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【もうすぐ完結】裏公務員の神様事件簿 弐  作者: 只深
県外遠征@京都文京区

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36 厄介彼氏ヅラ

真幸side


 現時刻 深夜0:00、自宅の玄関前で伏見さん、俺と颯人、白石と清音さんで佇んでいる。

まんじりともしない気分で隣にいる伏見さんの羽織を引っ張った。




「本当に行くのか?さっきまで調べ物して完徹だろ?眠くない?お家に居てもいいんだぞ?」

「現場に行く現実は何を言っても変わりませんよ。一徹くらい何ともありませんし、散々僕に結界を施して下さったでしょう」


「まだ足りない気がする」

「もう良いですから行きましょう。事件は待ってくれませんから」


「ぬー……」

「芦屋さんはすっかり過保護になってしまいましたねぇ、心配されるのはとても気分がいいです」



 得意げな顔でご機嫌なセリフを吐かれて、何も言えなくなってしまった。大変不満だ。

そそくさと歩き出す伏見さんの袖を掴んだまま着いていくと、クスリと小さな笑いが落ちる。


 だってさ、妃菜の怪我も、鬼一さんと星野さんが高天原に詰めてるのも、アリスと真子さんに預けた小さな月読と件も……結界が得意な陽向が家に待機してくれてるとしても、全部心配なんだよっ。


 


 でも、妃菜が傷つけられた事ではっきりした。今回の事件で最優先に守るべきは身の回りにいる仲間だと言うことを。


 俺はあっちこっちに飛ばした監視の分霊を一つ残らず解除して、自宅の護りを増やした。

さらに一人一人に対して結界を山ほど施しても、まだ安心できない。

 俺の大切な人たちは、みんなお家に引きこもってて欲しい。そしたら誰も怪我しないだろ。




「あなたが今ヤキモキしている、その感覚を覚えておいてくださいね。

颯人様や僕たちが、普段あなたに対して思っているものと同じですから」


「ぬぅ」


「大丈夫ですよ。僕は芦屋さんがとっても大切で大好きなので、本人が悲しむような結末にはしません」

「ホント?ちゃんと自分の身を守ってくれる?怪我しない?」


「怪我しないとは言えませんが、死にはしません」


「むーーーー」


「僕の気持ちも芦屋さんならきっと、手に取るようにお分かりになるでしょう。あなたと同じくやりたいようにやらせていただきます。戦闘員である僕を過保護にしたら本末転倒ですよ?」


「くそぉ……」



 ……コテンパンにやられてしまった。身に覚えがありすぎるし、俺もそう思ってた過去があるから反論できない。

 伏見さんの羽織袖をぎゅっと握り直して、呪詛返しをおまけで追加した。

これで大丈夫だと思いたいし、思うしかない。




 自宅近くの杜を超えて、村への境界線であるトンネルを潜り抜けると、道端に黒塗りの車が待ち構えていた。

今日から転移の移動ではなくて、車での移動になったから……裏公務員時代に何度かお世話になった車で、お迎えが来てくれてるんだ。


 転移術だと使った神力を辿られて、敵方に行動を知られてしまう。その対策で陸地移動との事だけど。

どうなんだろうなぁ、陸地移動で痕跡を消してもどのみち辿られる気はする。



 伏見さんが車に向かって手を振ると、黒塗りの車からまさかの倉橋くんが出て来た。

すんごいいい笑顔なんだけど、忙しいはずなのに何でここにいるんだ。また結界を張らなきゃならん人が増えたじゃないか。




「おはようございます!今日から専任で運転手させていただきますよ!芦屋さん!!」

「なーんで倉橋くんが来てるの。真神陰陽寮の仕事は大丈夫なのか?」


「ええ!妻の皐がいますから!……って、何してるんですか?」


「結界張ってる」


 倉橋くんは最低限の結界しか持ってないじゃないか。危ないところに行くのに!!




「芦屋さんに結界を張っていただけるなんて……はわわ」

「危ないところに行くんだからちゃんとしなきゃだめでしょ。本当に現場まで来るのか?」


「行きますとも。伏見さんの運転では何かあった時に困るでしょう?私が安全運転で送迎いたします!」


「行きは仕方ないとして、帰りは転移でいいじゃん。先帰りなよ」


「ダメですよ、棲家を知られてしまうのが一番良くありません。その対策なんですから、大人しく車に乗って下さい」


「むーーーー……わかった。よろしくお願いします」

「はいっ!」



 倉橋くんがドアを開けてくれて、仕方なく乗り込む。白石が助手席、颯人は俺の中に引っ込んで、伏見さんと清音さんの間に俺が収まった。

……仕方ないとはいえ、大変心苦しい。

隣に座らせてあげたかったな、二人を。


 早く記憶の蓋に鍵をつけなきゃだ。これから先も、一緒に行動するんだから。


「では、出発します!」

「よろしくお願いしまーす!」


 倉橋君と清音さんの元気な調子で車の旅が始まった。さてな、気持ちを切り替えて車内で予習復習と行こうか。


 


「清音さん、目的地の貴船神社について調べてただろ?八房から聞いたよ」


「はっ……ハイ。芦屋さんが任務の時には現地の情報をお調べになっていると聞いて、見習わねばと思いまして」


「そうだね……でも俺だけじゃないよ。事務所のメンバーも、真神陰陽寮の神継達もやってるんだ。情報の有無は仕事に大きな影響を及ぼすからなぁ」 


「おっしゃる通りです!!!」



「車内なんですから声を抑えてください。加茂にも散々言われているでしょう、倉橋の声は耳に痛いんですよ。要するにうるさいです」


「……スミマセン」


「いいよ、伏見さん。俺もヘコんでるとこだから、倉橋君の元気な声が嬉しいんだ」

「あ、芦屋さん……!!」



「仕方ありませんね、今日の芦屋さんは甘えさせたがりのようですから。たまにはいいでしょう」


「何だよそれぇ」


「そんな事より貴船神社の情報共有だろ。さっさとやれ。全員ウルセェ」 


「「「スイマセン」」」


 白石に突っ込まれてしまったぞ。俺たちのやりとりを見て清音さんがニコニコしだした。……なんか面白かったか?




「わたし、こういうの大好きです。気の置けない仲間と言いますか……大切に思い合う仲といいますか。仲良しで羨ましいです」


「んふ。そういってくれると嬉しいな。さて、お勉強の成果を聞かせてくれ」


「はいっ!」


 清音さんの澄んだ声色で貴船神社の説明が始まる。彼女の声を聞いてニヤニヤしてる白石は放っておいてあげよう。




 貴船神社は京都府左京区、鞍馬にある神社。創建の歴史文献は残っておらず、千三百年前には存在している記録がある事から、古くからある神社だと推測される。 

 全国に二千社ほどある貴船神社・水神(龍神)の総本宮とされ、古来から歴代天皇の頼みの綱でもあった。


 雨乞いには黒馬を、雨止みには白馬を献上して祈りを捧げていたとされる。

時が経つにつれて生きた馬の献上ではなく、絵に描いた馬が代わりとなり。それが現代では人々の願いを書く『絵馬』となった伝説を持つ。絵馬の発祥の地なんだ。


 主祭神は高龗神(タカオカミノカミ)闇龗神(クラオカミノカミ)。これはヒノカグツチがイザナギに斬られた時に生まれた神だ。

 他にもオオヤマツミノカミの娘、コノハナサクヤビメの姉である石長比売(イワナガヒメ)が祀られていたりと、やや暗めの印象がある神々が祀られている。


 


 タカオカミノカミ、クラオカミノカミは同一神とされていて、もう一柱闇御津羽神(クラミツハノカミ)という兄弟がいるともされる。

 妙なスピリチュアル系のヨーチューブではそれが理由で『良くない場所』だとか言われていることもあるらしいけど。


 歴史が長く民衆の願いを受けて水を治め、縁結びや厄除けをして来た神社が悪い場所なわけがないのにな。


 陰陽は表裏一体であり、どちらかが悪いなんてことはあり得ない。全ては受け取る側の人間が判断して自分で動くからこそ、そう言った結果になる。




――と言った説明を終えて、清音さんはふんっと鼻息を荒くしている。


 最後の方は説明と言うよりも清音さんの解釈が加わっているけど、俺も賛成だな。とってもいい考え方だと思う。





「わかりやすい説明ができてるからちゃんと身についてるんだな。よく調べられてるよ。最後の解釈は俺も賛成だ」


「はっ!き、恐縮です……」

 

「ふむ……及第点、といきたいところですが、神継としてはやや深堀が足りませんね」

「倉橋に賛成です。短時間で調べたとしても、もう少し情報が欲しいですね」

 

「そうなんですか!?」


「……うーん、説明が難しいんだよなぁ、これ。俺が補足してもいいかな?」

「はい、お願いします!」


 清音さんはメモ帳を取り出して、じっと見つめてくる。車内は暗いけど……見えるのだろうか。

八房の依代効果かもしれんけど、ちょっと羨ましいな。




「創建は1300年より前なのは確かだろ?なぜかと言うと、最も古い御社殿の造り替え記録があるからだ。白鳳六年・666年の記録だな。

対して社伝では反正天皇(はんぜいてんのう)の時代に神武天皇(じんむてんのう)の母である玉依姫命(タマヨリヒメノミコト)がここを神社にしろ、っていったのが始まりとされてる」


「反正天皇……あっ、1600年前にはもうあったということですか?」


「そうだと思うよ。神社は貴船山・鞍馬山に挟まれて、賀茂川の源流とされる貴船川がある。自然が豊かな場所だったろうし、今でもその杜を守るために保全活動を続けている。神社があることで福音がもたらされてるんだよ」


「ふむふむ……ホームページにそんな記載がありました。自然保護も大切ですもんね」


「そうだな。大阪湾から船でやって来た玉依姫は、長旅の末ようやく辿り着いたとっても綺麗な場所で感激したんだろう。

 清水の湧き出でる霊境吹井(れいきょうふきい)の地に祠を建てなさい、といったのが貴船神社の始まりだ」

 


「貴船神社さんの歴史を辿るのに、私は社格の遷移を追ってました……」


「それも間違いではないし、どっちでもいいと思うけど。俺は神社の社伝……要するに人々が伝えて来たものが歴史であると捉えているから、そう解釈してるだけだよ。

 正確な年数というよりも、始まりの理由や誰が開いたのか、何の因果があるのかを知る必要があるんだ」


「なるほど……」




「タカオカミノカミは降雨、止雨だけではなく、雲を集めて雨を降らせ、雨を止ませて陽を招ぶ。雨を地中に蓄えさせて、それを適量に抑えて少しずつ湧き出させるって言うのが神話で伝わる役割だ。

人間だけではなく、あらゆる命に対してありがたい神様だね」


「あぁ、そうやってどんな神様かを知るんですね!……とすればタカオカミノカミはかなりお強い方なのでしょうか?

ヒノカグツチの血から生まれたとはいえ、国産みの神様の嫡子なんですよね?」


「そうだよ。イザナギとイザナミの子だし、役割からしたら相当強い力を持っているだろう。水神であると言うことは龍神と同意義だ。

 現代では農業・電気・水道・飲食・醸造・染色・浴場・火伏せや消防の神としても信仰が篤い場所だから、現在進行形でそれが保たれている」




「私たちは過去を知り、今を知らなければならないと言う事ですか」


「うん、とってもいい答えだな。

 もう一つ情報を足すとしたら、今回の事件に関わる情報があるといい。

 丑の刻参りは『丑の年の丑の月の丑の日の丑の刻』に貴船明神が貴船山に降臨したから、本来は心願成就の方法だった。それがいつしか縁切り、呪詛神としての名代を持つようになっている」


「『平家物語・宇治の橋姫』の派生逸話ですよね?とある女性が略奪愛の復讐をするために丑の刻参りをしたから、貴船の神が復讐に手を貸した……とか」




「そうそう。ちゃんと調べてたんだな。

 由来としてはそれが最も有名かもしれない。奪われた旦那さんと、奪った相手の女性を殺したい……と鬼になる事を望んだ、一般人の女性がやった事だ。

貴船の神様が助言したとか、力を貸したとか言ってるけど、どうだろうなぁ」


「神様がそんな事するんですか?」


「浮気された元妻に同情したとしたら、『助力もやむなし』って考えたんじゃないか?

 橋姫は最後に安倍晴明に封じられて『祀ってくれるなら京都を守ってやる』って淀川に身を投げて、龍神になったなんて後日談もある」


「ははぁ……日本の神様っぽいですね。今の世ではそれが史実なんでしょうか?都市伝説も実体化されてますし……」


「史実ではなくても、俺たちが生きているこの世界ではその話が本当かもしれないね?

 まぁ、本神に聞かなきゃわかんないけど橋姫は今や縁結びの神様だ。その逆もまた然り、だけど」




「うーんむ。今回の事件に結びつくとなれば、よくない方の丑の刻参りですよね?そもそもの話丑三つ時はなぜよくない時間なんですか?」


「草木も眠る丑三つ時って言うのは、午前2時から2時半のことを指している。

 日本では江戸時代まで数字の他に延喜法(えんぎほう)と言われる干支で時間を表していた。これは?」


「何とか知ってます」

 

「よしよし。陰陽道では子の刻をはじめとして、丑が陰、次の寅が陽。午前3時の丑寅は方角にすると『鬼門』に当たるだろ?だから陰の力が最も強いとされる時間で、死に通じる時間とされて……」




 豆知識の説明は、真面目に聞いてくれる清音さんがいるから止まらなくなってしまった。

いつもなら誰かが止めてくれるのに、伏見さんも倉橋くんも白石も止めてくれない。いいのかな、止まらなくなっちゃうぞ?


「これこれ、これですよ。芦屋さんの話は一生聴いていられます。ちょいちょい豆知識が入るのが何とも満たされるんですよねぇ」


「僕のセリフを取らないで頂けますか。ただでさえキャラが被っているんですから」



「何アホなこと言ってんだよ。キャラ被りのお前らが刺激したんだからな、智慧の神を。

着くまで聞くハメになるぞこれは」


「いいんですよ、それで。私は芦屋さんのお話がだーい好きなので。長いセリフがあってこそ芦屋さんです」


「ですから、僕のセリフを取らないでください。僕の方が芦屋さんのことを好きですし、芦屋さんに好かれてます」



「伏見……やめろーめんどくさいぞー。厄介彼氏ヅラじゃねーかー」


「彼氏ヅラですか、いいですねそれ。

今日こそはっきりさせなくては。いいですか、倉橋……」




 白石はパーカーのフードを深く被る。


 得意げに彼氏ヅラをする伏見さんと、それを聞かされる倉橋くん。清音さんに説明を続ける俺の顔を見て……深ーいため息を落とした。







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