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【もうすぐ完結】裏公務員の神様事件簿 弐  作者: 只深
星降る谷の悲田院

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47 生命の流転


星野side


「さて……子供は寝入ってしまいましたね?」

「ああ、そうだな……って、おい!どーすんだよ!?腹一杯食わして寝ちまったら、何もできねーだろ!!」


 現時刻 3:00 約束の時間まであと一時間半。いやぁ、まさかおにぎりを食べたら寝てしまうなんて思いませんでした。

 芦屋さんの肉味噌祓パワーがここまでとは。先ほどまで漂っていた獣臭は薄くなり、子供たちは布団の上ですやすや寝息を立てている。

 

 参りました……手詰まりです。


 


「浄真殿、なにか策はありませんか」

「はいはい……はい?なぜ私に聞くんです?」


「我々の中ではこう言う時、伏見さんにお伺いを立てるのがセオリーでして。今回皆さんに役割がある気がしているんですよね。

 芦屋さんが八人揃えたと言うのは何か意味があるのかなー、なんて」


「私が伏見役ですか……他は?」


  

「白石さん、鬼一さん、アリスさん、私星野はそのままとして。

 暉人殿は鈴村さん、浄真殿が伏見さん、天照殿が颯人様、陽向くんは清音さん?芦屋さんの代わりはどなたにも無理ですね……すみません、自分で言っててバカらしくなって来ました」


「ふむ。此度はあなたが主役のようですからね。勘が間違っているとは言えません。芦屋さんの代わりが不在なのは不安ですが。

 私の鼻は、(むじな)の匂いを感じています」



 

「さっきまでの獣の匂いが(むじな)だと?」

 

「はいはい。狢は現代のアナグマですが、山の怪異としては幻を見せると言います。葬列の、ですが……白石さん、どう思われますか」

「ふん……幻を見せる、今回の事件に準えると龍が関連するとして、(しん)が関わってくるのかもな」


「蜃は蛤では?あっ!蜃気楼は(みずち)が吐き出す()で楼閣を現すのでしたね!?」

「そう言うこった。今回の事件は全て必ず八犬伝と龍が関わる。芦屋が八の数字にこだわったのはそれだ。人数が揃わなければ事象が起きねぇのかもしれん」


「白石さん、こじつけが上手いですねぇ」

「こじつけ言うな、この事件ははじめっからこじつけだらけだ」


 さもありなん、と暉人殿と浄真殿が頷く。うーむ、それでいいのかわかりませんが……幻ですか。

 (むじな)(しん)、みずち。幻でも見せて私の体のどこかを奪おうと言うのでしょうか?

メンバー全員で首を傾げていると、子供達の布団がモゾモゾと動いているのに気づいた。



 

「ん……おしっこ」

 

「おや、悟くん?目がさめましたか?」

「うん、おしっこ、行きたい。一人じゃ怖い」

 

「いいですよ。私がお供しましょう。白石さんと浄真殿は他の子供達を見ていてください」

 

「おう」

「はいはい」


「俺はついていくぜ」

「暉人殿……大丈夫だと思いますよ?」

「ダメだ。真幸にぜってー星野から離れるなって言われてんだ」


「そうでしたか、わかりました」


 


 暉人殿と連れ立って、悟くんと手を繋ぎ暗い渡り廊下へ。突き当たりの建物におトイレがあるんです。最近ウォシュレットにしたと聞きましたから、さぞや居心地のいいトイレでしょうねぇ。

昔は汲み取り式でしたからそれを改装したのですが、臭いもなく暖かい洋式便座がついているらしいです。


「星野、さん」

「ん?どうしました?」


 悟くんが手を握り、見上げて目線を合わせてくる。やや不安そうに揺れる瞳は、薄茶色の優しい色をしていた。


「僕……あのね、みんなには秘密だけどね、山の中にお友達がいるの」

「えっ!?お友達……ですか」

「うん、それで、おにぎりあげたいなって。寒くてご飯が見つからないと思うから」


 

 


 呆然として暉人殿と目線を交わす。悟くんはもじもじして『とりあえずおしっこ』と室内に駆け込んだ。


「降って湧いたような山への導線ですが、どう思われますか?」

「さっき言った妖怪のどれかに誑かされてるか、取り憑かれてるかじゃねーか?鬼一とアリスが周囲を探ってるはずだよな」

「はい、念通話で聞いてみま……」


「ほ、ほしのさん」



 トイレからひょこっと顔を出した悟くん。涙を浮かべ、浴衣の紐を解いて引きずっている。


「どうしました?」

「あの、あの……ごめんなさい。電気に手が届かないの」

「あぁ!うっかりしてました。暗がりで怖かったでしょう、一緒に入りましょうね」

 

「うん!」



 暉人殿の苦笑いを受け、悟くんと一緒におトイレに入る。壁際のスイッチを押すと、バチン!と大きな音が響いた。


 ……あらー……これは。




 目の前が真っ暗だ。スイッチを押した途端に、悟くんと二人暗闇の中に放り込まれている。

 

「な、何!?何で??」

「しー。口を閉じていてください。このハンカチで口を押さえて」

ほふ(こう)?」

「ええ、それでいいですよ」



 もわっと足元から立ち上がった黒モヤ、これは瘴気だ。どうやら私達は隠り世に連れてこられてしまったようですね。


(暉人殿……聞こえますか?浄真殿?天照殿……陽向くん……)

念通話で会話を試みるも、誰にも通じない。困りましたねぇ……。


 とりあえず胸元から私の水晶を取り出し、結界を張ってみる。



  

「!?」

「大丈夫、これで安心です」


 ふぉん、と軽く空気を振動させて、結界陣が作動する。

白い円筒状に広がったそれは私と悟くんを包み、瘴気を退けた。


(ハラエドノオオカミ、はいますよね?)

(居る。主人よ、いの一番に私を呼ばわらなかったな)


(すみません、ついうっかり)



  

 私が依代を務めるハラエドノオオカミに話しかけると、普通に応えた。いやはや、いつもでしたらサポート一辺倒ですからね。話し合う間もなく私達は力を合わせていたので……正直会話自体が久しぶりです。


(この状況、どう見ます?)

(おそらく隠世に隠されている。これは幻覚の中だ。何が出ても反応しないほうが良さそうだな)

 

(了解しました)



ほひほはん(星野さん)はほほ(あそこ)ひはっへふ(光ってる)!」

「あ、悟くんもうハンカチはいいですよ。確かに何か光ってますねぇ。しかも青い光です」


 いやぁ、芦屋さんが唯一怖がる色の光がぼうっと(とも)り……まるで誘われているようです。

 一応結界をもう一枚張っておけば良いでしょうか。始まりに正面突破と言ったのですから向かってみましょう。

……何だか、私は芦屋さんの行動を準えているようですね。


 

 


「悟くん、抱っこは嫌いですか?」

「いいの?僕、あの……」

 

「怖いでしょうね、すみません。私が守りますから……安心しておいでなさい」

「うん」

 

 悟くんを抱き上げ、青い光に近づいていく。いつのまにか裸足だった足は草履に変わり、着ているものが浄衣へと変化する。

 ……あぁ、これは。


 白絹に、銀糸の刺繍。あの時初めて袖を通した、芭蕉紋が刻まれた戦闘服。

コーン!とキツネの鳴き声が聞こえて、目の前にドドド……と音を立てて朱塗りの鳥居が現れる。

 そうですか、なるほど。当時の再現ですかね。


 鳥居の中を潜り抜けると、その先には。


 

『やす……あき』

「…………」

『久しいな、元気にしていたか?』

「…………」

『私がやったメガネはどうした?』

「…………」

『まだ、怒っているのだな、仕方ない』



 目の前で、私に親しげに話しかけているのは……懐かしい人。

僕とはあまり似ていない。そして……蘆屋道満との決戦を行った大社で兄弟の縁を切り、亡くなった兄の姿だった。


 ━━━━━━


 

(話さなければ、幻は消えていくようですね)

(心の平穏を乱そうというのだろう。結界を常に張り直し続け、心を安らかに保つのだ)

 

(はい。これは消耗戦ですね)

(そうだな)



 

『星野は霊力が低いのではなく、器から取り出すのが苦手なのでしょう。日々お寺さんで修行しているのですから、そのうちに花開きますよ』


『伏見の名を借りているうちは半人前です。あなたは裏公務員になって一年経っているのですから、そろそろ独り立ちしなさい』

 

『今回は祓ったのか……そうですか、わかりました』


 

 今度は伏見さんが姿を現した。髪の毛がまだ肩に届いていないから、本当に初期の頃の姿だ。こうしてよく叱られていたことを思い出しました。 

 この幻は私が返答しなければ次々と湧き出でて心を揺さぶろうとしてくる。


 兄の後は父、母、当時育ててくださった房主様、一緒に育った子供たちが出てきた。


 


『ようこそ、裏公務員の営業課へ。私は()()()()の長、伏見と申します。あなたの担当は……』

 

『はじめまして!わたし、佳代といいます!あっ、間違えた……名字を言わなきゃいけないんでした!!』



 私自身の古い記憶が、次々と再生されている。年老いて、白髪になって、顔がシワシワになって別れた筈の愛おしい妻が……出会った時そのままの姿を現した。

 栗毛色の髪、同じ色の瞳、ややふっくらした体つき、目がぱっちりしていて唇は薄く、微笑むとエクボが二つ浮き出てくる。



 いや、これはなかなかきついですね。


 


「星野さんは優しいです。私ドジだから、差配が甘くて伏見さんに怒られちゃいました。次は本当に気をつけます、ごめんなさい」

 

「芦屋さんはすごいですね!彼はものすごいスピードで成長されている、有望株ですよ!何しろ伏見さんがつきっきりで面倒を見て……いや、面倒を見られて……??うーん?」


「ごめんなさい!!私が勝手についてこなければ、星野さんが怪我なんかしなくて済んだのに!ごめんなさい……」


「月が綺麗ですね、って言ったらわかりますか?私、あなたのことが好きです」


「芦屋さんに先を越されてしまいました。私、康晃(やすあき)さんの手の傷に気づいていたのに何もできなかった。彼女失格ですね」


「いいですよ、康晃さんの人生は、芦屋さんに出会ってとってもいい方向に向かったんですから。彼の方の背負う使命を分けるあなたは、命の絆で結ばれているんです。私……芦屋さんを支える、康晃さんを支えます。結婚してください」



 

 

 手が震えて、目頭が熱くなってくる。私と、妻の記憶。これはおそらく自分の心の中を映し出しているのだろう。

 ここまでは全て事実に基づいた話ばかりされている。



「私は仙人になりません。私はあなたの人生に於いて、一時の箸休めなのですよ。だから、気にせずご自身の使命を全うされてください」


「あなたは……私と出会えて幸せでしたか?」

 

 

「私は本当に幸せでした。お役に立てていたのかは、わかりません。でも、あなたに出会えて、この国の再生を目にすることができて、その一端を担ったのが私の夫だなんて。自慢の旦那様です。死んだらきっと両親に褒めてもらえますね」


 

「あなた……もし、もし……気が向いたら。また、生まれ変わった私を見つけてくださいますか?」

 


 酷い幻影だ。私の心が揺さぶられているのを感じて、ハラエドノオオカミは胸の内からため息をこぼした。


(星野……堪えよ)

(わかってます、わかっていますよ)



  

 やがて景色は移り変わり年老いた妻と、半分仙人になりかけて変わらぬ姿の私がここにいる。病室の中で私達は開け放たれた窓の外を眺めていた。

 

 病院の庭では颯人様と芦屋さんが念入りに祓いをしてくれて、病院に許可を取ってまで幣帛(へいはく)を立て、悪しきものが寄りつかないようにしている。

 こうして……妻が少しでも長生きできるようにと毎日手を尽くしてくれた事を、私はずっと忘れない。


 唇を噛み締め、眠るように命の灯火を燃やし切った妻を眺める。自分の頬に一筋涙が伝った。



 再び場面が切り替わり、お葬式が始まった。棺の安置所に辿り着くと、複数の棺が並んでいる。


 これは記憶にない情景だ。……ここからが本番ですか。



 

 キィ、と音を立てて一つの棺桶が開く。そこには……松尾芭蕉殿が目を瞑って横たわっている。

 パチリ、と目を開き瞬きを繰り返すと芦屋さんの姿に変わり、棺桶から出て、歩いて去っていく。


 次の棺桶は……誰ですかこれは。忍び装束を着た男性?あっ、目が細い……まさか?

 芦屋さんと同じようにして瞬いた彼は伏見さんの姿になり、同じように去っていく。


 伏見さんの前世は忍びですか???しかも、ご実家の神紋が入ってましたね??



 

(これは事実なのでしょうか)

(…………事実だ。私は、そうだと知っている)

 

(なんですって?!)



 ハラエドノオオカミの答えに動揺し、結界が一枚破れた。慌てて張り直し、胸を抑えて呼吸を整える。

抱き抱えた悟くんは、いつのまにか眠ってしまっていた。


 次の棺桶が開く。浪人姿の侍ですね。侍は鬼一さんになった。次々に棺桶が開き、仲間たちの前世と今世を見せつけられているようだ。

 

 鈴村さんはとある村で生贄になった村娘。アリスさんは玉藻前。白石さん……あなた昔の斎王(さいおう)だったんですか!?だから伊勢で月読殿を譲り受けることに??

 

 高貴な巫女様が、あの乱暴口調な白石さんになるとは驚きましたね。


 

 清音さんは……着物姿の超絶美人から複数の女性の姿に変わり、最後に今の姿になった。なるほど、あの超絶美人の方が伏姫様でしたか。なるほど。


 倉橋くんは安倍晴明の手下、私自身は神父さんだったようで。元がイギリス人だとはなんだか複雑な気分です。



 

 次の棺が開き、私は息を呑む。

芦屋さんの面影がある年配の女性……まさか、この方は。


 黒髪の癖っ毛、黒目はまなじりが垂れている。蘆屋道満とこの人を掛け合わせたら、間違いなく芦屋さんの顔立ちになる……まさか……まさか。


――パチパチ、とまたたいた彼女は姿を変えた。




 

「そんな、馬鹿な!!」


 

 ついに声を出してしまった僕へと振り向いた、芦屋さんのご母堂の生まれ変わり。その人は……ニコリと微笑んで口を開く。

 

「星野さん、ダメですよ。口を開いてはいけないと言われたでしょう」


 

 颯人様にそっくりな顔。髪と声は芦屋さんにそっくりな……陽向くんがそこに居た。

 


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