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裏公務員の神様事件簿 弐  作者: 只深
星降る谷の悲田院

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50/101

50 焼きおにぎりの拷問


星野side

 

「暉人が何で痛い思いしてんのさ。何事もすぐ走り出すの、やめなさいってずっと言ってるだろ」

 

「だってよぉ、耳がとられてすぐならくっつくだろ?傷を治した後だとくれてやるのは無理だしよ。

 オレが守れず、やられちまった責任もあるし。……真幸がよくしてる奴だ、既成事実ってか」

 

「俺は好きでそれをやってるわけじゃ無いの!すぐに傷を癒さなかったなんて、ずっと痛かっただろうに……。でも、ありがとう。星野さんに耳をくれて」

 

「応!褒められる気がしてたぜ!!」


「暉人はホントにもう……そんなニコニコされたらキツく言えないだろ。しょうがないな」


 


 現時刻6:30 悲田院から狢を真神陰陽寮に護送して来てヘトヘトでお腹ぺこぺこだ。

 私達は結構なボロボロ加減で『先にご飯を』と言われて庁舎の会議室に落ち着いている。今回は清音さんが不在だったので龍を捕まえるのに大変苦労したんですよね……。

 

 芦屋さんの作ってくださったおにぎりとポットに入れたお味噌汁を頂いて、ほっと一息。あたたかいものが胃にも心にも染み渡ります。



 

 私の失われた耳の傷痕は白石さんに治癒してもらっていたが、暉人殿は本当に治癒せずにここまできて、お望み通りに芦屋さんに怒られつつ傷を治して貰っている。

 

 彼は小言をもらうのにも笑顔のままで、幸せそうです。気持ちは物凄くわかりますよ……大好きな芦屋さんに心配されて嬉しいんですよね。

 あまりに爽やかな笑顔を浮かべるものだから、芦屋さんはあまり怒れずに頭を撫でている。これも、気持ちはすごくわかる。




「真幸さん、次私にも治癒お願いしまーす」

「いいけど、アリスはなんでそんな引っ掻き傷だらけなのさ」

「私は狢と戦った名誉の負傷です!」


「嘘つけ、喧嘩して取っ組み合いしただけだろ」

「白石さん?何か言いましたカー?そちらだって龍を捕まえるのに散々やからしてお互い引っ掻き傷だらけじゃ無いですカー?」


「クソ……清音がいねぇと龍が言うこと聞きゃしねぇんだよ。まったくめんどくさかったぜ」

 

「清音さんの顔を見るなり『好き好き大好きー♡』でしたもんねー!あんなにコロッといくのを見ると、現役の頃の真幸さんを思い出しますよー」



  

「あぁ、まぁ、うん……複雑な気持ちだけど。でもこれでちょっと龍の事情が分かったな」

「そうですね、魔法陣を壊さず保持できたのも収穫でした。これで一気に犯人に近づければ良いのですが……」


 

 芦屋さんと共に清音さんも庁舎に来ていたが、やはり熱の余韻でフラフラしていたため浄真殿、天照・陽向くんと共に先に帰宅してもらっている。

 龍は八大龍王の娑羯羅(しゃがら)、呼び名をマーヤーと言うらしいが……八大龍王はどうやら清音さんの元へ保護されに来ているらしい。最初に依代になったアチャ、難陀龍王(なんだりゅうおう)の意識共有で無意識に清音さんを仲間として認識するらしく、会って即依代と指名していた。


 


「しかし、龍王たちが保護されに来るとはどう言うことなのでしょうか」

「問題はそこだよなぁ、結局の所相手側の目的に確信が持てねぇ。

 九州では遠隔で奪われて、京都で捕まえた怨霊は相手の姿形は見ていないから証言もあやふや、犯人像と目的が空っぽのままだ」


 

「そうだなぁ。直接話を聞いて、会っていた実行犯が証言してくれればありがたいんだけどなぁー……そう思うだろ、白石」

「そうだな、芦屋の言う通りだ。星野もそう思うよな?」 

「えぇ、そうですね。アリスさんもそうでしょう?」


 

「はい、そうですねー!どうしましょうかねー??

 いや、しかしこのシャケおにぎりの美味しさったらありませんね!脂が乗ってて香ばしくて、塩加減が素晴らしいですし!」

「お前さっきからシャケばっか食うなよ!俺も食いたい!」

 

「飽きるほど食べたんじゃないのか?喧嘩しないで食べなさい。おかかもあるだろ」

「おかかもいいけどシャケがいいんだ、俺は」

「芦屋さんの焼いて下さった鮭が美味しいんですよね、わかりますよ」




 白石さん、私、芦屋さんとアリスさんで会話をしていると、足元から二つ……『きゅるるる』とお腹の鳴音がきこえる。


「クソッ!!何で目の前で飯なんか食うとるんや!?拷問なんか!!」

「コラ、暴れんじゃねぇ」

 

「いやっ!やめてっ!いたいけな女の子にそんな乱暴せんといてッ!!」

 

「変な声出すな。悪いがここにいる奴らは全員お前の年齢をわかってるからな。オンナノコって歳じゃねーだろ。その大狸姿は100じゃきかねぇ筈だ」

「くぅ……」




 よだれをポタポタ垂らしている狢の女性と共に、お腹をぐうぐう鳴らしている鬼一さんはしかめ面だ。

 そう、狢はこの件に関して相手に直接会っている筈。その証言を得るためにこうして目の前でご飯を食べてるんです。




「鬼一、代わってやるよ。腹っ()らしは見てらんねぇ」

「おっ!すまんな白石」

 

「鬼一さんお疲れ様、好物の焼きおにぎりを持ってきたからね」

「おぉ!嬉しいな……真幸が焼いてくれたのが一等うまいんだ。いただきます」



 狢の抑えを白石さんと交代し、鬼一さんがいそいそと食卓にやってくる。

アルミホイルの包みを手渡され、破顔した彼はそうっとそれを開いて満面の笑みを浮かべた。

 焼けた醤油の香ばしい匂いと……これは味噌ですか?甘い味噌と、山椒の匂いがする。



 

「うめぇ!醤油もいいが、こりゃ山椒味噌か?最高だな」

「うん、そう。ストックがなかったんだけど真さんがメールよこしてさ。わざわざ山神の(しもべ)を使ってまで山椒届けてくれたから、作りたてなんだ」

 

「いい匂いがするな……どうしてこう、山椒はこんな腹が減る匂いなんだろうな」

「俺も不思議だよ。作りながらついつい味見しちゃうんだ。焼けた味噌の美味しさはまた醤油とは違うでしょ?これも今後定番にしようね」

「そりゃいいや。楽しみだ」




「…………食べたい……」

 

「あ?聞こえねぇな、オンナノコがなんか言ってるみてぇだが」

 

「くぅ……じゅる……」

 

「あいつは山菜を使うのが本当に上手だぞ?知り合いの山寺で採れた山椒は、特に匂いがいい。若芽だけを摘んでるから香り立つ独特の強さがあってな。

 ほんで熱を加えて良く練った信州味噌のタレと合わせて、山椒の匂いが封じ込められる。焼き目を強めにつけて食うのがウチの慣わしだ。コメと合わねぇわけがねぇよなぁ、クックックッ……」


「うぅ、うー……酷い、アタイだけどうしてこんな、うっ、うっ……」




 白石さんが狢に拷問をしているようにしか見えませんね……あの悪い顔。清音さんと一緒にいられない憂さを晴らしているとしか思えません。



「おぉ、味噌がパリパリしてる。もしかして炭で焼いたのか?」

「うん、その方がいい匂いになるだろ?薪ストーブも稼働させたから、帰ったら熱燗で一杯やろうか。真さんも待ってるし」

「そうしよう。早く終わらねぇかな……あぁ、味噌焼きおにぎりは残り一つか」



「……!!!い、言います!何でも言うから食わしてや!!もう何でもゲロるから!!!」


 ついに待望の言葉を発した狢を横目に芦屋さんが最後の味噌焼きおにぎりを持って近づく。


 


「何でも喋るんだな?嘘ついたらすぐわかるぞ?」

「言う!言います!!だからその味噌焼きおにぎりを……」


「ゲロるのが先だ。芦屋は怒ってるぞー。星野の耳を奪って、在清を引っ掻いたお前にな」

「うぅ、うぅーー!!」


「さぁ、洗いざらい吐いてもらおうか!!」


 ━━━━━━


 

「ほなら、相手方の特徴としては華系のお偉い神さんで確定やな」

「そうだね、装飾品も翡翠の大ぶりなものばかりだし……金糸が本物の金って言うなら太古に近い時代の神になる。真子さん、心当たりある?」


「うーん……」




 パリパリむしゃむしゃ、耳障りのいい咀嚼音が響く室内で、真子さんと芦屋さんが難しい顔をしている。

 

 私は華系の知識は皆無ですからね……役に立てそうもありません。

白石さんは狢を掴んだまま、彼女が勢いよく食べてはポロポロ転がる米粒を拾ってやっていた。


 怖い顔をしているが、面倒見のいい彼はお茶を片手に持って……たまにむせる狢に飲ませてます。完全に食事のお世話してますね。


「一旦目に見える形でまとめようぜ。情報が多いし、まだ背後を洗ってねぇから推測なんだ。事実把握をしっかりしておこう」

 

「うん、そうしよっか」



 

 鬼一さんがホワイトボードを待ってきて、真子さんがそこへ今日得た情報を書き記していく。


 犯人像

・漢服(絹の裾長しつらえに金糸の刺繍、肩に肩巾をかけている……女人?)

・髪は黒、目は見えず顔貌は不明だが肌の色はアジア系

・香は竜涎香(りゅうえんこう)(アンバーグリス)

・声がしわがれ、手のひらはシワシワ……老人?

・小指の爪のみ伸ばしている……古来の慣わしで貴人の証

・左手には金の指輪を五本、右手には銀の指輪を五本つけていた


狢からの情報

・星野の耳を獲れば一生食い物に困らない暮らしをさせてやる

・星野の由来をなぜ知っているかは不明

・奪った耳を渡す際『これで仮初の木偶が形を成せる』と呟いていた

・声色は記憶がぼやけていてよくわからない(男女不明)


 

 魔法陣の内容

・九州、京都と同じ材料でなされ、文言が違うものの使用されていた文字の種類は同じ。

・目的は対象者の部位を奪うことで共通

・対象部位を表す文字を消すことで魔法陣は無力化できる

・魔法陣の核は龍のみに絞られている。目的は捕縛



「……こんなもんやろか」

「あぁ、あとさっき清音が言ってたが、八犬士の宝玉文字がある部位と奪われた部位が合致してるらしい。

 八房の体内に宝玉があった時の残滓があり、仁は腹、忠は目、礼は耳だそうだ」


「なるほど……玉の由来とメンバーの由来が合致すれば、次にどこがやられるかわかるんちゃう?正体は後回しにしてこっちの検討が先やろか」

 

「残りの玉は智、信、義、孝、(てい)だが……具合が悪くて聞けなかった。これは清音の回復を待たなきゃならん」

「あ、そやったんか。まだお熱出てるんやしな」

「あぁ、今回は二人分一気に来たからな。同じルールで来るかわからんが、次にもう一人事件を終えたらまた熱が出る可能性がある。それで、次の順番は……」



「次は俺だよ。まだ行かなきゃって言う星野さんみたいな焦りはないけど……俺の分の共鳴の熱はもう出た後だから、そのルールで行けば星野さんの一人分で済む可能性が高い」

「そうだといいな。芦屋が言ってるなら託宣みたいなもんか」

 

「白石さんの言う通りかも知れへんね。んで、犯人像見て思ったんや。見た目だけじゃ、どの国の神かがわかるくらいやん。該当国の神さんを呼んで、聴取したらええんちゃう?」


「あ、そうですよ!先日少昊(しょうよう)どのが、高天原で連絡先のメモをくれたのを忘れてました」

「あ、すまん。俺もすっかり忘れてたぜ」


 


 鬼一さんと二人目線を合わせ、苦笑いになる。あまりにも突然手渡されたので忘れていました。

ポケットの奥底にあるメモを真子さんに手渡し、ため息をもらってしまう。


「なんや、直接渡してきたん?うわ……♡だらけやんかぁ……」

「はい。芦屋さんのことがだーいすきだそうです」


「……えぇ?ナニソレ?身に覚えないんですが」

 

「どう言うことだ」

「ちょ、颯人。勝手に出てこないで。大人しくしててよ」

 

「聞き捨てならぬ台詞が出てきたろう。我の花を好いているだと???一体どこで出会ったのだ」

「俺は少昊さんとやらに会った記憶はないぞー。名前からして黄帝の身内でしょ?」



 颯人様が姿を現し、芦屋さんを抱えて座る。怪訝そうな表情をしているが、間違いなく少昊殿は芦屋さんのファンですよ。


 

 

「そうです。直径の子孫ですが、饕餮(とうてつ)をお供に連れてきていました。おそらく子孫の中でも外交の担当かと」

  

「途中まで暉人殿や天照殿がキレてものらりくらり余裕で交わしてたしなぁ。本神が言うにゃ、出雲での調印式を見ていたらしい。あの舞を見て惚れたんだとよ、絵姿を飾ってるらしいぜ」



「……許せぬ」

「颯人?何で怒ってんのさ。絵姿って……飾って一体どうするんだろね?」 


「心を癒されてるらしいぜ」

「わけわからん」



 本気で首を傾げたままの芦屋さん、不機嫌な颯人様……。呆れた顔の真子さんとあいた口が塞がらない白石さん。

 私は若干頭痛がしています。あの神に芦屋さんを直接会わせたらどうなってしまうのか考えるだけでゾッとしますよ。

 

 ……元気なのは狢だけですね。


 

「ごちそーさんでした!ほいたらアタイはお家帰ってええかー?証言したし、もう用ないやろ?」


「「「いいわけないだろ」」」



 芦屋さんと白石さん、鬼一さんのこわーいハモリ声が会議室に響いた。

 



 

 

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