件は? 義兄様?」

『んあ……そう呼ばれるとくすぐったいな……ええと、要件だけど』

 小さく咳払いしてから、空也はつらつらと言葉を並べていく。

『首都への手配も取れた。当日は、車を利用して移動してもらう感じだな。国内には東国の間者が入り込んでいる気配があるし、最低限の警戒は払っている。さりげなく護衛をつけておくし、安心はしておけ。輸送日時は変更なし、良いな?』

「ああ。でも最大の護衛はいつも傍にいるから」

『はは……畜生、リア充爆ぜろ』

「リア充とか平和ボケした平成時代の死後だろ。何でそんなの知ってんだか」

『つっても、平成なんて曾祖父ちゃんの世代だろ? 溝口伝説の男、真次曾祖父から聞いていないのか?』

「聞く前に死んでいる。ま、親父から何となく聞いていたけど……話を戻すぞ」

 僕はそっと紅葉の頬を人差し指の背でなぞると、彼女はくすぐったそうに喉から声を漏らした。

 その愛くるしい反応に頬を緩めながら、空也と通話を続ける。

「とにかく、平田に会わないと何も話は進まないからな……そこだけはよろしく頼む」

『ああ……例の情報の食い違い、か』

 空也が深刻そうな声色で告げ、僕はその通りと頷いてみせた。


 情報が食い違っている、と気づいたのはふとした会話がきっかけであった。

 西国は東国が先に侵攻したという記録を持っているのである。東国もそれは認めている。

 だが、国民間の前提が異なっているのだ。

 東国は『平田がクーデターを起こし、逃走。そして西へ逃げて国家を築いたため、攻め込んだ』という情報を前提に、国民を納得させている。

 しかし、この国、つまり西国は『逃走者の平田の理ありと判断し、保護した。その後、同盟を破棄して東国が攻めてきた』という情報が主なのだ。


 相違点は主に二つ。

 ・西国の建国時期。

 ・平田が犯罪的行為を犯したか否か。


 細かい相違点はあるが、問題はその二点に絞られている。

 今までは平田の恨みが勝っていて考えられなかったが……もしかして……。

 もしかしてだが、平田は……。


『あんまり深く考えすぎるなよ。葵』

 空也の指摘に僕は我に返ると、彼はわずかに苦笑しながら言った。

『考えすぎるのは悪い癖だな。葵。紅葉も言っていたが……もうちょいと気楽でもいいんじゃないか?』

「紅葉がそんなこと、言っていたのか?」

『ああ。葵のことを一番理解しているのだろうな。そして、葵は紅葉のことを』

 言葉がどこか寂しそうだ。だから、僕は茶化して言った。

「いやいや、僕たちの家族なんだから、義兄様がしっかり理解してくれなきゃ困るぜ?」

『――はは、そうだな。ん、任せておけ』

 空也は頼もしい声で応じる。そして詳しい内容について説明してから彼は通話を切った。

 僕は受話器を置きながら、彼女のさらさらとした髪の毛を手で絡めつつ、小さく声をかける。

「紅葉、起きているだろ?」

「ん……」

 彼女はもぞもぞと動いて片目だけ目を開く。少し頬が赤いのは、気のせいではないはず。

「最初から起きていたなら、起きて会話に加わっていれば良かったのに」

「気づいていたんだ」

「そりゃ、な。つーか、工作員が起きていなくちゃ駄目だろ?」

「ん……」

 紅葉はこくんと首肯してベッドわきに座る僕の膝の上に頭をことんと乗っけた。そして眠たげな瞳で僕を見上げながら微笑む。

「ありがと、葵」

「ん?」

「私たちのこと、家族って言ってくれて」

「――当たり前だろ」

「ん……」

 僕はどこか照れくさくなってそっぽを向くと、紅葉はくすぐったそうに笑う。しかし、すぐに僕の太ももに手を置いて、少しさびしそうに、でもね、と言った。

「やっぱり、本物の家族が、欲しいな……」

 そっと下腹部に手を置く、紅葉。そっか、と僕は短く応えて彼女を見つめる。

 彼女は僕の瞳に視線を移すと、どこか照れたように焦点をずらした。

 その彼女がいじらしくなって、彼女の頭を抱え込むようにして抱きしめた。


「じゃあ、今日は一日中、一緒にいようか」

「――ん」

ハヤブサです。


いやぁ、亀更新すぎて面目ないっ。

いろいろ新人賞に対しての考察と創作が多すぎましてな。

ぼんやりと感想を見返していたら、ほぼほぼ2013年の感想ばかりと気づいてわずかに寂しくなって書いていました。

いやはや、久しぶりに感想が欲しいものです。


さてさて、紅葉さんとひたすらイチャイチャ甘々していますが、裏で事態はゆっくりと進行中。

東国の不穏な動きと、空也たちの裏での工作、そして葵が呼びかける『彼女』――そして、もう二人。

それが次々話あたりで一気に動き出す……予定です。


あああああ、とにかく、紅葉が可愛いだろもう!


早く清書したいけど、完結させんと!

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