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【完結】裏公務員の神様事件簿 弐  作者: 只深
ラストラン

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101/109

101 召喚の儀


清音side


「寒っ!!??は?ココどこ?私はウズメですけど!!

 久しぶりの登場なのに、こんな扱いなんですか!?月刊連載の締め切り前なんだが!?」

 

「ウズメさん、うるさいです。て言うか、いきなり呼び出されたと思ったら確かに寒すぎるんですけど!?」

「少昊もうるさい。ふむ、富士か……これから覚醒の儀式でもするのだろう」


「はいはーい、みなさんお疲れ様です!アメノウズメのミコトさん、少昊殿、饕餮殿はこちらへ。饕餮さんのおっしゃる通りこれから作戦会議を始めます!!」

「…………先駆隊の人選、大丈夫か?」

 

「大丈夫です!!……多分」

「はぁ……まぁ、なるようになるだろう」



  

 現時刻3:00 漆黒の闇の中、吹き荒ぶ風に煽られて髪の毛がバッサバサですが。これから私たちが行う儀式に関しての作戦会議をしようと言うことで、アメノウズメノミコト、少昊さんと饕餮さんを富士山頂にお呼びしました。

 

 少昊さんはシルクのパジャマにナイトキャップ……は山風で吹き飛んで行きましたね。饕餮さんはニャンコではなく黒豹のお姿で、ウズメさんは水色のジャージに瓶底眼鏡、ヘアバンドで髪の毛をまとめた締め切り前ギリギリ限界ルックです。



 

 眉を顰めながらもあたりの石ころたちを集めて霊力で繋いで壁を作り、直人さんは冷たい風を遮る空間を作ってくれた。風避けだけでもだいぶ暖かいですね。

 現在地は富士山の剣ヶ峰、私達はすでにお鉢巡りを済ませている。


 富士山の(いただき)には八つの峰があり、それは仏教の八葉蓮華(はちようれんげ)に例えられている。これは悟りや浄化の象徴だけど、お鉢巡り/お八巡りをすることで(みそぎ)を済ませることと同意義となる。富士山本宮浅間神社の奥宮に参拝するための儀式です。

 禊の手順は火口の周りを歩くだけけど、2時間弱の運動を必要とする。

 

 例によって例に漏れず、うっかり属性の私は危ない目にあった。

細いけれどきちんと踏みならされた道を歩いていたのに、数回火口に落ちそうになり。その度に青い顔の直人さんが引っ張りあげてくれて。……真夜中に歩く場所じゃありませんね、ココは。

 

 目の前には富士山頂上浅間大社、奥宮がある。境内では大急ぎで潔斎が行われていて、これから私たちは『あるモノ』を具現化して召喚する。その場所としてここを選んだんです。

 



「それで?何を降ろすんだ」

「饕餮氏ー??いきなり結論から行くおつもりですかッ?」


「その方がいいだろう?ここは寒いし、お前達には時間がない」

「確かにそうですね。私と直人さんは追われる身ですし、真子さんに足止めをお願いした以上グダグダしているわけにもいきません」


 饕餮さんの言葉に直人さんを仰ぎ見ると、頷きが返ってきた。ガタガタ震えるウズメさんに「早く着替えろ」と声をかけていた彼はほのかに笑みを浮かべ、私の手を握る。冷たい空気の中でもその手のひらはあたたかいままだ。


 

「清音の言うとおり、急いで儀式を行いたい。ここに中国の天地開闢の神『盤古(バンコ)』を呼び出して形代にするんだ。そんで、最終的に今回の黒幕を召喚する」

「は?盤古を?形代に?????あぁ、まぁあれですね。偶像を依代にってことですね?」


「はい。日本の天地開闢神は中国ほど明確に存在意義が定義されておらず、意識の揺らぎによって存在をつかめません。ですので、盤古さんを利用します」

「えぇ……?そんな、あの、いくら色々アレなことをしたからって良いんですか?盤古さんを生贄に召喚儀式をするってコトですよね?大丈夫なんですか?」



 

 ウズメさんがメガネを外しながら髪を解き、お洋服から巫女服姿へと変化する。きちんと巫女舞の千早をその身に纏っているから『なぜ自分がここに呼ばれたのか』を理解してくださっているようだ。


「生贄にはならん。形代というのは形式上そう言ってるだけで、『存在を借りる』ってだけだ。

 今回の召喚は形のないモノ、知らないモノをここに物理として顕現しなきゃならないからな」

「その為に同定義で『形はないけれど、総人口の多い中国の人々が知る、天地開闢神』をお借りするんです。ご本人には無許可ですが、イマジネーションの問題ですから。名義は借りても口座のお金は減りません」




 少昊さんは『ほぅ?』と呟き、饕餮さんはニヤリと嗤う。そうですね、少しずるいやり方です。

何者をも害せず、彼の国で頭の中にイメージできる人の数が多い〝概念〟を形代としてあるモノを呼び出すんですから。

 術を使うならば通常は等価交換、形代の血肉を捧げなければならない。それを誤魔化すんです。


「して、私の舞をご所望ですか?」

 

「あぁ、ウズメには舞を、少昊と饕餮には自国の民との思念疎通を頼みたい。神社の中にはニニギノミコト、オオヤマツミノカミ、月読もスタンバってるぜ」

 

「審神者は誰が?」

「俺と清音、2人でイケるだろ」

 

「まぁ、そうですね。依代契約をされているのですから。うん?……あぁ、ご夫婦になられましたか、おめでとうございます。あとでご祝儀を差し上げないと」

「まるで九歌の楚辞を倣っているようだな、お前たちは。我ら祖国の歌通りとは、なかなかのいい趣味だ」


「ふふ、九歌のとおり、一度別れた恋人はやがて結ばれてハッピーエンドってわけですねぇ?確かに饕餮が言うとおり、良い趣味ですよ」


「…………は?は??え??お二人って、もうくっついたんですか?急な展開に戸惑いを隠せないんですけど?」


 ウズメさんは目を見開き、私の手を取る。じっと澄んだ瞳で見つめられて、私はなんだか恥ずかしくなってしまった。

そういうの、神様ってわかるんですか??




「あー、あららー……マジですね。え、そんな暇あったんですか?白石は早打ち?」

 

「ウズメ、お前の口から穢れを生むのはやめろ。時間を作ったに決まってんだろ!

 先に言っておくが、芦屋の願いを叶えるだけが目的じゃねぇからな。俺たち2人ともちゃーんと両思いだし、こっから先はずーっと一緒にいるって約束してんだから」 

「えへ……そ、そんな感じです」


 

「へええええぇ、あの白石がねぇ……おぼこいと思ってた清音ちゃんまでなんかツヤピカですね?

 恋する女は綺麗になると言いますけど、心身が満たされるとこうなるんです?どうなんです?そこkwsk」

 

「ウズメ、やめろ。清音をイジるな」

「チッ……クソバカップルが増えやがった」

「口が悪いぞ。ん?……あぁ、準備できたみたいだな」




 奥宮の鳥居の下で、月読さんが手を振っている。私たちは風の中歩を踏み出した。

 日本で一番高い山、天に一番近い場所。大地と空の交わるここで……私たちは黒幕とようやく出会えるのだ。



 ━━━━━━



――九歌とは、人と神との交わりの祭祀が根元。生きる立場も次元も違う、二つの魂が出会い、別れ、そして再会して結ばれた恋の歌だ。

 

 神降しをした巫女の一生を、始まりの祭祀の揺らぎを洗練して……消えゆく命の切なさを。揺蕩う想いの曖昧な存在を、さまざまな世の理とともに言葉として記した。

 楚辞の名の通り『楚』の時代に作られた、日本ではまだ縄文時代だった頃の物語。


 陰陽の在り方、命が消えゆくさだめ、大自然を司る神々を通して天地の間にある私たち人間と神との愛を描いている。


  


 精神世界……物理的では無い次元世界に存在する神は、人の肉体と交わる事でこの世に物理として顕現できる。

 それは、裏公務員という名を冠した人たちが初めてやった『神降しの儀』そのものだ。

 

 神が降りた依代は、歳月がすぎれば人としての寿命を迎え死に至る。死の前に『神送り』を行い、別れを告げて神はまた精神世界へ戻る。

 

 人は、一度(ひとたび)寄り添った神と再び会うことが出来るのか。いつ会えるのかすらわからないまま〝相棒〟であった神とお別れをするしかない。


 

『老いは年月と共に追ってくるのに、あなたは遠ざかってゆく』

『神麻の玉なす花を折り、離れたあの人へ送ろうか』


 

 と、切なくその人を想った神の言の葉はやがて2人の再会へと導く。無限に続く自らの熱とともに、人の輪廻を見つめながら神は短い命を持つ人間の生まれ変わりを待つのだ。


 


 精神世界、物理世界という隔たりを超えて心も体を繋ぐその儀式は『愛』という命題で全てを和合している。

 愛が二つの命の中で共鳴し、世界の理を超えて……異なる命は一つになる。

たとえ、命の結末が決まっていて。別れの運命が定められていたとしても――



 

 それが九歌の謳う物語り。人と神との繋がりを乱暴に『愛』という一つの感情で結びつけたが……私はそれも真実だと思う。

 愛にはさまざまな形があり、真幸さんと颯人さんを結びつけたものも、私と直人さんを結びつけたものも、仲間たちとの絆もその一言で全てが片付いてしまう。





「清音ちゃん」 

「……はい」


 月読さんに名を呼ばれて、私は瞼を開く。隣には久しぶりに浄衣を身に纏った直人さんがいる。月読さんは真剣な様子で自分の胸元に両手を重ね、そこから桃色の光が生み出された。

 ううん、桃色というよりも淡い色……これは桜色?



 スルスルと衣擦れの音と共に引き出されていく衣は、立体的な桜の花びらを生地に纏い……風をはらんでふわりと全容を表す。

 明かりのない夜の山中でも、月光を弾いてキラキラと輝いている。

 


「これは、僕のものだ。僕が真幸くんにもらった、大切な大切な忘形見だよ」

「……はい」


「出雲で神々が手を取り合い現世を護っていこうと誓ったあの日、僕の想う人はこれを纏って舞を舞った。

 あの時、確かに彼女はこの世の全てと繋がっていた。この衣を纏うことできっとその時の記憶を辿れるだろう」


 月読さんから直人さんが衣を受け取り、私の肩にかけてくれる。

巫女服が透けて見えるほど薄い生地は何故か暖かく……とてもとても、懐かしい梔子の香りがした。




 あの時の真幸さんは、幸せな気持ちでいっぱいだっただろう。大役を仰せつかる事には微妙な気持ちがあったとして……神々と手を取り合う事ができて、希望に満ちて未来を見つめていただろう。


 ――それが今や、こんな世界になってしまっている。当時の彼女の喜びや切なる願いが私の胸に熱を生み、眦に滴を浮かばせる。

 ……うん、この情熱は私も持たなければならないものだ。けれど、やはり私には持つことのできない尊い意志だ。

 

 颯人様を想うことが、全てを愛することだった『女神』には遠くにつかわしくない。だから……あなたの衣を、残された心の欠片をお借りします。

 

 女神の記憶、想い、匂いを纏わなければ人間の醜い欲望まみれの私はきっと……何にもつながれないから。



 

「んじゃ、始めるぞ。なんて言えばいいかわからんが、これは神降ろしじゃねぇ。喚び出す対象が神じゃねぇからな」

 

「結局何を呼び出すのか聞いてませんけどー」

「そう言えばそうか。じゃあ答え合わせと行こう」


  

 直人さんの目線をもらって、私達は忌竹に囲まれた桟敷(さじき)へを足を踏み入れる。肌に触れる少し冷たい感じの神気は月読さんのものだ。裾の長い着物を摘み、そうっと足を上げた。

 

 あのぉ…………真幸さんがおっちょこちょいとか嘘では?こんな長いひらひらの裾を踏まずに舞を舞ったんですよね???私、絶対無理なんですけど。


「清音ちゃん、それ汚したらキレるからね。本当は誰にも触らせたく無いんだ、僕は」

 

「……は、ハイ」

 

「動かなきゃいい、じっとしてろ。今回俺たちが舞う必要は無い」

「…………………………ハイ」



 

 今回『は』舞わない。という正しい発音で届いたのは私だけでしょうね。直人さんは私自身の聴力を正しく把握したようだ。ふんふん、と鼻息の荒い月読さんはウズメさんを舞殿へと連れて行く。

 

 奥宮にはそんなもの、無いんですけど。急ごしらえで作ったから木の枠で囲まれただけの床間がそこにある。




ウズメさんの先導で富士山山頂から東の空に向かい、頭を下げる。

 柏手を2回打ち、漆黒の夜空を見上げもう一度それを拝した。



「――俺たちが喚ぶのは、この星の意志。芦屋が護ってきた全ての命の源だ」

 

 


 

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