表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏公務員の神様事件簿 弐  作者: 只深
迷家事件

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/26

6 散華


真幸side



「さて、次は蓮華畑の対処かな。白石も危ない状況だし、早く済ませよう」

「毒でも仕込まれたか?」

 

「いや、犯人一派の術師が迷家の中にいる。そいつらが白石の霊力に蓋をした感じ。絡んでるのは一国だけじゃなさそうだね」


「厄介だな。真神陰陽寮は何をしていたのかと問うべきだろう」

 

「そうだよね、流石に気づくのが遅い。今回は、俺達も解決まで隠居してられなくなった」

「うむ……仕方あるまい」


 

 渋い顔で深く頷く颯人と海岸に向かって歩く。 

スーツ姿の神継たちが、岸壁のそばで海上の蓮華を見ながらわちゃわちゃしてるのが見えた。

 海岸からあそこまではかなりの距離がある。術が届かないから沖に出ないといけないんだよな。 

深い海の上を渡る術は後世に残してなかったから……後で教えよう。他にも、色々と。



  

「おっとと……わわ……」

「足場が悪い。我が抱いてやろう」

「えぇー……みんなの前で?」

 

「考えをまとめたいなら、大人しく抱かれてくれぬか。怪我でもしたら困る」

「むーん、じゃあお願いします」

 

「応」

 

 いい笑顔で俺を抱き上げ、颯人が大きな岩達を踏んで歩く。なんでみんなこんなゴツゴツ岩の上でこけないの?歩くコツを教えて欲しい。

 


 

  

 現時刻21:45 ――白石と清音さんが迷家に入ってから一時間ちょっとが経過。

 イナンナと高天原で刀談義に夢中になってたら、白石が危険区域に入ったと報せが来た。 

 俺は高天原で足止めを食ってたみたいだ。俺が悲しむような案件だから内緒で解決するつもりだったみたい。

 

 相変わらずみんな過保護だよな。大切にされて嬉しいけど、白石は最近怪我ばっかりしてる。

俺としてはそっちの方が気が気じゃないんだけど、責められる理由がないから……困ったもんだ。 



 

 今回の迷家事件は山口県の小さな港で起きた。ある日突然魚の漁獲量が増え、海に現れた蓮華畑。名のある神様が降臨したのでは?とこの地域では噂になっていた。

結果としてはこの蓮華も、豊漁も呪詛だった。


 

 ――蓮華畑を作った目的は二つ。 

 一つ、海底から日本の地力を奪うため。自然が豊かな土地は『土地神』の力が強い。これは、その力を奪うために作られた畑だ。

結果として既に土地神の数柱が亡くなっている。


 二つ目は〝毒〟を撒くこと。 

 正確に言えば毒ではなく、寄生虫なんだけど。魚が寄生虫を食べて毒魚となり、それを食べた住民に寄生させる。

 この虫は体の主を殺さず、宿主が生きたまま意のままに操るらしい。毒魚は周辺の神社へ献上されていたが、こんなもので傀儡になるほど神は弱くない。お腹を壊すくらいはするけど。


 


 土地神というものは、その地にとっての生命線であり全ての命の源。山も、海もあるこの地では……後継の神が単独で昇格するのは難しいだろう。恵もあれば災害もあるのが海辺の町の特徴だから。

 

 長年にわたってこの地を納めていた先代の土地神は、最期まで『この地を、村人達を守ってくれ』と繰り返し、苦しみながら亡くなった。

 後継を指名できる時間を作ってくれたのは、治療にあたった魚彦だ。

 

 虫に寄生された住民は謎の体調不良に悩まされ、『一二三鳥居に不思議な光が現れた』『神が助けてくれる』と噂を聞いた。

一二三鳥居の幻想的な光は白狐の力で幻惑し、最終的に海の中に落として殺すという仕掛けだ。


 

 

 迷家を作ったのは、たまたま通りかかった旅好きの荼枳尼天。白狐が助けを求め、それに応えたのが始まり。

 事件の一端を知り、人が身投げをする場から迷家へ導いた。隠り世につくられた迷家は人体を癒す効果があるから。


――荼枳尼天は、ただ純粋に人の毒を癒して助けようとしていたんだ。

 蓮華畑を作ったクソ術師たちが、これ幸いと迷家を利用して、荒神へ堕とした。


 もはや迷家は呪いを増やす道具になっている。人間を荼枳尼天に食わせ、荒神状態を維持しているのだから。 

 周辺の神たちも土地神の死による衰弱をもたらされ、毒魚で体を壊し、迷家から溢れた呪いによって一斉に荒神に堕ちた。

 

 

 

 今回の事件を起こした目的は、まだ推測の域を出ないが……内乱を起こそうとしていたのだと俺は結論づけた。

 隷属状態になった住民達には武器が与えられていたから。もう少し遅かったら無差別テロを起こす羽目になっていただろう。

 土地の人たちを操って、戦争を起こす算段だったとしか思えない。

 

 迷家の対処で蓮華畑を調査していた星野さんが仕組みに気づき、伏見さんに連絡が行き、俺の仲間が動いて事件全容が判明したと言う経緯だ。 

 

 本来ならこれが始まった時、迅速に対処していればこんなに被害者は出なかった。

 国民からの「ヘルプコール」に正しく対応せず、案件をたらい回しにした仲介業者のせいで事態が悪化したんだ。

 伏見さんによって責任逃れをした仲介業者は全部粛清されている。たらい回しにした会社への制裁として一番きついものだ。

仲介業者もそろそろ利権を持ちすぎたし、腐ってしまったな。一度整理しないといけない。

 

 本当に、何もかもの対処が遅い。本件は、この国の平和を担うべき者が正しく動かなかったからこそ起きた事態だ。

   

 ちなみに、これは国内のやり方じゃない。捧げ物を見る限り華系の術をメインに、三カ国以上が結託しているのは明らかだ。

 呪術を組んだ回路を見れば、どこの産出かなんてすぐに分かる。


 


 ここから先の調査進行、犯人探しは真神陰陽寮の仕事だが、隠居をキメていた俺も黙ってるつもりはない。

 俺は沢山の罪もない人を殺されて頭に来ている。土地神を殺した奴らを許す理由がないからな。


 人の命を弄ぶようにして殺し、操り、荼枳尼天だって日本で祀られている神なのに、利用されて長年の平和を乱した。


 絶対許さん。犯人は全員ぶちのめす。



  


「――あの!どちら様ですか!?」

「危ないですから海に近寄っちゃダメです!」


 髪の毛を一つ縛りにしたスーツ姿の男女一組が近づいてきて、俺の着物の袖を掴む。

 ふむふむ、なかなかいい霊力だ。認識阻害術が効いてないし、服に触れるなんて。


 

「倉橋君はどこかな?」

 

「えっ!?な、なぜ鹿目(かのめ)の会長をご存知なんですか?」

「ま、待って、待って!!!あなたはもしかして……」


 

「芦屋さん!!!!!!!!!!!」 

「うるさっ。音量下げてよ倉橋君」

 

「なっ、いい加減名前で呼んでくださいよ。あなたも倉橋でしょう」

(さつき)って呼ばなきゃイヤだモン。芦屋さん、お待たせして申し訳ないです」


 道路のガードレールを飛び越えて、スーツ姿で倉橋夫婦がやってくる。

二人とも元気そうだな。久しぶりに顔を見たぞ。



 

「ううん、今来たとこ」

「はっ!待ち合わせの恋人みたいなセリフですね……キューン♡」

 

「うちの変態夫は放っておきましょう。改めまして、この度は申し訳ありませんでした」

「変態……。はっ!!も、申し訳ありませんでした!我々がもっと早く気づいていれば……」


 颯人と目を見合わせて、お互い苦笑いを送る。


 


「そう言うのは全部が終わった後だよ。アリスからの報告は聞いた?」

 

「はい!お聞きしてます!!!椎名、大林、この方は関係者です。そしておいそれと手を触れぬように。不敬ですよ」


 眉を顰めた倉橋君が、俺の袖を掴んだ神継……椎名君の手をペチン、と叩く。


 

 

「か、か、会長!?現場にお越しになるなんて……」

 

「この事態で来ないわけがないでしょう。君たちは全員で結界を張ってください。蓮華畑の向こう側一帯、大陸からの影響を遮断するように」

 

「私が先導するね」

「はい、頼みましたよ」


 皐さんが神継たちを集め、海岸に向かって柏手を一斉に打つ。ピンク色にホワホワ光る蓮華畑の向こう側、沖合の海に白い霊壁が現れて、力場を遮断してくれた。


 

  

「さて芦屋さん、蓮華はどうしましょう?」

「あれは日本海の力場から力を吸い取って、迷家の中に力を送り込んでる。ピンクのポワポワは毒物を撒いてる感じだな。見えてるのは幻影だが、俺が実体化するよ。

 蓮華を摘み取って、迷家に持って行かなきゃ」

 

「迷家の中に入るんですか?」


 しょんぼり眉を下げた倉橋君が袖をつい、とつまむ。相変わらず心配性だなぁ。



 

「真幸の他に浄化出来るものはおらぬ。倉橋、其方は後から来る杉風の事務員を神継達に周知せよ。後ほど記憶操作する必要はあるまい。

 外敵がこのようにあからさまな戦を仕掛けてきたのだ。後々高天原と出雲でも対策を議せねばならぬ」

 

「そうですね、大きな戦になるかもしれません。かしこまりました!くれぐれも、お気をつけてください」

 

「うん、倉橋君もね」


 颯人が俺を抱えたまま歩き出す。良い加減これどうにかならんのか?もう降ろしてくれてもいいんですけどー。



  

「其方を抱えるのが我の勤めだ。そのように愛い顔をするでない」

「愛いとかいうな。恥ずかしいんだよ」

 

 ふ、と笑った颯人が耳元で囁く。


「つれないな、子を成したと言うのに」

「誤解を招く言い方はやめろ!俺たちは相棒のままだし、(うけい)で子供作っただけだからな!!清い関係だろ!?」

 

「ふふん。事実として子がいれば夫婦でいいだろう。……行くぞ」

「うぐ……ハイ」



  

 海の岸壁ギリギリに立って、蓮華畑をじっと見る。あれは本当に良くない。高天原ではイナンナと天照達が動いてくれてるから、黒幕は大体掴めた頃だと思うけど。

 

 数年前から周辺国がまた騒がしくなったと思ったらこれだ。俺の大切な人たちが暮らす場所に手を出すってのがどう言うことか、思い知らせてやる。


 

「君たち、自分にも結界はれる?」

 

 颯人の両脇でポーッと見上げてくる神継に声をかける。ひっくり返りはしないだろうけど、当てられちゃったら困るし。


「は、はい……」

「あの、あなたはもしや……?」


「ふふ、かわいい子達だな。そのうちわかるよ、今代の神継たちは俺と仕事しなきゃならなくなるから。さて、やるぞー」

「応」


 髪に刺したかんざしを抜いて、胸元に刺す。そこから七色の光が広がって、白い浄衣に衣を着替えた。

 

 大きく柏手をたたき、眷属の名を口にする。


 


「天照、夜を昼に」

『応』

 

「暉人、霊壁の向こう側にいる術士たちに雷落として。散々痛めつけてくれ」

『応』

 

「ククノチさんはそれらを捕縛、引き渡しを頼む」

『応』

 

「颯人」

「応」



  

 颯人が岸壁から真っ直ぐに足を下ろし、真っ逆さまに海面に落ちて行く。

さっきの子達がびっくりして悲鳴あげてるな……ごめんよ。


 颯人が海面にぽちょん、と片足をつくと、そこから波紋が広がった。波が一斉に鎮まり、海が穏やかに揺蕩う。 

 夜空が割れて、青空に月と太陽が現れた。ん、月読も無事だ。白石は……まだ行けるな。


 

 海面に足を踏み出し、颯人が歩くたびに霊壁の向こう側に雷が落ちる。

 

 いち、に、さん……わー、いっぱい居るなー。こんなに人員を割くなんて、全面戦争起こすつもりだったのか?ここは大陸に近いから渡りやすいんだろうな。



  

「海に引き摺り込んでやろうか……忌々しい」

「だめだよ。捕まえて情報を吐かせるんだ。もうすぐ警察の人たちが来てくれるから、手続きして真神陰陽寮に連れてくの」

 

「ふ……またもや大騒ぎだな」

 

「しょうがないよ。こんだけ大っぴらにやってきて、何百人も荼枳尼天に殺させたんだ。それ相応の覚悟はしてもらわんと。俺たちのやり方を見せておこう」

 

「わかった」



 

 ぽちょぽちょ音を立てて海面を歩き、蓮華畑に到着。


 ふむふむ……迷家の中の術者達は、こう言うの得意じゃないんだな。防御障壁みたいなのも作られてないし、蓮華畑が天照の太陽の光でゆらいでる。これだけ術が不安定なら俺が介入するのは楽ちんだ。

 

「……――まさきさぁあああああん!」

「えっ、アリス?俺だけで良いって言ったのに」

 


 

 八咫烏に変化したアリスが飛んできて、肩に止まる。頭をすりすり擦り付けながら『カー!』と鳴いた。

 

「この後迷家に入るんでしょう?わたしもキツネの端くれですから、荼枳尼天と迷家を一目見ておきたいんですよー!連れてってください!」

 

「伏見さんとじゃんけんして負けたのに?」

「手出ししなきゃ良いんです、見るだけなら良いんですー」

 

「うーん、まぁいいか。さて、蓮華のお花を摘んで行こう」

「カー!」


 

 颯人に降ろしてもらい、海面を歩く。空から天使の梯子が掛かるのを待った。

 

 んー、うーん。これは海面の下から切って茎を長くしないとダメかな。

蓮の花に触れると、バチバチ音を立てながら回路図が広がって行く。

最悪な色味だ。真黒じゃないか。ここを作るのにどれだけ人の命を使ったんだ……。


 


「うわ、嫌な色ですね」

「なんと業の深い所業か……」

「本当にな。久々にブチギレそう」

 

「まだやめてください!海が干上がっちゃいますよー?」

「それは良くないな、やめとこ」


 

 三人でわちゃわちゃしてると、雲間から真っ直ぐに光が落ちてくる。少ないな……これしか迷家の中では生き残っていないのか。

 胸が痛い。みんな、お魚がたくさん獲れて喜んでいただろうに。一生懸命に働いて、生きていた人たちだっただろうに。……本当に、悔しい。

 


「白石、清音、伏見の分も合わせてこれだ。多くの命が失われたな……」

「はぁ……ため息しか出ないよ」

 

「過ぎた時は戻せぬ。はよう摘んで、迷家へゆこう。海の解毒は蓮華畑を浄化し、解体してやれば良い」

 

「はい」


 ため息を落としつつ、海に手を突っ込んで蓮の花を摘み出した。


 ━━━━━━


 

 倉橋side



「海中の霊壁に国護結界を繋いだら集合。大林、椎名は先にこちらへ」

 

「「はい」」

 

 神継たちに指示を出し、海上を歩いている芦屋さんを目で追う。


 夜空が(ことわり)を無視して突然青空に変わり、雲間から日が差してくる。それを受けた芦屋さんが眉を下げながら蓮の花を摘み出した。

 

 まるで天女が花を摘んでいるような、幻想的な光景だが……霊壁の向こう側には太い雷柱がガンガン落ちている。

 あれは芦屋さんが眷属にやらせているのだろう。暉人殿の雷で間違い無い。


 

 

「警察だけじゃ手に負えないから海上自衛隊連れてくるって。大事になっちゃったケド、大丈夫カナ?」

「問題ありませんよ、芦屋さんが対処してくださってますから。伏見さんもいらしてますし、万事丸く収まるでしょう」

 

「ソダネ」


 約三百年ほど連れ添った妻が私に寄り添い、腕を絡めてくる。


 はわわ、あったかいです……すき。


 

「倉橋君っていつまで赤くなるの?芦屋さんの真似?」

「ち、違いますよ!大好きな奥さんがくっついてきたら照れるでしょう」

 

「ふふ、何それ可愛い」

「うう……勘弁してください!」


 


「あ、あのぉ……」

「椎名!こう言う時は黙って待つの!全く気が利かないんだから」

 

「えっ、そうなの?ごめんなさい」

 

 先ほど声をかけた神継二人がやってくる。この子達は経歴十年程だ。まぁまぁ熟してきたところでしょうね。芦屋さんの認識阻害をもろともせず色気にやられてましたし。


 

「二人をこの現場の責任者に任命します。この後の処理については任せますから、しっかり各所と連携して外法の術師たちを真神陰陽寮に連れてきて下さい」

 

「はい!」

「謹んで承ります!会長、あの……あの方はもしや」


 大林が瞳を輝かせながら芦屋さんを見つめている。ふむ、本当に有望ですねこの子は。



 

「二人には先に伝えておきましょう。あの方がヒトガミ様です」

 

「や、やっぱりそうなんですか!?伝説の通りですね!お綺麗な人……いや、神様ですね!!」

 

「そうでしょう、そうでしょう」

 

「倉橋君、そこじゃないでしょ。しっかりしてよ」

 

「お、おほん……すみません。

 いいですか、ヒトガミ様が公に姿を現したと言うことは、ここから先かなりの修羅場が来ると思ってください。

 あなた達はヒトガミ様の術を見破っていますから、集中して仕事を回します。明日から死ぬほど働いてもらいますから、覚悟してください」


「「はい……」」



 

 心許ない返事を貰い、私の奥さんと苦笑いを交わす。

 私たちも仙人になって、何年経っただろうか。こうして神継に直接指示を出すのも久しぶりのことだ。もちろん、芦屋さんを見るのも。


 

「どうやって海の上を歩いて……なぜ夜が昼になったんですか?天使の梯子がかかっている蓮華だけ摘んでますね」

 

「なんとなく、力場の力を強く吸っている花を摘んでいるような?ううん、何かの役目があるのかな」



「ほー?なかなかいい後継が育ったもんだな。あれは中にいる奴らの解毒に使うんだよ。毒を以て毒を制すってな」

 

「はっきり見えないならまだまだやろ。倉橋君久しぶり」

 

「そう言わないのよ、妃菜。いい子達じゃないの」


  

「鬼一さん!鈴村さん!飛鳥殿!」


 杉風事務所の制服である着物姿で御三方が現れる。あぁ、この感じ……本当に久々ですね。



 

(さつき)!元気やった?」

 

「妃菜先輩!きゃー♡本当にお久しぶりです!会いたかったんですからねっ!」

 

「なーんや、そんなに妃菜ちゃんが恋しかったんか?かわいいなぁ。相変わらずラブラブしとる?」

 

「多分?倉橋君はポヤポヤしてるからツッコミが忙しくてそれどころじゃありませんよ」

「あっはは!そらしゃーないわ。真幸に会うたんも久しぶりやしな」

 

「そうねぇ、現世に籍を置いてるのは倉橋夫婦だけだもの。認識阻害が得意だから仕方ないわね♪」



 

「鬼一さん?鈴村さん……??」

「はっ!あっ!!!ヒトガミ様をお守りする五芒(ごぼう)の騎士様ではありませんか!?」


「ごぼうはやめーや。最近五稜(ごりょう)に変わったやろ。大林君と椎名さんやな、名前覚えとくわ」

 

「妃菜、その言い方は若干脅してるように聞こえるわよ」

「脅してんの。牛蒡(ごぼう)にされたくないやん」

 

「俺は別に何でもいいが。まぁ、その……伝え方が不味かっただけだろ?な?」

「鬼一さん、いいんですよ。うちの夫のフォローしなくても。確かに牛蒡は良くないモン。覚えやすいからって教科書に書いたのはこの人ですから」


「くっ!?」


 私の味方が一人もいないのですが!!

五芒だと覚えにくいから『牛蒡をもじろう』って言い出したのは伏見さんなんですけどね?!



 


「――お、みんな到着したか。お疲れ様」

 

 蓮華を数本抱えて手をふりふり、芦屋さんが颯人様に抱えられて戻ってくる。背後では蓮華畑がバラバラに砕け散っていた。

 ピンクの花弁が舞い、風に乗って広がって……あぁ、出雲での桜舞を思い出しますね……。


 肩に止まってる八咫烏はアリスさんだ。あ、あんなに芦屋さんにすりすりして!羨ましいっ!!


 

「ありがとう颯人」

「……」

「颯人?降ろしていいよ」

「……別段下ろさずともよかろう」

「何でだよっ!」


 相変わらずの相棒?漫才を眺めつつ、胸の内がホワホワしてくる。彼が事務所を設立してから関わりがほとんど持てませんでしたから。なんだか涙が出てきます。



  

「む?緊急ボタンが押されたな」

 

「白石じゃない……清音さんだ!急ごう」

「自分の子孫なのだから、さん付けはせずともよかろうに」


「まぁまぁ、真幸なりのこだわりがあるんよ、颯人様。みんな行くで」



 応、と答えた幸せの杉風事務所の皆さんが光のかけらを残して消える。

迷家にひとっ飛びですね。



 


「大丈夫……カナ」

「大丈夫ですよ。我々も仕事をしましょう。少しでも挽回せねばなりません。……芦屋さんのお説教は怖いですからね」

「ソダネ」


 

 眉を顰めた奥様に倣い、私もしかめ面になる。これからが、正念場だ。


 芦屋さん達の無事を祈り、集まった神継を眺めた。

 





 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ