マイウェイうさぎ
トイレとは即ち、排泄の用を足すための設備である。
ちなみにうちのトイレはTOTOであり、学校のトイレもTOTOである。
TOTO以外のトイレが存在するのかどうかをわたしは知らないが、あると言えばまああるのかもしれない。
今重要なことはTOTO以外のトイレブランドを知っているか否かではなく、トイレがトイレではなくなっていることだ。
「何をしちゃってるわけ、何を」
「お、田中っちじゃーん」
「田中っちとか言うな」
しばらく会わない内に、うさぎはフレンドリーになっていた。
そんなに仲良くはないと思う。
が、そんなことは通用しないとわかっていて、うっかり反論した自分は、やっぱりまだまだかもしれない。
違う、そうじゃない。
トイレがトイレではなくなっていることが重要でおかしいのだ。
「で、何をしちゃってるわけ」
「ハーピバースデートゥーミー、はいっ」
「はいっじゃないし」
今ので全ては理解した。
過剰にデコレーションされたトイレ内、そう、もうそれはまたもや個室を飛び出し、仕舞には全個室がデコレーションされている。
『ハピバースデー俺様!』とでかでか書かれた垂れ幕と、お遊戯会のような輪飾りと花飾りの嵐吹き荒れるここで、うさぎはすでに、一人バースデー会を開催していた。
バースデーソングまで持参らしきカセットデッキから流れている。カセットデッキって。
トイレなのに。カセットデッキって。
「ねえ、絶対おかしいよここトイレだよてか女子校だよ何やっちゃってんの」
「しっ、」
しいーっと口元に指を当てたうさぎが、「だめだめ、いくつになったかとか聞いちゃ」とか何とか言っている。
聞いてないけれど。
すごい今更だけれど、トイレで被り物していて、臭いとか籠もらないんだろうか。
どうでもいいか。
「鈴蘭さんとこでやれば?」
「あーもうやったやったー」
最もな意見は、敢えなく肯定されてしまった、が。
「一ヶ月前に」
「は?」
「いや、ここではまだやってなかったなって」
ばたん。
「ちょっとー田中っちー!あ、やべ、巻き戻さなきゃ」
昭和の匂いを漂わせたカセットデッキから、きゅるきゅると、テープを巻き戻す音だけが、背中越しに聞こえていた。
「TOTO以外のトイレブランドって何だろう」
僅かに気になる疑問を残し、夏の午後は過ぎてゆく。