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月影映る  作者: 林伯林
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 静音は、火山の火口を見下ろしていた。


 先日噴火したのは頂上の火口ではなく、中腹にある別の火口だった。

 頂上は、噴煙を上げてはいたが、今のところ噴火の兆候は無い。

 土魔法で深く探って、そこまでは確認した。

 じっと見つめていると、地割れの隙間から、黒い影がにじみ出てきた。

 下の方を潰した為、出口を探してこちらへ這い登ってきたらしい。


 もう人目もないので、浄化を唱えた。


 念じただけだが。


 火口全体が光って一瞬何かに拭われたように噴煙が晴れた。


 それで終わりだった。


 今までは、ある意味人が見て「判りやすいように」演出していたが、もう必要ない。


 ---すごく楽だわ。


 静音は内心呟いて、さっさとその場を去った。



 麓からは夕間暮れに光った火口を不思議に思う人々が、噴火の危険性さえなければ確かめに登りたいと訴え、学者やガイキも調査にいきたがったが、危険性は去っておらず、その場を離れるわけにもいかない王子はついに「いい加減にしろ」と怒鳴ったとか。


 暫く魔力蛍を貼り付けて王子の動向を探っていたが、領兵部隊が到着し、引継ぎが済むと、遠征隊は王都へ帰って行った。


 王子がどう責任を取らされる事になるのかは判らないが、立太子は少し遠のいただろう。



 静音は、マッピングした印を見ながら、あちこちに飛んで魔沼を浄化していった。

 順番に進めていくと、王子たちに待ち伏せされる危険性があると思ったからだが、一日に何か所も処理する為、追いつかれる心配もない事に途中で気が付いた。


 十日ほどで一か所を除き全ての魔沼を浄化し終わると、静音は北の山脈へ向かった。


 以前、北の荒れ地すれすれを通った時に、遠く見えていた山々の麓まで一足飛びに移動した。


 この山脈の一番高い峰が「魔の湧きだす山」ということになっている。


 現在季節は秋。冬よりましではあろうが、緯度を考えるとこの国の人間は殆ど近づかない季節だろう。普段から近づかないだろうが。

 あのまま遠征隊で進んでいれば、ここの浄化は季節が合わないと夏を待つことになったかもしれない。

 ぞっとしない話である。


 足元に、ずどんと見えない杭が撃ち込まれた。


 静音はひらりと身をかわすと身体の周囲を球の結界で囲った。

 『シェルター』に似たものを作れるようになっていたのである。

 地面を深く穿った杭と同じものが次は結界を砕こうとするが傷の一つもつかない。

 静音は結界の中で攻撃を受けながらその出所を魔力糸で探った。何百も触手のように放って空気を撫でていく。


 すぐに見つかった。


 高速で移動しているが静音が動かないため周囲を飛び回る羽目になっているようだった。

 『鳥』という話だったので、鳥なのだろう。


 魔力糸の触手で絡め取った。


 甲高い悲鳴を上げたようだった。

 本来なら耳をつんざく音でもあったろうが結界の中にいる以上何の影響もない。

 空から引っ張りおろし、地面にたたきつけると魔力糸で首と思われる場所をスパッと切った。


 目の前に落ちてきた物は、確かに鳥ではあった。



 人の背中に鳥の羽をつけた。



 「ええ……」



 静音は流石に青くなって少し後ずさった。

 今まで人型のものを倒したのは、岩のゴーレムだけだったので、とても生々しかった。

 切断面から見えているものが金属や千切れた配線で、血の一滴も出ていないので冷静でいられはしたが。


 魔力糸でつついて動かない事を確認すると、結界を解いて手を伸ばし、恐る恐る身体を仰向けにした。

 随分軽かった。

 身に着けている服は真っ白でひらひらしていた。

 宗教画の天使を想像して、ますます嫌な気分になった。

 ナイフで服の上から胸を裂く。

 金属の骨格が現れた。

 金色できらきらしている。

 心臓に当たる場所に緑色の石が嵌っていた。

 その周辺をぐるりと青と白の細い配線が這っている。

 ナイフの先を石の横にさしこみ、ぐっと力を入れた。


 ぽんと石が浮き上がる筈だった。




 浮き上がったのは落とされた首だった。




 恐ろしい程美しい顔が無表情に口を開けた。

 奥には、のこぎりの刃のようなぎらぎらと光る歯並びが見えたのは一瞬で、目にもとまらぬ速さで飛来すると静音の肩口へ食らいつく。


 がちんと固い音がして、静音の肩へ食いついたまま、首は止まった。



 「勘弁して……」



 静音は魔力糸で首を掴むと肩から振り落とした。


 「どんなホラーよ」


 流石に声も唇も震えていた。


 魔力シールドは常に静音の身体を守っていて、もう今では滅多な事では解かれない。

 機械仕掛けの人形に食いつかれてもその牙が通る事はない。

 とはいえ、恐怖がないわけではないのだ。


 魔力糸に絡め取られているが、首はがくがくと動いていた。とがった歯はガチガチとかみ合わされている。

 冷静になって見ると、こんな姿になってまでも敵を攻撃し続けざるをえないとは哀れにも感じられた。

 静音は魔力糸の束を首の眉間に突き立てた。

 切り開くと、魔核が覗いた。

 躊躇わず、ナイフの先を突き入れて石をえぐり出した。


 ぱたりと首は動かなくなった。


 胸の魔核も同じように取り出し、残骸となった人形の首と胴体は収納空間へ格納した。


 ふらふらしながら静音は立ち上がった。


 「もう今日は無理。休み」


 そう言って、目についた山の頂上へ転移すると、周りも見ずにシェルターの中へ逃げ込んだ。



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