なぞなぞうさぎ
どうしてわたしはここを開けてしまうんだろう。
どうしてと問うまでもなく、今日も例のうさぎは元気に『なぞなぞ100連発』とかいう本を読んで興奮していた。
「あんた何してんの」
「『木琴の両側にあるものは何でしょう』!?」
「知るかよ」
木琴だろうが木金だろうが答えが水曜日と土曜日だろうが、どうだっていい。
「ブッブー、答えは『水曜日と土曜日』でしたー」
「……」
当たってしまった自分に、ちょっとだけ嫌気が差した。
当たったのに「ブッブー」と言われたことにも、嫌気が差した。
「ねえ、マジでいっつも何してんの、ちゃんと仕事してんの、日中もここにいるの、まさかね、だってあんたサラリーマ、」
「しっ、サラリーマンとかマジ禁句だから」
結局自分で言っていることに彼が気づくのは、果たしていつだろうか。
サラリーマンなのか、やっぱり。
「大変なのよ、猫はこたつでまるくなりたいのよ」
「うさぎじゃん」
「『ごみがすきなとりは何でしょう』!?」
最速レスポンスは敢えなくスルーされた。
「ちりとり」
「ピンポーン!田中さんやるうー」
苛ついた。
「校舎一階一番端っこ女子トイレ。放課後誰もこないからって、いつかばれるよ。なぞなぞで興奮してる場合かよ」
「エジソンは言った」
「は?エジソン?」
うさぎは便座に座り直した。
真剣なようだ、被り物してるからわからないけれど。
「『天才とは99パーセントの努力と1パーセントの才能で出来ている』」
ばたん、とドアを閉めた。
きっと彼は、どっかのネジが飛んでそれ故に外回りを言い渡された上に契約が取れなくてここに居座り暇を潰しているに違いない。
「『俺は誰でしょう』!?」
「うさぎでしょ」
「ピンポーン!」
妄想の果てに、可哀相になってなぞなぞに付き合ってしまった。
「まったねー田中さん」
トイレから、陽気なうさぎの声が聞こえた。