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【もうすぐ完結】裏公務員の神様事件簿 弐  作者: 只深
最後の事件簿

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92 親の因果が子に報い


清音side


「アポ取った杉風事務所のモンだ。さっさと開けろ」

「ちょっ、そんな雑な言い方していいんですか?」

「いいんだよ、こんくらいで。時間通り来てやったのに迎えすら用意してねぇんだから。門前に誰もいないとか、気ぃ抜きすぎだろ」

 

「まぁ、うん、そうですね」




 現時刻 9:30 私たちは秩父のとある市街地に来ている。黒に塗られたコンクリートの高い塀がかこむ、要塞のような建物を眺めて……あまりのわかりやすさに感心してしまった。大きな門は鉄で、まるで収容所のようだ。これがアレな組織ってやつですね。


 インターホンを押して開口一番に直人さんは不遜な態度を取っている。

珍しくはないけれど、彼が体に纏う気配は今までとは全く違うものだ。

 怒りでもなく、冷たい感じの気迫が漂っていて…………すごく、怖いです。




「既にやらかしてるから先に言っとくが、中に入ったらお前の本名は告げるな。花子も禁止。クソめんどくせぇ事になる」

「うっ……。めんどくさいとは?」

 

「名前なんか言ったら無駄に裁判を起こされたりするからな。

 こっちは出廷しなければ負けるし、嘘の証拠でも反論する材料を見つけなきゃならん。付け入る隙を与えたくない」

 

「わぁ、なるほど。かしこまりました」




 しばらく沈黙していたインターホンの向こうから「お待ちください」と意外に丁寧な言葉が投げかけられ、私は驚いてしまった。どなりつけられると思っていたのに。


「……こりゃめんどくせぇタイプだ。上っ面はいい分闇が深い。気ぃつけろ」

「は、はい」


 直人さんの目つきが一層鋭くなり、鉄の門が開く。

私は無意識のうちに刀に手をかけ、膝の裏に重心を置いた。


 開かれた門の内側には今時の洋風な住宅が見える。駐車場には不規則に停められた軽自動車がたくさん並んでいた。


 

 

「なんか、普通の車しかないですね。ベンツとかじゃないんですか?」

「最近は経費削減でフツーに軽自動車に乗ってる。見分けるのが面倒になっちまったってわけだ」

 

「あー……」


 私たちが車に注視していると、邸宅のドアが開く。中から出てきた男性はにこやかな笑み、わたしたちに歩み寄って来た。

 ……普通の人だ。見た目も、歩き方も、身のこなし方も。ただ……。


 

(直人さん、相手はハンドガンとナイフを所持しています)

(あぁ。中にいる奴らは火器を持ってる。累を出すなよ、暴走しちまう)

 

(はい)


 胸ポケットの内側に潜ませた累さんを手のひらで撫でて、やってきた男性が頭を下げるのを見つめた。

 直人さんは厳しい顔のままで微動だにしない。コイツに下げる頭など存在しねぇ、とでも言いそうだ。



 

「すみません、仕事が詰まっていてお迎えが遅れました。ここの(アタマ)をやってます西東(サイトウ)と申します。白石さん、でしたね?」

「そうだ。さっさと話を終わらせよう、こっちも仕事が山積みなんでな」

 

「えぇ、では中にどうぞ」


 穏やかに手のひらでドアを示されても動かない直人さんと私をチラリと見て、彼は先に動いた。あぁ……靴の片方がすり減っている。普段から銃を持ち歩いている人間だ。


 私たちは慎重に歩を進め、明らかな罠の匂いがする敵方の巣窟へと足を踏み入れた。


 ━━━━━━


「お茶は緑茶がよろしいですか?それとも紅茶?」


「女性がいらっしゃるとお聞きしたのでケーキもありますが、いかがですか?」




 

 大きな窓がある、和風の中庭を臨む一室。畳敷の部屋が応接室とは珍しい。真ん中に置かれた杉の一枚板で作られたテーブルを挟み、私達は向かい合っている。

 大きな板ですねぇ、木目がそのまま磨かれていて木の紋が美しい。自然のままの形で作られているそれが高級品であることくらいわかる。


 テーブルの上にはガラス製の重たそうな灰皿が置かれていて、生花まである。あれが有名な鈍器ですか。生けてあるお花は黒いですが……何の花だろう。


 


 呑気に花を眺めていると、西東と名乗った彼は奇妙なものを見るような目を向けてくる。

 この状況で驚くと思ったんでしょうか?普通はそうかも知れないけど……私だって修羅場は潜ってますからね!


 テーブルの周りを取り囲む強面の男たちも同じような顔をしている。シャツもジャケットも、ネクタイも真っ黒スーツ姿の私達を見て戸惑っているようだった。刀にも視線を感じるけど、『本物か?』って顔してる。

 

 リラックスした姿を見せる方が()()してるのだと知らないのだろうか。

窓がある部屋に案内するのも首を傾げてしまう。そこから逃げられてしまいますよ?


なんだか、門構えと違う妙な雰囲気だ。



  

「遊びにきたんじゃねぇし、そう言うのはいい」 

「確かにそうですね」 


「本題から言う。この件から手を引け。今なら弁償だけで済ませてやるよ。山火事の後始末、植林がでかい出費になるくらいだ」

 

「…………それは、」 

「山火事を利用して俺を殺そうとしたんだろ?それは状況次第で不問にしてやってもいい。龍を隠したのは誰の入れ知恵だ?(黒幕)は誰だ」


「随分直球ですねぇ……。切れる方だと思っていたのですが」

「あぁ、切れるぞ。連れが持っている長物は特にな」


「脅迫ですか」

「そんな面倒なことはしない。俺は事実に基づいて話してるだけだ。

 結論から言っちまえば、『死にたくなければこれ以上黒幕に唆されるな』って感じだな。今回の事件は、お前たちの領分を超えているだろ」


「……」




 無言の圧力が相手から加わってくるが、流石に私でさえなんとも思わない。荒神の方が怖いですし、人間の使う武器なんてタカが知れている。

 取り巻きたちが胸元に手を差し込んだけれど、火器を使って放たれた弾丸なんて結界で全て弾ける。


 たとえ直人さんの結界を無効にできる何かがあったとしても、私とは別の問題だし累さんもいますから。




「驚きもしないんですね。私たちが何を持っているかわかっているでしょうに」

「あー、その方がいいのか?拳銃を下っ端にまで持たせるなんて、金があるんだなぁとしか思わんが」

 

「……あなたの結界を無効化できるモノがあります」


「やっぱそうなんだな。山火事の時に俺の結界が消されてたし。となると、やっぱ陰陽師関連の親か」

 

「お怪我をされますよ」


 

「ふっ。(……スミマセン)」



 西東の脅しに鼻で笑ってしまったのは、私です。だって……自分たちが敵う相手だと思っていることがおかしくて。

 

 直人さんの神力が皮膚の全てを覆っているのが彼らには見えていない。

これは真幸さん直伝の結界に近い構造だ。柔らかい網目は目に見えないほど細かく、超常の力でなければ彼に爪の先ほども傷をつけるなんて叶わないだろう。


 

 

「何か、おかしかったですかお嬢さん」

「お前の脅しが癇に障ったんだろ。こいつは口を開かないから聞いても無駄だぜ」 

「喋れないんですか?」

 

「いんや、お前たちに聞かせるような声じゃねぇんだ。勿体無いだろ?ヒトガミ様の正当な後継者の声なんぞ聞かせてやらねぇよ」


「ヒトガミに後継が居ると!?」

「様をつけ忘れんな、人風情が不遜な口をきいていい方じゃねぇ。

 お前、全然俺たちの事を調べてないな?後継がいるってのは国の上のやつは知ってる。なるほど、親はそこじゃねぇってことか」

「…………」

 

「情報戦線は俺の得意分野だ、調べてもフェイクは様々仕掛けてある。まぁ、俺の事務所にいる人員なら必ず辿り着く程度だがな。

 調べ物する奴をクビにした方がいいぜ。俺は女神の側近で、一応神様やってるからお前たちの武器は通じない」


 


 黙り込んでしまった西東は俯き、膝の上に乗せた手のひらを握りしめた。ようやく額に脂汗が滲み始めている。

 自分側が弱者だと理解していなかったのは、本気だったみたい。


 直人さんにはごめんなさいと言いたい。私は彼に同情している。


 情報のフェイクは私も突破できませんでしたよ……素性を知れたと思ったら全然別人の情報だったと言うのが何パターンあるんですか。用意された本人が覚えているとは到底思えないんですけど。

 鬼一さんが昔言っていた『あいつのやり方は、他人に対して容赦がない』というのは本当でしたねぇ。




「親は後で吐いてもらうとして、逆から行くか。何の問題を抱えてる?お前みたいな中堅組織がわざわざ手を出す案件じゃねぇだろ」

「…………」

 

「何か弱みを握られているか、もしくは助けてもらわなければならない事情があるか。

 そうだなぁ……例えば、一人娘が奇病になっている、とか」



 カチャ、と音がして直人さんの額に銃口が突きつけられる。それを握った西東の体躯は震え、彼を見据えた眼球は充血して真っ赤に染まっていた。

私たちは身動きせず、彼の赤い目を見つめ返す。





「なぜ、それを」

「調べるまでもねぇ。中庭に置いてあるおままごとの道具、ピンク色の三輪車、縄跳び。全部埃をかぶってるが、殆ど新品だ」


「…………」 

「どうしても、ってんなら助けてやってもいいぜ?連れは治癒が得意だ。それから、そんな風に興奮したら自白してるようなモノだぞ。

 組織はでかいが、アタマは未熟だな。何代目かの後継、しかも継いだばかりで下っ端の役割を理解してねぇから銃を持たせてる」

 

「……っ、」


「あのな、この世界じゃ死に玉には銃なんか持たせないんだよ。せいぜい刃物だけ、それも勝手に用意させる。

 こう言う場所に置くならそう言う奴で囲ませろ。普通の人間相手なら、だが。あとはそうだな、お前は防弾チョッキくらい着るべきだ。目前の敵だけじゃねぇだろ、お前の首を狙ってんのは」

 

「どこまで……調べた?」


 

「基本的なデータだけで表看板しか見てねぇ。あとはここに来てわかった事だ。俺はお前たちみたいな奴らと散々付き合って来たから前情報はある。

 そこのヒゲ野郎、それから吊り目、丸坊主はスパイだぞ」

 

「「!!」」

「てめぇ!何モンだ!?」


 直人さんに指摘された人たちが突然躍り出てきた。私が抜刀しようとした瞬間、彼の手がその動きを抑えて人差し指でつい、と空を切る。

 手に刃を持った三人は窓ガラスを派手に破り、ガシャーン!と音が聞こえた時には庭の池に落とされていた。

水飛沫が上がり、悲鳴もまた派手に上がっている。


 


「西東が俺たちを迎えに来たのは、観察眼のある奴がいないからだろ?人手不足・組織内の把握が済んでないなら仕方ないが。こう言う時に肉壁反応できん奴は使えねぇぜ」

 

「…………」


 西東は眉間を揉み、呆然としていた男たちに指示を出して池に放り込まれた面々を捕まえに行かせる。

池から上がった三人もまた自失していたのか、あっさり捕まっていた。

 あらら……池の鯉が頭の上で跳ねてますよ。可哀想なのはお魚さんの方ですね。





「で、どーすんだ?」

「……私の娘を診ていただきたい。お願い、します」


 ハンカチで脂汗を拭った西東は、新造らしい無垢な表情を浮かべて頭を下げた。


 ━━━━━━

 

「ふーんむ……どう思う?」

「…………」

 

「しゃべって良いぞ」

「おほん。ええと、皮膚にあるのは繰り返しの炎症、その結果の黒化現象ですね。唇周りから喉にかけての範囲からすると『口』に反応した結果かと」


「口と言うと?」

「言霊、でしょうか。呪いを受けていると思われます。この年齢の子がそんなふうにひどい症状が出るほどの語彙力があると思えません。……親の因果かと」


「正解だ。これは親の吐いてきた言葉の数々で死んだ奴、生きてても苦しんでいる奴が放った呪いだな。

 プロがやったわけじゃねぇし、呪っている本人もその自覚がないから処置が難しいパターンだ。ただ解呪しただけじゃ呪った相手に反射しちまう」


「となると、封じるしかありませんが」

「そうだな。だが……こんな小せえ命じゃ封殺に耐えられない。どうしたもんかな」




 現時刻11:30 私たちは西東氏の自宅……さっきの応接室からさらに奥の部屋に通された。

 お部屋の中は陽だまりのように明るく、ピンク色のふわふわもこもこしたものたちで溢れかえっている。


 さっきの灰皿鈍器からは想像もつかないお部屋ですが、可愛い女の子がベッドに眠っているから違和感はない。4歳くらいの少女は穏やかに眠っている。


 いや、私たちがすぐそばで会話をしても眼球すら動かないのは……眠っているわけじゃない。

呪いを受けて、そのせいで体に異変をきたしている。彼女を想う家族の愛がかろうじてその命をこの世に引きとどめているのは、理解できた。


「親の因果が子に報い、って奴だな。こんな家業をしていれば起こりうる現象だ」

「可哀想ですね、女の子なのに。治癒したとしても傷は残ってしまうでしょう」

「あぁ、そうだな。……さて、どこから紐解いていくかが問題だ」

「はい」




 私たちが少女を一通り調べ終え、身辺の周りを探り始めると西東はオロオロしている。……説明をする前に、あなたの言葉が必要ですから何も言いませんよ。


「あ、あの。娘は助かるのでしょうか」

「その前に、なんか言う事があるんじゃねーの?」


「あら、優しい。ヒントを差し上げるんですか?」

「お前俺のこと誤解してるぞ。本当はやさしーだろ?」

「ええ、そうですね。あなたは優しい人です」

「……そうかい」

 


 頰を赤く染めた様子を見て、私は思わずほくそ笑む。あなたの優しさが色んな人に分けられるのは気に食わないですが。

 颯人様の気持ちがよくわかる。あの方がいかに我慢強かったのか、それも最近思い知った。




「で、どーすんだ?」

「……ハッ……な、何でもします!何でもお話しします!ですからどうか娘を救ってください!!」


 直人さんの足に縋りつき、頭を床に擦り付けた西東氏を見ていると複雑な気持ちになった。人を害する仕事をしていても、自分の娘は可愛いんですね。

この子は可哀想だけど、彼がやってきた事を想像すると……素直にうんとは言い難い。


 チラッと私の顔を伺った直人さんはため息をつき、学習机の上にあるフォトフレームを手に取る。そこには、小さな赤ちゃんを抱く女性が写っていた。




「母親は、産んだ時に亡くなってるのか」

「は、はい。そうです!それから、」

 

「あの子はお前さんの子供じゃねぇな。先代の忘形見ってトコか、顔が似てない」

「……はい、私はお嬢の世話役でした。先代が抗争に巻き込まれて亡くなり、その後自分の養子になりました。私はこの子が育ってから代を譲るつもりでした」


「そんで、全部を放り出しても娘を治してやりたいと」

「はい。……お望みならば組織を解体します」

「そりゃどうでも良い話だが、コイツの同情は買えそうだな。俺よりも適任だから、今回は彼女に頼むしかない」


「お、お願いします!あなた方の望むまましますから!!どうか、娘を助けてください……」



「……むぅ」


 直人さんに肩を突かれて、思わずむくれてしまう。私が迷っている事をわかってくれていたんですね。

 まぁ、そこまでいうなら仕方ありません。何しろ、直人さん自身がすでに同情してしまっているんですから。


 小さい子に弱いんですよ、この人。


「もう一声欲しいです」

「ん……?例えば?」

「何だと思いますか?」




 写真のフレームを置いて、ポカンとした西東氏をペイっと引き剥がした直人さんが私の手を握る。

 そうっと握られた手がくすぐったくて、ニヤけてしまった。


「愛華のことを思い出した」

「その話は卑怯ですよ」

「でも、お前もそうだろ?」

「…………」


「まだ足りないか。俺の頼みでもダメか?傷痕は治してやれる薬がある。今回の事件を早期決着させるためにも……頼む」

「はい、かしこまりました」


 


 あっさり頷いた私をみて、直人さんは一瞬驚いてから苦笑いを浮かべた。

そうですよ、あなたが望めば私は頷きます。

 魚彦殿と、真幸さんに習った方法であれば問題ありません。そして、運の良いことに累さんも連れてきていますから。



「あの、彼を呼んで欲しいです。あなたの弟さんの。ここは不純物が多すぎるし、力場の乱れがひどいです」

「あぁ……確かにそうだな。じゃあ留守をあの夫婦に頼もう」

「はい」


 スマートフォンに映し出された『倉橋夫』の表示を見て、わざわざ念通話をしなくても話が通じたことに嬉しくなってしまう。

 

 さて、じゃあ本気でやりますかね。

私は始終不安そうな顔を向けていた西東氏に目線を向けて、呟いた。


「あなたの懺悔も必要ですよ、何の罪もない、幼いお嬢様のために」


 

 


 

 


 


 

 

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