13担当
打ち合わせ後、夏野うみから少し話せないかということで会議室には私とうみが残っていた。
なんとなーく何を言いだすのか分かる。
「実は、事務所をやめようと思っていて」
やっぱり。
「うみ、辞めちゃうの?」
「まだ迷ってはいる状態で……でも、辞めた方がいいのかなって」
うみが辞めたいと言い出すのははじめてのことではない。
以前も会議後に運営とライバーが衝突した結果、辞めたいと申し出ていた。
その後はなんとか丸く収めたんだけど……。今回の事態を受けて、うみにも思うところがあるのだろう。
「前の社長さんがやめちゃったじゃないですか。みくさんだから言っちゃいますけど、このままいて大丈夫なのかなって。
みくさんやみくさんのお兄さんここしばらく泊まりこみしてますよね?
考えたくないですけど……事務所が本当にもつのかなって思っちゃって」
「うっ……それはね、私も思うけど。けど、絶対になんとかしてみせる」
「本当ですか?」
「うん」
立ち直すすべがないわけではない。
今回のプロジェクトを成功させれば、金銭的な回収はできるだろうし、知名度があがることでスタッフ増加も期待できる。
というか期待している。
「なにか信じさせてくれるものがあればいいんですけど……」
現状をみればそうも言いたくなるよな。
急にいなくなる社長、泊まり込みで仕事をするスタッフ。他事務所と比べればスタッフもライバーもうちは少ない。
ライバーだからこそ感じる危機感はあるだろう。
特にうみはそういったものに敏感である。
「うみ、絶対に内緒にできる?」
「なんですか?」
「実はね」
私は今抱えているプロジェクトのことを話した。
両手で口を覆ううみは目を丸くして、信じられないといった風に固まっている。
「絶対に内緒だよ」
「はい……誰にもいいません。グルチャでいってたイベントってそのことだったんですね」
「うん。ライバーのグルチャだと詳細出回ってる?」
「まだ詳細までは」
「じゃぁ、絶対に内緒だからね。うみを信じていったし、このことは私とぶちょ……社長、あとは他事務所の役職者くらいしかまだ知らない情報だから。つまり話が漏れたらうみからってことになっちゃうよ」
「わかりました。肝に銘じます。具体的に動き出すのはいつからなんですか?」
「もうだいぶ進行したから、来月には広告うちはじめるよ」
「そっか……そっか……嬉しいな。あ、私今日ゲリラ配信してもいいですか?
なんだかやる気でちゃった」
「いいけど、イベントのことは絶対言わないでね」
「もちろんです」
さっきまでの発言が嘘のようにうみは笑顔だった。
モチベーションが冷めぬうちにとうみは自宅に戻ると、数時間後にはゲリラ配信を行っていた。
『皆さまこんうみー!!! 今日はうみヤル気がありあまってます!
今から牛丼10杯食べるまで終われまてん配信実行します!!!! 皆牛丼を用意しろ!!!』
急にはじまったうみの配信をみながら事務所でパソコンをカタカタ。
本当によく食うなぁと思う。ライブ2Dで動くうみは左右に揺れながら『はふっはふっ! はむはむ! はっふっ!』と飯をかきこむ音を流し続けている。
スパチャはそこまで流れなかったがコメントは盛り上がっていたのでよしとしよう。
「なぁ、みく」
「ん?」
まだ残っていた兄が声をかけてくる。
「プロジェクト終わったらお前部長やれ」
「まじでいってる?」
「今部長の席空いてるじゃん」
「空いてるけど」
「そしたら部長権限でスタッフ増やしていいからよ。プロジェクト終わったらライバーもスタッフも増やそう。
うちの知名度もあがるんだ。少しずつ規模でかくしていこう」
プロジェクトが終わったら辞めようかな、なんて考えていたのに。
まぁ、最近はそんな考えすっかり抜け落ちていいたけど。
ここ最近はいろいろありすぎた。そして今さらにイベントが追加された。
「それともお前も辞めるか? お前そこまで決心してないだろ」
「ぎくり」
「もうちょっと……がんばってみようかな」
「それを聞けて安心したよ。もう少し、がんばろーぜ」
「うん」
「俺、このプロジェクト終わったら結婚するんだ」
「それ死ぬやつ」
◇
外部に発注していた広告動画ができあがったと知らせが入った。
できあがった動画をみたが、あまりの感動に涙が流れてしまった。
まるで夢のような動画。
まだライバーたちに見せることはできない。だが、少しでも早く見せたいと思う。
きっと皆も私と同じくらいには感動してもらえるはず。
できあがった動画を他事務所にも確認してもらう。
誰にも聞かれないように会議室で一人他事務所の部長さんや社長さんへ電話をかけた。
『これならいける』『自分も感動しました』『成功間違いないですよ!』
と様々なお褒めの言葉をいただき、私はまた泣いてしまう。
はじめて仕事をしていてよかったと思えた。
自分がダメもとではじめたプロジェクトだったが、やっとここまでくることが出来た。
まだはじまってもいないのに、もうすでに達成感が押し寄せてきて幸福感の波が私のことを容赦なく流していく。
あぁー、いけませんいけません。
涙で目を赤くした私が戻ると、事務所にはおはるの姿があった。
「みくちゃん、泣いてるの? どうしたの?」
「うぅん、ちょっとね。なんでもないの」
「大丈夫? おっぱい揉む? 生で触っていいよ?」
「あはは、ありがと」
服越しにちょっとだけ触らせてもらう。でかい。
「ねぇ、みくちゃん、今やってるプロジェクト? っていつ終わるの?」
「えーとね、来月始動だから三か月後には終わってるかな」
「ながいー!!! それまでは付き合うのお預けってこと?」
「うん、そうだね」
「でもさ、付き合うってことは、みくちゃんも私のこと好きってことでいいんだよね?」
指先をもじもじさせながら頬を赤らめた上目遣い。かわちぃ。
「そう捉えていいよ」
「なにその言い方ー、女なのに女心わかってないなー! そういうときは“好きだよ”って言葉待ちなの!」
「わかってるよ。すねたおはるが見たかっただけ」
「なにそれぇー! 手のひらコロコロされてる気分! みくちゃん絶対Sでしょ」
「人殴るの好きだからね」
「怖」
「あはは、だから格闘技してたもんね」
「怖すぎ。おはるもMだからいいけどね。今から調教してくれるの楽しみにしてる」
「おはるも怖いわ」
今日は夕方から打ち合わせがあったな。
だからおはるも来てたのか。
椅子の上で体育座りするおはるはスマホをいじりながら椅子を回してぐるぐる遊んでいる。
おぱんつが丸見えなのも気にせず。おはるのことだから、たぶんわざと私に見せつけている気がする。
パンツはチラ見えだからいいんだよ。丸見えは叡智さにかけるんだよ。
それでも視線はちらちらそっちを見ちゃうんだけれど。
「みくちゃん、どこみてるの?」
「ぱんつ」
「もっと見て♡」
「ド変態じゃん」
「みくちゃんには全部知ってもらいたいんだもん♡」




