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第二話 「魔術」

俺は4歳になった。

ハイハイから二足歩行ができるようになり、できることが増えてきた。


最近になって親の名前をようやく覚えた。

父親の名前がアルフレッド・シュナイダー、

母親の名前がアリシア・シュナイダーだ。

そして俺の名前はアードルト・シュナイダー。

シュナイダー家の長男というわけだ。

アードルトという名前だが、言葉がわからないのといつもはアードと略して名前を呼ぶせいで正式名称がわからなかったのだ。


しかも、少しずつだが、この四年でこの世界の言葉も話せるようになってきた。

いったい何をしようか。


そうだ、この世界の文字を覚えるか。

そう思い立ってからの俺の行動は速かった。

まず家の書斎から手ごろな本を抜き取ってきた。

書斎というだけあって結構な数の本が置いてあった。

俺が抜き取ってきたのは10冊だ。

10冊しか読める本がなかったというのが正しいのだが。


10冊とはいえ文字を覚えて読むには十分だった。

読み始めた最初は意味がよくわからなかった。

読み方がわからなかったからだ。

唯一の救いはこの世界の言語は日本語や英語とよく似ていることだ。

文字は英語に似ていて、文法は日本語に似ている。

だからかこの世界の言語は覚えやすかった。

覚えなきゃいけないのは単語と読み方だけだ。

まぁ前世でも俺は英語だけ得意だったからなぁ。


文字さえわかってしまえば、あとは簡単だ。

ただ読むだけである。

以外と本の内容は面白く、この世界についていろいろな情報がわかった。

世界地理、世界史などの社会的なことや、各地の伝承的なこと。

他にも、魔物についてのことや、文化や生活手段などのこと。

俺が知りたかったことがだいたい分かった。


…まぁ、毎日書斎にこもっていたからお手伝いさん(ライラさんというらしい)や母親に変な目で見られてしまったのだが。

そりゃそうか、1歳半の息子が本を持って書斎に入っていったら変な目で見るよな。

当たり前だ、俺でも変な目で見るかもしれない。


俺が抜き取ってきた本は下記の7冊だ。


・「剣術教本」

初級~上級までの剣術が載っている剣士の教科書。


・「魔術導本」

初級~上級までの魔術が載っている魔術師の教科書


・「世界を歩く」

この世界の地理が読んだだけでわかるガイド本。


・「龍暦史完全編纂集」

世界史が全部まとまって書かれた信頼できる世界史本。


・「迷宮の場所と攻略」

世界各地にある迷宮の攻略方法を乗せた本。


・「剣士物語」

ある一人の剣士が魔王を破って世界を救う物語


・「剣聖伝説」

1000年前の剣聖が仲間と共に魔神を倒したといわれる神話。




特に剣術教本と魔術導本は面白かった。


魔術も剣術も詳しく知らない俺にとって、実に興味深い本であった。

読んでいくと超基礎的なことがいくつか分かった。


1.剣術には4つの流派がある。


一つ目は剣皇流。

とにかく攻撃的な剣術で、一撃必殺の剣を速度重視で当てる流派。

先を読み、一撃必殺の剣を振り下ろす。

倒しきれなければ何度でも剣を振り下ろす。

名前の由来は初代剣神(圧倒的に強かったから今は剣皇と呼ばれている)が開発した流派だかららしい。


二つ目は神帝流。

守り重視、カウンター重視の剣術で、防御の流派。

防衛剣術であるからか、自ら打って出る技は少ない。

防御の流派だから騎士や護衛などといった人物が習うことが多い。

名前の由来は初代神帝が用いていた流派だかららしい。


三つ目は聖帝流。

攻撃と守りのどちらもバランスが良い流派。

バランスが良い剣術であるため、冒険者や傭兵などの幅広い人間が習っている。

名前の由来は初代聖帝が用いていたことから。


四つ目は龍神流。

魔法との連携で相手を攻撃する流派。

四大流派の中で唯一魔法を使う剣術である。

魔法が使えることが前提なので、魔法使いや魔導士、聖騎士などが習うことが多い。

名前の由来は初代龍神が開発したことから。


これらは四大流派と呼ばれ、世界中に使い手がいる。

剣士として大成したいものはこの四つのうちのどれか一つの流派を死ぬまで極めるのが普通だ。

ただ、手っ取り早くそれなりに強くなりたいと思う人はいくつかの流派の良い所取りをしていくのが基本らしい。


これら剣術は

初級、中級、上級、聖級、皇級、帝級、神級

で、ランク分けされている。


そして魔術だ。


2.魔術には4つの分類がある。


・攻撃魔法:相手を攻撃する。

・回復魔法:相手を回復させる。

・補助魔法:何かの補助をする。

・異常魔法:禁忌の魔法。


この四つ。それだけだ。


一つ目の攻撃魔法は主に8つに分類される。


・炎魔法:火や炎などに関する魔法の総称

・水魔法:水に関する魔法の総称

・土魔法:大地や地面に関する魔法の総称

・風魔法:風に関する魔法の総称

・光魔法:光に関する魔法の総称

・闇魔法:闇に関する魔法の総称。今は禁忌の魔法の一つ。

・聖魔法:聖者の職業を持つものが主に使える魔法。

・黒魔法:一部の称号を持ったものにしか扱えない魔法。


この8つらしい。

魔術といっても、戦闘や狩猟と共に使われてきたものだから、戦闘時以外はあまり使われていないらしい。


二つ目の回復魔法にも分類があるらしい。


・治癒魔法:傷を治したり、欠損部位を治したり魔法。

・蘇生魔法:息絶えた生物を生き返らせることができる魔法。

・保護魔法:何かを保護する魔法。俗にいう結界とか、シールドとか。


治癒魔法に関しては比較的習得は簡単だが、蘇生・保護魔法に関しては習得が難しいとされている。


三つ目の補助魔法に分類などはない。

ただ戦闘時の身体の保護や、武器の強化などに使われるらしい。


四つ目の異常魔法に関しては詳しく書かれていなかった。

初代魔神が使ったとされていて、今は禁忌の魔法としか書かれていなかった。

ちなみに、便利なものもあるらしく、召喚魔法や移動魔法などがその一つらしい。


3.魔術を使うには、魔力が必要らしい。


逆に言ってしまえば魔力があればだれでも魔術を使えるらしい。

魔力を使用する方法は主に二つ。


・自分の体内にある魔力を使う。

・魔力を持っている物質から引き出す。


このどちらからしい。


自分の持っている魔力が少ないものは魔力を別物質から引き出すことでしか魔術を使えないということだ。

そんなことをするくらいなら魔術を使わない方がいいと思うのだが。


自分の持っている魔力がすべてなくなってしまうと気絶してしまうらしい。

もちろん魔力は回復し、使えば使うほど増えていくらしい。


4.魔術の発動方法は3つある。


・詠唱

・魔法陣

・無詠唱


説明するまでもないだろう。

言うか、書くか、そもそも言わないか、だ。


もちろん無詠唱は本当に難しいらしいし、使えるやつだって少ないそうだ。

それに加えて魔法陣は書くのが複雑なんだとか。

だから魔法を使うときの今の主流は詠唱らしい。




と、まぁこんなところだ。

とりあえず俺は簡単な魔術を使ってみることにする。


魔術導本には魔法陣と詠唱の二つが載っていたが、詠唱の方が主流らしいし、詠唱を使ってみようと思う。


とりあえず一番安全そうな水魔法を使ってみようと思う。

で、詠唱の内容は何だっけ…。

前の方のページを開くか。

OKじゃあこれにしよう。

じゃあ、右手を前に出して…

「汝に大いなる水の加護あらん、聖なる潺を今ここに、ウォーターキャノン」


すぐに手の先に大きい水弾ができた。

軽い気持ちで飛ばしてみようと思い、力を入れて前に突き出した。

…のだが。


「アード、何やっているの…?」


運悪くアリシアが俺の部屋の通りかかってしまった。

これはかなりまずい。


アリシアは冷静に水弾と手を突き出したまま立っている俺、そして開いたままの魔術導本を順番に見た。

そしてそのまま俺の前にしゃがみ込んで笑顔で俺の目を見てくる。

はっきり言って怖い。

だって目の奥が笑っていないんだもん…。


「ねぇ、アード、まさかこの言葉読んじゃった?」

「ごめんなさい。」


とりあえず謝ろう。

ごまかしてもろくなことにならないのは前世の俺が証明している。

潔く謝った方がいい。

悪い嘘は信用を落とすだけだ。

同じ失敗はしない。


「きゃー!アード!やっぱりあなた天才なのね!

 アルフー!ちょっと来てよー!!」


いきなり叫び始めた。

しかも父親も呼んでいる。

いやいいって、そんな大事にしないでくれ…。


ちょっとするとアルフレッドが来た。

「アード、どうしたって、うぉぁ!」

そして俺のことを見て口をあんぐり開けた。


「え、ちょ、何だこりゃ。アード、なんでお前魔法が使えるんだ…?」

「ねぇアルフ!やっぱりウチの子天才だったのよ!

「いやでもな、これ中級の魔法だぞ?」


え、そうなのか?

俺一応初級の詠唱をしたつもりなんだが。


しかもアリシアはピョンピョン飛び跳ねている。

元気だね。

さっきの俺の謝罪はスルーってことでよろしくて?


「今すぐにでもアードに魔術を教えましょう!!」

「いや、でも、アードはまだ文字を教えてないんだぞ?なんで文字が読めるんだよ」


ごもっともです。

まだアルフレッドには文字を教えてもらってないんだから。


そんな事お構いなしにアリシアは嬉しそうに俺のことを見ている。

その視線はものすごいありがたいんだが、反応がわからないから出来ればやめてほしいってのが本音だ。


そんなこんなで部屋に突っ立っているとライラさんがやってきた。

「掃除してもいいですか?」とアリシアに聞いている。


俺を横目にライラさんはは無言で俺の部屋の掃除を始めた。

そういえばライラさんはは俺が魔法を使えることを知っていたんだろうか。

一応ライラさんには魔術導本を持って自分の部屋に行くところを何回も見られてるからなぁ。

多分知ってたんだろうなぁ。


そんなことを思っていると、ライラさんと目が合った。

ライラさんは俺に微笑むと、そのまま奥の部屋に行った。

あ、これ絶対に気付いてたな。

なんかすみません。


一方のアリシアは俺のことを天才だの、才能だのと騒いでいる。

魔法を使っているところを見られただけで才能を持っていると来た。

親馬鹿というやつなのか、この年で魔法を使う俺が天才なのか。

はたしてどっちなのだろうか。


うーん…。

多分親馬鹿だな。

だって俺はアリシアの前では魔術が使えるそぶりをしていなかった。

それなのに「やっぱり」なんて言葉が出てくるのは以前から俺が天才だと思っていたということだ。

何処からそんな…。


いや、心当たりはあるぞ。

俺は前世でも今でも独り言が多い傾向にある。

だからたまにこの世界の言葉を独り言で言うことがよくあるのだ。

そのたびにアリシアは意味を教えてくれていたのだが、よくよく考えてみれば文字を教えていない子供が言葉を自分から話していたってことだよな…。

それは天才だ。

俺が親でも天才だと思うぞ。

あ、じゃあ俺は天才っていうことになるよな。


そんなことを一人で考えていると、横でアルフレッドが頭を悩ませていた。

そりゃそうだ。

意味わからんわな。


「じゃあ魔術の先生を雇いましょう!!」


そう言ったのはアリシアだった。

やっぱりどこの家の親も子供に習い事を押し付けるのは同じなんですかねぇ。

ま、別にいいけどね。


「いやでも、アードには剣を教えるんじゃなかったのか?」


そう言ったのはアルフレッドだった。

お、これは喧嘩が始まる予感がするんだが。


「この年であの魔術が使えるのよ!魔術の才能があるに違いないじゃない!才能があるものを教えた方がいいわよ!」

「わからないだけで剣の才能があるかもしれないじゃないか!」

「わからない剣術よりも絶対に才能のある魔術を教えた方がいいわよ!」


ほーら、やっぱり喧嘩はじまった…

なんでこうもっと考えないのだろうか。

1個だけ教えるんじゃなくて、両方ともやればいいんじゃないか?

そんなこと思っていると


「じゃあどちらも習えばよいのではないですか?」


少しため息をつきながらライラさんがそういったことで喧嘩は無事収まった。

ライラさん、本当にナイス過ぎる。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


そんなこんなで我が家で魔術の家庭教師を雇うことになったのだった。

貴族の家庭教師というのはまぁまぁいい仕事らしい。

アルフレッドもこの辺では数少ない騎士と呼ばれる人で、貴族の一人らしい。

そうすると給料も相場に近いものが出せるのだとか。


しかし、俺の家はこの国の辺境のしかも田舎。

はたしてそんな優秀な家庭教師がいるものなのかと心配していたらしいが、あっけなく見つかった。


俺の親の予想によると、家庭教師に来るのは引退した老魔術師らしい。

若い奴はこんな辺境のド田舎に来るはずがないし、優秀な奴は王都にいくらでも仕事が転がっている。

そう考えるともう既に引退した老魔術師が来るんだろう。

という話だった…。


…のだが。


「ヴァルトです。よろしくお願いします。」


予想を裏切る形でやってきたのは年若い青年だった。

日本(こっち)でいう高校生くらいか…。

魔術師らしい服を着て。

少し長い茶髪を後ろで束ねて、礼儀作法のしっかりした感じの青年。

一言で言おう。

好青年(イケメン)だ。

それもかなりの。


そんな彼を見て、両親は驚いて声が出ないようだった。

そりゃそうだ。

あの予想とかなり違い過ぎる。


と、そんな中で俺はあることに気付いた。


「なぜ魔術師なのに剣を持っているんですか?」


魔術師として招かれたが、剣を持っていることに気付いた。

魔術を教えてくれる人なら剣は必要ないと考えたからだ。


「あぁ、俺は剣術も教えられるからね!」


なるほど。

そういうことだったのか。


と、そんな俺の隣でアルフレッドが震えていた。


え、なに?

どうしたんだよこいつ。

と思ったが、俺はわかった。

アルフレッドは俺に剣術を教えたかったのだ。

自分(・・)で。

でもこの家庭教師の人が全部教えてくれるから少しがっかりしているのだろう。


ということで俺は悲しんでいるアルフレッドのために動くことにした。


「父様、なんで震えているのですか?」


ちょっとわざとらしく、ちょっと子供っぽく。

何も知らない感じの聞き方をした。


「父さんがアードに剣を教えてやりたかった…。」


案の定だ。


「でも父様は別のお仕事があるのではないのですか?」

「いや、それはあるが…。」

「それでしたらお仕事の方を優先した方が良いと思います!」

「そうか…。それだったらしょうがないな…。」


よし。

解決だ。


「それじゃあ、よろしく頼む!」

そうアルフレッドが言った。


と、いうことで俺は今日からヴァルトさんから午前中は魔術を、午後は剣術を教わることになったのだ。


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