14あとすこし
明日、全てが終わる。
いや、明日すべてがはじまる。
二か月の超絶激務が終わり、私は事務所のデスクで息絶えていた。
もうするべき打ち合わせも会議も事務作業もすべてが終わった。
全部全部やりきった。
もういつぶっ倒れてもおかしくない状況だった。
「みくちゃーん?」
おはるの声がする。
死んだ目だけ動かすと天使姿のおはるがいる。
あぁ、お迎えがきたんだなと思う。いやただの疲れからくる幻覚なんだろうけど。
「もうおっぱい揉むどころじゃないよね……」
口をパクパクさせる。
「そうだよね、揉むんじゃなくて飲みたいよね」
違うけど。
顔に乳房を押し付けられると、何故か泣きそうになる。
「元気になった?」
「す、少しだけ」
「じゃぁ、もっと!」
顔面を抱きしめられて窒息しそうになる。うぷ。
苦しくてもがくとやっとはるパイから解放される。
窒息死するかと思った。
「明日」
「明日?」
「明日すべてが終わる。明日すべてがはじまる」
「……中二病みたいな台詞いうね」
「ふふ、ふふふ……」
「もうこれで終わってもいい……だから、ありったけを」
デスクにあった飲みかけのエナドリを飲み干す。
効くかわからないストレス軽減と包装に大きく書かれたチョコレートを一気食いする。
目薬をさして、サプリメント飲んで。よし、今日も24時間働けます!
そして。
「おはる!」
「は、はい!」
「アドレナリンを出したい!」
「え?」
「パンツでもパイでもいいから見せてくれ!!!」
自分でも何言ってるんだろうと思うけど、ムラムラした気持ちは一番活動を活発化させる気がする。
「え!? い、いいよ!」
急に大きな声をだされたおはるはわけもわからずスカートをたくしあげて、谷間を露出させた。
「こ、こう!?」
「よっし!!!!」
でけぇ谷間とピンク色のおぱんつを見てヤル気が漲ってくる。
「げ、元気でた!?」
「でた! よし、最終チェックしてくる!」
「ま、まってみくちゃん! 私も見たい!」
「今度な!」
「ぴえん」
◇
この瞬間をどれほど待ち望んだだろう。
翌日、私たちは事務所総出で秋葉原の大型ビジョン前にいた。
この瞬間の感動を収めるべく、すでにカメラは回している。
他事務所のスタッフさんたちもきており、Vtuberの中の人たちもちらほらみられる。
急に暗転した画面がカウントダウンをはじめる。
壮大な音楽とともに減っていく数字に、周囲の人たちも視線を画面に向ける。
(このときをどれだけ待っただろう)
3。
(絶対に叶わないとおもっていた)
2。
(これが私の、私たちの集大成)
1。
(さぁ、はじめよう)
0。
画面に映し出されたのはまずはうちの事務所のVtuberたちが映っていく。
我が事務所『モモイロ株式会社』のメンバー一人一人が映し出されていく。
『まだまだいくよー!』
モモイロの動画であるのに、他事務所のVtuberの声が流れた。
次いで流れるのは業界二番手の事務所『おあしすっ!』のVtuberたちの映像だ。
いきなり出てきた業界二番手のおあしすっ! に歩行者たちも足を止めている。
横をみれば、おはるもうみも表情をなくして画面を見つめるしかなくなっている。
『さー! 準備はいいかーい!』
最後に流れてきたのは業界最大大手『シンデレライブ』のVtuberの声。
まさの映像が流され、いつの間にかできていた群衆からは信じられないといった声が漏れる。
おはるもうみも言葉をなくし、茫然と立ち尽くしている。
画面にはそれぞれ三社のVtuberたち一人一人全員が映し出され、そしてラストの画面に全事務所の全ライバーの集合絵が掲げられる。
画面は暗転し、黒一色の画面に白い文字が浮かんでいく。
『〇月×日』
『Vtuber』
『全員集合』
黒くなる画面。
そこに一滴の水が落ちると画面を虹色に染め上げていく。
アニメーション映像がはじまり、色とりどりの花が咲き誇る花畑をVtuberたちが駆けていく。
一人また一人と数を増やし、全員で虹の橋を走り、彼女たちがたどり着いたのはライブ会場だ。
彼女たちが歌う映像を背景に、文字が浮かび上がる。
『さぁ、はじめよう』
『最高の宴を』
『モモイロ株式会社、おあしすっ!、シンデレライブ、全員集合』
オタクたちの阿鼻叫喚、泣き崩れる中の人たち、スタッフですら涙ぐんでいる人がいる。
カメラを回さなきゃいけない私はそれぞれ最高の表情を動画に収めながら、涙が零れるのを堪えた。
そう、これが私がしたかったこと。
事務所という枠をこえ、全Vtuberによる最高最大の祭典。
『V-宴-』
『ドーム開催決定』
「これがみくさんがしたかったことなんですね」
涙を流しながらうみが言う。
「そう、事務所の枠もなにもない。Vtuberたちの最高の宴」




