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月影映る  作者: 林伯林
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 ---そなた意外と冷静だったな。


 ゆっくり湯に浸かって、漸く落ち着いてきた頃に、暁の神官が話しかけてきた。

 「あれが冷静に見えましたか」

 静音の声はいつになく力無い。


 ---トーヤは悲鳴を上げて腰を抜かしていたぞ。


 静音はふうっと息を吐いた。

 「悲鳴を上げられるならまだ余裕があるんですよ。本当に怖いと声も出ませんて」


 ---涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだったが。


 「本人の名誉の為にもそれ以上言わないでやって下さい」


 静音が泣きわめかずに済んだのは偶然に過ぎない。

 心臓が止まるほど驚いたのは間違いないのだから。


 「あとは何でしたっけ。飛来する嵐?」


 ---そうだな。


 「自然現象なら今回みたいな事はないでしょうね。本当に趣味が悪い」


 ---すまんな。


 「あなたのせいではないでしょう。まあ私の文句の行先はあなたしかないわけですけど」


 腕を伸ばし、いい加減茹ってきたので浴槽から出た。

 風と火魔法で温風を吹かせ、髪を乾かしながら、ガーゼ地で作ったバスローブもどきのワンピースを頭からかぶった。適当に切って適当に縫った静音の自作だ。袖をつけなければ長方形を二枚合わせるだけで出来る。端の始末は手を抜いた。おかげでほつれはあるが気にしない。不格好でも人に見せるわけでなし。

 どこかの街で見かけて買った陶器のカップに水魔法で水を注ぎ、少し温度を奪って冷やして飲んだ。


 「魔法って便利ね……」


 しみじみと呟く。


 ---ここまで便利に使えるのはそなただけだ。


 「みんなお馬鹿さんですよね。火魔法以外は鍛えないんですって」


 ---皆、固定観念から抜け出せずにいるのだ。


 「でも塔の学者はそうじゃないようですよ。現にアディトリウスは自分に適性がある全ての属性を鍛えているようでしたし」


 ---あれは特別だ。もともとは魔導具を作るために色々と鍛えたのだ。


 「あら、そうなんですか」


 ---もともと研究熱心だったが、創意工夫するうちに、魔導の方へ傾倒していったのだ。


 「天才なんでしょうかね。この世界では珍しい?」


 ---この国では、だな。


 「あら」


 静音は意外そうな顔をした。


 「他の国は違うのですか?」


 ---浄化が終わったら色々見て回ってみるがいい。


 神官は直接は答えなかった。


 「そうですね」


 静音もそれ以上は尋ねなかった。


 「二日くらい休みます」


 そのかわり休日を宣言した。


 ---疲れたか?


 「流石に精神的にきました」



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