第二話 シンヨコハマにて
「………という訳で我々は今、シンヨコハマにいるという訳ですか。ライオニック隊長」
両腕がu字磁石のイノシシ型の擬似生命体が俺にに嫌そうに話しかけてきた。全く訳がわからん、戦闘は何よりも面白い娯楽だというのに。
「そうだとも、マグネボア。オレ達はこの地区にいるマフィアを潰せばいいのだ。これ程楽な任務はない。」
「そう言っていつもアナタは戦闘以外では失敗続きじゃないですか!この前のフェニエクスさんの隊との合同任務で余計に破壊したでしょ、そういう細かいミスの常習犯が言う"大丈夫"は駄目ってのは当たり前ですよね!?」
「これだからマジメ君は困る!いちいち口答えするのを利口だと勘違いしてやがる!時には上司の言う事を素直に聞けってモンだぜ!」
オレも冷静にあしらうか、それこそ素直に指摘を聞けば良いという事は分かってる筈なのについ熱くなって言い返してしまった…。我ながら情けない。
「いがみ合っても意味ないぞ、そんな事よりとっとと駅を出ようぜ。なぁ、ラビットマホーク。」
「ああ、そうだ。マンテリーパーの兄貴の言う通りだ、そろそろ活動開始しようじゃねえか。」
小学校低学年位の身長のチビのウサギ型の擬似生命体とヒョロガリノッポのカマキリ型の擬似生命体がオレ達を諫めた。
「先程は言い過ぎました、すみません。」
「こちらこそすまん。」
マグネボア含めオレは部下に恵まれているのを改めて理解した。
誰かからの視線を感じる。見た目が他と違ってユニークだからそう感じるのは当たり前か、そんな事は気にせず現在地から最も近い出口である横浜アリーナ方面の出口へと向かった。
「おっと、お前達はここから出られると困るんだよ。おとなしくしたら悪い様にはしねえから。」
くたびれた青色のスーツを着ている謎の若い男が現れる。見た目から推測するにポリス関係であろうか、過去の栄光は剥がれ落ちて今となっては正義連合に仕事を奪われた哀れな職種の内の一つだ。
「これはこれはカナガワポリスのサワキタ警部ではないですか。」
マグネボアが彼に言う。言われてみればここに来る前に結城博士から渡された殺してはいけない人リストの中にこいつの名前と顔が入っていた。
「俺の情報を知っているのか、さすがは擬似生命体、噂通り気味の悪い奴らだ。まあいい、お前らをここで足止めしろ、と上から命令されてんだよ。」
「1対4の状況でそんな大口叩けるなんてすごいね。」
そう言ってラビットマホークが臨戦体制と言わんばかりに斧を錬成した。それでこそオレの部下だ、だがこのタイミングでは駄目だ。周囲には愚民共が沢山いる。若い見た目の奴らに至ってはカメラをこちらに向けている。
(オレ達は怪人であって決してツチノコやネッシーでは無い!)
そう心の中で叫ばずにはいられなかった。
「あの方の関係者だから殺すな、とっとと行くぞ。」
オレ達は強行突破をしようとしたが、出口には他の警察官も大勢待機しており、軽い包囲網が出来ていた。正義の矛先が何故汚職まみれのヒーロー共ではなく、我々の方に向くのかが理解できない。
「俺だけでお前達を倒す訳無いだろうが、馬鹿が。」
沢北はニヤリと言う。だが所詮はポリ公、ダーティなやり方を知らない様だ。
「マグネボア、奴らの武器壊しちまえ!」
「了解、マグネットインパクト!」
マグネボアは両腕から凄まじい磁力波を発した。この技は奴の十八番、魔術や超能力の類を使わぬ限り防ぐ術は存在しない。
奴らが持っていた警棒や拳銃は全てひしゃげた。おまけにトランシーバー等の電子類は電波障害を起こし、使い物にならないガラクタへと成り下がった。
それでも抵抗してきたが哀しきかな、ただでさえ開いている実力の差がより開いただけだ。赤子の喧嘩に乗る大人がいるだろうか、奴らが繰り出すカラテやジュウドウの技は、我が同志のグラップホパーのジャブと比べて痛みどころか痒さすら感じない。
「マンテリーパー・マグネボア・ラビットマホーク。相手してやれ。」
「ギヒヒ、了解したぜ。」「分かりました。」「言われなくても分かってるよ。」
三者三様の返事だが、どうやら考えている事は同じらしい。
マンテリーパーは敵達の腕を両腕の自慢の鎌を使って峰打ちをし、マグネボアはただの頭突き、ラビットマホークに関しては斧をしまい、大声を出した。徹底的に制圧する事だけに特化した物である為か、全員一命をとりとめている程度の傷に抑えた。全員殺してしまっても別に構わないが、そうしてしまっては先程ダレかさんが言ってた無駄な破壊にあたる…と考えている。目的地に到達出来ない可能性が跳ね上がるのだけは嫌だ、楽な任務で失敗したとなったら、後で他の十闘士から恥晒しだとか言われて、フェニエクスさんとバットサイルからネチネチとしたいやらしい説教を長時間くらっちまう!それだけは避けたい!……のでこうした。
オレ達は今度こそ強行突破し、弱すぎる包囲網を破壊した。こんなレベルにまで落ちぶれてしまったとは…公僕にはかつての力が無くなってしまったのか。
「言ったろ… お前らの事は逃がさないって。」
一人起き上がり、オレ達に対して獣に近い視線を送ってきた。それは他の誰でもない、沢北警部だった。奴の瞳にはオレが求めるどこまでも熱く眩い"正義"の炎が宿っていた。だが息も絶え絶え、五体満足とは言え動く度に骨が軋むだろうから抵抗する力は残っていない筈だ。
「何あれ…」「ヤバくね!?」「ヒーローは来ねえのかよ!」「あれが怪人って奴かよ」「恐ろしい見た目だな」そう口々に戯言を吐き散らかしている。沢北含めたオレ達に挑んだ者達に対して他人事に近いトーンで皆んな喋っており、どこまでも自己保身しか頭になさそうだ。誰も近寄るどころか励ましや応援の言葉が聞こえないのが良い証拠だ。
「こんなのに時間くっちまったな、そろそろズラかるぞ。」
「待ちやがれ!」
サワキタの声を無視してオレらは出口を出た。




