トイレのうさぎ
何だろうか、何て言ったらいいかはわからないけれど、取り敢えずトイレにうさぎがいた。
何がどうとかは知らない、いるったらいるんだ。
下ろした便座にあぐらを掻いて、一昨日のスポーツ新聞を読んでいる。
一昨日のスポーツ新聞だ、もう今は今日の夕方もいいとこだから、流石に三歩は出遅れているんじゃないかと思った。
どうでもいいけれど、彼はうさぎか。
うさぎといえばうさぎ、でも、明らかにネクタイを緩めたくったくたのワイシャツ着てるけども。
「被り物?」
「うっさい、今明日の桜花賞の予想してるから」
どうやら競馬に夢中らしいが、桜花賞は昨日終わった。
その事実に彼が気づくのは、果たしていつだろうか。
まあ、それはそれとして。
ばたん、とトイレの個室を閉めた。
今更かもしれないが、ここは高校の女子トイレなんだということは、本当に今更か。
「先生、」
「どうしたの?」
「トイレにうさぎがいます」
「いません」
「います」
「……田中さん、疲れてるのよ。早く帰りなさい」
先生は行ってしまった。
ちなみにわたしは特に疲れてはいない、昼間の授業で睡眠はばっちりだ。
「おわーっ、桜花賞昨日じゃーん!」
女子トイレの個室から、うさぎの叫びが聞こえた。