拳銃とうさぎ
ある日の夕方、トイレを開けたらうさぎがいた。
──というのはすでに今回で三度目の残念賞であり、またまた残念賞なのは、今回はそのうさぎがえらく物騒なものを手にしていたことだ。
慣れた手つきでくるくると回しては、すちゃ、と構えて「ばーん」とか言っている。
「俺ちょーかっこいー」
聞かなかったことにしよう。
「ちょっとこっち向けないでくれないかな」
「大丈夫、何かあっても俺の指紋は残らない」
「あんたの心配の方じゃないから」
何かをやらかすつもりか、はたまたただのポーズかは知らないが、うさぎの手には、しっかりと軍手がはめられていた。
軍手したところで硝煙反応は出ると思う。
何かの漫画で、ビニール傘越しに相手を撃った犯人が硝煙反応を跳ね返すとかいう荒技をやっていたけれど。
どうでもいいか。
「玩具?」
「さあ?」
「さあ?って」
「撃ってみる?」
しゅぱんっ。
「……モノホン?」
「あ、あぶっ、あぶなっ」
「サイレンサー付いてんだ……」
わたしの足元すぐ横に小さな穴を開けて、うさぎは、しげしげと拳銃を見つめていた。
「どうしよう」
「知るか!」
「うーん」
悩みながらもうさぎは、ぴぽぱ、と携帯を鳴らし、しばらくして。
「届けておきます」
「よろしく」
トイレの窓から突然現れた黒ずくめのおっさんが、丁重に拳銃を受け取り、颯爽とまた、トイレの窓から出ていった。
「これで安心だね、田中さん」
「全然安心じゃないけど」
取り敢えず、今更ながらに、関わりたくないと思った。