第一王子ジオルド
「それではアステリア嬢、私は執務に戻るが、其方はどうする?帰っても残っても構わないが…」
「一度下がらせていただきたく思います。」
「そうか。今日はご苦労であったな。」
「またきてね。」
「絶対だよ!なるべくはやくきてね!」
「……」
「ええ、またね。」
まだ帰るつもりはないけれどね。
―――
「では兄上、僕も下がります。」
「う、うん。」
「兄上ー!じゃあねー!」
「うん…」
1人になったわね。
偶然を装って話しかける。
「ジオルド殿下?」
「わっ!あ、アステリア様…」
「様などと…呼び捨てで構いませんわ。」
「わ、わかりました。それで、あ、アステリア、はどうしたのですか?帰ったのでは…」
「そうなのですが、忘れ物をしてしまいまして。取りに戻ってきたのですわ。」
「え、自分で?」
「はい、これくらい自分でやりますわ。」
「そ、そうなんですか。あの、」
「なんでしょうか?」
「口調、崩して大丈夫ですよ。素じゃないですよね?」
「え?」
素じゃない?そんなことないわ。だっていつもこの口調で…
「なんだか笑顔が笑顔じゃないように見えて…って、ごめんなさいこんなこと言って!」
「謝らないでくださいませ!素じゃない…そうなのかもしれません。いつの間に自分を見失ってしまっていたようです。気づかせてくださって、ありがとうございます。」
「は、はい。あの、やっぱり口調崩してください。」
「ありがとうございます。いえ、ありがとうジオルド。あなたも、口調崩してね。」
「え、っと、分かった。」
「ふふふ。そういえば、どうしてジオルドだけ残っているの?他の王子はもう帰ったようだけど…」
「……僕が2人と一緒に帰ったらおかしいから。」
「どうして?ジオルドは第一王子でしょう?2人のお兄様じゃない。」
「そうだよ、でも僕は、無能の第一王子だから。お荷物王子だから。」
「……誰かにそう言われたの?」
「みんな言ってるよ。ジュリアスとジルベールはなんでもできるのに、第一王子は何もできない無能王子だって。2人のどちらかが即位するのを邪魔するだけのお荷物だって。でも、本当にその通りだよ。僕は2人が完璧に出来ていることのなに一つも満足にできないんだ。だから、何を言われても仕方ないんだ。」
ああ、分かった。この王子は、自信がないだけなんだ。
「ジオルドは、優しいんだね。でも、とっても我慢してるよね。たとえ雑に扱われようと、自分の気持ちに蓋をして、全部自分のせいにしてしまう。言えないんだよね、優しいから。自分が我慢すれば、それで済むと思って。でも、そのままじゃ貴方は、いつか壊れてしまう。そのままじゃ、いつまでも幸せになれないよ…」
「優しい、なんて。そんなことないよ。僕は、自分に言い訳して、自分を守ってるだけなんだ。それに、僕が無能なのは本当なんだ。どんなに頑張っても、弟たちみたいに完璧にはなれない。」
「ジオルドは、自分は無能だって、自分に言い聞かせてるんじゃない?そんなこと思ってたら、ずっと成長なんてできないよ。自分ならできるっていつも思ってないと!そしたら自然にできるようになるよ!」
「そう、なのかな。僕、ジュリアスたちみたいに、完璧になれるのかな。」
「ジオルド、大事なのは、“完璧“じゃなくて“ひたむき“にこだわることだよ。最初から完璧を目指さなくていいの。とりあえず頑張ってみよう?いつか絶対自分を誇れるようになるから。」
「本当に?」
「うん、私を信じて!」
「…うん!」
ジオルドは、ステルベン・リーヴェンスの血を引く王子。
だけど、あの男とは違う。弟との差に打ちのめされて、何を言われても、一人で耐えてる。
そうだよね、血を引いているからといって、あれとは違う人間。
いつから一括りにしちゃってたのかなぁ…
それにジオルドは、本当の私を思い出させてくれた。
ありがとう。
こうして私とジオルドは、生まれて初めての親友ができた。