不思議な公爵令嬢 ジオルド視点
僕の名前はジオルド。リーヴェンス王国の第一王子として生を受けた。でも、僕にリーヴェンスを名乗る資格はない。なぜなら僕は、無能なお荷物王子だからだ。
僕には弟が2人いる。3歳のジュリアス。2歳のジルベール。リーヴェンスの国王である父上は、側室を持つ資格を持ちながら、母上だけを愛した。だから僕たち3人は全員完全に血のつながった兄弟だ。だから本来、王太子は僕たち3人の中で決められる。
でも、皆の認識の中で僕は王太子候補から外されている。全ては僕が無能だから。ジュリアスとジルベールは、2歳の時点で王族としての挨拶ができる。僕は4歳になった今もできないのに。2人はもう打ち合いができるくらいには剣を振るえるのに、僕は一振りすらできない。2人はもう計算ができるけど、僕は数字を読むだけで精一杯。
僕は無能だ。だからせめて周りに迷惑をかけたくない。なのに、僕は第一王子っていう身の丈に合わない肩書きがあるから、弟たちの即位の障害になってしまう。だから、皆に何を言われても仕方ない。僕が無能なのが悪いんだから。
『ジオルド殿下はなんていうか、弟君方に比べると…ねぇ。』
『全くジオルド殿下は、まだ挨拶もできないのか。ジュリアス殿下とジルベール殿下は完璧だというのに…』
『ジオルド殿下はまだ剣を振るうことすらできない…ジュリアス殿下たちはもう打ち合いができるまでになってきているのだがなぁ。』
『4歳にもなって計算もできないなんて!先が思いやられるわ。』
『ほんと、とんだお荷物王子だよ。』
『ジュリアス殿下やジルベール殿下の邪魔だけはしないでほしいものだ。』
きっと僕がいなくなった方が、喜ばれるんだろうな。父上や母上は2人と同じように僕も扱ってくれるし、弟たちも気にかけてくれている。でも、家族といると、申し訳なくて、苦しくなる。まあ、誰と話してもそうだけど。
僕は毎日を、目立たないように、邪魔にならないように過ごしてた。
そんなある日、アークライト公爵夫妻と、その娘が父上に謁見に来た。その子は、100年ぶりに精霊からミドルネームを授かったすごい子らしい。
僕と弟たちは、父上にお茶会室に呼ばれた。その子と会わせるらしい。
そして僕は、彼女の美しい動作に、目を奪われた。
『王子殿下方、お初にお目にかかります。アークライト公爵が娘、アステリア・ルーア・アークライトでございます。』
あまりに美しいカーテシー、大人顔負けの優雅な挨拶に、ジュリアスたちも目を見開いて固まってる。
あっ!挨拶しないと。
『あ、あの、初めまして。第一、王子の、ジオルド、です。』
はあ、またこんな挨拶しちゃった。呆れられたよね。リーヴェンスと名乗らないなんて、おかしいもんね。
僕の後、ジュリアスとジルベールも挨拶してたけど、完璧だったな…僕とは大違い。
それにしても、アステリア様はずっと笑顔だけど、笑顔に見えない…
結局アステリア様は、終始笑顔のまま帰っていった。
『では兄上、僕も下がります。』
『兄上ー!じゃあねー!』
2人はもう帰るのか。じゃあ、僕はもう少ししてから出よう。
『ジオルド殿下?』
えっ、アステリア様…?
なんで、帰ったんじゃ。
聞けば彼女は忘れ物をして、自分で取りに戻ってきたらしい。普通の貴族令嬢は、そのくらいメイドにやらせるのに…
それから彼女と、しばらく話をした。僕が無能王子だってこととか、色々話してしまった。
彼女は僕に、いろんなことを教えてくれた。
そうか、僕は自分は無能なんだと、決めつけてしまっていただけだったんだ。これから頑張ろう。アステリアが教えてくれたように、“完璧“を目指すんじゃなくて、“ひたむき“にこだわって。
アステリアは、僕のことを認めてくれた。誰かと心のままに話すなんて、生まれて初めてだった。僕とアステリアは、友達になった、ってことでいいんだよね?
友達、かぁ。早くまたアステリアに会いたいなぁ。