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【もうすぐ完結】裏公務員の神様事件簿 弐  作者: 只深
足跡に咲く花

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96 計画的犯行


白石side


「やっぱダメか」

「ごめんなさい……私が未熟なばかりに。おばあがいてくれたら、きっと解呪できたと思うんですけど」


「いや、お前さんが無理なら他の奴らができるとは思えない。ノロやユタは呪いのエキスパートだからな。手間をかけさせてすまん」

「いえ……」



 現時刻6:00 朝焼けの見える海岸で、琉球神官族の新しい跡取り……綾子の孫の綾香に呪いを視てもらったところだ。

 

 現在地は沖縄。俺と清音の思い出の地はここだな。蒼海と風と花がある琉球はとても大切な場所だ。


 清音は転移中も鼻をすんすんさせては首を傾げていたが、ギリギリ誤魔化されてる感じだろう。

 まだバレてねぇなら、いよいよって時までは黙っておくつもりでいる。そもそもの話だが、あんな奴のクソみたいな呪いで死んでたまるかってんだ。




「そう言えば清音さんはどこに居るんです?なぜご一緒じゃないんですか」

「あぁ、朝市に買い物に行ってるぜ」

 

「えっ!?大丈夫なの?あ、いや大丈夫なんですか?」


「ああ、月読がついてるから問題ない。てか、畏まらんでいいぞ。俺は大したもんじゃねぇ」

「いやいや、あなた神様じゃないですか。ヒトガミ様の左腕ですよ??

 でも……そう、そんな方が解けない呪いなんて難しい呪いなのかな。いや、でも構造自体は簡単なのにどうして……」




 綾香は砂浜の上で膝を立てて座り、眉間に皺を寄せて思い悩む。


 こいつには悪いが教えられねーんだよな、これ。俺の弱点だから。

西東の一族は、俺に陰陽術を教えたクソみたいな師匠の血を継いでいる。あいつは……犯罪の片棒を担いでは罪もない人の魂を弄んだ悪党だった。


 俺自身が本人を殺しただけで、末裔まで滅ぼさなかったのが仇となった。末裔まで殺した事については何とも思っちゃいねぇが、犠牲になった『お嬢』はかわいそうだったな……。


 

 胸の痛みと呪いから生まれる痛みがリンクして、思わず舌打ちが出る。


 いつだってそうだ、俺は救えるはずの人を取りこぼす。芦屋みてぇに手のひらがデカくねえから、1人を守ろうとしたら他が全部掬い上げられねぇ。


 こんなんだからいつまで経っても月読に〝半人前〟って言われてるんだ。




  

(――直人、真子から伝言。『沖縄には本島が介入不可にしたから、安全だ』って連絡があったよ)

(ほぉ?そんな事できるのか、すげーな)


 月読の顔を思い浮かべた途端、本神から念通話が飛んでくる。沖縄に介入できないってどういう事だ?と言うか、本島の奴らにはもう居所を知られてるんだな。


(沖縄に来たのは大正解だったね。ここの超常たちも、人間も本島からの介入をもともと受けてない。守られてもないし。

 国護結界と同じく自分たちの意思で今まで通り人に関わっていくって断言したそうだよ)

(はは、そうか。琉球の魂はいいな。そう言うの好きだぜ)



 小さなため息ののち、月読はつぶやく。

(なら、生きて。僕は直人が死ぬ事を許さないから。絶対に生き残るって約束して)

(…………)

(約束しないなら清音ちゃんを返さないよ。それから、悠人君も)




 月読のこわーい言葉に頷き、思わず苦笑いを浮かべてしまった。そう……オレの弱点は清音と、悠人だ。

西東が作った呪いは、オレが受けなかった場合2人に向くように設定されていた。無理やり打ち消しても同じことが起きる。


 綾香が言った通りこれは単純構造の呪いだが、付加された特約が厄介だった。そこの部分だけどうにかできないかと奮闘したが、無駄だったんだ。


 大切な人を失うことなんて、二度と耐えられない。三百年前のあの日、目の前で死んだ清音自身がオレのトラウマだった。

それはこの先も、ずっと乗り越えられない壁になるだろうな。


――そんな呪いを清音と悠人には残さない。そう決めている。




(俺は、生き残ってやる。絶対に)


 そう応えると、閉じた瞼の裏に月読の笑顔が浮かぶような気がした。



 ━━━━━━



「……はむはむ……」

「もぐもぐ……このおにぎりうまいな」

「ほんとだね。卵焼きと……これ何?肉?」


「スパムって奴。ウィンナーとかハムみてーな」

「塩っけが凄くいいね。米とこんなに合うものなの?これ作った人天才じゃない?」

「スパムおにぎりって言うんですよ、沖縄特有のやつです」

「こんなに美味しいなんて……僕はびっくりしてるよ」


 

「月読も気にいるってのは意外だったな。お前ジャンキーなの嫌いなのに。

 ……清音、これなんだ?漬物か?」

「それは貝のわさび漬け、そっちはゴーヤチャンプルー、島ラッキョウの漬物もあります」


「ほぉ……この歯ごたえたまんねーな!うまっ!」

「でもこれ、お口臭くなるよ?チューするのに困らない?なんちゃって」

 

「清音も食ってるから別にいいだろ。なぁ?」



 

「……っスーーー、ハァーーー………………ハイ」

「あはは!清音ちゃん顔真っ赤だよ!!あれっ、なんで直人は赤くならないの?」

 

「別に恥ずかしくねぇもん。オレがキスするのは清音だけだし。ファーストキスはそりゃ照れるもんだが、今じゃ前はどうしてたのかわからんくらいだ。朝イチにしないと調子が出ねぇ」

「……くっ、な、直人さんやめ……」

 

「何でだよ。お前だって寝起きにやたらしたがるじゃねーか」

「直人さん!!!???」




 真っ赤になった清音が俺の口をふさぎ、月読が目を細めて睨んでくる。1人で陽気な面を晒していると、2人は急にくっついてコソコソし出した。

 

「清音ちゃん、直人のキャラ変わってない?」

「月読さんもそう思います?私もです。なんか、甘々すぎて熱が出そうなんですけど」

 

「いやぁ、これ見覚えあるんだよね。颯人もこうだったよ。これが〝待てをされてたワンコ状態〟ってやつじゃない?本来はこうなのかもしれない」

「わ、ワンコ……?直人さんはワンコ」


「正しくは狼だ。さっさと飯食ってくれるか、これから出かけるんだ」

「えっ??あ、えっ???」

 

「ダブルミーニングやめなよ。清音ちゃん混乱してるよ?可哀想に」

「くっくっ……可愛い奴だな」


「……!?……???」




 三人で仲良く浜辺ランチをキメテているが、清音は赤くなったり青くなったり忙しい様子だ。可愛いよな、こいつ。本当に純粋なままなんだ。

 だが、俺としてはそろそろ手出しさせてもらうぜ。……そうしなければ、おそらく能力が開花しないだろうから。

もちろんそれだけが理由じゃねぇけど。


 真子からの連絡は高天原から降りてくる。日本で1番偉い神様である天照から月読に託宣の形で告げられるんだ。人間には読み取れない通信手段がこれしかないんでな。

 念通話と違い、託宣の行き先は一つになるから他の奴らに聞かれることもなく安全に通信できる。

一方通行なのが難点だが、あっちからは俺たちがやってることは全部見えてるだろうし問題はない。


 


 沖縄県のお偉いさん方は、琉球王朝から続く神官たちを重んじている。今もなお民草から政治に関わる奴らまで全員が存在を知ってるんだから……そりゃそうだろうが。

 その長たる綾香が代表して、俺たちを守ると決めてくれた。

本島の操られた奴らに牙を剥き、(いにしえ)の砲台まで準備してると聞いたが……流石に内紛をしているほど余裕はねぇはずだ。沖縄にも、本島にも。




 国の護りが揺らいでいる。国護結界の範囲は段々狭まり、今では領海内に縮まっていた。

 芦屋の国護結界は常に排他的水域の全土447万キロメートルをたった1人で三百年以上保ったが、俺と咲陽には無理だ。

 もうすぐ陸地も曝け出され、一月のうちに消失するだろう。

 

 だが、焦る必要はない。どちらかと言えば多少危険な目にあってもらわんと、人間は俺たちに助けを求めることができねぇ。危機的状況になって初めて『何かがおかしい』と、傀儡が解けるのを狙うんだ。

 


 

 そうなるのを待つ間、俺たちは卵になった龍神を孵し、最終的な儀式の様式を決めなきゃならん。


 それには、清音の覚醒が必須だ。俺が守ってきた人をこの手で傷つけるのかと思うと胸が痛いが……まぁ、なんだ。どうせ一緒になるなら越えなきゃならんだらうしな。


 そうならない夫婦もいていいとは思うが、俺はそうじゃない。好きな人は全部手に入れないと気が済まない。




「清音は体の調子悪くねぇか?」 

「……っな、いです、けど」

「じゃあいいよな?」

「……………………は、ぇ」


「月読はどっか行っててくれ」

「わーーーーかってますけど!!チッ!直人がそんなはっきり言うキャラだとは思わなかった!!僕まで顔があっつい!」


「男はみんなそうだろ。好きなやつの全部が欲しいもんだ」

「……きゅう」

 

「あっ!?き、清音ちゃん!!清音ちゃん!?」




 目をぐるぐる回してる清音の体を支えて抱え込み、頬を指先でなぞる。ツルツルのそこは少し乾燥していた。俺も、颯人さんみたいに手入れしてやりたい。何もかもを世話したいんだ。

 

 黙ったまま彼女が戻ってくるのを待っていると、やがて真っ黒な瞳が俺を映し出す。

際限なく真っ赤になる顔と、耳と、ゆらゆら揺れる綺麗な色から目が逸らせなくなる。


 あぁ、好きだな。俺はちゃんと清音のことを愛している。大切にして、優しくしたい。俺だけの愛情だけで幸せにしてやりたい。




「そんなに見ないでください」

「ふ、今はそうしてやる。……行こう」

「…………どこに、行くんですか?」

 

「らぶ」

「ちぇすとおおおおおおお!!!」


「いでぇ!何すんだよ月読!!」

「最低よッ!!あんた!!!ロマンチックにしなさいよ!!ちょっと手伝ってあげるから!ほらほら!!!!!」

 

「ほぇ?月読さんが飛鳥さんになった……??」



 呆然とした清音を置いて、俺は月読に耳を摘まられて立ち上がる。頭に加減なくチョップかましやがって。マジで痛い。

 離れた木陰に2人で入り、相棒は眉を顰めた。


「ねぇ。突然開花させる気なの?」

「心配しなくてもそうはならねぇ手を打つ。別に初っ端しけ込むわけじゃねぇ」

 

「はぁ、そう。それは良かった。んで、どう言うプラン?テキトーだったら僕が手直ししてあげるから」

「へーへー、宜しく頼む。待てよ……お前だってそう言う経験ないだろ」

 

「ないけど僕はロマンチストです。颯人の兄だよ?」

「そりゃ納得だな」



 2人して苦笑いを浮かべ、浜辺に佇む清音を見つめる。時刻は早い昼を迎えたばかり。蒼天から降り注ぐ柔らかい陽光に照らされた彼女は、何よりも美しい姿をしていた。


 俺が手に入れていいものか、迷ってしまうほどに。

 

  

 


 

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