点のうさぎ
トイレを開けたらうさぎがいた云々の件はもういい。
飽きたっていうのもあるし、どうせ結局、今回もいるものはいるのだ。
「おっはー田中ちん」
馴れ馴れしい。
「もうおっはーとか古いよ」
「えーチョベリバー?」
「それも古いよ」
チョベリバがチョーベリーバッドだということを、最近の若者が、果たして知っているか否か。
わたしくらいの年代だと、知らない人口の方が多いと思う。
そもそも時刻は夕方五時過ぎであり、おっはーもくそもなく、西日遠く赤い空には夜が差し掛かっている。
校舎最奥のトイレは、そろそろ電気を点ける必要があった。
「あ、」
ぱち、と点けて目が留まる一点。
うさぎの焦げた頭部に、小さく言葉が漏れた。
「何」
「頭部焦げてる」
「あー前回燃えたあれねー」
正確には、うさぎ自ら催した誕生日会の前なので、前々回に当たるがもうその辺はどうでもいい。
「結局、何で燃えたの」
「焦点が合ったの」
「は?」
笑点?
うさぎに座布団は、とてもじゃないがあげられないけれど。
脳味噌が沸くと、火が出るということだろうか。
それなら、沸点と言った方が正しい気がする。
いや、沸点では燃えないか。
「何となく勘違いしてるっぽいけどー!失礼なんだけどーマジチョベリバー!」
「それ取り敢えずやめろ」
苛ついた。
「焦点!虫眼鏡のやつー」
ああ、それか。
いや、納得するのがそもそもおかしい。
「焦点合わせたっていうの?何でトイレでそんなことするの?そもそもが虫眼鏡なんて物騒なもの、どこで手に入れたの?」
「鈴蘭がくれたー」
「は?何で」
「ハピバスデープレゼント」
ばたん、と個室を閉めた。
ぱちん、と電気を消した。
「だって学舎でしょーがー」
今更最もなことを口にしたうさぎは、やっぱり、脳味噌が沸点に達しているに違いない。
「……何故、虫眼鏡」
鈴蘭さんのプレゼントに疑問を覚えつつ、学舎には、夜が差し掛かっていた。