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俺はもしかしたら妹が好きかもしれない  作者: 大崎真


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16/18

16、喧嘩の種類

十一月二日の今日は、お母さんのお誕生日だ。と言っても、俺と成海の出番は特になく、お母さんは、


「いってきまーす! 帰りは遅いから二人とも適当に食べててー。朝ごはんはお土産に買って帰ってくるねー!」


とご機嫌に叫ぶと、お父さんとディナーに出掛けてしまった。


毎年、お父さんとお母さんは、お互いのお誕生日に二人でディナーに出掛けていた。出会った頃と全く同じ熱量でいつまでも仲が良いのは、息子の目から見ていても、とても微笑ましかった。

俺も結婚したら、同じ熱量のあんな関係がいいなとか素直に思った。


そんなわけで、今日の晩ごはんは成海が作ってくれることになった。俺が食べたいお総菜を適当に買って帰ったり、成海が気になるお弁当屋で買って帰ったりする時もあれば、今回のように成海が気ままなシェフになることもある。

ちなみに、今回は豚の生姜焼きを作ってくれた。


「どう? どう? おいしい?」


先に一口を食べた俺に、成海がウキウキと尋ねてきた。


「めちゃくちゃおいしい……!」


お口いっぱいに広がる柔らかい豚を味わいながら、俺は感動した。今まで食べてきた生姜焼きの中で、間違いなくベストワンに君臨してしまった。頬張りながら、思わず聞いた。


「どうやって作った?」

「お肉は豚肩ロース薄切りのちょい分厚めを探したの。生姜焼き用のお肉より、成海はこっちの方が好きなんだよね」

「素晴らしい……!」


俺が手を差し出すと、成海も満更でもない顔つきになり、俺たちはお互いに固く握手を交わした。


「一枚一枚を軽く焼いて、一旦よけていって、またフライパンに戻して、砂糖水となじませて、後はニンニク、ショウガ、醤油、お砂糖、レモン汁で味付けしたの。動画のレシピだと分かりやすくていい感じ~」

「成海は凄いなぁ~」


料理が全くできないので、俺は成海に感心しながら、ニコニコとご機嫌に食べていた。そんな俺に、成海もニコニコしながら食べていた。

学校やYouTubeなど、他愛もない会話をしながら、いつものように二人で穏やかな晩ごはんを過ごした。



洗い物を済ませると、俺は胡座を組んで、リビングテーブルでパソコン作業を始めた。『錯体化学』の課題の提出が二日後に迫っていたため、できれば今日中に仕上げて教授に送信してしまいたかった。


成海は、そばでソファを背もたれにしてスマホをいじっている。

しばらくお互いの時間を過ごしていたが、ふと思い出して、俺は作業の手を止めた。


「成海」

「なに?」

「告白の返事、どうした?」

「ちゃんと断ったけど……」

「そっか」


俺はホッとして、またパソコンの作業に戻った。参考資料としてネットのスクショした画面を見るため、スマホをいじる。ユーチューバーの映ったスクショ画面を見ながら入力していたら、成海が寄ってきて、パソコンの画面を覗き込んできた。


「……難しそう」

「……難しいというか、面倒臭いというか……」

「……お兄ちゃん、この人がタイプなの?」


スマホの画面を見ながら聞いてきた成海に、俺は不思議に思った。


「いや、別に。なんで?」

「ハートマーク……」


俺は思わず笑ってしまった。

ユーチューバーの女性が映ったスクショ画面の右下に、俺は編集の蛍光ペン機能で✔️(チェックマーク)を入れていた。それを、成海はハートマークだと勘違いしたようだ。


「これは課題で使い終わったからチェックを入れただけだ。確かにハートマークに見えるな」

「なんだ……」


ホッとした顔を覗かせた成海に、俺は思わず笑ってしまった。


「ヤキモチ焼いてんのか?」


以前の中学生の時なら、「可愛い奴だなぁ~!」と笑っていたが、俺は思わず、


「嬉しいけど、まさか恋愛のやつじゃないよな?」


と、釘を刺すみたいに言ってしまった。

あいつの言っていた、『お兄ちゃんに相談する』の台詞が引っ掛かっていた。


俺もシスコンだと言われたが、さすがに付き合う人を成海に相談しようとはならない。人のことは言えないが、それにしてもブラコン過ぎないか?と思った。


「そんなんじゃないし!」と返ってくるものかと思っていた。

だが、成海は黙ったままだった。ずっと黙ったままだった。俺は固まってしまった。

ちょっと待て。なぜ黙る。


ひょっとして―――マジか?


ようやく成海が口にした言葉は、「そんなんじゃないし!」ではなかった。


「恋愛のやつだったら、どうなの?」


俺の心臓が大きく跳ねた。


「どうなの?」


言葉を失う俺に、成海はまっすぐに俺を見てきた。動揺を隠せなかった。俺はかすれた声で辛うじて答えた。


「……ダメだろ」

「どうして?」

「…………」

「どうしてお兄ちゃんのこと、好きになっちゃダメなの?」

「……兄妹だからだろ」

「血はつながってないよ」

「…………」

「血はつながってないから、お兄ちゃんのこと好きになってもいいよ」

「…………」

「お兄ちゃんは知らないだろうけど、成海はずっとお兄ちゃんのことが」

「待て、ちょっと待て」


今にも泣きそうな顔をする成海に、慰める余裕なんかなかった。

頭が真っ白になっていた。


「言うな」


思わず制した俺に、成海は伏し目がちに言った。


「……お兄ちゃんが、成海のことを本当の妹としてしか見てないことは分かってる。この家族が大好きなことも分かってる」

「…………」

「だから、成海に好かれて困ることも分かってる……」


その通りだった。何も言い返す言葉が出てこなかった。


「だから……今まで隠してた。何度もお兄ちゃんなんだって思おうとしたけど……無理だった。どうしても、男の人なんだって思っちゃう……」


くりくりした瞳から涙が溢れては流れてきた。

成海の言葉をうまく理解できない。

頭が追い付かない。


「『付き合うな』って言ったのも、ただ心配して言っただけだって分かってる。お兄ちゃんはいつも、最後は『お兄ちゃん』になる……」


当然だろ。俺はお兄ちゃんなんだから当然だろ。

ちょっと待ってくれ。

どういうことだ。

頭が混乱する。

俺たちは兄妹だろ。

家族だろ。

こんなに長い間、一緒にいて、一緒に暮らしていて、実は好きだったとか、そんなことを急に言われても――


呆然とするしかない俺に、成海は泣きながら続けた。


「でも……成海のことが好きじゃないなら、あんな奴と付き合うなとか言う権利、お兄ちゃんにはないから!」


成海は階段を駆け上がって、自分の部屋に行ってしまった。

静まり返ったリビングで、俺は呆然としたまま動けなかった。


あんなに小さかったのに、もう、こんな大人の女性みたいな言い方をするのか。


女って―――鋭い。簡単に見透かされる。


そして、思った。

暮らし始めた頃に、俺は言っていた。

時には兄妹喧嘩をして、真の家族になりたい、と。


これははたして、兄妹喧嘩なのか、痴話喧嘩なのか――

読んでくださって、ありがとうございました。

次回に続きます。


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