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【完結】裏公務員の神様事件簿 弐  作者: 只深
過去と未来の狭間

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69/109

69 露見


アリスside


『やっぱりそうだ。一時体内に汚れを溜めないと浄化できないんだよ。マガツヒノカミの髪が黒く染まるのが限界の目印かな』

「うむ。限界を越えねば、強力な浄化は使えぬようだ」

 

「わーお……私、厄介ですねぇー?」 

「でもそのうち連続でできるようになる」

「いやいや、バカスカやっても困りますよ?毎回このモヤっとする心の葛藤がセットというわけですからねー??」

 

「そう考えると非効率な能力だな。アリス、とりあえず綺麗にしてくれ」

「はいー、そうしたいです……いいですか?真幸さん」




 私の浄化術を検証してくださった真幸さんに了承を得て、マガツヒノカミの額に口付ける。

さっきも試しましたが……吐息ではうまくいかないんですよね。


 最初にやったやり方でないと無効になるみたいで、今後この額にキッスが定番になってしまった。 

 マガツヒノカミの黒く染まった髪色はずるりと私に吸い込まれて、二人とも髪が黒く染まり……そしてふわふわと蒸気になって溶けて消える。

 

 やがてその蒸気がなくなると、私たちはまた真っ白に戻る。こうして外界の瘴気を取り込むことで、辺りを清められるのはいいですが……自分の中に溜め込まないとイチイチできないのは困る。


 このやり方はマガツヒノカミが言ったように、大変非効率な能力だ。


 


 それしにたって……まつ毛も、眉毛も真っ白なんですけど。私まで色が変わっちゃったじゃないですか。

 手のひらをひらひらとひっくり返してみると、肌まで白くなった気がする。


 視線の先には目をまんまるにしたまま一塊になり、驚いて動けなくなった男性三人……伏見さん、鬼一さん、浄真さんが居た。そんなに怯えなくてもいいのにー。


 まぁ、おさん狐さんを捕まえて下さってるから役割は果たしてますが。隠り世も消失して、一件落着というわけですね。




「だ、誰だアレは」

「はいはい、流石にアリスだとわかるでしょう。鬼一はまだ目が悪くなる歳じゃないんですから、しっかりなさい」

 

「栗毛色の髪が白くなってますよ。マガツヒノカミまで姿が変わるとは驚きましたね。伏見家でもこんなのは見たことがありません。芦屋さん……一体何をされたんです?」



『俺じゃないよ。アリスとマガツヒノカミの力の覚醒というか……セオリツヒメのカミの能力が使えるようになったんだ』

「大祓祝詞にまで記されている方ですね。本当にマガツヒノカミと同一神だったとは」

 

「伏見も予見していたではないか。マガツヒノカミとセオリツヒメノカミは同一である、故にアリスは危険な存在ではないと」

「ずいぶん昔の話を掘り返しますね、颯人様は。中務への交渉の話ですよそれ」


 


 ふと伏見さんがこちらに目線をくれて、照れくさそうにしている。


 そうですね、あなたは中務にいた私をも守ってくださっていたんです。

今思えばずうっと最初からそうしてくれていたのは伏見さんかもしれないと今更ながらに気付き、胸の底がざわめくのを感じる。

 …………何だろう、これ?


 

 

「今となっては危険因子ではないと言いきれませんよ。段階を経て進化するとかペケモンですか?まだ進化するんです?」

 

『進化なのかな?どうなんだろうね。

 成長すれば自然とこうなっただろうし、今進化したとすればこの先で必要な力なんだろう。昔からそうだろ?必要な時に必要なものが必然的に用意されるんだ』

 

「近頃昔を思い出すことばかりだな。まるで、もう一度今までを振り返っているような……思い出を探るような事をしている」

『そうだね、颯人……』




 そっと静かに寄り添う真幸さんに、颯人様はドギマギしている。あれだけされても『あれ?もしかして自分のこと好きになったんじゃ?』って思えないところが長い年月の呪いを感じますねー。

 

 でも、なんだろう。私は手を繋いで体を寄せ合うお二人を眺めていると、胸の中のざわめきが強くなる。……何なんですか、これ。


 

 はぁ、と小さなため息を漏らした伏見さんが近づき、私の髪を一房掬い上げてじっと見つめている。

榛色の目は優しく緩み、ほのかな笑みを浮かべた。

 



 

「おめでとうございます、アリス。ウカノミタマノオオカミも、颯人様の元奥様で母であるカムオオイチヒメ様も白銀の髪でした。あなたもこれで一人前と言うことになるのでしょう」

 

「……は、ぇ?そうなんですか?」


「ええ、髪に含まれた妖気を見ればわかりますよ。今までとは完全に色が変わっています、熟練の妖怪と変わりません」

 

「はぁ」

 

「あなたが守られてくださったおかげで大きく立場は変わりました。よくがんばりましたね」


「…………」

 

「本当に綺麗な色です。汚れのない白と、月明かりのような銀、とても似合っていますよ」


「――――――っ」

「わっ!?アリス!?」



 

 私は鼻に唐突な違和感を感じ、めまいと共に膝が崩れ落ちる。具合が悪いなんて気づいてなかった。真幸さんが言うところのメタモルフォーゼをしてしまったから力がつきましたか?


 マガツヒノカミの手が届く一瞬前に手が伸びて、私は伏見さんの腕の中にいる。肩から流れる栗毛の髪は、以前の私と同じ色だった。



 ……あれ?伏見さんって、こんなにかっこよかったですか?驚いた表情からふ、とまた怪しげな笑みを浮かべた顔をぼーっと眺めていたら、『しっかりしてください』と言われてしまった。


「は、離れてください。ちょっと、からだが変なんです」

「変??妖力は漲ってますが、もしや疲労……でもなさそうですし。熱を測りましょう」

 

「ひぇっ!?くくくくくく首、首触らないで下さーーーい!!」

「何言ってんですか。額では正確な熱が計れませんよ」

「……くっ、う……」


 そっと手のひらが首筋に触れて、私は勝手に肩がぴくりと跳ねる。顔が熱い……ナニコレ、なにこれ……。




「熱があります!」

「龍のことは我らに任せよ。狐は捕縛して真神陰陽寮に送る」

 

「では星野と鈴村にメッセージを送って、先に帰宅しましょう」


「わ、わー!!!私も!!私も真神陰陽寮に行きますから!!とにかく離してください!ヤダヤダ!!」




 抱きしめられたままの体を捻り、どうにかこうにか抜け出そうとするのに伏見さんはちっとも力を緩めてくれない。

間近に迫った顔は、眉が顰められて眉間に皺が寄って細い瞼が開く。


 綺麗な瞳の中に映る自分が、真っ赤な顔をしているのが見えた。頭の中がぐるぐるして、何も考えられない。



「なっ?!鼻血がでてますよ!?アリスの体調は深刻のようです。狐で運びますから、マガツヒノカミは中へ」

「ここにもオレのライバルがいた」

 

「何言ってるんですか!……アリス、マガツヒノカミを戻してください。アリス……アリス!?」



 鼻を抑えた私は伏見さんの声が遠く聞こえて、自分の口から『きゅう』と言う音が聞こえた瞬間に気を失った。





 ━━━━━━



「――では、私の香の香りに惑わされたということですね」 

「そのようだ、普段使っているものが狐が好む香りとは知らなんだ」

『パニックになっちゃったんだろうな、かわいそうに。でも……うーん。それだけかなぁ』



 ほわほわん、と皆さんの声が聞こえる。私は暖かいお布団の中で、いつもの自分の匂いに包まれていた。

 薄目を開けて辺りをこっそり見渡すと……真幸さんと颯人様、星野さんに妃菜ちゃんがいる。


 仲間たちは全員お家に帰ってきたのかな。おさん狐と、龍はどうなったんだろう。




「ちょっと、伏見さんは席外してくれへん?颯人様も。星野さんは残ってや」

「な、何故ですか?狐のことでしたら伏見家がいちばん詳しいのに!」

 

「多分やけど、これはお香とかそういう問題やない。真幸もそう思てるよな?」

『うん……俺の話は妃菜に通訳して貰えばいいし。ちょっとはっきりしておきたい所だよね』

 

「せやろ?飛鳥にも伝えておいてください。浄真さんはどうせ家に泊まるんやし、浄化術やら龍やらの話は後回しにしてもらお」

 

『それがいいよ。悪いけど二人ともお部屋から出てくれ』


「何故星野は残すんですか!?」

「私星野は黙しておきます。伏見さん、颯人様、とにかくご退室ください」




 トボトボと言いそうな重い足音が聞こえる。颯人様まで追い出して、何の話を……?

ふと、すぐそばに気配を感じて慌てて目を瞑った。


 頬に触れる柔らかい物は……最近できた、マメを感じる手のひらだった。



「アリス、すみません役に立てなくて。元あずかり失格ですね。早く良くなってください。

 大好きなお稲荷さんを………………飛鳥殿にお願いしておきますから」


 小さく囁かれた言葉を受け取り、ホッとしているのか混乱しているのかよくわからない状況に陥る。

 伏見さんが作らない方がいいので良かったですけど!またモヤモヤしているんですよっ!!



 

 パタン、とドアが閉まってすぐ私は起き上がり……星野さんの袖にしがみつく。


「星野さん!!助けてください!!」

「ひぇっ!?起きてたんですか?……だ、大丈夫ですから落ち着いて」

 

「真幸さん……妃菜ちゃん!!私、私おかしいんです!」


「あぁーなんやー、自覚あるんかぁ」

「――――」

 

『真幸、それは訳さんでおくわ。泣いてまうやろ』

「――……」



 私は苦笑いの三人に慰められつつ、しょんぼりと項垂れる。自覚はないです、わかんないですけど。

 心の機微については星野さんが一番相談相手としては頼りになると思って、縋りついてしまった。


 真幸さんに抱えてもらい、私は暖かい羽織の中に逃げ込む。いつもの甘い匂いにホッとして目を瞑る。




「アリスさん、現状どんな感じですか?」 

「……わかんないです」

 

「私に助けを求めるということは、心の中に何かが起きたということでしょう。わからないままでも構いませんし、ご自身が何を感じて今どうなっているのかを教えてください。

 支離滅裂でも、脈絡がなくてもいいんですよ」



 星野さんの優しくで落ち着いた声に顔を上げ、真幸さんのおっぱいの上に顔を乗せる。柔らかくてあったかいそれに包まれて、心底ホッとする。


「――――」

「アリス、真幸が『大丈夫だよ』って言うてるで」


「はい……」


 



 真幸さんに頭を撫でられて、私は顔を半分柔らかな双丘に埋め……背中側にいる星野さんに言葉を投げた。


「なんか、伏見さんってそう言えば最初から優しかったなー、守ってくれたなー、最初に出会ってからずっとそうしてくれたなーって思ったんです」

 

「ふむ……」


「――――」

 

「へぇ……中務にも圧力加えてアリスが安全にいられるようにしたんは伏見さんやったんか。まぁそやろな。ほいで?」


「それで、浄化が成功した後に私は真っ白になりましたでしょう?〝おめでとう、これで一人前だな、綺麗だな〟って言われて。何故か『伏見さんってこんなにかっこよかったっけ?』って思いました」

 

「――――」


 

「クッサ……伏見さん、そんなクサイ言い方したんか。確かに綺麗やけど。月の光、かぁ。月ってやたらそういう方面の表現に使われるんよなぁ。あー古傷が……イタタタ」

 

「…………」



 

「芦屋さん、そんな顔されなくてもいいんですよ。今のは鈴村さんの定番ジョークですから」

「くっくっ……そんで?アリスはそれ聞いてパニクったんやな?匂いは元から気になっとったか?」


「匂いについては何も……ただ、綺麗な目だな、とか思いましたが。胸の中かモヤモヤして、抱き抱えられて触られた時に鼻血が出ました」


「「「…………」」」


「私、何か病気なんでしょうか。成人したからですか?やっと一人前になれたのに死にますか?」



 自分で口にした瞬間、私は背筋が寒くなって体がブルっと震えた。真幸さんに背中をトントン叩かれて、顔を彼女にすり寄せる。

 

 目だけ動かして顔を覗くと、優しい笑顔が私を宥めてくれる。じっと黒の瞳を見つめていると、ようやく落ち着いてきた。はぁ……今日は踏んだり蹴ったりです。





「アリスは、芦屋さんと颯人様がいちゃついてるのを見てどう思いますか?」

「――――!」

 

「真幸、今更ええんや。いちゃついてるのは見とらんでもわかる。言葉にできないから行動で示そうと思ってるんやろ?妃菜ちゃんにも星野さんにもお見通しやで」

「…………」


「芦屋さんの話は後で聞かせていただくとして。いえ、もうここは一気にいきましょうか。アリスさんはお二人のように……芦屋さんと颯人様、鈴村さんと飛鳥殿、天照殿と陽向君のように『伏見さんと』してみたいとか思います?」

 

「…………いえ、それは思いませんね」


 

「ほぉ、では彼に触れられた時はどう思われましたか?」

「伏見さんが私に触るとモヤモヤが蘇ります」

「嫌な感触はありませんか?不快感、手を振り払いたい、ぶん殴りたいとか」


「星野さん、物騒やで」

「――――」

「珍しいやんな、私もびっくりや」


「ちょっとお二人は静かにされててください。一番重要な所ですよ」

「「…………」」



 

 沈黙した二人をひと睨みして、星野さんはゆっくり近づいてくる。

肩をポンポン、と叩かれて私は安楽の地を離れて星野さんに向き合った。


 彼は私に向かって手を差し伸べている。よくわからないままその手を握り、握手を交わす。その後『失礼します』と言ってから私の首に触れ、頬に触れ、顔の周りをぺたぺた触られるけれど……何ともない。




「モヤモヤしますか?実は星野さんかっこいいとか思います?」

「しません、思いません」


「くっ……それはそれでダメージが……。おほん。伏見さんと比べて、どちらかが何となく嫌だなぁと感じますか?」


「嫌ではないですけど、伏見さんにだけ焦ると言うか……何でかはわかりませんが、顔が熱くなってモヤモヤして、頭の中がぐるぐるします」


  

「うーーーんむ?これは芦屋さんや鈴村さんとの憶測した方向性ではないような気がします。ここは妖狐に話を聞いたらいかがでしょうか」



 

「はーい、お邪魔しますー」

「えらいタイミングで来はったな」

「素晴らしいタイミングです!ウカノミタマノオオカミ!」

「ふふ、そうでしょう、そうでしょう」


 いきなり開いた部屋のドアからウカノミタマノオオカミがゆっくり歩いてやってくる。

私のそばに座って手を繋ぎ……彼女は私と同じ白銀の髪をさらりと背中に流した。





「結論から言うわね。これは『恋ではない』のよ」

「えっ」

「――!?」

「やはりですか」

 

「は?」


 ウカノミタマノオオカミにニコッと微笑まれ、私は頭に血流が巡る。


 


「ち、ちがいますよ!!私、私は別に伏見さんが好きとかそう言うアレなアレでは!!」

 

「ええ、そうよ。これは妖狐の性質なの。星野に触られて拒否反応が出ないと言うことは、星野を()()()()として認められないと言うことよ。ただし『キープとしてはありかな?』と思っているのね」


「…………なかなか、心にさっきからダメージをいただく様相が続きますねぇ」

「キープとか思ってませんよ!?」

 

「あなたの心の問題ではなくて、妖狐としての本質的な物なの。本能とでも言うべきかしら……狐もそうだけれど、動物は皆『種族の繁栄、子孫を残すこと』が命題なのよ」

 

「…………」



 

「伏見に惚れてくれたなら嬉しいけれど、まだそう言う段階ではないの。あなたは大人になった、そして繁殖が可能な状況になり……妖狐としての本能が子孫を作りたいと思わせている」

 

「わ、たし……」


「ショックかもしれないけれど、それは人間の秤によるものよ。あなたは妖狐であり、人としての理性もある。だから少し……嫌な感じがしてしまうわね」

「はい、しかも偉そうです」



 袖でお口を抑え、コロコロと笑ったウカノミタマノオオカミは足を崩して座り、私の手を撫でる。

 

 細やかな彼女の手は私と違って女性らしくてとても綺麗だ。

傷もないし、ふくふくしていていつも豆だらけになった硬い手ではない。

私もこうなら、良かったのにな。

 




「妖狐は伴侶を得られること自体が稀なのよ。元々力の強い種族だから上から見るのは常になる。

 過去を辿ってみてもそうでしょう?安倍晴明、蘆屋道満の二人は仮初でも妖狐と子を成したわ」

 

「はい」

 

「あなたは玉藻前(たまものまえ)の生まれ変わり、安倍晴明の子孫なの。魂の補完も成して、一人前になって……そんな大妖怪に私の依代を見初めていただいたのは本当に嬉しいわ。私としては熨斗を付けて差し上げたいくらいよ」


 

「でもそこに、私の意思も、伏見さんの意思もありません」

 

「そうね、その気持ちは大切にしてもいいと思う。でも、今の状態は妖狐は魅了の術を持ち、それを見初めた……この場合はターゲットとしてロックオンしたと言うべきね。

 そのターゲットに対して自分もその人を思うように、誘導されてしまうと思う」

 

「私が伏見さんを()()()()と言うことですか?」

「ううん。私の依代は術が効くほどお馬鹿さんではないの。だからこそあなたの本能が『伴侶』として欲している」




 モヤモヤしていた気持ちがまたもや復活してくる。私は、どこまで行っても獣なのか。穢れた存在なのか。

大切な仲間なのに、強いからって繁殖相手として自身まで騙そうとしているのか。

 そろそろうんざりしてきますね。


「――――――――」

「アリス、その考えはよくないよ」

「――――――――」

「アリスは穢れてなんかいない。マガツヒのカミが言った通り綺麗な人だ。それは、俺が保証する」

 

「――――――――――――」

「勾玉を飲んだだろ?アレは穢れを持つものには触れられない」



「はい」


「――――――」

「仮にアリスが思うような生体でなかったとして……それが穢れていると思うのなら」

「――――――――――」

「それはむしろ、持つべきものだった。人間もそうだろ?誰にでも汚いものはある」




 妃菜ちゃんの声で訳される真幸さんの言葉は、やや厳しめに聞こえる。いや、これは妃菜ちゃんの気持ちも入っているからかもしれない。

『アンタいつまで拗ねてんねん』と言う言葉が空耳で聞こえるくらい怖い顔してる。



「――――――」

「汚いものがあったとして、それはアリスに必要だから持ち得ているんだよ」

「――――――――」

「目覚めた力は、浄化の力だ。自身の体に全て取り込み、それを全部綺麗にできるなんて……凄いことだよ」


「――――――――――」

「アリスにしかできないその力は、アリスが今までやってきたことの集大成だ。精神が汚染される苦痛を伴うけれど……おそらく、自身が思っているよりもずっとずっと深くまで浄化できる」

 

「――――――」

「それこそ、俺たちができない地下の奥まで届く浄化の術だ。ねぇ……アリス。綺麗なままの人は、何も救えない。何も得られない。何故だと思う?」


「…………何故ですか?」



 

 

「――――――――――――……――」

「汚泥に塗れなければ、その中の珠は拾えないんだ。マガツヒノカミの浄化の術は実に理にかなっている……俺は非効率とは思わない」


「――――――――」

「アリスにしかできない、在清(アリス)の名の通りの術だ。本能で伏見さんを求めるのならば、それもきっと意味がある。だから……」


「――芦屋さん、その先はダメですよ」

「せやな、翻訳もストップや」

「――――?」



 


 真幸さんの言葉を遮った星野さん、妃菜ちゃんはしかめ面をしている。……まぁ、そうですよね。

真幸さんは真実として伏見さんの淡い想いを純粋なままで捉えているのだから仕方ない。


 おそらく『これを機会に伏見さんを知ってみたら?』と言おうとしていたのだと思う。けれど……彼は、元々唯一と心に定めた方がいる。


 私のすぐ傍で、優しい瞳で皆んなを見つめ続けてくれている……真幸さんと言う人がたった一人のその人だ。





「……真幸には申し訳ないけれど、私もその先は言わないでほしいわ。あなたは知らないままでいてほしいから。星野も、鈴村も……アリスもよ」

「「「はい」」」

「――――?」


「ううん、いいのよ。本当に知るべきではないことなの。これは清元の沽券に関わるから。ごめんなさいね」

「…………」



 


 皆さんでしょんぼりしてしまっているけど……要するに、今までの話で言えば、私が伏見さんにメロメロにならなきゃいいって話ですよね?


 それならわたしは……このまま何も知らないままでいようと思う。

 

 伏見さんの気持ちも、私の気持ちも……それがいつか形を変えるとしても、それはそれで構いませんし。


 どーせ振られますしね!!!!




「私は真幸さんが一番なので、それだけは変わりません。子孫についても興味がないですし、自分が生きるのに精一杯です」

 

「……そうね、まだ子供を持つのは早いと思うわ」

 

「色仕掛けしようと思っても通じる相手ではありませんし……力ずくでヤろうとしたらウカノミタマノオオカミに一発お願いできますか?」




 苦笑いを浮かべたウカノミタマノオオカミはこくりと頷き、真幸さん以外はようやくほっとした顔になる。

 恋とか愛とかはまだわかりませんし。私を好きだと言っていたマガツヒノカミの言葉が()を示すのかもはっきりとわからないままだし、受け止め切れる自信もない。


 まだまだわたしは……真幸さんのおっぱいが恋しいお年なのでー!




「じゃ、そう言うことで!はっきりしてスッキリしました!!……汚泥に塗れるのが悪いことじゃないって知れたのが、一番良かったです」

 

「――――」

「ごめんな、アリス……上手く言えなくて」

「いいえ。真幸さんの言葉が一番の収穫ですよ……私も、清濁併せ持つと言うことをしていくべきなんでしょうねー、これが大人になるってことですかね?階段の数段は登れましたかねー??」




 まんじりともしない空気の中で……真幸さんが一人鋭い目つきになる。懐から取り出した紙と筆を手に、さらさらと何か書き出した。

 

 訳そうか?と言う妃菜ちゃんに片手をあげ、静止を示す。……アレ?なんか怒ってませんか??



 何かを書き終えてぱさり、と紙を投げてよこされる。……眉根がよってますがこれ、完全に怒ってますね?

とりあえず紙を確認してみますか。



 確認事項 

 ・富士山の龍について

 ・アリスの守護完遂による次回対策

 ・おさん狐について

 ・廃寺で捕まえた龍について


 ふんふん頷きながら見ていた私は……最後の一文に冷や汗をかくことになってしまった。

 そこには……。


 

『道満と妖狐の子供って誰だ。何か隠してるだろ、大人の階段登ったアリス?』


 と、真幸さんには珍しく……乱暴な字で書き記されていた。





 

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