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俺はもしかしたら妹が好きかもしれない  作者: 大崎真


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22/23

22、大橋浩平、人生を楽しむの巻

いつものようにリビングで家族揃って晩ごはんを食べていると、俺はふと思い出した。


「そうだ、お母さん。俺、明日の晩ごはんいらないから」

「サークルの飲み会?」

「合コン行ってくる」


成海のお箸から、ぽろりと一口サイズに切られたハンバーグがお皿に落ちた。見るからに茫然自失している。なんて分かりやすい性格なんだろうか。


晩ごはんの後、部屋でスマホをいじっていたらドアをノックする音がした。

と思ったら、俺が返事を返すより先に、バーン!という効果音がピッタリな勢いで成海が乗り込んできた。


「お兄ちゃん、合コンに行くの!?」

「うん、行ってくるわ」

「ひどい! 成海というものがありながら!」


真剣に怒っている成海の台詞に笑いそうになったが、なんとかかろうじてこらえた。なんという可愛らしい反応だろうか。妹というのは本当に可愛いらしいものだ。


「成海、ごめんな。お兄ちゃんは成海のことが好きなんだけど、やっぱり妹として好きみたいだわ」

「ひどい! あんなに頑張ってアタックしたのに!」

「確かに告白されて意識したし、成海と出掛けてめちゃくちゃ楽しかったよ。ひょっとしたら好きなのかなぁ?って思ったりもしたよ。でも、あんなにムードがある雰囲気の中でデートをしたのに帰りに思ったんだよ。なんか違うな~って」

「ひどい! あんなにロマンチックだったのに~!」

「成海、ごめんな。お兄ちゃんは成海のことを妹として大切に想ってるよ。だからこそ、もう思わせ振りなことはしたくない。お兄ちゃんは潔く合コンに行ってくるよ」

「ひどいひどい! お兄ちゃんなんか、誰にも相手にされずに落ち込んで帰ってくればいいんだ!」

「成海、ごめんな」

おごらされて、泣きながら帰ってくればいいんだ!」

「成海、ごめんな」

「成海にカレシができて後悔しても遅いんだからね!」

「成海、ごめんな」

「もう! そればっかじゃん! 全然やめる気ないじゃん!」


ひどいよ~(ToT) とおいおい泣き出した成海に、俺はよしよしと頭を撫でてあげた。


「成海、お兄ちゃんが合コンに行きたくてごめんな」

「この人、ひどい人だよ~(ToT) なんでこんな人を好きなんだろう~?(ToT) 自分に腹が立つ~(ToT)」

「お兄ちゃん、成海の分も幸せになるわ」

「これのどこが生きるのが嫌な人なんだよ~! ちゃんと人生を満喫してるじゃんか~! 一体どういうこと~? 何があった~? 訳を言うて~訳を~(ToT)」

「成海が人生を満喫した方がいいよって教えてくれたから、せっかくこの世に生まれたんだし、やっぱり楽しんでみようかな~と」

「こんな百八十度も角度を変えてくることなんてある~? ひどすぎるよ~!(ToT) 普通は徐々に生きる気力を取り戻すもんじゃ~ん?」

「成海とお母さんに出会って、生きる気力は取り戻してたんだよ。ただ、この世に生まれて良かった~っ!っていうほどのハイテンションではなかったんだよ……」

「そんなの誰でも大体そうだよ~! あんなにシリアスだったのに別人~?」

「成海、ごめんな」

「あり得ないよ~(ToT) 学園七不思議~?(ToT)」

「まあまあ。今度、おいしいもん、買ってあげるからな」

「こんな気分屋な人、知らん~(ToT) 合コンの力って凄い~(ToT)」

「成海が好きなじゃがビーもたくさん買ってあげるからな」

「人には付き合うなって言っといて、ひどいよ~!(ToT)」

「確かにそうなんだけど、ただ、あの男だけはやめといた方がいい。あいつはマジでヤバい奴だから」

「ヤキモチじゃなくて、本当にただただ心配してくれてるだけだ~(ToT) お兄ちゃんのバカ~っ!(ToT)」


俺はよしよしと頭を撫でて、慰めてあげた。成海の部屋からパン太郎を持ってきて渡してあげると、また頭をなでなでしてあげた。兄として唯一できることであった。






合コンの当日。待ち合わせの駅前で、同じ学部の仲間が十人、集まった。

幹事は顔が広い山中やまなかがやってくれたらしく、聞くところによると高校の部活で仲が良かった女子との繋がりらしい。


山中、マジでありがとう。お前の苦労は無駄にはせん。俺はカノジョを作って幸せになってみせるぞ。ジッチャンの名に懸けて。


居酒屋に着いて靴を脱ぐと、店員に一番奥の大きな座卓の席へ通された。適当に座ろうと話していると、ほどなく女性たちがやってきて、男女が交互に座ることになり、全員が席に着くと、合計二十人で盛大に乾杯をした。


お互いに自己紹介をしあい、向かい合って食べたり飲んだりを繰り返しながら和気(わき)藹々(あいあい)と喋っていると、


「ねえねえ」


と、右隣の女性が声をかけてくれた。

ショートカットが似合う、黒目が大きいわりにシャープな細目の、妖艶な雰囲気の華奢な女性だった。

彼女は、斎藤(さいとう)璃子(りこ)と名乗った。


「大橋くんは、なに飲んでるの?」

檸檬レモンチューハイ」

「ビールは飲まないの?」


自分の飲んでいるジョッキを持ち上げた璃子に、俺は首を横へ振った。


「実はビールの美味しさがまだ分からないんだよな。それ、おいしい?」

「おいしいよ。ビールは味というより、喉でおいしさを味わう感じ? グビグビっと飲んでみて」


璃子のジョッキを渡され、


(めっちゃ間接キス……まあ、いっか)


と、俺はグビグビ飲んでみた。確かに、口で味わうというより、喉を通り抜けていく感じをまた味わいたいって感じがする。


「どう?」

「確かに……グビグビ飲んだらおいしさが分かった気がする」

「飲み込みが早いね~。えらいえらい!」


頭をなでなでされ、俺は一気にテンションが上がってしまった。

生きるって楽しい……!と思ってしまった。

こんな簡単な技に心踊るとは。あざといと頭では分かっているものの、感情が言うことを聞いてくれない。つまるところ、俺は単純な男であった。


初対面でベタベタ触ってくる女なんて……と思えないほど、いやむしろ触ってくださいと思うほど、俺は女性に大層困っていた。とにもかくにも、なんでもいいからカノジョが欲しかった。俺はどうしようもない奴であった。


「あのさ、俺、実は今まで酔ったことがないんだよな。三杯まででやめてたんだよ」

「なんで?」

「自分で自分をコントロールできなくなるのって、なんか怖くない?」

「そうなんだ? 酔うのって凄く楽しいよ? 酔ってない時って、真面目にいろいろ考え過ぎちゃうじゃない? それも大事なことだと思うんだけど、たまには羽目をはずして、何にも考えずに楽しい気分だけを味わうのも自分へのご褒美でいいと思うのよね」

「なるほど……いいこと言うね」


その時、


「席替えタイム~。みんな適当に好きに動いて~」


という山中の掛け声がした。数人が自分のグラスを手に立ち上がり、笑いながら適当に移動している。


「大橋くんも行きたい場所とかあるの?」


璃子もみんなの様子を伺いながら自分のグラスを取ろうとしたが、俺はその手を掴んだ。


「待って。もうちょっとだけ俺と喋ってよ」


驚いた顔を覗かせる璃子に、俺は思わず、


「他に気になる奴がいたの?」


と聞いてみた。もしそうなら、もういいやと思っていた。

すると、璃子は微かに首を横へ振った。


「ううん、嬉しい。実は大橋くんがタイプだったから思わず隣に座ったんだよ」


シャープな瞳を更に細くさせて笑う璃子に、俺は笑い返すと、そのまま優しく手を握った。

読んでくださって、ありがとうございました。

次回に続きます。

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