15宴準備
まったくの予告なく秋葉原にて流れた映像はSNSで瞬く間に拡散された。
同時に各事務所からも同じ動画が投稿されると、こちらもうなぎのぼりに再生された。
これほどまでに大型のイベントではあるが、ライバーにすら伝えてなかったのはライバー自身にもリアルな感動を味わってもらいたかったからだ。
『そうなの! ね、まーじでびっくりした! びっくりしすぎて涙止まらなかったもん!』
酒を片手に自宅でおはるの配信を見る。
もはや百合の話はどこへやら。主に語られるのは宴についての雑談だ。
『やばくない? やばくない? だって他事務所さんと一緒にお仕事するなんておはる初めてなんだけど!
あー、お祝いのスパチャありがとー!
ちょ、まって、そんなにお祝いのスパチャ送らなくていいから!
スパチャ送らなくていいからライブのチケット買って!? ペーパービューもできるみたいだから、そっち買おう。
スパチャで購入意欲語らなくていいから!』
はっはっは。
とてもいい気分だ。
酔いが回ってきたせいか、ぐわんぐわんする。
今になって過労が身体に響いているのだろう。
でも、それでもいい。
本当に宴が終わったなら死んでもいいと思える。
宴まであと少し。
宴のためにオリジナルソングも急遽用意してもらい、フィナーレでは全Vtuberによる大合唱が行われる予定だ。
きっと泣くだろうな。
私としては宴だけのつもりだったが、他事務所さんから「せっかくだから」とコラボ配信の予定もすでに依頼が入っている。
乗るしかない、このビッグウェーブ。
ちらりおはるの登録者数を見れば、今日だけで二万ほど増えている。
しばらくは増え続けることだろう。
ふっふっふ。
もしかして私敏腕だった?
私何かやっちゃいました?
と、鼻が伸びて天狗になりそうだ。
“ところでマネちゃんとはどうなりました?”
話題をぶった切るスパチャが飛んできた。
少額ならばあとで感謝を伝えることもできたが、金額がまさかの上限である。
さすがにおはるもスルーするわけにもいかず、飛んできたスパチャを読み上げた。
『えー、マネちゃんとはねー、んふふふふ♡ えーとねぇ、知りたい? 知りたい?』
一応、余計なことは話しなよとおはるにダイレクトメッセージ。
既読は――つかない。
『えぇっとねぇ♡ もぉー♡ そんなに知りたい? しょーがないなぁ』
浮かれたおはるももったいぶって何か言いたげな様子。
何故こんなときに限って既読がつかないんだ。
本当にこのタイミングで炎上系のことはするなよ、宴以外の話題を作ってくれるなよと必死に祈る。
『な、い、しょ♡ ぐふふふふふ♡』
ふ、ふぅ、なんとか抑えてくれた。
付き合うことになりました♡ なんて言ったらどうしようかと思った。
『ぐふふふ♡ あ、でも、本当にいい関係だよ♡ とぉーってもいい関係♡』
『カラダの関係? じゃねーよ! おばか!』
『あ! この前ね! マネちゃんがすっげー疲れてたからさ、元気になってもらおうって思っておっぱい押し当ててた♡
もう押し当てながらはぁはぁしてたよ私、もうこのまま吸ってくれよって思ってたもん♡』
これ以上はいけない。
再度メッセージ送信。既読ならず。
仕方ないから電話をかける。
『あ、マネちゃんから♡ ちょっとマイクオフにするね♡』
「ちょっと、おはる言い過ぎ。控えてね」
「はーい♡」
「まったく。じゃぁ、配信がんばってね」
「ありがとー、みくちゃんすきすきちゅっちゅ」
「はいはい、私も好きですよー」
「うふふふふ♡ みくちゃんに好きって言われるとちょー嬉しい♡ 配信がんばるね♡」
電話を切る。
これでなんとかなって――ねぇな。
コメントが盛大に盛り上がりまくってる。
『え、うそ!? マイクオフになってなかった!?』
速度を増して流れていくコメント。
急な百合展開に飛びまくる感謝のスパチャ。
召されるリスナー。
『え、うそ!? 違うんだけど!? こ、これは、百合営業だから!? そう、百合営業! ね!?』
わざわざ百合営業だから、なんていうもんだからコメントはより盛り上がってしまう。
営業だからといえばいうほどガチっぽくなるやんけ。
私も今電話したのはまずかった。
ライブ配信後、おはるから即電話がきた。
「ごめええええええええええええええええん」
「し、しかたない。とりあえず今は宴のことだけ中心にSNSに投稿して。今後の配信も宴の宣伝メインにしよう。
私も配信中に電話したのがいけなかった」
「ううう、これで宴がバラシになったらどうしよう」
「それはないよ。この程度じゃバラシになんてならないから大丈夫」
自分に言い聞かせるように言う。
こんなことでバラシになってたまるものか。
「みくちゃんのことが好きすぎて愛が溢れちまったよぅ。うぅ、本当にごめんね」
「はぁ、もう大丈夫だよ。よしよし」
「みくちゃぁん」
「はいはい、みくですよー。大丈夫だからね」
「うん、あいがと。みくちゃん好き」
「私も好きだよ」
「あは、嬉しい。あのさ、宴が終わったらその……もう一回ちゃんと告白してもいい?」
「うん、いいよ。私もちゃんとお返事させてもらうから」
「えへへ、ありがとう。みくちゃん、おはるのこと好き?」
「好きだよ」
「おはるも♡」
◇
宴に向けて宣伝活動に明け暮れる日々が続いた。
といっても、この前までの泊まり込みのような忙しさはなくなり、むしろライバーたちのほうが忙しい日々だ。
急遽オリジナルソングが決まったのもあり、ライバーたちは歌のレッスンやダンスのレッスンでスタジオに缶詰だ。
おはるからは度々疲れたとメッセージがきたが、その都度励まし対応した。
少し前ならすぐにサボったりしていたのに、ちゃんと練習に参加できるようになったのは進歩だろう。
うみからもメッセージが来ることがあったが、おはるとは真逆で絶対に成功させる、皆で成功させましょうという意気込みのメッセージが多い。
何かあるとすぐにやめるといっていたうみから頑張りの声が聞けるのは素直に嬉しかった。
少しずつ、少しずつ形にして、やっと出来上がった最高の形。
今日も少しだけ外回りをして打ち合わせをして、事務所の喫煙所に戻り一服。
少しして兄も顔を出すと、私の顔をまじまじと見つめている。
「おい、みく大丈夫か?」
「なにが?」
「顔が青いから」
「え、そう? 全然なんともないけど」
「あまり無理はするなよ」
「うん、ありがと。でも大丈夫だから」
「……お前はため込むタイプだからな」
「はは、大丈夫だって。だいじょ……」
歩き出そうとした瞬間、貧血のような眩暈が視界を暗くした。
あ、あれ? なんだこれ。
目を開けているのに急に暗くなる視界、耳鳴りの音だけが響いて、血が凍ったように急に寒気が全身を襲う。
気が付くと天井を見上げている。
兄が血相をかえて何かいっているが、耳鳴りのせいで何も聞こえない。
やばい。これはやばい。
死ぬかもしれない。
たぶん、倒れたのだろうけど、倒れた痛みも感覚もない。
立ち上がろうとするけど、手足の感覚がない。まるで意識だけがそこにあるような。
目を開けているはずなのに、視界は完全に闇に包まれて――。
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