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第9話:魔力の奔流、魔孔という発見

泣いて、飲んで、眠るだけ。

それが赤ん坊の仕事のはずだった。


けれど俺の日常はもう変わっていた。

布団の中で呼吸を合わせ、胸の奥に小さな輪を描く。

母の子守歌に寄り添うように、静かに力を巡らせる。


「俺は、できる」

声にはならないけれど、胸の奥でそう誓った。


1歳の赤ん坊でも魔力を育てられる。

そう信じられるだけで、未来がほんの少し明るく見えた。




だが次に気になったのは、家族との違いだった。


父も母も、当たり前のように火や水を操る。

俺とどれくらい差があるんだ?

それを知らないまま進むのは怖かった。


観察を始めた。


父が鍬を振るう背中。

母が囲炉裏に火を灯す瞬間。


目を凝らし、耳を澄まし、空気の震えに集中する。


けれど、何も見えない。

ただの汗、ただの息遣い。

魔力の秘密は、そこに隠れていなかった。




次は触覚を試した。


母に抱かれる温もり。

父の大きな掌。



「この中に、流れがあるはず」


必死に意識を伸ばした。

だが掴めない。


「……わからない」


涙がにじんでも、諦めなかった。




外の揺らぎにも耳を澄ませた。


火のはぜる音。

井戸の水の匂い。

夜風のざわめき。


すると気づいた。


父の鍬が地面を打つとき。

母が火を灯す直前。



その人の周りの空気に、小さな震えが走っていた。


「……これか」


胸が震えた。

目にも耳にも映らない。

だが確かに、そこに流れる力がある。




さらに観察を重ねるうちに、ひとつ気づいた。


父の肩。

母の胸。

そして、母の指先。


魔力があふれ出す場所は、だいたいみんな共通している。

けれど、そこから滲み出る量や強さは、人によって大きく違っていた。


父の肩は、土を耕すたびに熱を帯びていた。

まるでそこに魔力が溜まり、腕へと送り込まれているかのように。


母の胸元は、子守歌を歌うとき、淡い光が広がっているように感じられた。

胸の奥に、温かな泉があるそんな錯覚すら覚えた。


だが、最もはっきりしていたのは、囲炉裏の前で魔法を使う瞬間だった。

母の指先から、小さな炎がこぼれ落ちる。

胸から湧いた流れが腕を伝い、最後に指先の“穴”から外へ解き放たれる。


「ここだ。外に出るのは、指先!」


胸や肩は、どうやら魔力を巡らせたり貯めたりする場所。

けれど本当に“外界に放つ出口”は末端にある。


そう気づいたとき、俺の胸は高鳴った。

今までぼんやりと「流れ」だけを見ていた。

だが今は違う。流れの起点、中継、出口

その仕組みが少しずつ見えてきたのだ。


胸の奥が跳ねた。

流れの出口。

それこそが魔力の要所だ。




自分の体でも試した。


胸の輪を指先に流す。

すると小さな“穴”の感覚。

押し出そうとした瞬間、びりっと痺れ、輪が乱れ、布団に沈み込んだ。


母に熱を心配されながらも、俺は確信した。

体には“魔力の通り道”があり、そこに要所があるのだ。




血が心臓を通って全身に巡るように。

リンパが節を経由して流れるように。


魔力もまた、体を走る道筋を持ち

要所で流れを変えている。


「魔力の出口、、穴、、」


心の中で言葉を探す。

血の流れに節があるように。

水路に関所があるように。


ならば、「孔」だ。


「魔孔」



口にした瞬間、胸がざわめいた。

俺が名付けた、この世界の発見。

それが『魔孔』だった。



その後も試行錯誤を続けるうちに、違いが見えてきた。


胸や頭の奥にある大きな孔。

そこを意識すると、全身を奔流が駆け抜けた。

暴走すれば気絶するほど強烈

これはまるで心臓や脳のように全体を制御する要だ。


「中枢の魔孔、、」


自分なりに、そう呼んだ。




肩や肘、腰や膝。

曲がる場所を意識すると、流れがよく詰まった。

そこをなだめるように通すと、循環が滑らかになる。


「ここは、流れを切り替える節」


血管や神経が交わる関節のような場所。

俺はそれを「循環の魔孔」と直感した。




そして、指先や掌、足裏。

そこに意識を向けると、流れが外へ抜ける。

母の火も、父の水浄化も必ずそこを通っていた。


「、、出口だ」


魔力を世界に放つ扉。

それが「末端の魔孔」だと理解した。




胸の大孔。

関節の節。

指先の出口。


それらがつながり、魔力を流し、貯め、切り替えていた。


「これが、魔脈と魔孔の仕組みか」


赤ん坊の直感でしかない。

けれど、確かに俺はこの世界の理を掴みかけていた。




もちろん、火も水もまだ生み出せない。

けれど、名もなき仕組みに、俺が初めて言葉を与えた。


「魔孔」


その響きが、俺の胸を熱くする。


1歳の赤ん坊にすぎない俺。

だが、この時誰も知らない秘密を、確かに手にした。





次回予告


小さな掌に、ふと宿った光。

それは偶然か、必然か。


驚愕する母、戸惑う父。

鑑定の儀を待たずして魔を示した幼子に、家族は騒然となる。


そして、その瞬間から始まる。

母リーナの教育ママとしての日々が。


次回、第10話「母の驚き」

揺らめく光は、運命の狼煙。

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