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04私は百合じゃない

「畜生、あのメスガキがぁー!!!!」


 帰宅即脱衣。

さっさと衣類を脱ぐと洗濯機にぶちこむ。

パンツを脱いで――あああああああってなってまた洗濯機に思い切りシュートする。

全裸になってさっさとシャワーを浴びる。


 私は百合じゃない、私は百合じゃない、私は百合じゃない。


『本当はぁ、気持ちよかったんでしょ……♡』


 違う違う違う違う!


『だってぇ、みくちゃんこんなに……♡』


 このセリフは私の勝手な妄想だ。

おはるの配信はリスナーよりも何倍も見ているし、聞いている。

それゆえにその再現度はほぼリアルに近い。


あああああああああああああ!!!!

クソ!

あのメスガキ!!!

私の純情をなんだと思ってやがる!!!


 シャワーを終えると、髪も乾かさずに缶ビールを開けた。

のど越しスッキリなのに、脳内はまるですっきりしない。

ピンク色に染まった脳内は延々とおはるASMRを垂れ流し続けている。

おまけに足の感覚つき。あのねっとりと這うような足裏の感覚は、まだ新鮮すぎる。

おはるはニーソックスを履いていた。

あの滑らかな質感、体温、少ししっとりとした感覚。

もし私が男だったら大変なことになっていただろう。いや、女の現在でも大変なことになっているんだけれどももも。


「クソクソクソクソ、あのメスガキ! 大人のお姉さんを舐めるなよ!」


『舐めてあげようか♡』


「あああー!」


 空き缶を壁にぶん投げる。

ピンクなのは私じゃないか。

勝手に広がる妄想に、イライラムラムラする。

まさか自分がこんなことになるなんて思いもしなかった。


「ぐううう!」


 頭をわしゃわしゃと搔き乱してベッドにうつ伏せになる。

あの足を、耳元で囁かれる声を思い出してしまう。

 私はただのマネージャーだ。ただのマネージャーだ。私情を挟むな。私情を挟めば業務に支障が出る。


 メッセージが届く音がして、スマホを開く。


『今日のあんよ♡』


 写真つきのメッセージだった。

ニーソを纏いしあんよの写真――、そして何故かスカートが捲られて少しばかりピンク色の布が見えている。

これはいけない。

中の人とはいえ、なんという写真をマネージャーに送りつけているのだろう。

これは断固として遺憾の意を示さねばならない。

さすがにこれは温厚な私でも、ちゃんと怒らねばならない案件だろう。

マネージャーにこんなえっちな写真を送るなんて、本当にどうかしている。

ここは社会人としておはるを正しき道に導かねばならない。

その使命感で、私はメッセージを返した。


『もうちょっとめくった姿がみたいです』


 送信すると即座に返事が送られてくる。

『いいよ♡』

 もうあたしゃだめだ。社会人としても人としても終わりだよ。

 数分後、今度はニーソと下着だけをまとった写真が送られてきた。

今度は全身。着衣していたときはわからなかったが、意外とおっぱいが大きい。


『みくちゃんのも見たいな♡』

『みくちゃんも見せてくれないと、このことお兄さんに言っちゃうよ♡』


 本当に終わった。



「おはるは女性もイケるんですか?」

 出勤時刻、おはるも今日は社内にいたので聞いてみた。

「ん-、わからないけど。ちょっとこっちきて」

 私の手を引くと、誰もいない会議室へと連れ込むおはる。

なんだか今から告白でもされるような雰囲気でちょっとどきどき。

「あのね、私はいままでそんなこと思ったことなかったんだけど――、みくちゃんにはね特別な感情を抱いてしまうの」

「特別な感情?」

「みくちゃんのことが好きだなって、そう思う」

「……それは」

「恋愛対象として」

「……えぇとぉ」

「告白……になっちゃうよね」

「え、えっとぉ」

「みくちゃんのことが好きなの」

「え、う、うん」

「今すぐお返事してなんて言わない。みくちゃんが忙しいのもわかってるから……落ち着いたときに、私のことに向き合ってくれたらそれでいいから」

「……」


 おはるは私の両手をぎゅっと握ると、混乱して立ち尽くす私の唇を奪った。

もちろん、唇で。

つまりは、キスをされた。

彼女の唇はやわらかくて、甘い匂いがして、リップのしっとりとした感触が残る。


「じゃぁ、私も仕事してくるね。またあとでね」

「は、はい」


 会議室に一人残される私。

なんだろう、何も考えられない。

ただ唇には永遠におはるの唇の感触が残っていて。

唇をなぞってみても、唇にはおはるがいて。


「えっと――、今日は何をしたらいいんだっけ?」


 何も考えらなくて、私は会議室を使う社員たちが入ってくるまでそのままでいた。



 私が担当しているVtuberは一人だけではない。

今日は他にも担当しているVtuber“夏野うみ”の撮影に同行する日だった。

なのに――、私の脳内といったらおはるのことでいっぱいで仕事にまったくフォーカスがあたってくれない。

「みくさん、みくさん?」

「え、あ、なに?」

 撮影の合間、パイプ椅子でぼーっとしていた私にうみが声をかける。

手にはペットボトル飲料を持っていて、冷えたボトルを私の額に当ててくる。

「なんかぼーっとしてますよ。大丈夫ですか?」

「ありがとう、なんだかぼーっとしちゃって」

「風邪ですか?」

「うーん」

 いうなれば心の風邪です。

とてもおはるに告白されて悩んでいるなんて言えるわけがない。

 うみが隣に座り、お菓子をつまみだす。

「元気ないときは食べるのが一番ですよ」

「そだね」

 うみは食べることが好きで配信でもよくお料理配信やモッパン配信(といってもガワをまとって咀嚼音のみ垂れ流す)をすることが多い。

私は悩んだりすると食欲が減るタイプなのだが、うみはその逆らしい。

悩んだりしても食べれる体質がちょっとだけ羨ましい。

「今日のケータリングはお肉がなくて残念です」

「あー今日はサンドイッチとかだもんね」

 離れのテーブルにはケータリングした食事が並んでいる。

今日頼まれていたのはサンドイッチなどの軽い軽食+お菓子、それとペットボトルのお茶たちだ。

うみはさっさとお菓子を食べ終えると両手にサンドイッチを持ってまた隣で食べ始める。

よくもまぁこんな無限に食べられるものだ。

「今度大食い配信とかしたいんですよね。誰か一緒にやってくれませんかね」

「うーん、誰か食べれる子いたかなー」

 担当している子は何人かいるが、大食いのイメージのある子はうみくらいだ。

おはるは雑談やライブ配信がメインだし、他の子も酒は飲んでも大食いしている様子はなかった。

「一万円ぶん買ってみた! とかもやりたいんですよね。絶対楽しいじゃないですか」

「うーん、コスパはいいかもしれないけど。どうかな。誰か当たってみるよ」

「やった。もし誰もいなかったらみくさんどうですか?」

「私はマネージャーだからな……」

「他の箱さんだとマネちゃんとかスタッフ出てたりするじゃないですか。だからみくさん出てもいい気がしますけど」

「うぅん、私は裏方に徹したいな。それにとてもトークが上手とはいえないからな」

 たとえ雑談配信でもうまくやれる気がしない。

一見ただ普通に喋っているように見えても、Vtuberの子たちはいかにトークを広げられるか、いかに引き出しがあるかというトークスキルは必要不可欠だ。

さらにいえば話題の緩急だったり、リスナーの需要を満たせるかというのも必要になる。

とてもそれらをやりきる自信はない。


 スタッフさんから撮影準備ができた声がかかり、トラッキングスーツを纏ったうみがTポーズでガワを纏う。


『はい、皆さまこんうみー! 今日の配信は……』


 撮影がはじまる。

先ほどまで和やかだった空気が一変する。

マネージャーになってわかったことだが、撮影のとき演者は明るく振舞っているが他のスタッフは真剣そのものだ。

真剣になるのはビジネスマンとしては当たり前なのだろうが、演者とスタッフで温度さありすぎてすこしおかしい。


『じゃーん、今日はシュールストレミングを……おえっ! くさっ! え、もう臭いんだけど!』


 くっさい臭いが漂っても、スタッフたちは真剣な表情で撮影に臨んでいる。

私は少しだけ吐き気を催して、トイレへと向かっていった。


続きは明日夜更新予定。

終わりまで毎日更新するので、よければブックマークして続きをお待ちください。

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