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月影映る  作者: 林伯林
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 本当に二日動かなかった。


 シェルターを次元の狭間から出し、誰も来ない山の上で、寂しい風景と荘厳な日の出日の入りを眺めて過ごした。

 夜はベッドの中から月と星を眺めた。

 ぼんやりと眠っては起き、タブレットを取り出して本を読み、学者に借りっぱなしで持ってきてしまった以前の渡り人の資料や覚書を読み返した。

 そのうち返しにいこうか、と不意に思った。

 何もかも腹立たしい遠征隊だったのでもう二度と顔も見たくないと前日まで思っていたのだったが。


 動けるようになったのは三日後だった。


 きちんと着替えて身だしなみを整え、シェルターを出た。


 一番高い峰はすぐそこにあるようにそびえたっている。


 この山脈の南側は乾燥していてほぼ地面がむき出しになっているが、峰には万年雪が白く積もっていた。


 静音はシェルターを再び次元の狭間を押し込むと、その峰へ飛んだ。





 猛烈な風が吹きすさんでいた。


 以前、魔力蛍で上空から見下ろした時、北の海は渦を巻いた低気圧に覆われていた。

 山の頂上から見下ろすと彼方に海があるはずなのだが、周囲は真っ白で、細かい雪が舞い散って顔に痛い程当たってくる。

 魔力シールドがなければ目を開けていることさえできないだろう。


 ここまで来る人間はほぼいない、と聞いた。

 それ故調査もあまり進んでいないと。

 稀に晴れる時もありはするだろうが、遠征隊がここへ来ることは不可能だったのではないかと思う。

 ガイキと騎士たちの中でも腕の立つもの数人で静音を守らせ山を登るのがせいぜいだったろう。

 「視界が一メートルもないもの」

 静音は結界球を張って浮かび上がった。

 ---場所は判るか?

 珍しく神官が浄化の現場に腕輪で連絡を取ってきた。

 「ええ、『見えて』いますから」

 静音は迷うことなく結界球を進める。

 ---そうか。トーヤの時はもうちょっと梃子摺っていたかと思うたが。

 「トーヤが一人ではなかったからでは?随伴者がいると、却って大変だったかと思いますよ」

 トーヤの旅の伴は、剣士と魔導士だったと記録には残っている。途中の浄化には不可欠だったろうが、最終目的地はトーヤ一人で事足りたろうと思う。

 少なくとも、この山も途中からは魔物さえ出なくなる。

 ふわふわと、風に飛ばされることもなく結界球は白い雲の中を飛ぶ。

 やがて、ある場所にたどり着くと、結界球を拡張した。


 雲が払われ、氷河の大地が現れた。


 静音は結界を押し広げ、ドーム状にして周辺を覆った。

 下から寒気が押し寄せてきた。

 魔力シールドを常に身体にまとわせている為、寒いと感じることはなかったが、空気が変わったのを感じ取った。

 数歩歩いて、うっすら裂け目の見える場所へしゃがみこむ。

 上を氷と雪で覆われているが、この下は深いクレバスが存在している。

 魔力糸を一気に複数出現させ、寄り合わせてドリル状にすると突き立てる。

 ぎゅるぎゅる回転しながら、ドリルは氷を飛び散らせて氷河へ沈んでいく。

 静音は更に魔力糸を周囲へ張り巡らせ、一本一本に熱をまとわせた。

 あっという間に裂け目があらわになる。

 可視光線だけでは真っ暗なその内部であったが、静音はその底まで見通すことが出来た。

 途中の壁面には、閉じ込められた古代の竜やゴーレム等が見える。

 深い裂け目の奥底は、青く光る水の湧きだす泉だった。

 それを確認すると、静音はためらうことなく裂け目へ飛び降りた。



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