表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺はもしかしたら妹が好きかもしれない  作者: 大崎真


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/19

17、兄妹におけるバイアス

妹ができて舞い上がってしまい、俺は距離感を間違えていたのかもしれない。

本当の妹のように思っていた。平気で軽いハグもしていた。


出会った頃の成海は小学校を卒業したばかりで、とても小さかった。150cmに対して、高三の俺は178cm。子供体型の成海に恋愛感情が湧くはずもなく、小動物というかパン太郎みたいな感覚だった。

末っ子だからか、いつまでも小さい感覚でいた。よく考えたら、もう高一になるというのに。


嫌がられたら気付いただろうが、ハグをしても成海はハグを返してくれていたので、分からなかった。それどころか、普通にハグを求められることもあった。

というか、世の中の兄妹はハグってしないのか? 知らないから普通のことかと思っていた。


世の中には、不特定多数の女性に必要以上に優しくしてその気にさせ、多くの人に好かれている気分を味わいたいスケコマシがいる。俺はそういう奴が嫌いだった。変な期待や誤解をさせないよう、一線を引いて異性と接していた。


だが、成海に関しては例外だった。家族であり、妹だからだ。

誤解させていたのかもしれない。もしかしたら、その気にさせた嫌なやつになっていたのかもしれない。


家族として仲良くしているつもりだった。

だが、俺は間違えたみたいだ。

義理の兄妹の距離感って―――ムズい。




ソファの上でうつ伏せて倒れているパン太郎を掴むと、俺は成海の部屋へ向かった。


ノックをしても返事がないので、仕方なく、「入るよー」と言いながらドアを開けると、成海はベッドにうつ伏せて、いつかのように全身でしょんぼりを表していた。

ベッドの脇にしゃがみこむと、俺は成海の小さな後ろ頭に声をかけた。


「成海」


すると、成海は意外にもすぐに起き上がると、ベッドの上で座ったまま俺を見下ろしてきた。涙で顔はくしゃくしゃになっていた。


「うう~……」


泣き止んでいたようだが、俺の顔を見て、また涙がぼろぼろと流れてきた。俺の胸が潰れそうなほど苦しくなった。


「成海」

「…………」

「俺は成海のことを、凄く凄くすご━━━━━━━━」

「分かったから」

「まあ、凄く好きなんだけど……」

「いいの」

「…………」

「分かってたから……」


しょんぼりしている成海は、完全に耳がぺたりと倒れ込んだ子犬に見えた。俺の胸が、更にぺしゃんこに押し潰されて息苦しくなった。

成海の横に座ると、俺は成海の頭をなでなでした。


「あのさ、突然、こんなことを話して驚くかもしれないんだけどさ……」

「え? なになに?」


俺の予想外な切り出しに、成海の泣き顔はピタリと止んだ。


「俺、実は……成海と会うまで、いつ死んでもいいやって思いながら生きてたんだよ」

「えっ? そうなのっ?」


泣き顔は、完全に驚きの表情に変わった。


「成海は思ったことないか?」

「う~ん……考えたことないかも。死ぬのが怖いって思ったことならあるけど……」

「そっか。俺、毎日のように、いつ死んでもいいやって思いながら生きてた。死んだらお母さんに会えるかもしれないし、死ぬのが楽しみだなぐらいに思ってた。お母さんは生きたかったのに、なに贅沢なことを言ってんだろうって思うんだけど、なんか……なかなかせいに執着が持てないというか……しょうがなしに生きてたんだよ」

「そうなんだ……」

「別に死にたいわけじゃないんだ。でも、生きたいとも思わない。この世に生まれちゃったし、生きなきゃいけないんだよなって……嫌々、生きてる感じ」

「そうなんだ……」

「部活の帰りに、駅のホームでよろけて電車にぶつかりそうになったことがあったんだ。普通は『死ぬかと思った』って安心するんだろうけど、俺は『死ねると思ったのになぁ』って思っちゃったんだよ」

「そうなんだ……」


成海は心配そうに俺を見ながら聞いてくれた。


「そんな状態だった時に、成海に会ったんだよ」

「そうなんだ」

「成海と兄妹になって、一緒に暮らしてて、なんか……俺、生きててもいいかなって、ちょっとずつだけど思えてきたんだよな」

「うん! 生きててほしい! お兄ちゃんがいなくなったら、成海はすっごく悲しいし、すっごく苦しいし、成海も生きていけないから!」


俺の目を見て力説してくれた成海に、俺は思わず笑ってしまった。


「ありがとう」

「うん!」

「だから、俺にとって成海は、命の恩人なんだよ」

「そっかぁ……」


成海は納得したように呟いた。


「恋愛感情じゃなくてごめんな。でも、成海は俺にとって、この世で一番大切な人だから」

「そっかぁ……」

「……命の恩人は嫌ですか?」


俺は、初めてパン太郎を動かしながら聞いてみた。

成海はパン太郎を受け取ると、ぎゅっといつものように抱き締めた。感動したような、悲しいような、どっちとも取れる表情だった。


「ううん、嬉しいよ。お兄ちゃんと恋人同士になってみたかったけど……。でも、好きな人の命を救えたなんて、よく考えたら凄いかもって思うし、これはこれで嬉しい」

「そっか。良かった良かった」

「お兄ちゃんは……成海に好きになられるのは嫌じゃないの?」


心配そうに、上目遣いで恐る恐る尋ねる成海に、俺は首を横へ振った。


「嫌じゃないよ。お兄ちゃん、嬉しいよ」

「良かった~っ」


成海は大きく胸を撫で下ろして息をついた。


「嫌われたらどうしようかと思ってビクビクしてたからさ~」


成海はいつものように嬉しそうに笑った。成海の笑顔に、俺はいつものように救われた。


「俺は成海のことを絶対、嫌いにならないよ。これは自信あるよ」

「そっかぁ。良かった~!」

「元気になってくれて良かったわ」

「お兄ちゃん、ありがとう! 大好き!」

「こちらこそ好きになってくれてありがとう」

「じゃあ成海、お兄ちゃんにアタックしてもいい?」

「…………」


今までスムーズに進んでいた会話が、きれいにピタリと止まってしまった。

思わず「う~ん……」とうなった俺に、成海はもう一度、上目遣いで聞いてきた。


「アタックしてもいい?」

「……じゃあ、お兄ちゃんはレシーブしてもいいか?」

「そしたら、成海はトスをする!」

「次は俺がアタックする!」

「じゃあ、成海はレシーブする!」

「そしたら、俺がトスをする!」

「成海がアタックする!」

「バレーの練習やめやめ!」

「楽しかったのに~」


成海は不服そうに唇を尖らせた。


「お兄ちゃんな、こうしてふざけた会話をするのが好きだろ?」

「うん、そうだね」

「今まで一人だったし、こうして成海とふざけた兄妹の会話をするのが好きなんだよ」

「歌のテストがあるから練習してたら、横から勝手にハモってきて、しょっちゅう邪魔してくるしね」

「ハモれるんだ~って、俺、嬉しかったんだよ」

「成海もお兄ちゃんと会話するの好きだよ?」

「初めて会った時、成海はまだ小さかったし……なんか……俺、マジで妹だと思ってたんだよ」

「そんな感じだったね」

「小さかったし、今更、そういう目で見れないと言うか……」

「でも、成海、もう高一になったけど」

「そうなんだよな……。成長してるんだよな……。アハ体験の画像変化みたいに毎日ゆっくり変化してるもんだから気付きにくいんだよな……」


腕組をして頭を垂れて思い悩む俺に、成海は「まあまあ」と言いながら俺の肩を軽く叩いた。


「とりあえず、お兄ちゃんはもうちょっと人生を楽しんだ方がいいよ」

「人生を楽しむ……? どういうことですか、師匠?」


教えを乞う俺に、成海師匠はニコニコして説いてくれた。


「楽しい時間を長く過ごせば、悲しい時間が短くなるよ! だから、楽しい時間をたくさん作ればいいのだよ!」


えっへんと胸を張る成海師匠に、俺は、


「……そんなことで本当に幸せになるんですか、師匠?」


と、半信半疑の目を向けたが、成海師匠はねんごろに頷いた。


「信じる者は救われる! とりあえず、仲直りのハグしよう!」


ベッドから立ち上がって、俺の腕を引っ張って立つように促してきたので、俺はのろのろと立ち上がった。


「……仲直りはしよう。でも、ハグはいかがなものか」

「今までしてたのに、なんで?」

「……そういや、そうだな」

「兄妹としてのハグだから、ハイ!」


いつものように俺に向かって両手を広げる成海に、俺もいつものように軽いハグをした。

いつものようにしたつもりだったが―――なぜか、俺の中で微妙に違った気がした。


妹だと思っているが、好意をもたれている女性だという意識は消えない。振り払おうとしても消えない。一度、知ってしまうと戻れない。


濁流が本来の河川を決壊すると、そこに新しい河川ができる。溢れた濁流は新しい河川を流れ続ける。なかなか本来の河川に戻れない。

『お兄ちゃん』のつもりだが、どうしても意識してしまう。


俺の腕の中で、成海は「えへへ~」と柔らかく笑った。


「告白した後にハグしてもらうのって、なんか恥ずかしいね~」


言われて、ぶわっと俺の中でも恥ずかしさが湧いてきた。

ヤバイ。なぜか普通にできない。冷静になれない。今まで、こんな軽いハグなんか、なんとも思ってなかったのに。

これは―――かなり心臓に悪い気がする。

その時、


「ただいまー」


と、階下でお父さんとお母さんの声が聞こえてきた。


「やば、帰ってきた」


ハグをしていた腕を緩めた俺に、


「なんでヤバいの?」


抱きついたまま、成海が不思議そうに上目遣いで聞いてきた。一瞬、身体も思考も固まったが、すぐにはたと思い直した。


「……そういや、そうだな。別にヤバくないか……」


すると、成海は「えへへ~」と笑っている。


「……なにがおかしいんだよ?」

「こんなに困ってるお兄ちゃん、初めて見た~って思って」


誰のせいでこんなことになったと思ってんだ。ややこしいことになってしまった。今まで平穏な日々だったというのに。


こっちの気持ちも知らないで、成海はいつまでも嬉しそうにウシシ笑いをしている。

怒りの持って行き場を探し、思わずくすぐると、成海はけらけら笑いだした。

読んでくださって、ありがとうございました。

遅くなってしまい、本当にすいませんでした。書くのが遅くて、なかなか完結しないですね……。グイン・サーガや、サグラダ・ファミリアを思い出します。……比べるスケールが全然、違いますね。すいません。

しかも、主人公が死のワードを口にしたら、もうこれはラブコメじゃなくて純文学ですね。私の性格が真面目なばかりに……すいません。

次回に続きます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ