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月影映る  作者: 林伯林
6/44

06


 その後も何か所か魔の沼を浄化した。


 規模の大小等もあったが、その殆どは無理なく処理できた。

 少し「無理をする」感じに見せかけて、怪我もわざと負って見せた。


 相変わらずアリオは静音に当たりそうな魔法攻撃を放ってくるし、光魔導士たちは碌な治療をしてくれず、これは一体どういう意図があるのかと首をひねる。

 死ねと言っているのか。まだ死んでは困るだろうに。

 従者の様子を見るが、彼らに何か抗議するでもなく静観している。護衛とは一体何なのか。




 魔導士たちは後方にいるので何の気なく後ろを振り返るといつも一人離れているアリオが彼女らに近づいていた。

 珍しい事もあるものだと距離があるのに聞き耳を立てようとして、一斉に雑音が押し寄せてきて思わず耳を押さえた。

 「どうした」

 隣を歩いていたガイキが覗きこんできた。

 首を振って耳から手を放す。

 「なんでもないです。耳鳴りがしただけ」

 「大丈夫か?」

 「ええ、もうおさまりました」

 気遣わしげな顔をする男ににっこり笑って答え、フードを被った。

 それは静音の話しかけて欲しくないサインで、ガイキはそれを承知していた。


 静音は深呼吸した。

 先ほどの雑音は、筋力も補強している魔力シールドが高性能過ぎて、うっかり意図せず聴力も上げてしまった結果らしい。

 『聴く』には指向性が必要なようで、少し道の端へ寄って後方のアリオが見える位置を取り意識をそちらへ向けて聴力を少しずつ上げた。 

 

 「だから、あからさますぎると言っている」

 アリオのいつものぶっきらぼうな声が聞こえてきた。

 「それはあなただって同じことでしょう」

 刺々しい声の相手は女性で、いつも静音を睨んでくる若い娘だった。

 「君たちの仕事は治癒と回復だ。一人だけおざなりでは目立つだろう」

 「あなたの攻撃魔法のとばっちりが飛んでいるのも目立っていると思いますわよ」

 おや、と静音は更に聞き耳を立てる。

 「私はそれなりに距離を読んで手加減している。死なせるような事はしていない」

 「私たちだって死なない程度に治していましてよ」


 どうやらあれもこれも意図的だったらしい。

 殺すつもりはないことは判った。ただ、『今』死なせるつもりがないだけという事かもしれないが。


 「いずれにせよ、殿下がいる以上やたらな真似も出来まい」

 「それは判っています。ですからこの程度におさめているのです。腹立たしい」

 「いや殿下がいなくてもせめてこの程度にしておいてくれ。殺す気か」

 「殺しはしませんわよ。この国には必要な力の持ち主なのは判っています。ただ、どんな怪我をしようが力をふるうには問題ございませんでしょう?」

 「問題ないが、本人にやる気がなくなればそこで終わりだ」

 「ですから全てが終わるまではこの程度で済ませておくと申しておりますわよ。所詮は下賤な異邦人ではありませんか」

 「おい」

 「あら、異論がおあり?あなたが」

 「他者の耳目のある所で言うべきことか」

 「今更じゃございませんの。ご安心なさって。声は遮蔽しておりますわよ」


 遮蔽していたのか。何故聞こえたのか。


 いやそれよりも。

 確かに今更ではある。

 会話そのものが人に聞かせて良いものとも思えない。

 いや、それとも皆にとっては周知のことなのか。

 それきり二人の会話は止まってしまったが、魔導士たちは各々多少の会話はしているようでそちらにも耳を澄ませてみる。

 最初の二人と大差ない内容ではあった。


 理不尽が理不尽に輪をかけた現状ではあったが、今のところどうしようもない。

 王子の話をしていたが、一体どう関係しているのか。

 まさか静音が間違っても殺されないよう監視する為に同道しているとでも言うのか。


 魔導士の更に後方に王子の馬車はある。


 馬車と人間の徒歩ではスピード差があるのではないかと思ったがそこは魔法で調整しているらしい。

 馬車のスピードを。

 ふつう逆ではないかと思ったが、これだけの人数を一気にスピードアップさせる魔力は魔導士たちにはないそうだ。時間が無いと静音を急かしておきながらのんびりした話ではある。

 馬車の方へ聴力を向けてみるが流石に中の声までは聞こえない。




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