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【もうすぐ完結】裏公務員の神様事件簿 弐  作者: 只深
新たな旅路

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84/108

84 最後の日-2


白石side


「魚彦は一度この世を去っている。国造りと言う大きな仕事を終えた後、ガガイモの船に乗り、川に出た。そして……」

 

「国を作り終えた者はいつまでもその場にいてはならぬ。世を乱す元になるからのう。

 ワシはただ、生まれた時と同じ事をしてみたいと思っていた。川の上に浮かんで彷徨い……幾つもの朝と夜を迎え、いつしか水の底に居た。抵抗する気力もなく、魂は海の果てに流されて黄泉の国へ辿り着かなんだ。

 常世に行ってしまったのじゃ」

 

「うん……。そして、はるかな時を超えて、妃菜に神降しをされて現世に姿を顕した。魚彦は所在不明の魂だったんだ。常世に招かれず自力でたどり着いたから、現世にも常世にも存在があった。

 そして、妃菜が現世に喚んだのは新しい術式だった。今までの常識を覆してしまったんだよね」


「鈴村の境遇を見せつけられて、切なる願いに神として応えた。その時に魂が割れて、常世の記憶が無いのじゃろうな。

 普通は魂が欠けたままなら存在自体が危うくなるが、鈴村、真幸と言う依代を得てワシは安定した。二人に魂を埋め合わせてもらっている」

 

「俺は魚彦は最初に妃菜に降りた時、この世に生まれ直したんだと思ってる。

 依代になった妃菜はまだ未熟で、魚彦をヒルコの姿で創り出した……今回の作戦は、そこからヒントをもらったんだ」


 

 

「真幸は現世にいながら、常世に行くと言っていたな」


「うん、そうだよ。だから俺も同じだ。俺は常世に行っても、存在は現世にある。離れるとしても長くはならない筈だし、魚彦の欠けた魂を取り戻せる」



 

 芦屋の真剣な眼差しを受けて、魚彦は瞳を揺らす。所在が不明なままの魂はうつろい、存在自体がいつか消えてしまう筈だったろう。でも、依代がいたから……鈴村が型破りな術で世界の壁を壊して彼の居場所を定め、芦屋が血肉を分けて神の姿を顕現したから魂が補完されたようだ。


 背筋がゾクゾクしてくる。定石外の神降しをやったのは鈴村が始まりだった。それを引き継いだ芦屋も魚彦の欠けた魂を埋めた。これは、二人とも何も知らないままやった事だ。


  

 こんな常識はずれな事を、陰陽術の基礎すら知らない奴が偶然できる筈がない。人間が神の魂を満たすだなんて初めて聞いたぞ。 

 鈴村も、芦屋もとんでもねぇ術師だ。この二人に顕現された魚彦は幸運だったとも言える。

裏公務員になりたての頃から普通じゃなかった二人に関われたのは、奇跡に近い。

 


 もしかしたら、術ではなくてもっと……こう、人間らしい感情や愛情が魂を満たしたのかもしれないな依代だった。鈴村と芦屋を見ているとそう思える。 

 魚彦は、欠けたものを埋めてくれた二人を大切に思っていた。長年共にいて、芦屋への思いは『執愛』になっていった。それは、誰の目から見ても明らかだ。


  


 

「真幸は時を渡り、さまざまなものを拾い上げた。こうして触れていればわかる。

 もはや世の理など関係ない、何者も得られぬ力を得ているのじゃろう?」


「……うん」

 

「ならば一体誰が、そんなお前さんを現世に呼び戻せるのじゃ?ワシのように所在無くうつろう魂ではなく、誰にも抱えられぬものをその身に宿した其方を。

 ワシを置いて行くなら、殺してくれ。頼む……真幸が居ぬのなら、生きる意味などない!!」


「……」

 

「ずうっとそばに置いてくれると、言っていたじゃろう。ワシを子だと言うなら、大切に思うならその腹に戻しておくれ。二度と生まずにいればいい」

 

「俺だってそうしたかったよ、魚彦」

「……真幸……?」




 芦屋の声音が震えている。彼女が魚彦を見つめる眼差しはさらに鋭くなり、熱がこもる。

 魚彦の小さな手がふっくらとした頬に触れた瞬間、月の光に輝く雫が溢れる。

パタパタと(こぼ)れた輝きを受け止め、魚彦は自身ののためだけに流される雫を夢中で見つめていた。


 

「俺だって魚彦が居なきゃ無理だよ。一時でも離れるしかないって思うと……寂しくて寂しくて、おかしくなりそうだった。

 未来を見たって何一つ安心できやしない。もし魚彦を失ったらと思うと、二度と会えなくなったらって考えると、体の奥底が震えて止まらなくなる。怖いんだ」

 

「…………」



  

「俺が『ここにいる』って言い続けるのは、預言で未来を確かめたいからだよ。未確定を明確に口にするのは、預言の行き先を左右する。

本来ならこんな事すべきじゃない……でも、事実は俺の口からちゃんと出てくるだろ?こうやって確かめていなければ、恐怖に押しつぶされそうなんだ」


「……真幸、」

 

「俺だって自分の中に魚彦を取り込んじゃえばいいって、一度は思った。そしたら二度と離れる事はないから。

 でも……すでに一体化してしまった赤黒(あぐろ)(くだん)は、こうして抱き合って体温を分けることすらできない。魚彦を抱きしめられないなんて嫌だよ」


「真幸も、ワシと同じ事を考えていたのか?」

 

「そう。俺は魚彦のことが大好きだから。顔を合わせる前から好きだった、って言っただろ?」

 

 芦屋に抱きしめられて、呆然としている魚彦。

はっきり、言ったな……『好き』って。しかも『大好き』だ。颯人さんの頬が膨らみ、伏見が眉間に皺を寄せる。




「我には『好き』と言えぬのに、魚彦には言えるのか」

「颯人様、静かになさってください」

「しかし、伏見。誰にも言えぬ言葉を……魚彦にだけ言えるのだぞ」

 

「芦屋さんの心の行き先は細分化されてきっちり区分けされてるんですよ。颯人様へは言葉にならないほどの愛、魚彦殿にはまた別の区分なのでしょう。夫としてどーんと構えていてください、めんどくさいので」

「…………むぅ」




 あー……なんかごちゃついているが、颯人さんと伏見の言葉なんか届いちゃいないぞ。魚彦と芦屋は涙に濡れた瞳で見つめあっている。

 

 魚彦は生まれも、最期も、すげぇ寂しいよな。俺があいつの立場だったら耐えられるかわからん。


 芦屋にはきっとその気持ちが痛いほどわかるはずだ。抱えた運命重さも、哀しい生まれも、でかい仕事をして大切に思っていた場所から去らなければならないのも、同じ境遇なんだ。

 

 二人はお互いの存在が必要だった。颯人さんと同じくらいわかりあって、想いあっていたんだな。





「真幸は預言の声を手に入れた代償として、嘘をつけなくなっている」

「うん」

 

「其方は出会った頃からワシを『好きだ』と言うた、いつでも何度でも言うてくれたな。……それなら、これからもずうっと一緒じゃ。ワシも同じ気持ちなんじゃから」

 

「うん……」


「ひと時の別れの間は眠らせておくれ。ワシも眷属たちも皆、依代を其方の他に持たぬと決めている。真幸の帰りだけを待ち続ける。何十年だろうと、何百年だろうと」


  

「そう、したいの?」

 

「ああ、皆で話し合って出たのは『命を捧げよう』と言う結論じゃった。そうしても良いが、其方は嫌がりそうじゃな」

 

「やめて下さい。そしたら、俺が現世を守る理由が減っちゃうよ?戻って来れなくなっちゃうぞ」

 

「ふ……そうじゃな。我らが待つことが真幸が現世に戻る一つの理由になれれば、とても良い」





 魚彦はしかめ面のまま口角をあげて、苦しげに笑う。笑いながら涙を次々に溢してはしゃくりあげ、見てるこっちが苦しくなってきた。


 魚彦だって大の大人だ。男として芦屋を好きだったのも、なかったとは言えねぇ。『帰りを待つ間眠らせてくれ』って……それを好きな人に言うって、どれだけ辛いことなんだ。


 芦屋が本当に常世から戻れるかどうかなんて、誰も保証できやしないのに。


「綺麗ですねぇ……」

「えっ……清音?」

 

「白石さんはそう思いませんか?お二人の流す涙は、とってもとっても綺麗です」


 


 資料を読み終えた清音は、俺の傍で恍惚とした表情を浮かべている。……何でだよ。


「あの涙は純粋な愛ですよ。芦屋さんを想い、ただ追い求めてきた神様のまっすぐな愛情なんです」

「大分苦しげだがな」

 

「えぇ、そうですとも。愛というのは甘く優しいだけのものではない。相互で満たし合えるとも限らない。

 想うだけで胸が潰されそうになって、手足がうまく動かなくなって、頭がぼーっとして他のことなんか考えられない……魚彦さんや眷属の皆さんが積み重ねた日々は、愛そのものだったんです」

 

「まぁ、そうだとは思う。自分が満たされなくても、相手を満たしてやりたいと思うのが愛情だ」

「はい」


 


 清音は微笑み、抱きしめあったままの二人を眺めている。いつの間にか八房が顕現されて、わんこ姿で腰を温めているのにようやく気づいた。清音の様子を気遣う余裕がなかったな。

 八房の頭を撫でて、羽織を脱いで膝にかけてやる。すると、彼女の顔に柔らかい微笑みが浮かんだ。


 キリキリと締め付けられていた胸の痛みが、頰のエクボを見て(おさま)っていく。自分の頰が熱を帯びて、温かく柔らかいもので満ちていく。好きな奴が笑ってるってのは幸せなんだよな。


 

 魚彦達眷属は結局、芦屋に神力のほとんどを渡して現世で眠りにつくと決めたようだ。

 眠りの森の美女かっての。ただ待つってよりは、寝てて目が覚めたら待ち人がいた方が気が楽か。


「わ……たしも、私も……」

「ん?アリス……?」




 仲間内で最後まで残っていたアリスは突然立ち上がり、魚彦たちの輪に加わる。アリスまで泣いてら……。


「真幸さん、私も魚彦殿と同じにしてください!」

「アリス……」 

「私も、待ちますから。ちゃんと現世で、お帰りをお待ちします。連れて行ってもらえないのはわかってます」


「でも、マガツヒノカミはいいのか?眠っちゃったら、俺が戻るまで起きれないぞ」

 

「はぁ……。魚彦達の顔を見たら、ダメとは言えない。オレ達はお前達が戻ると知っているから、余計にそうだ」

「妃菜ちゃんに少し見せてもらったんです。私が不安そうにしてたから、真実の眼を使ってくれて、それで」



 アリスの口を人差し指でそっと抑え、芦屋は彼女の頬を撫でる。

慈しみに溢れた眼差しに触れて、アリスはつられて笑顔になった。




「しー……その先は口にしちゃダメ。本当に万全を期さないといけないからね。わかった?」

「コクコク」


 頷いたアリスは眷属の神々と共に芦屋に抱きつき、目を瞑る。

そうか。鈴村が連れ出したのは、アリスを安心させるためだったんだな。




「アリスまで眠っちゃったら、パターン……幾つになるかな」

「千三百六十の枝葉が残る」

 

「最後は変わらないよね」

「あぁ」


 颯人さんは胡座をかいて眉間を揉んでいるが、芦屋と話しながら口端が上がっている。ま、そうだろな。未来を見てきたなら、この光景も想定内の筈だ。




「眷属のみんなとアリスはこの家で待っていてもらおうか。……防人(さきもり)は、累にお願いしてもいいか?」

「うん!」


「累ちゃんは眠らないんですか?」

「私、真幸の役に立ちたいから!離れてても、心は一緒だよ。例え長くかかっても、真幸は戻ってくる」




 唐突に中空に浮いた累の姿が見えた。お前、どこにいたんだ?真っ白な毛玉は神々の額を撫でて、小さな子特有の愛らしい笑い声が上がった。


「みーんな、変なの。真幸を信じていればいいだけなのに。

 魚彦達が寝てる間に私はうんと強くなって、みんなを守ってあげるね!真幸はその方が嬉しいでしょ?」

 

「ありがとう、累。うん……すごく嬉しい」



「えへへ!真幸は、お話を早く終わらせてちょっとだけでも寝ないとだよ!明日は色んなところを見て、真幸の『郷愁思念』を強化しておかなきゃ!帰るべき場所はここだって、みんなが待ってるって魂に刻むの」

 

「うん、そうだな」




 どんよりした空気は累のおかげで随分明るくなったようだ。中庭にいる面々は皆笑みを浮かべている。


「累さんは本当に純粋な方ですねぇ」

「星野、まだいたのか」

 

「白石さん、私は最後まで芦屋さんの姿を目に焼き付けたいんですよ。

 きっと、そんなにすぐどうこうできるはずもありません。芦屋さんが戻るのには、今まで通りになるには時間がかかりますから……待つための覚悟が必要なんです」

 

「そう、か」


 星野はずーっと正座したまま芦屋から目を離さずにいる。暗闇でも輝く瞳を抱え、俺たちの女神は優しく笑んでいた。

 

 さて、そろそろかな……。


 



「じゃあ……最後に、白石と清音さん、月読。こっちにおいで」

 

「はいっ!!!!」

「びっくりした……でかい声出すなよ」

「気合いを入れてください!白石さん!!!!!!!!!!!」

「お、おう」



 謎に元気な清音に引っ張られて、俺たちは中庭に降りた。



 ━━━━━━


「僕も寝る」

「月読には白石を手伝って欲しいんだけど」

「ヤダ。ムリ。絶対できない」

「…………」


 現時刻5:00 朝焼けの気配が空を染めている。眠れるわけもないが、目がしぱしぱしてやがる。

瞼を擦り、駄々をこねる月読の顔を覗き込む。




「お前さんは俺が依代のはずだが」

 

「そんなの知らないよ。どっちにしても僕は、何もできないまま真幸くんと離れるんだ。時を渡る力も頼られず、ポイって捨てられるんだから」

「まーだソレ根に持ってんのか。随分前に整理がついたはずだよな?ちゃんと失恋しただろ?」

 

「それはそれ、これはこれ。予約を取り消してもいいよ。依代を解消しても構わない。清音ちゃんの力は今や真幸くんに迫る勢いだ。

 直人と勾玉を交わすなら、僕は必要ないでしょ」



 完全にキレてる月読は、目が据わっている。こうなるとめんどくせぇんだよな……。芦屋がチラッと俺を見て、月読と目を合わせた。月読の説得はバトンタッチだな。




「月読は、まだ俺のことが好きなの?」

「え……あ、ええと、はい」

「そう……」

「…………」

「…………」


 月読は芦屋の問いかけに面食らってる……芦屋も芦屋で顔が赤くなってんのはなんだ??





「あのね、俺……多分、颯人とくっついて、はじめてこう言う気持ちをきちんと理解したんだ。俺は魚彦が大好きだし、仲間も大切だけど颯人への気持ちは言葉にできない」

「……ふーん……」


「それって、相手を信じてても口にしたら何か変化が起きるんじゃないかとか、もしかしたら一緒にいられなくなるんじゃないかって気持ちがあってさ。

 なくしたくないから、怖くて言えないんだ。俺は、初心者だからすごく臆病なんだよ」

「…………そう」


「だから、そうやって俺に好きって言ってくれるのは本当に凄いことなんだなって、やっとわかった」


 

 呆然としたままの月読の手をとり、芦屋はどんどん顔が赤くなる。うわ……颯人さんの顔……ひでーな……。




「ありがとう、好きになってくれて……でも、ごめん。月読には応えることはできない。俺が全部をあげるのは颯人にだけなんだ」

 

「うん、わかってる」

 

「月読も大切な神様だよ。いつも俺を想ってくれて、可愛がってくれた。颯人がいない間、月読がしてくれたことは俺を支えてくれたんだ」



 芦屋の手を握った月読は瞑目して、俯く。……この段になって振ってやるのか。決着をつけてやるのか。

 

 ――月読が前を向けるように。





「僕は失恋したことがなかった。見た目もかっこいいし、気がきく男でしょ?付き合ったらとっても幸せな気持ちになると思うな。実際めちゃくちゃモテたし、それなりにお付き合いは経験したんだよ」

 

「うん、そうだろうね」

 

「でも、真幸くんに恋して好きな人が手に入らない事もあるって知った。それでもいいって思えた。

 僕はもうきちんと君への恋心には整理をつけてる。その上でまだ……ううん、これから先もずうっと好きだよ。それだけは許して下さい」


「う、うん……はい」

 

「颯人と結ばれて、幸せそうにしてる真幸くんは本当に可愛い。僕ではこんなふうにできなかっただろうから、悔しいけど。……僕にできることは、まだあるの?」





 月読は……すげえな。芦屋の負けだ、これは。失恋させてもらってその上でまだ好きでいていいだろ?って許可を得ている。最初からこれを狙ってたんだな、お前。

 涼しげな双眸を睨むと、ウインクが返ってきた。なるほど、恋愛に関してはお前の方が俺より先に行ってるって事か。

 




「えと、うん。月読は……詳しくは言えないけど最後に協力してもらうことになる。繰り返さなければいけない事が起きるから……」

「そうじゃないよ、真幸くん。僕が欲しいのはたった一言だ。

 君が『月読、頼む』って言ってくれれば何だってする。僕の全部をかけて願いを叶えてみせる。だから、そう言って」


「…………」


 逡巡している芦屋は複雑な気持ちが顔に出てる。月読相手にこうなるのは珍しいな。そらされない視線に戸惑い、頬を赤らめる姿は言い寄られてる小娘みたいだ。

 ……早くしてくれ、颯人さんがキレそうだぞ。



  

「つ、月読じゃないとできない事がある。だから、現世に残って……白石を助けてやって欲しい。俺の代わりに、お願いします」

「……うん」

 

「大変な思いをすると思うけど、これは俺が勝手に決めた事だ。月読に……頼みたいんだ」


「うん、わかった。真幸くんのために頑張るからね。僕はいつだって君のために動く。君だけのために……忘れないで」

「あり、がとう」


「……ぬうぅ……」




 我慢しきれなくなった颯人さんは芦屋を取り上げ、抱きしめて袖のうちに隠す。余裕の笑みを浮かべた月読は縁側に座ってあぐらをかき、くつくつと笑い声を漏らした。


「兄上」

「颯人、僕は一応恋愛経験者だよ?舐めないでほしいな。真幸君の心も体もお前のものだろうけど、たぶらかしてドキドキさせるくらいならできる。

 僕がどれだけ真幸くんのために一生懸命働くのか、見せつけてやるから」


「…………」

「眷属たちも、アリスも眠って鈴村達も離れる。僕はオンステージで真幸くんへの愛を叫び続けてやるから。ふんっ」




 満足げに鼻息を吐いて、月読が姿を消した。残された俺たちはまんじりともせず、苦笑いを浮かべるしかない。


「白石、暫し待て」

「……あ、ハイ」

 

「真幸、其方月の兄にときめいていたのか」

「そう言う話じゃないでしょ」

「そう言う話だ。好みの顔つきに言い寄られて頬を赤くしていただろう」

 

「仕方ないだろ!俺は、その……颯人の顔つき系に弱いんだよ」

「浮気だな」

「違うってば!ちょ、待って……」



 袖の内側でモゾモゾ始めた途端、悠人と婚約者がやってくる。

あー……こりゃ徹夜確定だぞ。




「颯人、いい加減になさって。まだ話が終わってしないでしょう」

「えーーーと、ごめんなさい颯人さん。僕の婚約者とご挨拶に来たんですけど、流石に待ちくたびれました」


「「…………」」

「は?え?おま……悠人の婚約者????」

「嘘じゃろ?な、何を言っ……いたっ」

「お前、颯人の元奥方じゃないのかァ?」

「そうだな、確かにそのはずだナ」

 

「ほっほっほっ」

 

 沈黙した夫婦二人、指を刺して目をかっ開く暉人、驚きのあまり尻餅をつく魚彦、冷静に見てるラキとヤト。ククノチの爺さんは笑ってるぞ。





「クシナダヒメ!?」

「ええ、お久しぶりね、真幸。悠人の婚約者のクシナダヒメと申します」

「…………わぁ」





 ――最後の夜は、まだ続くのであった。

 

 

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