3話:戦闘と両親
「人の入れる場所ではない」そう言われた私の能力を用いて作り出された「引き出し」の能力は、あまり使っていいものとはされなかった。
その代わり、何度か能力の調節が入るらしい。正直言ってこれを使いこなせればどうにでもなる気もするが、まぁ置いておこう。
まぁまず、私と魅凪は案外いい実験対象になって、この実験施設『新人類研究施設』に住むことを許された。それはそれはとてもありがたいことだと私は勝手に思っている。なんせ行く当てもない…いや日本に行きたいけど、とにかく2人だけで行くのは危険すぎる。だから暫くの間はここに居させてくれるのがありがたいと思う。
「そうだ、君達外に出て遊んでみないかい?」
「外…遊び?でふか?」
「煓、食べ終わってから話しなさい…」
朝ごはんに渡された肉まんを頬張りながら返事をすると、呆れたように私の頭をポンポンと2回くらい叩いた。仕方ないじゃん、教養がないんですから…。なんて思ったけどまだ食べてるから話せない。
「外で遊ぶの!?するする〜!」
はやくも肉まんを食べ終えた魅凪がはしゃぎながら夢華にくっついた。こらそこ、近い。
「外遊び、とは言っても何をするんですか?」
「ハイライトのない煓ナイスクエスチョンだよ!君達には戦いを覚えてもらおうと思っていてね?」
「すみませんハイライトってなんですか?」
「おっとすまない、忘れてくれ、君の目にはその、光が常にないから怖いんだよ」
「?」
「そんなに可愛く首を傾げても変わらないからね??」
ハイライトなるものは後で質問するとして、戦いとはスラムでやった一方的なものかと先に聞くとそんな一方的なものを推奨するわけがないだろうと驚かれた。
今回外でやるものはそういうのではなく、遊びとしての戦いらしく、軽く叩き合ったりするくらいとのこと。能力の使用はアリで、殺しはナシ、蘇生方法もないのにやられては困るかららしい。まず蘇生しようとしないでほしい…というのは口が裂けても言えない。
「ま、ルールはこれくらいだよ」
「え、それだけ?」
「ああ、頑張ってくれ」
「はーい!」
魅凪が元気に返事をした。私はそれを見て少し1回くらい死んでみてもいいか、変な諦めを付けたのだった。
そうして外に出された。一体何をどうするのか自体は分からないけど、とりあえずやればいいかというノリで魅凪の前に立った。
「始めてくれ〜」
そんな軽い掛け声と共に魅凪の手に人魂が現れた。私は慌てながらも前に90度傾けた引き出しをモーションアリでだし、防御に徹することにした。
「えいっ」
ひょろひょろーっと可愛い動きで人魂が投げられた。こちらに辿り着く事はなく、地面にペシャリと落っこちて消えた。
「…え、何…ですかそれ」
「ちっ、違うの!腕の力が足りなくて!」
慌てて弁明を始める魅凪、弁明は私じゃなくて夢華にした方がいいと思う。なんせ場外でなんとも言えない表情でこちらを見つめているから。
「とにかく…続きやりますよ」
未だに慌てる魅凪の前で引き出しを作り出すモーションをした。右手人差し指を横にスライド、スライドした場所を引っ張るような動作。魅凪の下に引き出しを作り、すぐに引っ張った場所を押し込むようなモーションで開けた引き出しを閉じ、私から少し離れた上の方にもう一度引き出しを作って魅凪を引っ張り出す。
魅凪が必死に逃げようとするも、私はその腕を掴んで逃さないという視線を送った。数秒間もがいた後、涙目になって私に叫んだ。
「…こ、こーさん!こーさんします!」
「?」
「え、えっと…!」
「降参、つまり君の勝ちだよ煓、もうやめていいよ」
「なるほど」
ぱっと掴んでいた腕を離すと、ずさぁっと魅凪がこけた。
「どれだけ全力で力を入れていたんだい?君は…」
痛みに泣き喚く魅凪と手当てにあたっている夢華を横目に見ながら、そんなに泣かれるほど全力で戦っていないんだが、と思ってしまった。
さっきの戦いを通して、自分はどうするべきだったかを反省しつつ訓練をしていた。省エネ過ぎたことや能力に頼った戦い方だったりと、直すところは大量にある。まず何処から直せばいいかと言われればまず体力と答えるだろう。
ということで筋トレをしていた。ちなみに場所は魅凪とは別の部屋で、お互いのやっている事は視認できないようになっている。
ちなみに私は今プランクをしている、が10秒程度で地面にペシャリと倒れる。体力があまりにもない、なさすぎる。
筋トレをしていると、部屋の扉が開く機械音が聞こえてきた。扉の方を見遣るとそこにはカードをポケットに入れる夢華の姿が見えた。
「夢華、何か用事でもありましたか?」
「あぁ、煓がここに来る前の話を聞こうと思ってね」
そう言いながら夢華は私がつけ忘れていたエアコンをつけた。
「前の話、ですか?」
「あぁそうだよ。煓、君は親のことを覚えているかい?」
質問するとほぼ同時に私の横に座った。
「覚え…てます、けど、それがどうかしましたか…?」
「名前も覚えていたりすれば教えてほしいんだよ、そこまで覚えてるかい?」
両親の名前、比較的しっかりと覚えているがどういう字を書くかまでは分からない。字まで教えろと言われたら泣いて謝るしかない。
「ヒヨウとヒナイ…だったと思います」
「ほう、そんな名前だったんだね。あまりにも珍しい名前だ…」
それだけ小声で言い、何かを考えるそぶりを見せた。
「それが、どうかしましたか?」
「いや、もしかしたら君の親と私は知り合いかもしれないと思ってね」
「なるほど…?」
「それだけだよ、訓練の邪魔をして悪かったね」
「いえ…」
夢華はそう謝った後すぐに部屋を出た。本当にそれだけだったようだ。
親の名前なんて久しぶりに言った気がする。漢字は確か…火内?費用?流石にそんな簡単ではなかったような気がする。どちらかに飛ぶと緋があった気がする…けどよく覚えていない。まぁいずれ分かるだろう。
今は親のことなんて忘れて特訓をするとしよう。
「ヒナイにヒヨウ…か…やはり何処かで聞いたことがある名前だ。戸籍は日本だろうね…似ていると思って名前を付けたが…ふふ、嬉しい誤算だよ」




