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世界の狭間で  作者: 如月 むいか
第1章
8/10

スラム

あの日から私とジオルドはすごく仲良くなり、一週間に一度は登城するほどになっていた。ジオルドは変わった。もちろん良い方に。未だに無能王子なんて呼んでいる者もいるけど、本当にごく少数。今のジオルドは誰が見たって正真正銘の王子様だ。


――あの日から5年たった今日も私は、ジオルドとジュリアスとジルベールと一緒にお茶会をしている。


「3人ともおはよう。」


「「「おはよう。」」」


 ジオルドとはもちろんだけど、他の2人ともそれなりに仲良くなった。


「それにしても、兄上は本当に変わられましたよね。」


「そう?嬉しいな。アステリアのお陰だよ。」


「ふふふ、ジオルドが頑張ったからだよ。」


「僕は、ずっと悲しかったんです。兄上はずっと弟の僕たちに遠慮して、何言われても言い返さないし…」


「そうそう、僕たちは兄上と仲良くしたかったのに!」


 兄弟仲もすごく良くなったし。


「あの頃は、2人の邪魔にならないようにって自分に言い聞かせてから。でも、アステリアが目を覚まさせてくれたよ。」


「ジオルドは、本当に頑張ったよ。」


「僕、剣で兄上に勝てたことありません。」


「算術の先生にもすごい褒められてるよねー!」


「ひたむきに頑張ってたら、こんなに変われるものなんだね。本当にありがとう、アステリア。」


「さっきも言ったけど、全部ジオルドが頑張ったからだよ。大体、周りが高度なことを求めすぎてただけだと思うの。3人ができることって、普通の子供はできないんだから。」


「それを言うなら、アステリアは異次元だよ。もう大人と同等、むしろそれ以上のこともできてるじゃないか。」


「この前も、大臣たちと政治とかの話してたよね。」


「それに魔法なんて、使えるだけでもすごいのに、リアはどんな魔法でも完全に使いこなしてるよね!」


「あ、あはは。まあ、ね。」


「そういえば、今日も廊下で会った大臣となんか話してなかった?」


「ああ、ちょっとスラムに関することで意見を聞かれてたの。」


 そう、この豊かなリーヴェンス王国にもスラムがある。


「スラム、かぁ…そういう人たちがいるって、なんだか悲しくなるよね。」


「そうですね。僕たちにも何かできることがあれば良いのですが…」


「ふふふ、今はまだ子供だけど、もう少し大きくなったらできることはたくさんあるよ!」


「そっか、早く大人になりたいなぁ。」


「ふふ、あっ!ごめんね、今日はこの後やることがあるから、これで失礼するね。」


「うん、じゃあね。」


「またね。」


「またはやく来てねー!」



――アークライト公爵邸


「お父様、お母様、ただいま帰りました。」


「「おかえり。」」


「今日も楽しかったかい?」


「はい、とても楽しかったです。ところでお父様、この後出かけたいのですけれど…」


「ああ、分かった。気をつけて行きなさい。」


 4歳になった私は、魔法はもちろん剣術も大人が何人がかりでかかってきても圧倒できるようになっていた。そのため私は誰でも良いから1人付き添いをつけることを条件に、護衛なしでの外出を父から許されている。ちなみにこの国では女性騎士も多く、学校などでも普通に女性も剣術を習うそうだ。


「お嬢様、今日はどちらに行かれるのですか?」


 この人はリーファ。私の専属メイドで、出かけるときはいつもリーファについてきてもらっている。


「スチュアート領のランジア街に行きたいの。」


「まあ、また遠いところですね。いつもと同じように?」


「ええ、転移魔法で行くわ。」


「うぅ、少し酔うんですよねぇ…」


「ごめんね、でも慣れて?これからもついて来てもらいたいから。」


「わかりました〜。」


 今日行くランジア街は、スチュアート侯爵家の収める領地の中心街。そしてリーヴェンス王国で最も大きなスラムがある街だ。今回はそのスラムに行く。そのスラムには魔力持ちがいるという噂を聞いたからだ。


 普通人間は、精霊の加護を持っていないと魔法を使えない。この国は精霊から憎まれているから、本来誰も魔法を使うことはできない。しかし、ごく稀に魔力を持って生まれてくる人間がいる。もし魔力持ちがいるなら仲間になってもらいたい。


――ランジア街


「わあっ!さすがスチュアート侯爵家直轄の街なだけありますね!すごい活気!」


「そうね。」


「すごいたくさん人がいるので、お嬢様はぐれないでくださいね!」


「それは私のセリフよ?リーファったらこの前王都に行った時も迷子になってたじゃない。」


「うっ、気をつけますぅ。」


 でも、悪いけどまかせてもらうね。さすがにスラムに行くことは許可されてないし、危ないから。それにしても、実際に見たことがないけどスラムってどんなところかな…


――スラム街


 え…


『おい、それは俺の獲物だ!返しやがれ!』


『あ!?これは俺の金だ!』


 こんな…


『あの、お金を、恵んでください…』


 こんなにひどいところなの…?


「お前、良いもんもってんなぁ。でも子供が持つには早いから、俺がもらってやるよ。」


「お、お願い、返して…お母さんの病気を治すのに薬が必要なの。」


「はは、ここはスラムだぜ?強いやつに弱いやつは従うんだよ!」


「返して、ください。お願いします。」


「しつけえなぁ!黙って渡せ…」


 女の子をその男が殴ろうとした瞬間、私は駆け出した。


「やめなさい!」


「なっ!?」


 拳が届く寸前に魔法で止めた。


「お前、何者だ!?やけに良い服着てんなぁ。上級貴族様かぁ!?」


「なんだ?上級貴族?」


「あいつの着てる服だけでここから出ていける!」


 人が集まってきた…とりあえず眠らせておこうかな。


「え、倒れた?」


「眠らせただけだよ。はい、これお薬。必要なんでしょう?」


「は、はい!ありがとうございます、ありがとうございます!」


「いいんだよ。ところで、お母さん病気なの?よかったら私に診させてくれない?」


「え、でも、スラムは危険です。あなたは綺麗な服着てるから狙われると思います。」


「大丈夫!さっきの見たでしょ?私魔法が使えるの。何人かかってきても返り討ちにするよ!」


「す、すごいです!家、こっちです!」



「ん…リゼ?帰ってきたの?危ない目に合わなかった?」


「お母さん、起きちゃダメだよ!お母さんを直してくれる人が来てくれたの。もう大丈夫だよ。」


「え…?お貴族様!?申し訳ありませんこのような姿で!リゼ、あなたも膝をつきなさい!」


「起きてはなりません。驚かせてごめんなさい。私はアステリアという者です。あなたの病を治させていただけませんか?」


「い、いえ!そのような恐れ多いこと…」


「私は魔法が使えます。どうか治させてください。」


「魔法が…?  お願いいたします。」


「はい。」


 治癒魔法をかけた。


「体が軽いわ…どこも痛くない…」


「お母さん…!」


 その女の子とお母さんは、しばらく抱き合ってた。


「あの、アステリア様。本当にありがとうございます!私、リゼっていいます。」


「元気になってよかった。お礼にって言ったらなんだけどこのスラムに魔力持ちの人っている?」


「あ、多分ミアとメアのことだと思います。」


「え、2人もいるの?」


「はい、双子なんです。探してるんですか?」


「うん、よかったら案内してくれる?」


「はい!お母さん、行ってくるね!」


「ええ、アステリア様、この御恩は一生忘れません。次またお会いできたら、恩返しをさせてください。」


「はい。」



「アステリア様、ここが2人の家です。」


「そう、案内ありがとう。あなたに守護魔法をかけたから、安心して帰ってね。」


「本当に、ありがとうございましたー!」


 リゼと別れた私は、ミアとメアのいる家の扉に向かい合った。


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