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第27話: 魔物襲来!小さな戦い

朝は、驚くほど静かだった。

村の中央にある広場には、干し草を束ねる匂いと、焼きたての薄いパンの香りが漂っている。石を敷き詰めた円形の地面は朝露でうっすらと濡れ、陽が昇るにつれてきらきらと光った。井戸のそばでは子どもたちが水を汲み、畑では大人たちが冬支度の縄を結び直している。切り株は今日も物見台代わり、誰かがそこにのぼって村の外れの山道を眺めるのが習わしだ。

俺、セレンは、その切り株の影に腰を下ろし、息を整えていた。昨夜、何度も循環を繰り返して眠りについたせいだろう。胸の底に溜めた魔力、はただ、ぬるい水みたいに身体をめぐる。


「セレン、さっきの結び方、もう一回」


「わかった、ここはこうだよ。強く締めすぎると冬の間に縄が切れる。……力は入れすぎないほうがいいんだ」


そうやって平和な空気に紛れていると、突如として鳥が一斉に飛び立った。山のほうから、荒い足音。いや、雪を踏み荒らすような、重く湿った音が近づいてくる。次いで、荒い息を吐きながら走り込んできた男の声。


「村長! 村長ハルドはいるか!」


猟師のラッドだ。肩で息をし、毛皮の外套の裾は泥で汚れている。村人が道をあけ、ラッドは杖をついた村長ハルドのもとへ駆け寄った。


「どうした、ラッド。顔が真っ青だぞ」


「山裾で見た。あの谷のくぼみの先、魔物だ。

三、、いや、四はいる。鼻が利くやつだ、煙の匂いに寄ってきたんだろう」


広場の空気が冷えた。

ハルドは一拍だけ目を伏せ、すぐに顔を上げる。張り詰めた声が広場を貫いた。


「全員、家に引き上げろ! 戸を閉め、火を落とせ! 子どもは大人のそばから離れるな! 

ゲイル、土の衝立を用意しろ。男手は入口に集まれ。鐘を三度、急だ」


鐘が鳴った。カン、カン、カン―。

ざわめきが奔流になって、村全体が一気に動き出す。母親たちが幼子を抱きかかえ、男たちは槍や鍬を手に駆ける。ものの数息で、いつもの広場は防衛の準備に切り替わった。

平和な村は一瞬で戦の村へ変わる。


「おい、子どもは家へ!」


「アルト、お前も、、」


誰かの声がアルトの名を呼ぶ。木剣を背負ったアルトは歯を食いしばり、悔しそうに拳を握った。俺のほうを見る、その瞳に焦りが混じる。


大人たちが慌ただしく動き出すなか、セレンは一つの事実に気づいていた。


(……ノーラがいない)


彼女はよく一人で山の斜面に入り込み、魔力の制御訓練を繰り返していた。

「病弱で静養している」と大人には思われているが、実際には“暴走を抑える練習”だ。

セレンだけは知っていた。


(……このままじゃ、避難に間に合わない!)


隣で木剣を握るアルトが気づいたように目を合わせる。


「……ノーラだろ? 探しに行くんだな」


「危険なのは分かってる。でも、このままじゃノーラがひとりで取り残される。放っておくことなんてできない。」


「なら俺も行く。仲間を置いて逃げられるかよ」


胸の動悸が止まらない。鐘の三度目の余韻が、胸の奥の魔孔をくすぐる。


「村長!」


俺は駆け寄った。


「村長! ノーラがいません。居場所は僕が知っています。山に入ってます。今行かなきゃ間に合いません。どうか、行かせてください」


「待て、外は危険だ」


ハルドが眉を寄せる。


「ラッドの話では山裾まで来ている。今近づくのは危険だ」


「俺も行く!」


アルトが割り込んだ。

木剣の柄を握りしめ、強い瞳で村長を見据える。


「ノーラは雷が不安定だ。ひとりで暴発したら、匂いと光で魔物を引き寄せる。今行かないと」


拳を握り、木剣の柄を叩く。

その瞬間、村長ハルドが低く制した。


「待て。……木剣では心許ない。万一に備えろ」


彼は腰の脇に置いていた包みを解き、中から鈍く光る鉄の剣を取り出した。


「本来なら子供に渡すものではない。だが今は非常時だ。持っていけ」


重みのある柄が俺の掌に収まる。冷たさと鋼の質感が、木剣とはまるで違った。


「いいか、無理はするな。ノーラを見つけたら合図を上げず、そのまま最短で戻れ。道は川沿いに。ゲイル、土の衝立を南に厚く、北は俺が塞ぐ」


「任せろ!」


父ゲイルの低い声が響く。


アルトが俺の肩を軽く叩いた。


「走るぞ、セレン」


「うん」


俺たちは走った。村の外周を回り、薮を抜け、獣道を駆け上がる。冬枯れの枝が頬を掠め、冷たい空気が肺を刺す。脈拍が早まるほどに、胸の奥の“流れ”も速くなる。


(落ち着け。呼吸だ。吸って、吐く。流れを荒立てるな。滑らかに)


谷の音が近づく。水のせせらぎの向こう、岩場の上に金色の髪。


「ノーラ!」


振り返ったノーラの瞳に、薄い焦燥と、そしてわずかな安堵が過った。

指先に淡い火花が散っている。

彼女は一瞬だけ視線を落とし、すぐに顎を上げて強がるように言った。


「……何よ、こんなところにアルトまで。修行の邪魔をするなんて、勇気があるじゃない」


「魔物が来てる。村は避難中だ。すぐ戻るぞ」


アルトが短く告げる。


「魔物?」


ノーラのまつ毛が震え、火花が強く弾けた。自分でも気づいているのだ。焦りが雷を粗くすることを。


(小さく息を詰めて)「……本当に魔物が来てるの?」


俺は一歩、彼女の正面に立つ。


「ノーラ、今は無理に抑えなくていい。胸の奥で小さく回すだけでいいんだ。……大丈夫、戻ったら続きができる」


「胸の奥で小さく回すだけ……? ふふ、言うのは簡単ね。」


彼女は唇を結び、ゆっくり息を吐いた。


「……わかったわ。だけど、子ども扱いはやめて。私だって役に立ちたいの。戦えるんだから」


「戦うためじゃない。村に帰るために力を使おう。戦いは最後の手段にしておけばいい」


三人は列をなして走り出す。先頭はアルト。続いて俺、最後尾にノーラ。雷の匂いを山風に紛らせるため、できるだけ彼女の周囲の空気を乱さないように走る。川沿いの獣道は狭く、滑る苔を避けて慎重に足を置いた。


村の煙が見えた、まさにその時だった。

風向きがふっと変わり、鼻を刺す臭いが流れ込む。獣の唾液と、腐った皮の臭い。低い唸り声が木々の間を這った。

異様な気配が漂う。


「……来るぞ」


アルトが前に立つ。


「村に戻る道は俺が守る。二人は俺の後ろに」


茂みが裂け、黒い影が弾け出る。


「下がれ!」


アルトが叫び、反射的に身を翻す。

現れたのは、背中に骨質の棘を生やし、口腔の奥が紫に濡れ、舌は腐臭を放っている。

犬のようであり狼のようでもある。体高は子供の腰ほどだが、筋肉は岩のように盛り上がり、赤い瞳が光を宿す。


「ギ、ギィィ」低い唸りが空気を震わせた。


(……小型に見えても、違う。空気が重い!)


セレンは肌で理解した。これは“人間が相手にできる存在”ではない。


同時に、奥の藪で別の影が身をかがめた。二匹目。最悪だ。


右に、左に、アルトの目が素早く状況を読む。


「ここで散開したら狙い撃ちされる。三人まとまって下がるぞ!」


「私、撃てる……はず。狙いを外さなければ、きっと……」


ノーラが一歩出かけ、俺が腕を取って止める。


「まだだ、ノーラ。引きつけてから……アルトの間合いで」


二匹は弧を描くように広がり、挟み込もうと動く。獣道は狭い。一瞬の判断が命を決める。


一匹が石を蹴って跳んだ。狙いは雷を纏うノーラではない。鉄の剣を背負う、前に出て囮になったアルトだ。

棘の背が閃き、牙が開く。

アルトの目が、わずかに見開かれた。


魔物はアルトに向けて飛び込んできた。

その脚が地を踏んだ瞬間、地面がずしんと鳴った。

アルトが鉄の剣を構えて受けるが、衝撃は全身を砕くほどで、膝が沈む。


「ちっ……小さいくせに重ぇ!」


アルトの顔が苦痛には歪む。

アルトは受け切れず、全身が後ろに弾き飛ばされた。


剣と爪がぶつかっただけで、骨に軋みが走る。


「ぐっ、、っ! 腕が!」


受けただけで腕が痺れ、骨が軋む。七歳の骨格には過酷すぎる衝撃。

牙はまるで鉄を噛み砕くように剣を食い破りそうになり、

肩口にかすめただけで、服が裂け血がにじむ。


「下がって!」


ノーラが稲妻を放つが、

だが、焦りで魔力が揺れ、稲妻は軌道を外れ岩を砕いただけ。魔物は煙を裂いて突進してくる。

小型の体に信じられない重み。

爪が地を叩くたびに土がめり込み、衝撃で足が竦む。

アルトは必死に剣を振るう。だが体格も力も違いすぎる。受ければ押し潰され、かわしても次の爪が迫る。


「アルト、下がれ! ノーラ、撃ってくれ!」


「待って、今は、、制御が、、!」


「制御はいらない全魔力をぶつけてくれ!このままだとアルトがやられる」


次の瞬間、ノーラの指先で光が暴れ狂った。


「――っ!」


轟音と共に稲妻が暴発。空を裂き、森を薙ぎ払い、目の前の魔物を直撃する。

悲鳴が上がり、黒煙と共に魔物の体が弾け飛んだ。

倒した。だが代償は大きい。

ノーラはその場に崩れ落ち、肩で息をしながら顔を歪める。


「……もう、空っぽ。ゼロ。何も残ってないの……」


セレンは必死に息を整えつつ、体の奥に違和感を覚えた。


その時―


世界が、内側から“鳴った”。

鐘の音のような、でももっと体の奥に沁みる音が二度、響く。

「キーン!」

鐘のような、風鈴のような、不思議な音色。

俺とアルトの体が淡い光に包まれた。

筋肉が蘇り、視界が広がる。


「……レベルが上がった?」


アルトが驚きの声を漏らす。


(……増えている。循環を繰り返しても膨らまなかった魔力が、今は……確かに満ちている)


アルトも同じだ。木剣を握り直し、驚いたように言う。

「腕が……軽い。力が、湧いてくる。視界も広い。セレン、お前……」


「うん。多分、魔物を倒したことで……俺たち、レベルが上がったんだ」


言いながら、信じられないほど自然に言葉が出た。

いつもは空虚に終わる循環が、今は違う。

胸の奥の水瓶が明らかに深くなり、魔脈の“道”が太くなった。

そしてほんの少しだけ、出力できる。確信がある。


(……これが、レベルアップか)


だが安堵する暇はなかった。


低い唸り。雷爆の煙、森の影から、もう一匹が現れた。

赤い瞳が爛々と光り、仲間の死骸を一瞥する。

同じ犬狼型。だが動きはさらに速い。踏み込むたびに地面がずしんと鳴る。


アルトが木剣を握り直す。


「まだ、、いたのか、、!」


アルトの声が震える。

ノーラは立ち上がろうとしたが、膝が砕けて動けない。震える声を出す。


「……もう撃てない。力が残っていない。本当に、ゼロなの」


「立てる限り、俺が前に出る」


魔物が飛びかかる。アルトは掠らせて逃げるが、肩が再び裂けた。

1匹目の魔物をなんとか倒したが誰にももう体力は残っていなかった。

魔物は体を翻し、一直線にアルトへ跳んだ。

……間に合わない。


「くそっ、受けきれない!」


セレンは咄嗟に叫んでいた。

胸の底の流れが、いっきに喉へと押し上がる。


「アルト――――逃げろぉ!!」


その瞬間、喉の奥が焼け付くように熱を帯びた。

喉の末端魔孔が、大きく開いたのだ。

そこから迸る魔力は、声に乗り、空気を震わせて波紋となる。

叫びが空気を殴った。

声は“音”ではなく、魔力の波紋になって弾けた。

喉の末端魔孔が開き、俺の中の流れが外界へ滲み出す。

喉から溢れ出た魔力の出力が空気を揺らす。

透明な輪が山道の空気を走り、アルトとノーラの肌に、骨に、そして“魔孔”に触れ、重さを削り、乱れを整えた。

アルトの両腕から、余計な力みがすっと抜ける。

握った鉄の剣が、音もなく軽くなる。

ノーラの指先で跳ねていた火花が、波紋の縁に沿って丸く収束し、鋭い芯を得た。

俺には見える、アルトの胸元にある剣を握る魔孔、ノーラの腕先にある雷の魔孔。

声が波紋となって触れた刹那、二人の魔孔が俺の魔力に“共鳴”した。

アルトは驚いたように剣を構え直す。


「……軽い!? 剣が……まるで羽みたいに振れる!」


「行ける」


アルトの足が前に出る。

刹那、彼は踏み込みと同時に体をひねり、跳びかかる魔物の顎を狙って横薙ぎに鉄の剣を叩き込んだ。

乾いた音が突き抜け、魔物の頭がわずかに右へ流れる。


「魔力ゼロのはずなのに、、流れる、、雷が、走る!」


同時にノーラが指先から火花を弾く。


「撃ち抜け!」


放たれた稲妻は、今までのように暴れず、真っ直ぐだった。

雷の筋が枝の間を滑り、二匹目の前脚を撃ち抜く。

紫電が穿ち、臭気が一瞬で焦げ臭へと変わる。

巨体がもんどり打って転がり、土煙が上がった。

アルトは鉄の剣を振り抜き、ノーラは最後の火花を重ねた。

魔物は呻き、血を撒き散らしながら大地を裂いて後退する。

それでも倒れはしない。

一瞬、仲間の死骸を振り返り、低く唸ってから森の奥へと消えていった。


俺は喉を押さえ、息を切らしながら呟いた。


「……俺の魔力が、仲間に届いた。小さいけど確かに届いた」


俺は喉に手を当てた。掠れた痛みの奥で、何かが静かに回っている。

胸の奥から喉へ、喉から世界へ。

まるで、風音が血潮になったみたいに。



静寂。風が木々を揺らす音だけが残る。

アルトは剣を杖にして肩で息をつき、ノーラは地面に座り込んだまま震えていた。


「セレン、怪我は」


「俺は大丈夫。アルト、その腕は? ノーラ、指先は痺れてない?」


「平気だ。……剣が、妙に軽く感じた」


ノーラは胸元を押さえ、静かに息を整えた。


「私も。……さっきの、何? あなたの声、ただの叫びじゃなかった……光の支援魔法みたいだった!?」


三人は互いの顔を見合わせ、無言で頷く。

生き残れた、それが何よりの証だった。


藪の奥、遠くで大人たちの鬨の声がする。土の衝立が揺れ、槍が打ち鳴らされる響き。村はここでも、村長と父さんたちが守っている。

俺たちは俺たちの場所を守った、小さな場所。けれど、確かな場所だ。


「……俺たちで魔物から守れた!」


「戻ろう」


アルトが頷く。


「村へ。村長が待ってる」


「ふぅ……余裕だったって言っときなさいよ。……本当は、足が震えて止まらなかったけど」


ノーラが横に並ぶ。


俺たちは川沿いの道を急いだ。風は次第に穏やかになり、遠くの鬨の声は弱まっていく。村の外周が見えるころ、土の衝立の向こうにゲイルの背と、杖を頼りに立つ村長ハルドの姿が見えた。焦げの匂いと土の匂い、人の息の匂い、生きている匂いが混じる。


「戻ったぞ!」


とアルトが声を張る。

ハルドは目を細め、険しい顔でこちらを見た。


「報告を聞こう」


セレンは言葉を選びながら事の顛末を伝える。最初の一匹は倒したこと、二匹目は追い込んだが完全に仕留めきれず、最後に逃げ去ったこと。息を切らしながらも、事実を淡々と告げると、ハルドは重く頷いた。


「そうか。二匹目は逃げたか……ならば村としては警戒を継続せねばならん。だが、お前たちはよくやった」


ゲイルが土壁越しに親指を立てて笑う。


「さすが、うちのガキどもだ!」


その声をきっかけに、周囲がざわついた。


「魔物を……本当に倒したのか?」

「子どもだけで……信じられん」

「すごい……化け物を」


驚きと畏れが入り混じった声が広がっていく。目を輝かせる者もいれば、肩を抱き寄せて不安そうにする母親もいる。賛辞と同時に、息を呑む気配が広場を覆った。

その空気を、ハルドが一歩前に出て切り裂いた。


「皆の者、聞け」


低く太い声が、石畳に叩きつけられる。村人たちの視線が一斉に集まる。


「今回の件はただの偶然だ。ノーラの暴発がなければ退けられなかった。次に同じ場面になれば、間違いなく死ぬ。忘れるな」


一瞬で広場の空気が凍りついた。浮き立っていた子どもたちの顔から笑みが消え、大人たちの背筋が伸びる。


「間違っても“また倒せる”と思って魔物に近づくな。やるべきことはただ一つ――逃げることだ。いいな!」


その言葉に、村人たちは息を呑み、重く頷いた。さっきまでの賛辞は消え、残ったのは現実の重さと、なお続く脅威への恐怖だった。

ハルドは周囲を見回し、集まった男たちに短く命じた。


「見張りは続ける。暫定的に哨戒を強化しろ。だが、あの子ら(アルト、ノーラ、セレン)はここまでだ。今は一旦休ませろ。命令だ」


張りつめていたものがふっとほどける。三人は言葉を失い、足に力が抜けるのを感じた。アルトは受け取った木剣を肩に担いだまま、ノーラは指先の震えを抑え、俺は喉に残る熱を払った。静けさが体の隅々へ染み渡る。まるで弦を弾く前の空気が息を止めるような、嵐の前の静けさだ。


誰かが笑い、誰かが短くため息をつき、母親たちが火を手早く起こし始める。暮らしが戦いの後に戻ってくる。村長の厳しさの裏にある安心感が、三人を包んだ。


「帰ろう」


アルトが言う。


「報告は済んだ。今は休め」


「ノーラは俺が背負う」


俺が言うと、ノーラは素直に腕を回した。


「……仕方ないから背負われてあげる。でも、落としたら絶対に許さないんだから」


「落としたりしないよ。絶対」


と答え、俺はノーラを背負って歩き出す。小さな背中は軽く見えて、けれどその重みは確かな意味を持っていた。守ること、繋がること、そして居場所を得たことの重みだ。


村の広場では焚き火の灯がともり、そこに座る人たちの話し声がいつもの生活音へと戻っていく。救護や応急手当を受ける者、道具を点検する者、見張りの隊が編成される様子。村は引き続き警戒を緩めない。だが、その輪の中心で、三人の強張った筋肉はついに崩れ落ちる。


夕陽の斜めの影の中、アルトは木剣を地に立てて身を委ね、ノーラは肩をすくめて目を閉じ、俺は深く息を吐く。緊張の糸がどこかで切れると、まるで人形の糸が切れたかのように、その場に身体を預けたまま、三人とも気を失うように眠りに落ちた。


焚き火のパチパチという音だけが、彼らの静かな寝息と混ざり合う。暫くして、見張りの一人がそっと近づき、三人の傍らに毛布を掛けた。村は警戒を続ける。それでも今は、この小さな勝利を抱いて、三人を休ませるべき時だった。

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