17宴
ドームの控え室。ライバーたちは直接でるわけではないがそれでも気合は十分に入っている。
皆トラッキングスーツを着ているのにきゃっきゃしているのがなんだかおかしい。
ただそれは現実の話。カメラを通して映る彼女たちは今日のために着飾ってオシャレしたVtuberだ。
開演まであとすこし。
私は後日配信する用にカメラを持ってドームの外に出た。
数えきれないくらいの人でできた長蛇の列。きてくれた参加者の何人かにインタビューをして。
会場にいくつも飾られた旗やイラストたちを撮影して。
これらの映像がどう編集されるのか、今から楽しみで仕方がない。
宴はライブを中心にトークショーや、Vtuberたちによるコラボゲーム配信なども開催される。
会場は二次選考分チケットも完売しており、ペーパービューは前売り当日ともに売り上げがとんでもないことになっている。
一度カメラを切って、ドームを眺める。
通り過ぎていく人たちは推しのTシャツを着ていたり、痛バを装備していたり。
今日という日を迎えられて、笑顔で通り過ぎていく人たち。
『お兄ちゃん、こんな企画どうかな?』
『三大事務所コラボ? 無理にきまってんだろ』
最初につくった企画書は即ゴミ箱いきになった。
それでも食い下がって何度か兄に企画書を提示して、今日それは現実となった。
控室に戻ると、関係者たちは忙しそうにしている。
リハーサルで起こった機材トラブルや直前の変更などにてんてこまいだ。
だが、さすが大手とのコラボとあり専門家が何人も集結している。
なんとかなりそうだと話を聞き、ほっと胸を撫でおろす。
「みくちゃん」
「おはる」
トラッキングスーツ姿のおはるが私を見つけて駆け寄ってくる。
「トラッキングスーツで歌って踊るとか超だせぇ!」
「言わないの! 映像だと超かわいいから」
「ぶー」
「頑張ってね、おはる」
「うん、みくちゃんもね」
なんやかんやしているうちに開場時間となった。
モニターに映される座席の映像は瞬く間に人によって埋められていく。
すべての席が埋まり、時間になると会場内の灯りが消える。
『皆さま、本日はお集りいただき、誠に誠に誠にありがとうございまーす♪』
流れる音声はシンデレライブの超大物Vtuberの声だ。
『会場にお集まりの皆さん、画面越しに見ている皆さん、今日は最高の一日にするからね!』
次いでおあしすっ! の人気Vtuberの声。
普段だったら重なりあうことのない声に、会場のボルテージは徐々にあがっていく。
『さー、みんな準備はいいかー!?』
おはるの声がする。
会場からは雄たけびが湧くと、超大型モニターに映像が流れ始める。
「皆、ありがとう」
私の声。誰に向けたわけでもない、すべての人に向けた声。
そして。
『全員でぇー!』
『かかってこーい!』
火柱があがり、モニターにシンデレライブ、おあしすっ!、モモイロ株式会社のメンバーたちが姿を見せると舞台にもホログラムが現れる。
はじまるライブ。初手からロック調のライブに会場は最高に湧いている。
私が見たかった景色が、今、目の前に。
◇
夢のような時間はあっという間すぎた。
あっという間すぎて本当に夢のように思えた。
会場の撤収作業を終えて、私は様々な方からの打ち上げのお誘いを断り事務所に戻った。
真っ暗な事務所に電気をつける。
忙しすぎた日々が、今日終わった。
成し遂げたかったことが、今終わった。
自分のデスクに腰掛る。背もたれに身体を預けてぼんやりと天井をみあげる。
パソコンはつけない。スマホは電源を切っている。
「おう、みくお疲れ」
「お兄ちゃん、打ち上げは?」
「今から」
「そっか」
「ほれ」
そういって額に冷えた缶ビールをつけられた。
「事務所で飲んでいいの?」
「やぼなこというな」
遠慮がちな私を気遣うように、兄は缶ビールを開けるとぐいっとやっている。
釣られて私もぐい。うますぎる。
「感想は?」
「夢みたいだった」
「そうだな」
「お兄ちゃんは?」
「最高だった」
「これからどうする?」
「とりあえず事務所をでかくしていくさ。来月からはライバーのオーディションをしよう。
あと運営側の社員も増やそう。まだまだ課題だらけだ」
「ふふ、そうだね」
「じゃ、俺は打ち上げにいってくるかな。明日からまた頼むぜ、部長」
「お疲れ様でした、社長」
兄が出て行っても、私はまだ事務所で心地よい疲労感に身を任せていた。
そうだ、まだはじまったばかり。これからが忙しくなるんだ。
まずはあれをして、これをして……スマホにやることリストをつくって、それどころではないと気づいてメモ帳を閉じる。
メッセージを送る。
『明日逢えますか?』
『うん』
『19時に駅前で待ってる』
『わかった』
一番最初にやることがあったんだ。
あの子の思いに、ちゃんと答えてあげないといけないよね。
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