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  作者: Yum-Col
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間違えて連載で投稿しました。短編です。

もう少し投稿頻度を上げた方がいいんですかね……

 ヒトはみな、私たちを遠ざける。

 私たちは何か悪いことをしたのだろうか?否、私たち自身は何もしていないはずだ。

 でもその目はまるで猛獣を前にして怯えるヒトの目で、憎しみにまみれた嫌悪の目で、好意を向けられたことなど今まで一切ない。

 私たちもあなたたちヒトと同じで、目が二つあって、鼻があって、口があって、耳があって、左右に一本ずつ手と足もあって、食事も排泄も運動もするし、姿形だってなんら変わらないというのに。なのに、なんでそんな目を向けられなければならないのだろう。

 いや、わかっている。過去、私たちの先祖が起こした過ちがあったこと。それが原因で、私たちは蔑まれていること。だが、それはそれ、これはこれだ。末代まで嫌悪する理由はあるのだろうか。確かに今もヒトに対して何かする仲間はいるが、それは生きるためだ。その人たちだってやりたくてやっているわけじゃない。

 私はただ、ヒトが好きなだけなのに。




 テレビを見ていると、私たちの仲間が鈍器を用いてヒトを殺し、逮捕されたというニュースが流れた。

 殺されたヒトが可哀想だ。下手に殺されでもしたら痛いだろうに。

 そう思いながら、私はよく調理された肉を食べ終え、出かける支度をした。




「おいお前、この仕事今日中にやっておけよ」

 上司から仕事を渡される。とても高く積まれたその書類を見て、ああ、今日もか、などと呑気に考える。

 私たちは普通会社に勤めることなどない。そもそも働くことができないからだ。それでも、この会社の社長は私の就職を快く承諾してくれた。

 なんでも、私たちの先祖の過ちは先祖たちの罪であり、私たちの罪ではないと思っているからだという。いいヒトだ、死んでしまったらしっかり追悼してあげよう。

 ただ社長以外はあまりそういうヒト柄ではないらしく、みんな私に憎悪や嫌悪、憤怒の目を向けてくる。だから上司からこんなにもたくさんの書類を毎日のように渡されるし、同僚はそんなこと見て見ぬふりをする。

 今日も残業なのか。




 家に帰ってきた。今日の残業も疲れた、そう感じながら冷蔵庫を開き、解凍中の肉を取り出す。

 この肉になった子はどんな子だったのだろうと、ふと疑問に思う。優しかったのか、荒くれ者だったのか、お調子者だったのか、そんなことは屠畜された今じゃわからない。

 だからそんな知らない誰かに向かって「私の一部になってくれてありがとう」って伝えたい。私たちの仲間にはそれをしないのもいるけど、私はしっかりと伝えなきゃと思ってる。

 だって、そうじゃなきゃ屠畜された子たちが報われないじゃないか。




 今日も肉を食べる。ヒトと同じで、生きるために。ヒトにはこの行動を永遠と理解されない。だけど、私たちにはヒトのそれが手に取るように理解できる。それが私たちとヒトとで違う点だろう。

 ヒトは自己中心的なのだ。自分たちに都合のいいように社会が回らないと苦言を呈する。自分たちに都合のいいように動植物を改造する。自分たちに都合のいいように私たちが行動しなければ私たちを殺そうとする。

 私たちは決して、そのようなことをしないと言うのに。




 肉がきれた。調達すればいいと言われそうだが、あいにくと仲間が一人いなくなった直後だ。慎重に行動しなければならない。

 私たちはヒトの食べる動植物を食べたとしても栄養にならない。ならば何を食べるのか、それは昔から何も変わっていない。




 ――ヒトだ。私たちはヒトを食す。ヒトを殺して生きている。非人道的だと言われても何も思わない、私たちはヒトではなく鬼なのだから。

 ヒトと似通った見た目をした鬼、それが私たち。だから仲間はリスクを犯してまでヒトを殺す、私たちはその殺したヒトの肉を食べる。

 ヒトを殺す鬼は担当として決まってるわけじゃない。当番制、とでも言おうか。

 殺されたヒトが可哀想だと思っていたのはなんだったのか?その答えは至極真っ当だ。ヒトも考えてみてほしい。家畜を殺すとき、痛みを感じぬよう電気ショック等で気絶させてから屠畜するだろう。私たちも同じだ、ヒトを拉致し、気絶させ、その間に殺す。ヒトとやっていることは何ら変わらない。だが、今回はその「気絶」の過程がなかった。だから可愛そうだと思った、猛烈な痛みを抱きながら死んでいったのだから。

 結局今も罪を犯し続けている、そう主張するヒトもいるだろう。それも今の話と同じだ。ヒトは生きるために動植物を改造し、殺し、食物を得ている。

 私たちもヒトを殺し、食物を得ている。ヒトと私たち、やっていることは何が違うと言うのだろうか。

 ヒトを殺しているから悪、と言われても、それはヒトの自己中心的な思考によるものだ。ヒト、鬼、動植物、そんな種族による区別をなしにして考えてみれば、ヒトも鬼も、食べるため、生きるために殺し、食物を得ているにすぎない。

 もちろん、ヒトだって生きていたのだ。食べる前には感謝をしている。感謝しなければそのヒトの命の価値は低くなる。いただきます、そう言って感謝して食べれば少しは報われるだろう?私の会社の社長も、死んでしまったらしっかりと感謝して食べるつもりだ。

 ヒトが好きならヒトが死ぬときに心が痛まないのか、と。ああ痛むとも。だからしっかりと食べてやるんだ。私はヒトの肉が好きだから、食べる前にしっかりと追悼している。

 牛肉が好きなヒトだって屠畜前の牛に対して心を痛ませるだろう、それと同じだ。


 カンカンカンカン、と扉が四回叩かれる。どうやら私の番が来たようだ。

 では、ヒトを狩るとしようか。


 すべては、生きるために。


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