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月影映る  作者: 林伯林
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 翌日、昼近くまで野営地でゆっくり過ごした。


 浄化は午後遅くに行う。

 ふもとの避難にはそれくらい時間が必要と思われたからだった。

 久しぶりに静音は、ゴロゴロと怠惰な時を満喫し、ガイキは呆れた顔をしながらも咎めだてはしなかった。

 ガイキは長い遠征を、騎士たちと同じペースでついてくる静音を、最初は「意外に体力があるのだな」と思っていたが、そのうち、たまの休日は一日横になって休んでいる事に気が付いた。

 鍛えられた騎士たちと同じであるはずがなかったのだ。

 普段は貴族の娘達のわけのわからぬ仕打ちを警戒し、そもそも周囲の人間すべてを信用出来ず、気の休まる暇もない上に、恐らく体力があるように「見せかけて」もいるのだろう。

 野営地にいる間は、さりげない距離でなるべく静音の姿やテントが見える距離にいる事が増えた。

 そうしていると、自分と同じ距離に、宰相が付けたという従者がいる事にも気が付いた。

 従者は従者であるが故にガイキよりは近い所に侍っていたりもするのだが、何故か殆ど世話をしようとはしなかった。

 静音が最初に「私はあなたを信用していない。近づいてほしくない」と言ったらしいが。


 静音はごろ寝しながら板状のものを手に持ってそれを眺めていた。

 それは何かと聞いた所、静音はガイキの目の前でそれを操作して見せた。

 見たことのない文字が表面を流れて行った。

 この中に百冊近くの書物が入っており、指先で触れて「めくる」だけで読み進める事が出来るのだそうだ。

 これが静音の世界では標準的に使われていると聞いて驚いた。

 「私から見ると、魔法の方が驚きですよ?」

 静音の手元にあるものは、魔法ではないと言う。

 魔法でないと言えば、静音が手首に巻いている時計も魔法で動いているわけではないと言う。

 「タブレットも同じですが、電気といって……そうですね、雷の素みたいなエネルギーで動いています。電池と言って、電気を溜めておけるものが入っているんですが、この腕時計は太陽の光を電気変換してエネルギーに変えているので、電池切れの心配はなくて助かっています。まあ寿命はあるんですけどね。タブレットはソーラー充電器があるので……ええとやはり太陽光を電気変換するものがあるんです」

 雷と聞いて、危険はないのかと尋ねたが、「普通に使っている分には危険は無い」と答えられた。

 普通でない使い方とは……?

 時間は静音の世界と大体同じだという。日に一回微調整しているそうだ。

 面倒なので「そのうちつけなくなるかもしれない」と言った。

 時計に限らず、静音は、貴族娘達程ではないが装身具の多い人間だった。

 指輪は二、三個つけているし、ネックレスもブレスレットも外しているのを見たことがなかった。

 何かの守護でもかかっているのかと思ったが、全くそういう事はなく、そもそも元の世界のものだと言う。

 「気に入って買ったものだから。常に身に着けておかないと、とられたり壊されたりすると気分悪いでしょ」

 何とも言えない気分になった。

 「城の侍女だった子が用意してくれた物の中に宝飾品もあったし、私のより多分高価だったりするのでしょうけど、そういうものから順番になくなったり壊されたりしていきましたから」

 人の悪意に常にさらされて、ここまで冷静でいられるものかと思い、痛ましくも思った。


 静音はいつのまにか寝入っていた。

 身体の横に例の板状のものを放り出して。

 それを見て、自分は一応信用してもらっているのだろうかとガイキは思った。



 白い鳥が飛来した。



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