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俺はもしかしたら妹が好きかもしれない  作者: 大崎真


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19/23

19、兄妹の境界線

十二月の大型ショッピングモールは、多くの来店客で賑わっていた。


入り口を入ると、エントランスには吹き抜けの天井に向かって巨大なクリスマスツリーが高く伸びていた。ツリーを囲むように、親子連れやカップルがスマホを撮影している。

同じように、俺もテンションが爆上がりした。


「成海ー」


キラキラおめめでツリーを見上げている成海を呼ぶと、成海は満面の笑みで駆け寄ってきた。


俺は自分のスマホをかざすと、ツリーをバックに、成海と自撮りを撮るために顔を寄せた。画面には、照れ臭そうに笑っている成海と俺が映し出されている。

今までなんとも思っていなかったが、


――恋人同士じゃないんだから……。


と、呆れ返っていた愛実の台詞をふと思い出した。

すぐ間近に成海の吐息を感じる。

なぜか微かに緊張した。






最上階の映画館でチケットを購入し、「ポップコーンいるか?」と成海に聞くと、


「家では観ながら食べられるんだけど、映画館だと集中しすぎちゃって食べられないんだよね。だから買わなくて大丈夫」


と言われた。めちゃくちゃ食べそうなのに意外や意外の回答だった。


(なるほど、憶えておこう)


と思った。






映画を観終わって、成海は歩きながら、しみじみとした口調で映画の感想を述べた。


「トム・クルーズって絶対に諦めない人だから、こっちも頑張ろうって気持ちになれるね! 映画も面白かったんだけど、本当に映画が好きな人なんだなぁ~って思った。好きなものにずっと情熱を注いでるトム・クルーズに感動したし、カッコいいって思った!」


と、笑っていた。


(カッコいいって思ったんだ……。確かに好きなものに打ち込んでる姿はカッコいいよな。俺も何か情熱を注げるものを探そうかなぁ……)


とか思った。






映画館を出て、そのままショッピングモールを歩いていたら、成海が突然、


「半額セールだ!」


と、女性客の波に埋もれていった。商品を手にすると、試着室に駆け込んでいく。なんて素早い動きなんだ。


「じゃじゃ~んっ!」


試着室のカーテンが開き、薄ピンクのニットワンピースを着た成海が現れた。さっきまで着ていた、白のふんわりトレーナーに膝上のキュロットスカートも可愛かったが、こっちもめちゃくちゃ可愛かった。


「どう? どう? 可愛い?」


ポーズをとる成海に、俺は親指でグッドをしてみせた。


「うんっ、めっちゃ似合ってる」


その時、隣にやってきた店員が声をかけてきた。


「凄くお似合いですよ。可愛いカノジョさんですね」


その台詞に思わず、


(え?)


と、息が詰まった。


前までは兄妹だと思われていたのに――


成海は満面の笑みで、ライトグレーのワンピースを上からあてがいながら、嬉しそうに聞いてきた。


「どっちの色がいいと思う?」


正しい答えが分からない、デートでお約束の例のあれだ。……デートじゃないけど。

俺は仕方なく、スマホを片手に助けを求めることにした。


Geminiジェミニが言うには、どっちもいいけど、ピンクが華やかでいいねって言ってるぞ」

「お兄ちゃんの意見は!?」


成海は笑いながらツッコんできた。そして、「ピンクにしよ~」と言いながらカーテンが閉まった。

なんでもかんでも頼りっぱなしというのはどうなんだろうと、俺は昨今のAI活用を問題視していたが、


(AI、マジでありがとうな)


と、あっさり改心して、心底、感謝したのだった。


「ご兄妹だったんですね。仲が良いですね」


店員に微笑まれ、


「はい、仲が良いです」


と、俺も同じように笑って返す。すると、


「あの、よかったら、連絡先とか交換……」


と、言ってきた。途端、店員の言葉を遮るように、またカーテンが開いた。

着替え終わった成海が、頬を膨らませて立っていた。どうやら聞こえていたらしい。


「お兄ちゃん、行くよっ」


俺の腕を強引に引っ張る成海は、また、ぷんすか頬を膨らませている。

相変わらず漫画みたいな怒り方に、俺は笑ってしまった。






「お昼にするか」

「はいっ! グラコロ食べたいです!」


手を挙げて宣言してきた成海に、俺は特に食べたいものも考えていなかったので、ご期待に応えることにした。


天井までガラス張りの明るいフードコートは、ほぼ席が埋まっていた。多くの店舗がセール期間中だったせいか、特に今日は客が多いようだ。

僅かに残っている席の確保を成海に任せ、二人分のセットメニューを買いにいく。

商品の乗ったトレイを手に居場所を捜していると、成海は知らない男子二人組に声をかけられていた。


「成海っ」


思わず声をかけながら近づいていくと、


「カレシいたのかー……」


と、二人組は俺に気付いてすぐに離れていった。

成海の席の向かいに座ると、俺はすぐに聞いた。


「……ナンパか?」

「うん、多分。友達と来てるんだったら一緒に遊ぼうって言われたの。いっただっきま~すっ! 冬はやっぱりグラコロを食べなきゃ始まりませんよ~」


成海は、ナンパのことなどすぐに忘れ、目の前のグラコロにかぶりついた。幸せそうにニコニコ笑って頬張っている。


(前まで兄妹で通用していたのに)


なぜだろう。

考えないようにしようとしても、どうしても考えてしまう。


今の俺たちは周りから、恋人同士に見られているのか――






お昼を食べ終わりフードコートを出ると、ガチャガチャの専門店を発見した。


「待てぃ!」


思わず成海の服を掴んで止まらせる。


「うわっ、なに?」


振り返った成海は、不思議そうに見上げてきた。


「お兄ちゃんはやらないといけないものを見つけてしまったぞ」


そう言い残し、俺はあるガチャガチャにまっすぐ向かった。ゼルダの伝説のガチャガチャを発見してしまったのだ。

これはやらなくてはならない。誰がなんと言おうと絶対に。

早速、お金を投入して回し、カプセルを開いてみる。すると、なんとゾナウギアのタイヤだった。


(一番、勘弁してほしいやつが出てしまった……。こいつが六百円か……)


思っているより、かなりの立体感だ。マグネットなので冷蔵庫に付けようかと考えたが、おそらく家族みんなに却下されるだろう。なぜなら、ゾナウギアを知っている俺自身も冷蔵庫に立つ度、鬱陶しいと思うほどの立体感だからだ。ゾナウギアを知らない者からしたら尚更だろう。

使い道にかなり頭を悩ませるものをゲットしてしまった。一体どうすればいいのか。


すると、隣で黙って俺の様子を見ていた成海が、突然ケラケラ笑い出した。


「お兄ちゃん、凄い悩んでる~っ」


爆笑している成海を見て、なぜか俺も笑えてきた。


(欲しいやつじゃなかったけど、まあいっか)


成海の爆笑につられて、俺も笑ってしまった。






行きたい店舗もなくなったのでショッピングモールを出ようと思ったら、成海がサーティワンを指差した。


「期間限定の味に挑戦しようかなぁ~」

「そんなこと言いながら、どうせいつものキャラメルリボンだろ?」

「お兄ちゃんもどうせジャモカコーヒーでしょ?」


お互いの好きなアイスを知っているので、俺たちは並びながら指摘しあっていた。

お店のそばに設置されたテーブル席に着くと、


「お兄ちゃんの味見ちょうだいっ」


と、いつものように言ってくるのかと思った。

俺たちはサーティワンを食べる時、未使用のスプーンでお互いのアイスの味見をしていた。

しかし、今回は違った。

成海は自分のアイスを一口分すくって、こちらへ向けてきた。


「あ~ん」

「…………」

「あ~ん」

「……ひょっとして、俺を堕とそうとしてないか?」

「兄妹ならすると思うよ?」

「これは兄妹の境界線(ライン)を越えてるだろ」

「そかな? 仲がいい兄妹ならこれくらいすると思うよ?」

「めちゃくちゃだな」

「兄妹であ~んをしないのが当たり前なの?」

「当たり前だろ!」

「ん? ん? どっち? どっち?」

「怒り方がややこしかったな。あ~んをしないのが当たり前だっていうのが当たり前だって言いたかったんだよ」

「ん? ん? 結局、どっちどっち?」

「兄妹であ~んをしないのが当たり前です~」

「そっかな? そんな法律あんの?」

「分かって聞いてるよね。ないよ~」

「あ~ん」

「……困ったなぁ……。全然、話が通じない……」

「あ~ん」

「持ちギャグ?ってくらいやってくる……」

「あ~ん」

「嫌がりながらも、だんだん、あ~ん待ちをしている俺がいる……」

「あ~ん」

「もっとちょうだいってなってきている俺がいる……」


ツッコむだけで一向に食べない俺に、成海はもどかしそうにスプーンを動かした。


「ほらほら、お兄ちゃんなんだから妹の言うこときかなきゃ」

「……モラハラ~……」

「凄くおいしいアイスだよ~、あ~ん」


めげずに続ける成海に、俺はアイスが溶けることの方が気になって、渋々、折れることにした。

お兄ちゃんなんだから我慢しなきゃ……って、そんなわけないのに、なぜ成海の言うことを俺はきいてしまうんだ。上ってマジで損だ。


僅かに緊張しながら、俺はスプーンを口に含んで、すぐに食べた。

一瞬のことなのに、なんかもう、めちゃくちゃ恥ずい。全身からマジで湯気が立ち上っているんじゃないかと思うくらいだ。

精神を落ち着けるためにテーブルの表面を見ながら、なんとか食べた。もう、キャラメルリボンの味なんかしなかった。なぜ、お兄ちゃんだからという理由で、こんな目に遭わないといけないのか。


「お兄ちゃんの味見ちょうだいっ」


いつものように言ってきたので、俺は試しに、


「あ~ん」


と言って、すくったスプーンを向けてみた。本当に兄妹で当たり前のことだと思っているのか、確認したかったからだ。

途端、成海の顔はボウッと音を立てて真っ赤になった。

俺は爆笑してしまった。


「これのどこが兄妹だよ」


笑いながら口にして、自分の台詞に思わず笑いが止まる。

すると成海は、俺の差し出したスプーンをパクッと口に入れた。


「おいしいっ」


恥ずかしそうに笑った成海に、俺も小さく笑い返す。なぜか、うまく笑えなかった。


今までなんとも思っていなかったが、なぜか考えてしまう。気にしないようにしても、勝手に意識してしまう。


――俺の中で、いろんな感情がスルーできなくなってきた。

読んでくださって、ありがとうございました。

遅くなってしまい、本当にすいませんでした。

また連載を再開します。よかったら、読んでくださると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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