怪奇事変 駅の待合室
短め、短編ってどこからどこまでが短編?
自分がもし体験したら嫌だなって話を書いてみました
第五怪 駅の待合室
ある駅の待合室、朝から夜でその姿は変わる。
町田祥平は会社の通勤時、帰宅時によく利用する駅の待合室が2つある。
1つは通勤途中の待合室、2つは帰宅時に使用する待合室。
丁度冬に差し掛かる手前と言う事も寒さを凌ぐため早朝出勤の会社員などはそこに避難する様に待合室で暖をとっていた。
帰宅時も同様だ、寒さを凌ぐため、皆が誰となく言葉を発する事もなく暖をとる為の利用所。
誰も煙草やお酒などは吸ったり飲んだりはしない、見慣れた光景。
そんな見慣れた光景だったはず――だが、今日に限って残業と無茶な上司の願いで終電間際になってしまった。
「たく、課長も人使い荒いんだよ」
たまたまホームに落ちていた空き缶を蹴り飛ばして八つ当たりをする。
何時もの様に待合室に入ると、いつもは暖をとっていた連中すらいない、寒さは取れないなと考えていると。
「ん?」
向かい側の席の奥に座る女性が居た。
赤いチェスターコートを着込んだ女性、口紅を付け、つばの広い黒いキャペリンを被り、黒いキャリーケースを持った女性が居た。
終電間際に珍しいっと思ったのはその特徴的な恰好であった。
とても仕事をして帰ると言うよりも、旅行先から帰宅している様な恰好だった為、終電まで何処かでご飯でも食べていたのだろうっと感じ、羨ましいなっと言う感情と
嫉妬深い感情が出てしまう。
「(課長に毎日怒られれ、挙句今日は好きなサッカーの試合も見逃して残業……それなのにコイツは呑気に旅行から帰宅なんて、さぞや裕福な人生を送っているんだろうな)」
心にもない事を思ってしまい、八つ当たりでワザと煙草を吸う事にした。
「(旅行先や良い所の食事で着るさぞかし高い服なんだろう?これでもくらっとけ)」
わざと大きく吸い込み、女性の方向に向けて煙を吐き出した。
当然煙は女性の方にまで届き、一瞬だがこちらに首を動かすも、何もなかった様に元の位置に姿勢を戻す。
そんな態度に神経を逆なでされた気分に害され、再びわざと煙草の煙を彼女に向けて吹かす。
だが、次はこちらに目もくれる事もなく、ただ静かにそこに座っていた。
しばらくして、待機所には町田が吸った煙草の煙が充満しており、少し目の前が見えずらくなっていた。
「(クソ!普通なんか言ってくるだろうが!なんで何も文句言ってこねんだ、コイツは!)」
更なる苛立ちから再度煙草を箱から取りだそうとするも、既に煙草の中身は空になっていた。
「(畜生め、本来ならこんな事に煙草を使うなんて勿体ないのに……何を俺は自棄になってるんだが……)」
ふと我に返った自分の行動に馬鹿らしくなり、携帯を取り出すと、そろそろ電車が到着する時間だった。
それと同時にアナウンスが流れ電車が到着する旨を伝えられ、待機所から出て行く際に、振り返る。
どうしてその行動を取ったのかは自分でも不明だが、何となく彼女がこっちを見ているんじゃないか?っと気になったが、杞憂であった。
やはり彼女は同じ場所でキャリーバックを目の前に手を添えてただじっとそこに座っているだけだった。
まもなく電車が到着し、乗車するも女性はまだ待機所に居座ったままであった。
「まもなく発車致します。閉まるドアにご注意下さい」
声をかけて止めようかと思ったが、何故か運転手も気に留めた様子はなく、そのまま扉は無慈悲に閉まりゆっくりと動き出す。
動き出しの方角が丁度女性が座っていた位置を見れる場所であったので、女性の様子を確認するも、やはり微動だにしないまま座ったままであった。
不気味に感じた町田は見るのをやめ、窓の景色を見ると、後ろには先ほどの女性が映っていた!……なんてベタな落ちはなかった。
静かな車内だが先ほどの待合室と比べれば、まだ人が居る為、何故か町田は安堵感を覚えその日は無事に最寄り駅へと到着した。
ふと、いつも出勤に使っている待機所を見たが、当然誰も座っていない。
「……なにやってんだ、俺」
乾いた笑みと同時に言葉が出てくる。
何時も当たり前の様に使っている待機所にたまたま旅行客が居ただけの話、服装も普通だし何も変わった様子はなかった。
別に何もないのに……何故かあの女性の事が頭から離れないのであった。
町田の朝は4時前から始まる。
昨日は残業と言う事もあって碌に睡眠もとれていない。
毎日の様にテレビを付けながら仕事着に着替えつつ、最寄り駅まで食べる簡単な朝食を用意しながらニュースに目を向ける。
ニュースは女子高生殺人事件で3人の少女達が映し出されていた。
警察の捜査によるとどれも19時に行われた犯行らしく、山が隣接している事もあり猛獣の仕業と言う面でも操作を行っているが、未だに解明されていない。
「若い内に死ねて良いね、大人になれば……死にたくなる現実何て山ほどあるからな」
ふとそんな言葉を発してしまった。
失言であった、だが子供の頃の方が幸せだと考え、更に人生と言う点を考えれば、早期リタイアできたのは彼女達にとって幸せだったのかもしれないっと。
「そんな事ある訳ないだろう……」
あるはずがない、未来ある子供が死にたくなってそこで連続で3名の女子高生が死ぬなんて事ある訳がない。
当然事件性のある話だ、自分が如何に不謹慎で心の無い事を言っているか身に染みる。
「不味いな、年末も近いから仕事の量が莫大過ぎてとうとう頭まで壊れたかもしれない」
おまけに独り言も多くなった気がする。
同年代の友人は妻子を持ち、順風満帆な生活を送っていると聞くと、自分は何がしたいのだろうか?っと考えてしまう。
このまま爺になるまで独り身で、変わり映えのない景色を見ながら出社し、上司に理不尽な叱責を貰う事が、いつの間にか自分の“人生”へと置き換わってしまう。
それが酷く恐ろしく感じてしまう。
何か変わった出来事がアレば良いのに……と考えていると、ふとあの女性が頭の中に浮かぶ。
昨日出くわした女性だ、あの女性は今までの自分の人生のピースには居なかった人物だ。
「……残業だったら、話かけてみるか?」
自分勝手だが、もう良いだろう。
昨日の事は忘れてきっと普通に話かければ反応してくれるかもしれないのだから。
鍵を閉めて部屋を出ると刺すような寒さが身体を襲う。
暖めたトルティーヤを口に頬張りつつ、足早に最寄りの駅に向かう、これが町田の1日の始まり。
スマホで改札を通り、寒さから逃げる様に待合室に入ると、いつも通りの日常がそこには広がっていた。
新聞を見る人、暖かい缶コーヒーを飲む物、ときたまにだがコレから旅先での話で盛り上がる人、朝帰宅の酔っ払い等々。
だが今日は少し珍しい人物が居た、それは昨日見た女性、赤いチェスターコートを着込んだ女性。
つばの広い黒色のキャペリンに、黒のキャリーケース……昨日と全く変わっていない。
「(まさか朝から合うとは……)」
いや――おかしいのだ。
昨日彼女は間違いなく終電を乗り過ごしたにも関わらず何故ここに居るのか?
例えばタクシーなどを使えば問題なく帰宅できるのは分かる、だが何故終電で乗車しなかったのか?
その後タクシーを使う理由が彼女にはあったのか?
全てが不明となっている。
そんな事を考えていると、始発の電車がやってきた。
みな待機所から出て行くものの、最後の2人となった町田と女性はその待機所に残っていた。
「あの……始発、来ますよ?」
思わず声をかけてしまった、だが彼女からは何も返ってこない。
不愛想な人だなと思いつつ、扉を閉め着た電車に乗車し、何時もの優先席に座る。
朝から優先席を使うなんて人は居ないだろう、今は取れなかった睡眠を少しでも確保できるならば喜んでモラルを破ろう。
もし座りたい人間が居たのならば話をかければすぐにどけば良いだけだ、この後はどうせ満員になるのだから。
だが、ふと彼女は乗車したのか気になり周りを見渡すも彼女は見当たらない。
一瞬、別の車両に乗ったと思い、待合室を見ると彼女はそこに居た。
昨日と違うのは終電ではなく始発と言う事、次の電車待ちなのだろうと思い、兎に角、今は迫りくる睡魔を何とかする為に睡眠確保を優先する事にしたのだった。
「んだあのクソ上司!!本当、パワハラで左遷か退職でもしねーかな」
歩き煙草をしながら文句を言う。
またあの上司は自身に無理難題を言いつけ残業まで課したのだ。
確かに残業した分の給料はもらえているが、自身のプライベート環境を脅かされているの様な感覚になる。
任された仕事は熟しているのに、次から次へとテメェの仕事を寄越しやがって。
帰りに轢かれて死んでしまえっと目の前のゴミを勢いよく蹴っ飛ばすと、待機所にはまたあの女性が居た。
「なん――」
だがそれよりも気になったのは、服であった――特に色。
着ている服は確かに前と変わらないが、色が黄色に変わっており、帽子は構わず黒、キャリーケースは……黄色になっていた。
「(なんだアイツ……気持ち悪い)」
服だけか?と思い、靴を見ると靴の色は黒であった。
何故頭と下だけ黒で身体を着込んでいる服だけ色が違うのか?そしてそれに合わせる様にキャリーケースの色も変わっているのが気になった。
「(昨日は“赤”、今日は“黄色”……まぁでもお気に入りの服があったとして別の色で購入してる奴もいるからな)」
不思議ではない、だが昨日の終電、今朝の始発、待合室での様子が町田に不気味さを与えていた。
待合室に入るかどうか一瞬躊躇ったものの、寒さには必ず入る事にした。
暖房は点いてないが何も防壁がない状況で冷たい風に吹かれるよりは幾分かマシだろう、この女さえ居なければ。
そう、風は防げているはずなのに気温がさっきよりも下がった様に感じた。
エアコン機器が実は付いてあり、間違いで冷房でもかけているんじゃないか?っと思ったがそんな事はなかった。
気分を落ち着かせる為に一服しようと思ったが、昨日は八つ当たりでやってしまった事を考えると、辞めとくべきだろう。
あと……5分、5分で終電が来るはずなのにこんなに長く感じるのは何故だろうか?
やはり向かいの席、奥に座る女性が関係している。
気のせい……ではない、何か微笑んでいる様にも見えるが、それが一層不気味さを与えていた。
「終電、終電。」
だが、そんな考えも直ぐに掻き消える様に終電の電車が到着した。
町田は足早に待合室から踊り出て、電車に乗車する。
席なんて何処でも良い、彼女から姿を隠す様に座り、ただじっと電車が出発する時間を待つ。
そしてその時が来ると、ゆっくりと電車は進んで行く――恐る恐る窓から彼女を見ると、やはりまだ彼女はそこに居た。
「(なんだクソ!気持ち悪いな!!)」
何故終電なのに乗らない?目的地はこの電車のルートの何処かだろう!っと見るも、たったの13駅分だ。
1駅の到着時間が約2分程度として、最後の目的地まで26分程の乗車時間、それをわざわざ改札を潜って何故終電の電車に乗らない?
運転手も運転手で何故注意しない?
「(そうだ、明日……もし明日同じように残業なら、改札の人間にあの女性について聞いてみれば良い)」
流石に駅のホームに残っているなら彼女がその後どうしたかは分かるはずだ。
考えなくとも終電を乗り過ごして改札を潜り、外に出たに違いない……と。
そして最寄り駅で降車し足早にその場を後にする。
何故だか後ろが気になったが、そんな事はどうでも良いと頭を振りいつの間にか何かから逃げる様に、走って家路についたのであった。
深夜だろうか?ゴロゴロっと何かを転がすような音が聞こえたのは。
寝ていたので聞こえただけで見てはいないが、その夜、確かにあのキャリケースを連想させる様な音が聞こえたのは。
「……どうしたら、アイツ、殺せるかな?」
また今日も上司に無理難題を押し付け残業、最近はずっとこんな感じだ。
年末の繁忙期だからの忙しさもあるだろうが、一番の原因はやはりあの上司に問題がある。
パワハラ、モラハラ、様々なハラスメントを元に彼の下に付いていた部下は次々と退職していった。
上司はそれを甘えと言う言葉で片づけ自身の比は一切認めようとしなかった。
だが今なら去っていた部下や同僚の考えも分かる気がする、そしてかけられた言葉の数々の中には、あの上司には気を付けろと。
おかげで今日も終電だ……っと、改札にスマホをかざす前に思い出した。
あの女性は昨日の終電でどうなったのだろうか?っと。
改札口の人を呼び出して特徴的な女性の姿を説明し聞いてみると意外な言葉が返ってきた。
「女性?いや、そんな女性見かけませんでしたが……」
「は?」
「待合室ですよね?少々お待ちください」
モニターを見る目は真剣そのもので、時折目を細めるも、やはり係員は首を横に振り町田の発言を否定する。
「申し訳ありませんが、昨日の段階ではそれらしき女性が通った形跡はありませんね。監視カメラで待合室の入口を確認できますが、映ってません」
「映ってない?」
「ええ、貴方しか居ないですよ?」
「……そんな、馬鹿な事……」
「大丈夫ですか?顔色悪いですよ?」
「い、いや……」
改札を通ろうとするも、恐怖でタッチ決済ができない。
今日は別のルートで帰宅しようと、タクシー乗り場でタクシーを捕まえ住所を言い、発進してもらう。
少々値段は上がってしまうが、この恐怖を払拭できるのならばお金などまた貯めればいい。
「(残業だってしてるんだ、身の安全の方は優せ――)」
息が止まる、なぜ?なぜなら――
待合室に居た女性はホームに立ってこちらを見ていたからだ。
しかも特徴的なのは今度は服の色が緑に変わっていたのだから。
「お客様」
「わあぁぁぁ!?」
「ッ!あ、あの……車内の温度はいかがでしょうか?」
「あ、ああ。だい、だい、じょうぶ」
ゆっくりと車が止まり、運転手がこちらに振り返る。
その行為さえ恐怖してしまう程、今の町田は動揺していた。
「は、早く、車発進させろよ!」
半ば恐怖によるパニックから怒鳴りつける様に言うも、運転手は困惑した様子であった。
「いえ、信号赤なので、体調大丈夫ですか?」
「あ、ああ……赤――赤?」
信号機を見る。
赤信号だ、そう言えばあの女性も最初赤い服を着ていた。
「黄色……緑……」
信号機は3色の色で構成されている、発進は緑、黄色は止まれ、赤は一時停止。
今日の服装は――緑だった。
発進――もしこれが交通機関である信号と類似しているのならば、町田が見た色の意味と女性の立ち姿は――。
「は、発進!発進しろって!!」
「いえですから――」
「良いから!早く発進しろ!死ぬぞ!」
「な、なんですか急に」
「ッ!?」
バックミラーを見てしまった、後ろには本来居るはずがない女性の姿が映り込んでいた。
緑のコート、黒い帽子と靴、そして――緑のキャリーバック。
「な、なんで、追って――」
「は、発進しますよ?」
「いいから早くしろよこのクズ!」
「は、はい!」
車は移動を始めるも、バックミラーに映った女性の姿は何時までも消える事がない。
何が起こっているのか町田自身も分からないまま運転手に兎に角、スピードを上げろなど色々な指示や罵声を浴びせ、ようやく帰路に着く事が出来た。
恐る恐るバックミラーを見るもそこにはやはり――女性の姿は無かった。
安堵のあまり崩れる様に背に身体を預け、いつの間にか汗だくになっていた身体をシャツで拭う。
「お客様、料金の方ですが――」
「あ、ああ。携帯で――」
決済を済ましタクシーから降車し、足早に家に向かうも、鍵が中々見つからず捜索していると、カツ、カツっと音が聞こえた。
それからゴロゴロと昨日夜聞いた音だ。
瞬時に振り返るも、真横の扉が閉まる直前だったが――見てしまったのだ。
「緑の……キャリケース」
つまり、そう言う事なのか?っと自問自答する。
この部屋のお隣の人は老人宅であったのを覚えている、横は男性……つまり女性などは居ない。
「(いや、もしかして……彼女?)」
前向きに見ればそうかもしれない……が、そもそもタクシーで帰った自分と寸分の時間差で到着できている点がおかしい。
「(付けて来た?いや、鍵は彼女が開けたものなのか?なんだー―気持ちわりぃ)」
後ろはちゃんとバックミラーで確認していた、先回りする車はなかった、それとも自分の知らないルートで先回りしたのか?と色々な連想をしてしまうが、いつまでも
部屋の前で固まっている訳にもいかず部屋に入る。
だが――部屋に入った途端1つの想像が浮かぶ。
此処はアパートだ、もし隣の部屋に入ろうと思えば容易に入る事など可能だ。
さっき見たモノは間違いなく錯覚ではない、ならばもし、もしもだ。
彼女が自分を付けて来たのだとしたら――自分は何時でも彼女の手の届く場所に居るのではないか?っと。
恐怖のあまり全部の電気を点灯させ闇をできうる限りなくし、恐る恐るリビングへと足を進め、ゆっくりと扉を開く。
何もない、だが残った恐怖心は膨れ上がって行く。
「(もし、このカーテンを開けて居たら……)」
町田は恐怖のあまり恐ろしくそのカーテンを開ける事はなかった。
その日は風呂も入らずベットに入る事しかできなかった、これが町田の今できうる最大級の防衛だった。
翌日、自分は実は夜間に彼女に殺されるのではないか?っと言う妄想を抱きながら眠りについたが、こんな不可解な状況でも寝られてしまえる自分は凄いなと感心して
しまった。
だからこそ、パワハラ上司にどう言われてもまだ続けられる気力があるのかもしれない。
結局、寝たとは言え睡眠時間は浅く、その日は不注意の連続で結局また残業となってしまった。
何時も通り変わらない景色を見て帰路に着くこの時間こそが、本当に神経を研ぎ澄ませなければならない時間だ。
「(あの後、良く考えてみた。駅員に言われた事、タクシーを使って帰宅した事、その際にこちらを見ていた彼女の姿、詳しく言えば複素のカラーが変化していた事、
そしてタクシーに乗車していたからこそ気づけた信号と色との関連性……)」
なんの根拠もない問題だが、可能性としてあるとすればそれは何かのカウントダウンだ。
何を意味してその様な事をしているのかは分からない。
もしかしたら初日の出会いから彼女はその目的の為に、自分の反応を見ながら楽しんでいたのかもしれないと思うと腹が立つものの、与えられた恐怖は想像以上だった。
加えて隣人の家に帰宅したと言う事実――計画的な犯行として見るのが妥当だろう。
被害届の検討もしたが、この有様だ、まだ全然その様なものを提出できていない。
次の休みはまだ先になるが、あと少し……あと少し耐える事ができればこの苦しみからも多少は解放されるのではないかと思う。
改札を通る寸前でやはり止まってしまう、今日もタクシーで帰るべきではないのか?
「(いや、どの道帰路が一緒ならば関係ない事だろう、寧ろ公の場なら何もできないはず!)」
そもそも彼女に対して面識は一切ない、自分が気づかない内に何か酷い事をしてしまったのか?っと言う疑問も残るが、そもそも女性関係はほとんどない。
恨まれるような事をしたとしたら、初日の密室で吸った煙草の件ぐらいだろう。
だがそこまで根に持つほどの事なのだろうか?
「(いや、考えを変えろ。自分にとってどの程度じゃない、相手がその行為に対して嫌気を感じてしまったら、それは嫌がらせなんだ、事実俺は嫌がらせをしてしまった)」
謝る、もし居たら誠心誠意謝って許しを請う事しかできないだろう。
タッチパネルに携帯をかざし改札を通り、彼女が居るであろうホームに向かう。
足取りが一気に重くなり、気のせいか周囲の温度も急激に下がった気がする。
先ほどまで階下は違えど同じ外と言う空間に居たにも関わらずどうして此処まで気温が低くなるのか見当もつかない。
そして――彼女はそこに居た。
分泌された生唾を飲み込み、彼女の居る待合室に向かって歩を進めるも、別に行く必要はないんじゃないか?っと言う疑問と、どうして自分を付けてきたのか?と言う好奇心が
ぶつかり、最後に勝ったのは好奇心だった。
気圧の差でドアが少々重く感じたが、中に入る事はできたが、そこで感じたのは先ほどよりもより一層の寒さだった。
彼女はこちらを見る事はない、着ている服は――昨日と同じ緑。
恐る恐る彼女の傍に行き、声をかける。
「あ、あの~……」
だが彼女は無反応だ、まるで自身の言葉など聞こえて居ない様に。
「あの!」
今度は分かる様に声をかけると、ゆっくりとだが彼女の首がこちらを向いた。
つばで顔は隠れているが、確かにこちらを見ている。
「ど、どうして……終電の電車、のら…ないんですか?」
まずは気になっていた終電の電車に乗らない理由、この最後の終電を逃せばタクシーで帰らなければならない。
最寄駅から自宅までの距離を考えるとそれを通算してもそれなりにかかる料金になってしまっている為、ムダ金では?っと思ってしまうも、関心な事には答えてくれない。
ならば、何故昨日自分の家の隣に居たのかを聞こうとした時――
「終電、終電。」
終電の電車が着てしまっていた。
此処で聞きたい、真相を、だが電車が――っと考えていると車掌の方が声をかけてくれた。
「乗らないんですか?」
「え?あ、はい。乗ります」
「(え?)」
今言葉が重なった様な気がしたが――。
「早くしないと終電、行っちゃいますよ」
「あの、彼女も乗るって」
「彼女?……お客さん、勘弁して下さいよ、貴方しかいないんですから」
鳥肌が止まらない、だってここに――
だが車掌の言う通り先程まで居た彼女はそこから居なくなっていた。
「……」
もう何が何だか分からないまま、町田は電車に乗り窓から待合室を除くと――そこには彼女がおらず、代わりに待合室から出た彼女が立っていた。
思わず腰を抜かし倒れ込んでしまう。
だが彼女はそこから微動だにしない、何を考えて居るのだろう。
列車は運行し、そのまま景色が流れて行くのと同様に彼女も通り過ぎて行くが、1つだけ違ったのは――彼女もまた通り過ぎて行く電車を見ていた、否
――自分を見ていた――
結局何故自分に付いてきたのか?何故他の人には見えないのか?どうして待合室に居るのか?そして昨晩は何故、隣人の家にきたのか?
その疑問は解消される事はなく、姿勢を戻し椅子に座りなおす。
「――」
「……ネェ?」
背筋が凍り動かなくなった、もう分かるだろう、言わなくても。
何故なら――彼女はそこに居るのだから。
「知ってるか?都市伝説的な話があるんだよ」
トランプをしながら夜勤で交代しながら作業をしている片割れに声をかける駅員。
「都市伝説ですか?自分はあまり興味ないですね」
「そうか?でも面白い話でな、何でも駅のホームにある待合室で起こる怪奇現象らしくてな」
「そう言うの好きですよね?」
「おう、その待合室に最初は赤い服を着た女性が居るらしいんだが、その女性が現れるのが決まって終電間際の時間帯なんだってよ」
掃除をしながら気だるそうに聞く部下はため息をつく。
「てか先輩、掃除手伝って下さいよ」
「いやいや、この話が終わってから。んで、一度でもその女性を見たら最後――徐々に服装の色が変化していくんだってよ」
「へー」
「最初は赤、んで次が黄色、最後が緑――何か思い当たる所ないか?」
「……信号機の色?」
「そう!赤は一時停止、黄色は止まれ、緑は発進、これの答えは“死”なんだってよ!」
「怖い怖い」
「怖くなさそうだな、でもそいつ駅のホームに待合室があるなら何処にでも現れるみたいでよ、何でも昔、待合室で複数の男性から暴行されて死亡しちまったんだと」
「え?それって――」
「駅員もグルでやったんだろうな、俺達が居るのにそんな現場発見したら普通に警察呼んでるって」
「あまり気持ちの良い話じゃないですね」
「まぁ……そうだな、こればかりは。最後は強姦されて、暴行されて死亡した事から、当時関与した犯人を捜しているのか、男性には見境なく“呪ってくる”みたいで、今も
突如男性が駅から消えるって現象が発生してる事から、彼女の“呪い”は続いているそうだぜ」
「……そういえば、最近男性の方で待合室に女性が居るかどうか確かめて欲しいって窓口に来てましたね」
「マジかよ、自分で話してて怖くなってきたわ」
「結局なんにも映ってないし、画面蒼白でしたけどそのままタクシーで帰宅なさったみたいですし」
「俺らも“呪われ”ない様に気を付けないとな」
「先輩はそれより少し掃除手伝って下さいよ、自分が逆に先輩を“呪い”ますよ」
「はいはい……」
気だるそうに先輩職員はホームの掃除に取り掛かるも奇妙な物を見つける。
「なんだコレ?」
それはサラリーマンが使う黒いバックの中身、開けると財布も入っており、身分証明書には町田祥平と書かれていた。
その後――町田良平が突如行方不明となり親族の捜索願も提出され、本格的に捜査に乗り出したものの、手がかり1つ見つける事ができず行方不明となっている。
未だに、住宅街、交番には町田祥平の顔写真と捜索協力の内容が貼られているのであった。
第五怪 駅の待合室に居ル女
色々悩んだけど、世にも〇〇な的な内容で楽しくかけたかな?
思えばあれも怖い作品って言うよりミステリアスな感じがあったから、最後だけミステリアスにしました。




