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俺はもしかしたら妹が好きかもしれない  作者: 大崎真


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6、家族でふりは必要か否か

十一月下旬になった。

ハロウィンの飾り付けが終わったかと思えば、あっという間に街中まちなかは、どこの店もクリスマスの飾り付けで彩られていた。クリスマスソングが流れ、冷たい空気を掻き消すように街全体は浮き足だって賑やかになっていた。


「成海、そろそろサンタさんにプレゼントのお願いしておいた方がいいんじゃない?」


晩ごはんの片付けが終わった紫織さんは、お風呂からあがったばかりの成海に声をかけた。


「あ、そっかー。もう、サンタさんが来るんだ」


成海はバスタオルで髪を拭きながら、リビングの隣の和室に移動した。和室の隅に置かれた鏡台の前で正座をすると、鏡台の引き出しにしまわれた化粧水と乳液を済ませ、いつものようにドライヤーで髪を乾かしていく。肩より上の位置で揃えられたボブカットは、あっという間に慣れた手付きで乾いていき、櫛で髪を整えると、


「プレゼント何にしよっかなー」


と、ウキウキしながら、成海は二階に上がっていった。

成海がいなくなった途端、俺は早速、紫織さんに聞いてみた。


「紫織さん」

「なに?」

「サンタさんがいるていでやってんの?」


紫織さんは、ダイニングの椅子に座っていた俺の向かいに座ると、助けを求めるような目を向けてきた。


「そうなのよ、どうしよう……。やり始めたものの引っ込みがつかなくなっちゃって……。希望の商品が品切れだった年はあちこちのお店で探す羽目になっちゃって、それを教訓に、次の年からは第三希望まで書いてもらうことにしたの」

「書く……?」

「ベッドの枕元に靴下をぶら下げて、その中に欲しいプレゼントを書いた紙を入れてもらうってやり方なの。いつまでサンタさんを信じてるのかしら?」


いろんな家庭の色があるもんだ。

こっちは、サンタの代わりを親がやっていて、子供はそれと知らずにプレゼントを受け取って喜ぶ……というスタイルが微笑ましい家族のカタチだと世間は認識していますよ~っていうところまで全てを幼稚園児で知っていたというのに。


「言い出し辛いし、本人が気付くまで浩平くんもサンタさんは実在するていで過ごしてくれない?」

「実在する体でとは……」

「浩平くんの枕元にもプレゼントを置いておくから、目が覚めたらビックリしてほしいの」

「勘弁してよ……」


俺はがっくりとうなだれた。


仕方がないので、俺は偵察することにした。大体において、中学一年生が本気でサンタを信じているとは思えない。こっちは幼稚園児ですべてを知っていたし、なにより中学一年生って、結構、大人じゃないか?


成海の部屋をノックすると、「いいよー」と返ってきたので、俺は久しぶりに成海の部屋に入った。

パイン材の勉強机に向かっていた成海は、入ってきた俺を見るなり、いきなり、こう言った。


「お兄ちゃん、あのさ」

「なに?」

「正直に答えて」

「なんだ? なんだ? いきなり改まって」

「サンタさんって本当はいないんだよね……?」


おずおずと遠慮がちに小声で聞いてくる成海に、俺はすかさず返した。


「……成海はどう思ってるんだ?」

「半信半疑って感じなんだけど……」

(半分は信じてるんだ……)


と、俺は思った。

ところが、すぐに成海は自分の台詞を取り消した。


「ううん、やっぱり七割はいないと思ってる」

「……三割はいると思ってるんだ」

「だって、いないとも言い切れないし……。あと、ちょっと微かな希望も添えて」


親指と人差し指で1cm幅を作ってみせた成海に、俺は(めちゃくちゃ可愛い……!)と思ってしまった。

どうやら、今年から内田家の恒例行事は変貌するようだ。俺もビックリしたふりをしなくて済みそうだと内心ホッとした。


「多分、プレゼントはお母さんが用意してくれてるんだと思うんだけど、なんか『本当はお母さんなんでしょ?』って言うのも……違うような気もするし……もしかしたら、本当にサンタさんかもしれないし……でも、やっぱりお母さんだよねぇ、多分……」


サンタの存在を疑い出した人間を目の当たりにして、俺はちょっと笑えてきた。本人は真剣そのものだ。

俺が中学一年生だった時、果たしてこんなにも純粋だっただろうか?と思ってしまう。どういうわけか、サンタに関してはスマホで検索してみようという発想もないらしい。


「それで、成海はどうしたいんだ?」

「う~ん……。きっとお母さんだよね……。でも、本当にサンタさんだったらどうしよう……。あ~~……分かんない……」

「……じゃあ、今年のクリスマスに俺と成海の枕元にプレゼントがあったとして、俺はどうすればいい?」

「とりあえず、ビックリしたふりをしておいて」

「勘弁してよ……」


どっちにしろビックリしたふりをしなければならないのか。

ちょっと待て。よく考えたら、永遠にビックリしたふりをしなければならないではないか。


「家族でふりとかやめようよ……」

「…………」

「思ってることを素直に話した方がいいんじゃないか?」

「…………」

「いつからお母さんがサンタさんかもって思ったんだ?」

「去年のプレゼントをもらってから怪しむことに……」

「……なんで?」

「プレゼントを入れてた袋が、サンタさんの顔のアップがデザインされたやつだったの」

「それの何が怪しいんだ?」

「サンタさんって、そんな我が我がみたいな自尊心の高い人じゃないと思うんだよね。もっと謙虚な人だと思ってたから、自分の顔をアップにした袋を作るとかおかしくない?って思っちゃって……」


俺は爆笑してしまった。


「いいな~、その着眼点。成海って笑いのセンスあるな~」

「そんなに笑うことないじゃんっ。真剣にいろいろ考えてたのに!」

「無理無理、そんな発想、笑うに決まってるだろ」


爆笑する俺を成海が押してきたので、俺は後ろにあった成海のベッドに仰向けで倒れ込んだ。


「あー、めちゃくちゃ笑った」


涙をぬぐいながら、俺はそのまま成海のベッドに寝転んだ。ライトグリーンの掛け布団の上で大の字でいると、


「人のベッドに寝転んでる……」


と、成海はぽつりと呟いた。


「初めて成海のベッドに寝転んだ……。成海はこんな景色で寝てるんだなー……」


と、俺も呟いた。


ベッドの右側は壁になっていて、左側には立っている成海とその後ろには勉強机、更にその右隣には壁沿いに腰までの高さの本棚が扉近くまで並んでいた。

本棚の上には、ガラスの林檎の置き物や、手のひらサイズのうさぎのぬいぐるみの他に、夏休みに北海道旅行をした時の四人が写った家族写真が飾られていた。

写真を見ながら、俺は言った。


「成海、この家族、好きか?」

「うん! 大好き! お兄ちゃんは?」

「俺も!」

「一緒! 一緒!」


二人で笑った後、


「家族なんだし、ふりとかやめて、ちゃんとお母さんに聞いてみ?」


と言ったら、


「うん……そうする」


と、成海は素直に答えた。

読んでくださって、ありがとうございました。

次回に続きます。

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>親指と人差し指で1cm幅を作ってみせた成海に、俺は(めちゃくちゃ可愛い……!)と思ってしまった。 私も同じタイミングで同じことを思いました(笑) ちょっとでも、サンタさんがいると信じたいところも、…
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