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俺はもしかしたら妹が好きかもしれない  作者: 大崎真


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11、何か決定的なもの

愛実と付き合い始めて二ヶ月が過ぎた。

愛実のことが好きなはずなのに、どこか冷静な自分がいた。


愛実とのセックスも気持ちいいし、興奮もした。愛実の好きなところを教えてくれた通りにやると、めちゃくちゃよがってくれて興奮した。お構いなしに俺の好きなようにした時も、めちゃくちゃよがってくれて興奮した。


こんなことしてるんだし、友達かと言われれば、そうではない。完全にカノジョだ。そして、愛実に対して、なんの不満もないし、彼女のことが好きだ。

なのに、今一つ、突き抜けるもの……というか、何か決定的なものがない気がした。


恋愛って、無我夢中になるもので、我をなくして、知らない自分が見えるくらいのものかと思っていた。

完全にいつも通りの自分だった。通常運転だった。こんなに冷静なものなのか?と思った。

穏やかな恋といえば聞こえはいいが、なにか腑に落ちないものがあった。


愛実の愛が重いわけではない。かといって、あっさりしているわけでもない。向こうは適度に距離を保ちながら、俺を待ってくれていることが分かる。彼女に愛されていることが痛いほどよく分かる。


コミュりょくも恋愛経験値もかなり高い人だと分かる。こんなに居心地よくされているのに、こんなに完璧なカノジョなのに、俺はなにを求めているんだろうと自分でも不思議だった。


一度、学食で愛実が別の男性と話しているのを見かけた時、俺は邪魔をしたら悪いかと、離れた場所でレポートの続きをやっていた。

俺に気付いた愛実が急いでやってきたので、


「俺のことは気にしないでいいよ。話してきて」


と言った時、愛実が淋しそうな顔をしたことでやっと気付いた。俺は一切、焼きもちを焼いていなかった。

その日の帰り、さすがにこんな思いをさせたままなのも悪いので、


「俺、ずっとこのままだと思う。待ってるのしんどいだろうし、もう別れよう」


と言うと、


「大丈夫よ、気にしないで。私、根気は人一倍あるんだから。まだまだ待てるわよ。覚悟してて」


と言って明るく笑ってくれた。だが、その笑顔に、俺は救われるよりも罪悪感を感じた。


彼女のことを素敵な女性だと知れば知るほど、俺は同じ想いを返してあげられないことに逆に焦った。

尽くされれば尽くされるほど、こんなにいい人を悲しませていることに苦しくなった。


誰でもいいから愛されることに喜びを感じるタイプならストレスにならないだろうが、俺はそういうタイプではなかったようだ。


愛実が誠実で優しい人だと知れば知るほど、俺は苦しくて無理になっていった――






俺の気持ちにちょうど重なるように、この二週間、愛実からマンションに誘われなくなった。尋ねても、


「実は、ちょっと部屋が散らかってるから……」


と言葉を濁すので、なぜあんなにきれいだった部屋が突然、片付けられないのかと更に尋ねると、注文したテレビ台が思いのほか組み立てるのが難しくて手こずっていて……と説明された。


二人とも三限の授業で早く帰る日に合わせ、愛実のマンションに行くことにした。

週二で来ていたマンションに二週間ぶりに入ると、確かに中途半端なテレビ台……と言うか、ほぼ材料が横倒しのまま置かれていた。


言ってくれれば俺が組み立てるのに、と言おうとしたがやめた。おそらく、言い辛かったのだろう。俺に甘えられないほど、愛実は俺からの愛情を感じなかったのだろう。そして、それは当然のことだった。俺は未だに愛実をデートに誘っていなかった。


俺が愛実にあげたものと言えば、キスとセックスくらいだった。性欲と恋愛感情がイコールではないのなら、俺は愛情を全くあげられていなかった。俺は最低なカレシだった。


テレビ台を完成させると、愛実は泣きそうな顔で喜んでくれた。相当、困っていたらしい。


あんなに部屋に誘ってきたくせに、こういう時に誘わないなんて。困っている時に助けを求めない、気にかけてあげないといけない女性だ。相手を気遣って、本当のことを言わない心の優しい女性だ。


もしかしたら、余ったカレーと言っていたのも俺のため? おいしいのかどうか、やたらと俺の反応を気にしていた。


愛実のことを愛せていれば、純粋に嬉しさが湧いていたのに。俺も同じように喜ばせてあげたいと尽くす気持ちが湧いてくるのに。

今、俺の感情は違っていた。泣きたいような苦しさが湧いていた。


「泊まっていく?」


と聞かれ、俺はすぐに返した。


「いや、もう帰るよ」

「え! もう帰るの!?」


驚く愛実に、


「エッチしに来たんじゃなくて、テレビ台を組み立てに来ただけだから」


と言うと、


「エッチせずに帰るなんて初めてね」


と言うので、


「性欲じゃなくて、欲しがってた愛情」


と言うと、喜ぶかと思ったが愛実は涙目になってしまった。


「愛実」

「うん……」

「ここに来るの、これで最後にするわ」


なんとなく俺の反応を察していたのか、愛実は声になりそうな深い溜め息を吐いた。


「……やだなぁ……」

「……ごめん」

「……やだなぁ……なんとかならない……?」

「なんとかしたいんだけど……こればっかりはなんともならないなぁ……」


すると、愛実は立ちすくんだまま、視線を彷徨さまよわせて続けた。


「……浩平、嫌なんだけど……」

「……ごめん」

「……実は……」

「なに?」

「……今まで引き留めた経験がないから……引き留め方が分からないんだけど~……」


スカートを握りしめて顔をくしゃくしゃにして泣き出した愛実に、俺は思わず近づくと、たまらなくなってハグをした。


大学ではあんなに落ち着き払って、人前では明るい笑顔を絶やさないのに。無駄のない動きでテキパキと日々をやり過ごし、俺のレポートにはダメ出ししたりもしていた気丈な性格なのに。


愛情ではなく、絆される感情も湧かず、ただただ、湧いてきたのは罪悪感だった。

自分でも分からない。

好きになると思っていた。

自分の感情なのに、俺にはどうすることもできなかった。


「ごめん……」

「……テレビ台を見るたびに浩平のこと思い出しちゃうじゃない~……」

「大丈夫、最初の一週間だけだって」


しょんぼりしていたかと思えば、すぐに愛実は爆笑した。


「こっちなんか、初めての人が愛実だから、きっと忘れられないよ」


そう言うと、途端に今度は号泣してしまった。


「俺、初めてここに来た日なんだけどさ……」

「うん……なに?」

「実はめちゃくちゃ緊張してたんだよ。こんなに美人だし、陽キャだし、きっと歴代のカレシさんの中にテクニシャンな奴がいたんだろうなぁとか、勝てる気がしないやって思ってた」

「うん……」

「けど、愛実は余裕がなくてガツガツしてるのが可愛かったし嬉しかったって言ってくれて、俺、あれ、めちゃくちゃ嬉しかったよ」

「ふふっ、いい女でしょ?」

「うん」

「ちょっとは私のこと好きだった?」

「うん。俺なりにでしたが、それなりに好きでしたよ」

「ふふっ。他に好きな人がいるの?」

「いや……」

「妹さんに恋愛感情があるんじゃないの?」


やたらと疑う愛実に、俺は即座に返した。


「マジで違うって。性欲が湧かないし」

「まだそんなこと言ってるの?」


愛実は呆れた顔で、俺を見上げて言った。


「ところで、あのさ……」

「なに?」

「愛実に次のカレシができるまでさ――」

「……うん」

「組み立てるやつ、また困ってたら、俺でよかったらやるよ」

「ふふふふふっ」

「あ、口実でエッチしに来るとかじゃないよ。俺が組み立てる間は外に出てていいから」

「ふふふふふっ」


必死に笑いを噛み殺している愛実に、俺は不思議に思った。


「なんでそんなに笑ってんの?」


すると愛実は、笑顔のまま続けた。


「エッチさせてって言う人じゃなくて良かった!」

「……最低なカレシだったけど、最低な人間ではないですよ」


俺は、ぼそりとツッコんだ。

読んでくださって、ありがとうございました。

次回に続きます。

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