4話:実夢華
私は実夢華、政府に管理されている『池田市生物実験施設』の所長だ。ここは中国だが、支部として展開している場所に一時的に研究施設を建てた。『池田市生物実験施設』から『実生物実験施設』とつい最近名を改めた。
私は15年ほど前にとある夫婦と契約を交わした。それは『次産まれる双子のうち片方の出来損ないを実験動物にしてもいい』というものだ。私は当時契約は口ですると破られやすいということを知らなかった。だから口約束でその契約を済ませてしまった。
双子が産まれるという両親は子供を産む前から乱雑に扱う言葉が散見された。こんな親に育てられたら碌な子にならないと思った私は私は産まれたらすぐにでも片方を保護するという決心をしていた。
双子の親、壊鸝飛鷹と壊鸝緋唯と初めて出会ったのは私が日本に留学している時だった。
2人はショッピングモールでお腹の子の話をしていた。
「この子達のどちららかが出来損ないなら捨てましょ」
「そうだな、双子ならどちらかが出来損ないとかよくある話だ、片方は捨てよう」
ドラッグストアで実験の材料となる薬を買っていた私はその言葉が聞こえて手を止めた。どうしてって、決まっているだろう?産まれる前から捨てられることが決まっているなんてあまりにもおかしいからだ。
すぐに商品を元の位置に戻して、その夫婦に声を掛けた。
「そこのご夫妻、少し質問をしてもいいかい?」
夫婦は訝しげな表情でこちらを見た。
「…あぁ、中国人ねこんなところで声をかけるなんて」
「なんだ、さっさと要件を言えよ」
夫婦は子供を捨てると抜かした上に、中国人だと差別をした。中国はそこまでわるい場所じゃないというのに、母国を馬鹿にするなど言語道断。今すぐにでも殴りかかりたかった。
だが私もそろそろ研究所を建てる許可も貰えたということもあり、怒りは抑え込んで会話で交渉することを選んだ。
「先程、子供を捨てると言わなかったかい?」
「ああ、そうだな」
そうだなと適当に返事をしながら別のものを見る父親。少しは人の話を聞こうとしてほしいものだ。少しイラつきながらもまた別の質問を繰り出した。
「…その子供は本当に捨てるのかい?」
「そうね、それがどうかしたの?」
「捨てる子供を私に譲ってくれないかい?」
「ああ、いいぞ?捨てて死ぬだけのゴミだからな」
あっさり了承されて、私は呆気に取られた。どうして自分の子供をそんなにも大切にしようと思わないのか、どうして長生きしてほしいと願わず、捨てると平然と言う。挙げ句の果てには捨てるからいいと私の願いを適当に了承した。
やはりこの人達に子育てさせたくない。私も隣で成長を見るとしよう。
「才能が判明するまで、私が隣で成長を見届けてもいいかい?」
「それでいいなら構わない」
これもまたあっさり了承された。コイツらは一体どう言う感情で動いているんだ…と思ってしまうほどだった。
「最後に名前を聞いてもいいかい?」
「ああ、いいぞ。親が壊鸝飛鷹」
「私は壊鸝緋唯よ、連絡先渡しておくわ」
「助かるよ」
それだけ言って私はまた買い物に戻り、すぐに家に帰って研究に戻った。
それから数日が経つと、私に子どもが産まれたと連絡が入った。私はすぐさま家から出て、指定された病院に走って行った。(免許は取っていない為)
「飛鷹!緋唯!双子は…!」
「夢華先生!?どうしてここに…」
最初に声を掛けてきたのは助産師だった。昔私が教育を担当した人だった。
「あ、ああ…いや、そこの人の知り合いなんだ…」
「成程、それならどうぞ」
そうして通されて双子のいる場所を見ると、目をぱっちりと開ける幼子とそっぽを向いて小さく丸まって眠っている幼子がいた。
「…名前はもう決まっているのかい?」
「決まってるわよ」
「早いね、なんと言うんだい?」
「煓と片利、姉が煓で妹が片利よ」
煓に片利、クソ親な癖していい名前を付けている。画数も考えているようで、案外いい意味のものだ。捨てると言うのにそこまで考えるものなんだなと、少しだけ感心した。
私は名前を確認した後、すぐに詳細確認機構と呼ばれる機械を使用し、2人の能力を確認、強さレベル、才能の割り振りを確認した。
「…煓」
捨てられる方はすぐにわかった。姉だ。妹に比べて【知能】【狡猾】【発現】【体力】の才能レベルが低く、物覚えはいいときた。唯一ぶっちぎりの才能があるのは【器用】【記憶】だった。産まれたてなので他のものは何も分からない。
妹の方は異様に色々高かった。既に能力も発現していて、最大レベルの【器用】【記憶】と少し低めの【努力】以外のほぼ全てが姉を上回っている。姉の行く末を思い浮かべて胸が痛んだ。捨てられると分かっているから。
「何してんだ?」
「いや、なんでもないよ、飛鷹の子供達は可愛いなと思って見ていただけだよ」
「可愛いか?これ」
「…はは、私にはそう見えるんだけどね」
私はこの日した会話で気がついた。この双子の親はどちらもゴミだ。救いようがない。刺し違えて死んで欲しいほどに、私の語彙が死んでしまうほどにゴミクズのカスだ。きっとどちらも顔の良さで相手を選んでいるんだろう。どちらも性格が悪く、偶然にも気が合ってしまった。そんな感じだろう。
もしかしたらいいのは顔だけではないかもしれない、そうじゃなければこんな子供は産まれないはずだ。そう思ってこっそり詳細確認機構を起動し、2人の詳細を確認した。
「ちなみに飛鷹は才能のある子をどう育てたいんだい?」
『壊鸝飛鷹のレベル詳細を提示します』
【知能】最大レベル【能力】50レベル
「そうだな、頭が良くてなんでもできるような子にしたい」
【器用】最低レベル【狡猾】最大レベル
「ふぅん、そうなるといいね、ちなみに緋唯はどうなんだい?」
『壊鸝緋唯のレベル詳細を提示します』
【器用】最大レベル【記憶】75レベル
「家事が出来て、私たちの言いなりになる子かしらね」
【狡猾】最大レベル【努力】最低レベル
「そうかい、うまくと行くといいね」
2人の狡猾レベルが高すぎる、これはクズだ。逆にそれ以外何が言えると言うんだ。ゴミだゴミ、捨てなければ。
それに比べて子供ら2人の【狡猾】は最低レベルだった。理由は不明だ、後で調べるとしよう。
少しでも楽に生活できるように、私は2人に勝手に一つの錠剤を飲み込ませた。
それから私は5年ほど壊鸝家の様子を見た。あの妹と反対方向にそっぽを向いて小さく丸まっていた煓も今では妹の片利を撫で撫でして姉っぽさが出てくるまでには成長した。依然、一言も言葉を発せないままだが。
いつも窓越しにみているせいか、その日は知らない人に声を掛けられた。
「なぁお前、こんな寒い中何してんだ?不審者なら通報させてもらうんだぜ」
身長は180センチを超えているのだろうか、超絶身長が高く、160センチ代の私も見上げるしかなかった。
「いや、私はあそこにいる子供達の知り合いだよ」
「ん?そうなのか?私はてっきり誘拐でも目論んでいるのかと思ったんだが…」
「…あながち間違いではないのが悲しいところだよ」
「合ってんのかよ!?ちょ、顔見せ…!」
そう言ってぐいっと私を持ち上げ、顔を確認した。私ではなく彼女の方が驚いた顔をしていた。きっとどんなやつかを知ろうとしたのに、それが知り合いだったせいだろう。
彼女は夢龍時華、私が遥か昔最初に実験した実験台だ。実験内容は省くが、私は彼女を龍にした。擬似的にじゃなくて、本当に。
「お、お前!こんなところで何してんだよ!ずっ、ずっと探してたんだぜ!?」
驚きと戸惑いで言いたいことが上手く言えないかのように吃りながら話す時華。歓喜とも驚愕ともとれる表情で私の肩を掴みグラグラと揺らす。
「悪かったね、中々会えなくて」
「悪かったねじゃないぜ!100年!100年だ!もしかしたらそれ以上会えていなかったんだぜ!?」
「分かった、分かったから落ち着いてくれないかい?」
「いやだぜ〜!」
「道端で暴れるんじゃない…!!」
道端でどたどたと駄々っ子みたいになり始めた。
暫くして時華を落ち着かせ、今までの出来事をかいつまんで話した。
「へぇ、夢華お前色々良かったじゃねーか!面白い人生歩んでるな!」
「そんなこと言われても私からは何も出せないよ」
「いやいや貰おうとしてないんだぜ」
私の日記とかにも何度も頻繁に書かれていた時華は、私についていくと言った。そんなに面白いものはないのにと思いつつ、私はまた壊鸝家の窓を見た。
そこには誰もいなかった。
当時私は出掛けたのかなと思っていた。けれども数十分で戻って来たと思ったら、煓がそこにはいなかった。
私達がわちゃわちゃとはしゃいでいるその隙に、煓は何処かに捨てられたのだ。何故態々そんなことをしたのか私には分からないが、何処かに捨てられた。
私はそれを今までで1番後悔した。金でも用意しておけば良かった、もっとちゃんと捨てられる可能性を考えておけば良かったと、何度も悔いた。
私はこの日を一度も忘れない。
2月15日、煓と片利の誕生日で、煓が捨てられた日。




