23、「カノジョが欲しい」の感情は不純か否か
合コンがお開きになり、居酒屋を出て解散することになった。
山中は一緒に幹事をしてくれた女子とずっと喋っている。というか、明らかにロックオンしている。一緒に幹事をしようと持ちかけ、その実、口説きたかっただけだったようだ。その手があったかと思った。
帰り道、俺と璃子はもう一軒、二人で飲みにいくことにした。
気になった焼き鳥屋に入ると、二人掛けのテーブルに向かい合って座る。と思ったら、息つく間もなく、璃子はまたお酒を注文して飲み始めた。
「お酒、大好きだな」
「んふふ~、大好き~」
酔っ払っていたが、まだまだ飲み足りないようだった。俺の顔を見ながら、
「良かった~。大橋くんとまだ話せるなんて幸せ~」
とまで言ってくれた。
「ありがとう。俺も酔っ払ってる斎藤さんを見てるの面白いよ」
そう言ってみると、璃子は人差し指を立てて左右に振った。
「ノンノンノン。私のことは璃子って呼んでくれていいから~、んふふ~、ノンノンだって~」
かなり酔っ払ってきたのか、そう答えた後になにがおかしいのか吹き出した。
「斎藤さん……璃子、もうこれで最後にしよう」
「分かった、これで最後にしよう」
「俺も璃子のことが気になってるよ」
「凄い! じゃあ、私たち、両想いだね~」
「そうだな」
「お祝いだ! 飲もう飲もう!」
結局、また璃子は飲み出した。俺ももう一杯、ビールを飲みたくなって飲んでしまった。
そこからはもう、夢なのか現実なのか分からなかった。
その日の夜、俺は現実みたいな夢を見た。
めちゃくちゃ濃厚なセックスをした。久しぶりだからか、本能剥き出しの雄になっていた。
貪るみたいに食らい尽くした。
ほとんど獣みたいになっていた。
どうせ夢だし、めちゃくちゃ好き放題に抱き潰した。
何度も果てた。
そして、そのまま意識を失うように、俺は深い眠りに落ちていった――
「おはよう」
どこからか声がした。目を閉じたまま、俺は聞いた。
「成海……今、何時?」
「成海って誰?」
言われて一瞬で目を開いた。
一気に起き上がって、辺りを見渡した。
自分の部屋じゃない。自分のベッドでもない。
更にびっくりした。
服を着ていない。下着も着ていない。
明らかにやらかしてしまっている感じだ。
初めて酔っ払ったから知らなかった。俺は酔っ払ったら、記憶がなくなるらしい。次からは絶対に四杯までにしておこう。
というか、傾向と対策はいいとして、今回のこれをどう対処すればいいのか。合意なのかなんなのか。
俺は完全にパニックになっていた。
「おはようございま~す」
隣で掛け布団にくるまっている女性と目が合い、俺はようやく昨夜の記憶を朧気ながらに思い出してきた。
彼女の名前は斎藤璃子で、合コンがお開きになった後に二人でもう一軒、行こっかってなって、また飲んで、そっから……そっから、どうだったっけ?
確か店を出て、いつの間にかどっかのマンションにやってきて、二人で室内に入って、夢の中で『両想いになれて嬉しいね』と言われ、俺が思わずキスをして、そこからは余裕がなくなって、お互い責付くように服を脱がせ合って、どうせ夢だからと俺は好き放題して――
――ちょっと待て。ということは、夢かと思っていたあれは、ひょっとしたら現実のことだったのだろうか。
「……おはよう。俺、なんかした……?」
「大丈夫よ」
「良かった!」
「避妊してくれてたから」
「それは大丈夫じゃない!」
「避妊してるから大丈夫なんじゃないの?」
反応からして合意だったみたいだ。良かった! いや、良かったのかなんなのか。
「ごめん、俺、夢かと思ってて。昨日の夜、俺、めちゃくちゃ好き放題なやり方してたよな。……大丈夫だった?」
「壊れちゃうかと思ったけど大丈夫よ」
「それなら良かった」
小さく微笑んだ璃子の背後の壁に、ちょうど時計が見えた。
ヤバい! 今日は大事な実験がある日だ。抜けたらレポートが書けない。書けなかったら提出できない。提出しなかったら単位が取れない。とにかく、俺は今すぐに大学に行かなくてはならない。
「ねぇねぇ、成海って誰なの?」
布団にくるまったまま尋ねる璃子に、俺は急いで服を着ながら返した。
「妹」
「ええ~っ? 大橋くんって妹いたんだ」
「実は義理の妹なんだ」
「嘘~っ」
「ほんと。四年前に、親が再婚したんだ」
「妹さんは何歳なの?」
「高一、十六歳」
「うわっ、未成年~。いっけないんだ~」
「手は出してないよ。なんで出してる前提なんだよ」
「私とすぐにしたじゃない」
「酒が入ったら自分がこんな奴になるとは思わなくて……。いつもはこんな奴じゃないんだよ。俺は普段は真面目ないい奴なんだよ」
「酔った時が本性だってよく聞くよ?」
「……いや、そんなはずはない。こんなだらしない奴が俺なわけない。とにかく信じてほしい」
「俺を信じろって言う奴は信じるなってよく聞くよ?」
「……とにかく、妹には手を出してないよ」
「ほんとに~?」
「ほんとに」
「なんで?」
「なんでって……成海とはそういうことをするとかじゃないんだよ。妹って感じなんだよ。そんなことより、俺たち、どうやって帰ってきた? ここはどこだ?」
「私のマンション。タクシーで」
「いくら?」
「五千円くらい」
財布を見たが、あいにく手持ちがなかった。
仕方なく、俺はベッドサイドのテーブルにあった璃子のスマホを強引に持たせた。二人のLINEグループを作り、
「次、会った時にお金返す」
と言いながら、俺はLINEにメッセージを送った。
『俺と付き合って』
すると、璃子は「どうしよっかな~」とすっとぼけ、わざとあさっての方向を見始めた。
もどかしくなった俺は、すぐに急かした。
「そんなのいいから、早く返事は?」
「口で言ってほしかったなぁ~」
「俺と付き合って」
間髪いれず、速攻で言ったら、
「ちょっと考えさせて~」
と、また小さく微笑んだ。
言わせておいて、この仕打ち。しかも、思った反応じゃなかった。
めっちゃ恋愛慣れしてるじゃん、と思った。
普通なら落ち込むところなのかもしれないが、俺はなぜか闘争心が湧いてきたのだった。
「いいよ、ゆっくり考えて。そんで、惚れさせたら俺の勝ちってことで」
俺がそう言うと、
「頑張って~」
と返された。
「気のない返事……」
「だって、私が欲しいんじゃなくてカノジョが欲しいだけなんだもん」
そう言われた瞬間、なぜか、ドキッとしてしまった。見透かされたようだった。女性というのは本当に鋭い。
俺は、
「そんなんじゃないよ」
と、返すだけで精一杯だった。
「駅どこ?」
「あっち。ひたすら道なりに行けば十分で着くよ」
璃子の指差す方向を見て、
「また連絡する」
俺は荷物を持つと、急いで部屋を出た。
読んでくださって、ありがとうございました。
次回に続きます。




