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俺はもしかしたら妹が好きかもしれない  作者: 大崎真


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15/18

15、兄としてか別の理由か

俺が大学三年になった春、成海は高校一年生になった。

それまで着ていたセーラー服から、赤のリボンが映える紺のブレザーに、赤が基調のチェック柄のスカートに変わった。

心配していたが、新しい高校にもすぐに馴染み、成海は楽しく高校生活を送っていた。


俺と同じ電車通学になり、たまに駅で会うこともあった。

大学が午前中で終わり、昼過ぎに駅前のコッペパンサンド専門店に入ると、一番人気のだし巻き玉子パンをトングで挟んでいる成海と鉢合わせたこともあった。


ある日の夕方のことだった。最寄駅のホームに着いたら、成海が知らないスーツ姿の男と話していた。

見たこともない二十代半ばほどの男で、よく見ると、成海は困った顔で戸惑っている。しかし、小さくこくん……と頷くとそのまま二人で並んで歩き始めた。

俺は慌てて二人に近づいた。


「成海」


俺の声に成海は顔を上げて安心した顔をすると、


「誰?」


と聞く俺に、首を横にふるふると振った。俺は相手の男に直接、聞いた。


「誰だ?」


男は、


「あ、いや、もういいです」


と、適当なことを言って去っていった。


「誰だったんだ?」


改めて聞いた俺に、成海は細々と答えた。


「奢ってあげるからカラオケに行かないかって誘われたの。断ってたんだけどしつこいし、怪しくないからって名刺も渡されたし、一時間だけでいいからお願いって何度も言われて、一時間だけなら行こうかなって――」

「行くな」


成海の説明を途中で制して、俺は言った。


「成海は知らないだろうが、世の中には女をオモチャみたいに下に見ている悪い奴もいる。なにされるか分からないぞ」

「…………」

「俺以外の男には絶対についていくな。分かったか?」


成海は息を飲んだが、しっかりこくんと頷いた。

俺が怒っていると勘違いしているのか、いつまでもどぎまぎと戸惑っている成海に、俺は小さく笑った。


「怒ってないよ。何もなくて良かった。帰ろう」

「……お兄ちゃんは?」

「なに?」

「お兄ちゃんは女を下に見てないの?」

「女から産まれてきたのに、女に敵うわけないだろ」


笑った成海に、俺も笑い返した。

そして、思った。


世のお兄ちゃんは大変だな。

妹をこんなにも守ってやらないといけないのか――






季節は流れ、夏休みがあけると、連日のように熱中症の注意喚起が流れていたテレビ画面からは、長袖を着たお天気お姉さんが、衣替えの準備をするよう勧めてきた。


入道雲が迫っていた夏の空から、どこまでも澄んで高い秋の空へと変わっていた。秋の雲は様々に表情を変えて、見る者を楽しませてくれた。


この時期になると、学校のイベントが目白押しとなり、成海は晩ごはんを食べながら、「大玉転がしと障害物競走に当たったよー」と体育祭の話をしていたかと思えば、「今年の文化祭は駄菓子屋さんに決まったの! 文化祭、楽しみ~!」とか、こっちが聞いてもいないのに「聞いて聞いて~っ」と家族のみんなに教えてくれた。


元々、賑やかな四人暮らしだったかのように、毎日が流れていった。二人暮らしだった淋しい記憶も、優しく静かに薄らいでいった。

立ち止まることなく、時は穏やかに過ぎていった――






十月下旬のことだった。

成海が三人の友達を連れて家に帰ってきた。男子一人と女子二人が、リビングの俺とお母さんに挨拶をすると、二階の成海の部屋へと上がっていった。

成海はお母さんと「チョコもいるかな~」と和気あいあいと語りながら、人数分のお菓子や飲み物を用意している。


俺は自分の部屋へ戻り、ベッドの上でスマホをいじっていると、ほどなく、ノックの音がした。

成海は下で準備のはずだし、(誰だ?)と怪訝に思いながら、「はい」と返事をすると、先ほど挨拶をしてきた男子生徒が、「失礼しまーす」と言いながら俺の部屋へ入ってきた。

遠慮もなく、当たり前のように入ってきたそいつに、俺はベッドの上で胡座を組んで見返した。


「人の部屋に何の用ですか?」

「成海ちゃんとお兄さんって他人なんですよね?」


突然なんだ?と思いながら、俺は返した。


「兄妹だけど」

「血はつながってないんですよね?」


念を押され、


(そういや、そうだったな……)


と思いながら、


「誰に聞いた?」


と、続けた。


「成海ちゃんに。引っ越してきたって話になって、会話の流れで義理の兄妹だって知った感じです」

「あそ」

「成海ちゃんに恋愛感情ってあるんですか?」

「いや、ないけど。なんなんだよ、お前。初対面の俺に向かって言う台詞か?」

「他人なのに一緒に暮らしてて、本当に恋愛感情が湧いてきたりしないのかなぁって気になって」

「ないよ。俺と成海はそんなんじゃないよ。血はつながってないけど、本当の兄妹だと思ってるし、大切な家族だよ」

「血はつながってないのに?」

「お前には分からないだろうけど、そうなんだよ。お前は成海が好きなのか? 俺に牽制してどうすんだ。無駄無駄。俺たちはそんなんじゃないよ」

「告白したら、お兄ちゃんに相談するって言われたんだよ、こっちは」

「…………」

「血はつながってないのに凄いブラコンだなって気になって……。どんな奴で、成海ちゃんのこと、どう思ってるのか気になって……。直接、聞くしかないでしょ」

「……俺が知るか」

「好きじゃないなら良かったです。やったっ、俺、やれるかも」

「……やれるかも?」

「言い間違えです。いけるかも」


俺はイラッとした。


「ふざけんな。誰がお前みたいな奴に大事な妹を任せるか。帰れ」


ドアを開けて出るように促すと、ちょうど成海がお盆を持って階段を上がってきたところだった。


「成海、帰るんだってさ」

「え? 宮島みやじまくん、もう帰るの?」


驚いた顔でそいつを見る成海に、


「俺が玄関まで送るわ」


と、俺もそいつに目を向けて促すと、


「……帰るよ」


空気を読んで、そいつは渋々、従った。

グレーの運動靴を履いて外へ出たそいつに、俺はドスの効いた声で、冷たく見下ろしながら言い放った。


「成海になんかしたらお前のこと殺す」

「なんもしませんって」

「さよーなら」


俺は冷たくドアを閉めた。






その日の夜に、俺は成海の部屋を尋ねた。

パジャマ姿で、成海はベッドの上で壁にもたれてスマホをいじっていた。


「成海」

「なに?」

「今日、うちに来たあいつ」

「ああ、宮島くん? 急に帰っちゃったね。どうしたんだろ?」

「あいつのことが好きなのか?」

「別にそんなんじゃないよ。ただの友達だよ」

「友達……」

「話、長くなる?」


成海は、自分の右隣をぽんぽんと軽く叩いた。成海と同じように、俺も膝を立てて壁にもたれて座った。


「あのさ、成海は友達と思ってるだけだろうけど」

「あ、でも、あの、実は告白されて……迷ってて……」


しどろもどろになる成海に、俺は成海の目を見て続けた。


「好きじゃないなら、あいつとだけは付き合うな」


成海は黙って俺を見ていたが、


「……それって、好きになったら付き合ってもいいってこと?」


と、何かを確認するように尋ねてきた。


「そうだな……好きなら付き合えばいい。けど、あいつはヤバい奴だ。やめた方がいい。俺はあいつは好きじゃない」

「そんなにヤバいの?」

「好きなのか?」

「そうじゃないけど……。優しいし、話してて面白いし、凄くいい人なんだけど」

「どんなに悪い奴も、好きな人の前では、いい人になれる。優しくもなれる。でも、それは本来、誰に対してもそうであるべきだろ。人として」

「そう、だねぇ……確かに」

「まあ、付き合うかは成海が決めることだから、俺があれこれ言うことでもないけど。でも、なんか……成海は男に警戒心がなさすぎる」

「そかな?」


無邪気に子首を傾げる成海に、俺はますます危なっかしくて心配になった。


「パジャマ姿でベッドの上で私の隣にどうぞとか……俺だから大丈夫だけど、他の男には絶対にしない方がいい」

「しないよ、そんなこと。お兄ちゃんだから隣にどうぞってしたんだよ」

「駅のホームで、リーマン野郎についていこうとした時はマジでビビった」

「今、冷静になって考えたら危なかったかもって思うんだけど、あの時は名刺もくれたし、最初は三時間からスタートだったの。次に二時間、最終的に一時間にしてくれたから『一時間だけなら、まあいっか』って思考になっちゃってたんだよ」

「あぶね」

「そんなに私って危なっかしいかなぁ?」

「うん。全体的に、ほわ~んとしとる」

「ほわ~ん?」

「ふわふわ~っとしとる」

「ふわふわ~?」

「もう高一なんだし、もうちょっとシャンとしてほしい」

「シャンと……」


成海は、俺とは逆隣のパン太郎を手に取ると、いつものように動かし始めた。


「シャンとしてだって。できるかな?『ご主人、がんばって!』うん!」


俺が横からパン太郎の顔面をグーパンチすると、成海は「お兄ちゃん、嫌い!」と怒鳴ってきた。

読んでくださって、ありがとうございました。

遅くなって、すいませんでした。

次回に続きます。


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