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第25話: 雷と剣、少年達の真剣勝負!

村の中央にある広場。

石を敷き詰めた円形の地面は踏み固められており、日が傾くと西の山影が斜めに差し込む。

周囲には干し草を積んだ小屋や、物見台代わりの切り株が並び、子供たちの遊び場にもなっていた。

その真ん中で、数人の子供たちが棒切れを振り回していた。

誰かが木剣を大げさに振り回しながら声を張り上げる。


「なぁ、今日は“模擬戦ごっこ”やろうぜ!」


子供たちはざわついた。

村では時々、村長ハルドの号令で「模擬戦」が行われる。

魔物に備えた訓練で、大人や兄たちが手本を見せる真剣なものだ。

普段は村長の号令で行われる真剣な訓練だが、今日はただの遊び。

けれど子供にとっては真剣そのものだった。


「いいな、それ!」


「アルトが剣でやってくれよ!」


そこへ一人の子が、ちらりとノーラを見る。

けれど口には出しにくい。

最近はセレンとばかり一緒にいて、声をかけづらい。

それに、もし雷が暴走したら…..

だから、わざと軽く言う。


「模擬戦ごっこにしたら……お嬢様も混ざれるんじゃね?」


子供たちがくすっと笑う。


「どうせまた暴走して、ひとりぼっちになるだけだろ」


悪意というより、無邪気な残酷さ。

だが、アルトがすぐに言った。


「じゃあ、俺はノーラと組む!」


「えっ?」


ざわつく子供たち。

意地悪の企みは肩すかしに終わったが、まあ遊びだ。

ノーラの名を出した子は慌ててまとめにかかる。


「じゃあ、セレンは一人で相手な!」


俺は一瞬固まった。


(……いや待て。俺ひとり?)

(しかも相手はアルトとノーラ!?)

(……俺は1人で“かませ”かよ! 完全に当て馬扱いじゃないか!)


アルトは木剣を肩に担ぎ、ニッと笑う。


「誰も誘わないなら、俺が誘う。

それに、本物の雷の魔法がどれほどか、見てみたくなった」


その言葉にノーラが一瞬だけ驚き、すぐに顎を上げた。


「……いいわ。退屈してたところだもの」


子供たちは面白がってさらに盛り上がる。

すると年長の子が一歩前に出て、手を振り上げて言った。


「ルールは三本先取だ! 先に三回勝ったほうが勝ち!」


「三本か!」「長く遊べるな!」

広場の空気が一気に熱を帯びる。


俺は一歩下がり、硬く踏み固められた土を足裏で感じながら構えを取った。


(……勝ち目は薄い。でも、実戦で色々試せる。)



こうして、村の広場で、子供たちの「模擬戦ごっこ」が始まった。


~

一本目


「始めー!」


合図の声が広場に響いた瞬間、砂埃がぱっと舞い上がる。

アルトの踏み込み。硬く踏み固められた広場の地面が、ドンと小さく鳴った。

木剣が一直線に突き出される。速い。

俺は呼吸と同時に、魔力の流れを細く速く切り替え、腰をひねってかわす。

カツッ。袖をかすめただけで通過。

アルトの目がわずかに揺れる。


「今の、避けた?」


同時に横からノーラの雷!

「ビリッ!」

石畳の隙間に火花が散り、土埃と一緒に光が弾ける。

俺は地面に伏せて回避。髪が逆立った。

ノーラは鼻で笑う。


「ふん、反応だけは悪くないじゃない」


次の瞬間、死角からアルトの木剣が伸び俺の肩を叩く。

一本、取られた。

切り株の上に登っていた子供たちが「やったー!」と叫び、周囲の子らもわあっと湧く。

俺は歯を食いしばり、土を払った。

俺は土を払った。


(連携されると体勢が崩されて避けきれない。子供の遊びとはいえ、この2人強い。)


~

二本目


俺は観察に徹する。


(アルトは必ず右足が沈んでから突く。ノーラは指先の魔孔がまだ硬い)


アルトが再び踏み込む。

右足が沈む瞬間、必ず突きが来る。


(読める!)


木剣が閃く瞬間、俺は右腕に魔力を一点集中。

木剣を手首で受け、そのまま流す。衝撃が抜ける。


「うそだろっ、、!」


アルトの剣が横にそれた。

反撃を狙う。

体幹にカウンターを―と思った瞬間。


「そこっ!」


ノーラの横雷。

こんどは肩に直撃。痺れで体が震え、膝が沈む。

木剣が再び俺の体に触れる。

二本目、奪われた。

見物していた子供たちが口々に叫ぶ。


「もうアルトとノーラの勝ちだ!」


「やっぱセレンじゃ無理だろ!」


広場の端で、まだ小さい子供たちまで真似をして木の枝を振り回していた。




~

三本目


「これでリーチだな!」


「セレン、このままじゃすぐ終わっちまうぞ!」


子供たちの笑い混じりの声が飛ぶ。

無邪気なはずなのに、胸に突き刺さる。


(……わかってるよ。俺だって、このままじゃ終わらない。)


胸の奥で、魔力を巡らせる。

ざわめきが逆に心を静めていく。


深く息を吸い、吐き出す。

視線の先、剣を構えるアルトと雷を纏うノーラ。

二人の前に立ち、セレンは静かに構えを取った。


(いいさ。笑われても構わない。

ここで、俺が積み重ねてきたものを見せてやる!)


アルトが踏み込む。

右足が沈む瞬間ら、今度は右から振り下ろしてくる。


「はっ!」


アルトの剣を滑らせ、逆に踏み込む。


「ぐっ……!」


木剣を押さえ込まれ、アルトが初めて防戦に回る。


「セレンが押してる!?」


観客の子供たちが切り株の上で叫んだ。

土を蹴り上げる音が広場に響く。


疲れてきたのは、意外にも2人で攻めている相手側だった。

アルトは額に汗を浮かべ、息が荒い。

ノーラの指先からは余分な火花が散り、髪がぴりぴりと逆立っている。


(やっぱり……燃費が悪い。詠唱に頼るから、制御が粗いんだ)


普通の子は、魔力の通り道がまだ硬い。

数発撃つだけで魔孔が詰まったようにぎこちなくなる。

けれど俺は違う。

0歳から流し続けてきたから、呼吸のように魔力を通せる。

俺は魔力を「強→弱」と切り替えてフェイントを入れる。

アルトの踏み込みがわずかに乱れる。


さらにノーラへ。

雷を放つ前に、俺はアルトが盾になるように細かいステップをくりかえす。


「うっ……!」


ノーラの魔力を集中させないようタイミングをずらしていく。


(今なら、勝てる!)


手数で勝負だ。

剣を振り、突きを繋げ、隙を逃さない。

アルトは必死に受け、土煙を上げながら後退。

ノーラも肩で息をし、額に汗がにじむ。


「……っ、このままじゃ!」

ノーラが焦りを滲ませる。


(効いてる。二人とも疲れてる。燃費じゃ俺が勝ってる!)


俺は強弱を自在に切り替えてフェイント。

右足に強、左足に弱。わずかに間合いがずれる。

アルト「えっ?」


ノーラは詠唱をかけるが、指先の魔孔が詰まりかけて震えている。


(今は撃てない!だが、このままじゃ、また暴発する。そうなれば、ノーラはまた村から孤立してしまう、、!)


俺は深呼吸し、わざと声に出すように魔力を巡らせる。

「……こうやるんだ、ノーラ」


胸の奥で魔力を吸い上げ、体内を循環させて練り上げる。

滑らかに、無駄なく。

その流れを指先へ導き、そこで静かに留める。


ぱち、と青白い光が小さく弾けた。


ノーラの瞳がわずかに見開かれる。


(……えっ、今の)


彼女の詠唱の火花より、はるかに精密で整った流れ。

出力はできなくても、「制御」のお手本にはなったはずだ。

だが。


「セレン、隙ありッ!」


横合いから鋭い踏み込み。

俺は必死に流し受け、避け、紙一重で食らいつく。

だが

アルトの木剣が月のような軌道を描き、俺の横腹を正確に打ち抜いた。


「ぐっ……!」


崩れ落ちる俺。

指先に集めた魔力は、結局ただの光で消えていく。

アルトは大きく息を吐きながらも、勝者として剣を構え直した。


「……お前の“練り”は確かにすごい。けど、実戦じゃ隙だらけだな」


体勢を崩し、土に膝をつく。


(……そうだ。俺はまだ魔法として“出力”できない。

いくら練っても、留めても、撃ち出せなきゃ、戦場じゃ隙でしかない)


ノーラはまだ指先を見つめていた。

悔しさの中に、ほんの少し、驚きと、学びを得た色を宿しながら。


(……ノーラの方は見てくれてたな。なら、無駄じゃなかった)


俺は痛む脇腹を押さえつつ、胸の奥で小さく笑った。


~

終幕


「勝者、アルトそしてノーラ様!」


広場の切り株に乗った子供が高らかに宣言すると、拍手と歓声が一斉に上がった。

土の匂いと汗の匂いが混じり、夕暮れの空気がざわめきで震える。


(負けた。でも、確かに見えた)

(俺だけが“まだ動ける”理由。魔力の効率。制御の精密さ)


ノーラが見下ろし、瞳を揺らす。

「……あなた、やっぱり普通じゃない」

「(しかも、この子、おそらくまだ使えないのだろうけれど、、

自分の属性魔法をいっさい使っていない。)」


言葉は素直じゃないが、その声色には僅かな敬意が混じっていた。


アルトは笑って木剣を差し出す。

「正直、危なかった。セレン、お前、あの手数、いつ覚えたんだよ」


俺は苦笑し、土を払った。


(まだ勝てない。でも、俺の積み重ねは間違っていない。)


負けはしたが、

0歳から積み重ねてきた「効率」と「制御」の差は、確かに片鱗を見せ始めていた。


模擬戦の余韻を残したまま、広場を後にする。

背後ではまだ子供たちが「アルトの一撃、かっこよかった」「ノーラ様の雷ごっこ!」と騒ぎ、砂埃を立てていた。

夕陽が村の屋根を赤く染め、石垣の影が長く伸びる。


並んで歩く途中、


ノーラが訝しげに眉を上げる。


「……妙よね。どうしてあんた、そんなに息が切れないの?」


「燃費、だと思う」


「は? 意味わかんない」


アルトは苦笑して木剣を肩に担ぐ。


「でも確かに、最後まで動けてたのはセレンだけだったな」

「それに、剣を受け流したやつ……あれ、どうやった?」


「流れを止めて、集めて、通しただけ」


「だけ、ね、、」


アルトの苦笑はより深まった。

ノーラは指先をさすりながら、そして少し顔を赤らめて、視線を逸らした。


「……次は、その“集めて通す”ってやつ、教えてよ」


俺は笑った。


「いいよ」


村の小道に夕暮れの光が落ちる。

石畳の隙間から草がのぞき、風が汗を冷ます。

広場でのざわめきが遠くなり、かわりに夜鳥の声が聞こえてくる。

戦ったもの同士、アルトとノーラは確かに俺を認めてくれた。

それが胸の奥で、じんわりと熱を灯していた。

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