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俺はもしかしたら妹が好きかもしれない  作者: 大崎真


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13/19

13、成海の高校受験

夏が終わり、ハロウィンの飾り付けが始まったかと思えば、次はクリスマスのイルミネーションが点灯するようになった。


サンタクロースではなく、お父さんとお母さんから手渡しでプレゼントを受け取り、年越し蕎麦をすする。年が明けて、四人でおせち料理を食べたかと思えば、成海の中学では春休みが始まり、成海は進学塾に通うようになった。


同居生活が始まって、三年目になった。

俺は大学二年生になり、成海は中学三年生になった。遂に成海が高校受験をする年になった。塾は週三で宿題も多いため、成海は忙しなく日々を過ごしていた。


六月半ばに差し掛かり、うだるような暑さにニュースで熱中症の注意喚起が流れ始めた頃だった。


「え! 劇団四季!?」


リビングのカレンダーを見て、成海が驚いた。スケジュールを書き込もうとして赤ペンを手にしたが、その手が止まっている。


大橋家では、リビングの壁にかかったカレンダーに各々がスケジュールを書き込んでいく。四人分を書き込まないといけないので、スペースを考えて書いてほしいのだが、いつもお父さんだけ、何も考えずにでかでかと書き込み、余った狭いスペースに三人がひっそりと書く羽目になる。


今回も例外ではなかったようで、成海は書き込もうとして、でかでかと書かれた《劇団四季13:30~》のお父さんの文字に驚いていた。


晩ごはんで飾られたダイニングテーブルにつこうとしたが、席に着く前に、俺は成海の後ろから同じ様にカレンダーを見た。


「何か予定があるのか?」

「第一志望のオープンスクール、この日なのに~……。お母さんがついてきてくれない~……」


成海がめくった七月のカレンダーを見ると、幸いにも、7月26日は《劇団四季》しか書かれていないので、俺は何も予定はなかった。


「お兄ちゃん……」


うるうるおめめで俺を見上げる成海に、晩ごはんを食べながら、お父さんと紫織さんもうるうる目で見てきた。


「行きましょう……」


俺は頷くしかなかった。






オープンスクールの当日になった。成海の第一志望の高校は女子高だった。今年度から新しい校舎になったため、偏差値も上がりそうだ。


成海はオープンスクールのため、セーラー服を着ていた。俺は黒のポロシャツにチノパンで、二人の体型と服装から、どこからどう見てもTHE兄妹だった。


行きの電車で、成海はこれから見に行く高校のことを調べだした。


「偏差値は……68!?」

「……知ってて予約したんじゃないのか?」

「なんのなんの、目標は高く!」

「好きにしたらいいけども……」

「お兄ちゃん、勉強、教えてね!」

「いいけども……」


答えながら、


(……心配だなぁ……)


と、思った。


世のお兄ちゃんは大変だな。妹をこんなにも心配しないといけないのか――






九時半から二時間の内容だったため、高校を出て最寄駅に着いた頃には、ちょうどお腹がすいてきた。

観光地に近いためか、駅前はデパートや多くのお店で賑わっていた。なんという楽しげな通学路だろうか。


「お兄ちゃんお兄ちゃん」


ポロシャツの裾を引っ張られたので立ち止まると、成海はビルの二階に掲げられた《サイゼリヤ》の看板を指差した。俺はというと、黙って一階のカウンター席のつけ麺専門店を指差した。ジャンケンをしたら、あっさり負けてしまった。つけ麺の口だったのに……と思った。


席に通され、向かい合って座ると、成海はウキウキしながらメニュー表を見始めた。


「何にするんだ?」

「いろんな味を楽しみたいから、おうちみたいにしよう!」


と言われ、俺はシーフードサラダとハンバーグと白ご飯、成海はオニオンスープとミートパスタにドリンクバーも頼んでいた。ちゃっかり、「取り皿もください」と言っていた。


「それで、この高校はどうだったんだ?」

「ごめん、今ちょっと忙しいから待って」


なんと、成海はテーブルの端に立て掛けられたキッズメニューの表面の間違い探しをやり始めた。


「そんなのいいから、高校の話をしよう」

「待って待って、すぐ終わるから~」

「成海成海、いい子だから高校の話をしよう」

「お兄ちゃんお兄ちゃん、間違い探しをしよう」

「……どう考えても高校の話の方が大事だろ」

「お兄ちゃん、高校の話は家でもできるけど、間違い探しは今しかできないんだよ?」

「成海―――間違い探しをしよう」


俺たちは間違い探しを始めた。なんという妹に甘々のお兄ちゃんだろうか。

すべての間違い探しまであと一つというところで、頼んでいたメニューが来てしまった。


「待って待って、あと一つで終わるから~」

「お兄ちゃん、いい子だから片付けるよ」


成海がキッズメニュー表を強制的に片付けてしまい、俺は悔しくて仕方なかった。

二人で取り皿に取って食べていると、晩ごはんを思い出す。大橋家の晩ごはんも大皿から各々が取り皿で取っていくスタイルだからだ。


あらかた食べると、成海は「ごちそうさま~」と言った。幸せそうな顔で呟く。


「もう、お腹いっぱい……」

「残りは俺が食べていいか?」

「いいよ~」


俺が残りを食べていると、成海は「ねえねえ」と声をかけてきた。


「お兄ちゃんはどう思った?」

「意外や意外、このオニオンスープが一番おいしかったわ」

「違うよっ、オープンスクールの話だよ!」

「ああ、高校の話、すっかり忘れてたわ」

「さっきとは別人だね……」

「思ってるよりおいしくて感動してしまって」


食べながら返すと、


「あの~……すいません」


と、隣から声がした。


「ご兄妹よね?」


店員が去ったばかりのため、案内されたばかりの客らしい。二十代半ばくらいの綺麗な女性だった。

なぜそんなことを聞くんだろう?と不思議に思っていると、


「年季の入った靴ね」


と、俺のNIKEの靴を指差して指摘してきた。


「……一年以上、履いているので」


と、答えると、


「よかったら、この後、私が新しい靴をプレゼントしましょうか?」


と、言われた。


(マジで!?)


こんなナンパあんの?と思った。すると、成海は、じとーという目で俺を見ている。

俺は思った。

このまま成海を一人で帰らせたら、きっと今日の晩ごはんで、俺はお父さんとお母さんから「妹を一人にさせてナンパについていくなんて……」と非難囂囂ひなんごうごう……非常に面倒臭いことになるだろう。

この世で一番権力のある人間は、総理大臣でもなければ、警察庁長官でもない。末っ子だ。


(成海がいなかったらついていってたなー……)


と残念に思いながら、俺は、


「すいません、カノジョなんで」


と、続けた。

成海は目を見開いてビックリした顔をしたが、俺は無視することにした。

「確かに兄妹です。そして、あなたの誘いに乗りたいのですが、実はうんぬん……」の説明が面倒臭かったのだ。そして、成海のせいで素敵なナンパを一つ逃したやないかい、断る材料にさせてくれという思いもあった。


その時、反対側の隣の席に新しい客が案内された。二人連れの男子高校生らしい。


「兄妹だよね?」


と成海に聞いた後、


「奢るから、カラオケに行かない?」


と誘ってきた。成海はビックリした顔のまま、「え? え?」と戸惑っている。普通に断るのかと思っていたら、いつまでもどぎまぎしてうろたえている。どうやら初めてのナンパらしい。


(なにしてんだ、隣の人にバレるだろ)


と思いながら、俺は、


「すいません、カノジョなんで」


と返した。

なんだ、という顔で引っ込んだ高校生に、成海は、ほっとした顔で俺を見た。


「ありがとう、お兄……」


成海の口を俺は秒で塞いだ。

読んでくださって、ありがとうございました。

次回に続きます。

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