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月影映る  作者: 林伯林
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 「おお、出た」

 学者が心なしか嬉しそうに呟いた。

 周囲に睨まれることは必至なので声を押さえてはいたが、聞こえる人間には聞こえていた。

 隣にいた静音とガイキには。

 静音は表情を変えず、ガイキは呆れた顔をした。


 火山に登っている途中だった。

 古い火口に出来た魔沼にたどり着く直前に、それは現れた。

 岩のゴーレム。

 覚書に書かれていた通り、全身が岩で出来ており、人型で、頭部には丸い大きな目が一つあった。


 静音はその一つ目の岩の巨人が、日本のアニメに出てくるロボットというかパワードスーツというか、そういったものによく似ているように思えてまじまじと見つめた。


 騎士たちは早速ゴーレムを取り囲んだ。


 ガイキは学者を見た。

 「あれの弱点は?」

 「うん。よくわからない」

 「は?」

 あっけらかんと答えた学者にガイキは眉を寄せた。

 「資料にないのか?」

 「うん。出現の記述はあるけどどうやって倒したかあんまり詳細に書かれてないんだよね。特にあのゴーレムに関しては殆ど何にも書かれてない。普通に考えたら、まあ岩なんで衝撃に弱いとか、火と水で交互に攻撃したら劣化するんじゃないかとかあるけど」


 言っている間に、騎士たちとゴーレムの戦いが始まった。

 騎士たちの鋼の剣は少しずつ岩の肌を削っているようには見える。

 特に「暁の細剣」は切れ味よくざくざくと岩を刻んでいるように見えた。


 静音は、覚書の記述を思い出す。


 『岩は装甲。魔装であり、いかようにも変化する。果てしなく強靭』


 切られるがままだった巨人がぶるりと身をゆすった。

 その動きに沿うように巨人の表面が一瞬土のように柔らかくなって揺れ、瞬き後には散々削られた部分が綺麗に修復されていた。


 それを見た騎士たちはざわめいて一旦離れた。

 巨人の腕が上がり、騎士たちを薙ぎ払うように振られた。

 騎士たちは飛びのこうとして、風にあおられるように吹き飛ばされた。


 そこへアリオの炎弾が飛んだ。

 巨人の腹部に着弾すると岩が砕けて穴が開き、肩に着弾すると肩部分が吹き飛んだ。

 しかし、先ほど見たように、巨人はそれらを瞬く間に修復する。

 「見たところどうにもできなさそうだな」

 ガイキは言って背中の剣を抜いた。


 ガイキの剣は一撃がとてつもなく重い。


 騎士たちがそう言っているのを静音は何度も聞いた。


 実際、振り下ろされた剣は、岩を削るどころか砕いた。

 轟音と共に、巨人の腕が砕かれて落ちた。


 その切り口にアリオの炎弾が飛び、修復を阻もうとした。しかし、巨人の修復能力は全てを上回っていた。


 ガイキは何度も剣をふるい、その度巨人の腕が、足が、砕けたが、修復の勢いは一向衰えず、アリオは炎弾だけでなく、炎幕で巨人の全身を焼こうと試みたが、同じく効果はなかった。


 ガイキはその無限とも思える体力で巨人のパーツを砕いて回っていたが、アリオの方は早くも魔力切れをおこしかけていた。


 「万事休す、です?」


 静音は学者の顔を見た。

 学者は「う~ん」と唸って、静音を見返した。

 「君、あれに利く魔法、予測ついてない?」

 静音は「何故私が」と言いかけたが、押し黙った。

 「あ、その様子だと何か判ってるね?じゃあお願いしていい?」

 「私、討伐はしなくていいと言われたんですけど」

 「うん。でもさ、このままだと君も無事では済まないよ」

 身勝手な言い草だとは思ったが、確かにその通りでもあった。

 仕方なく静音は巨人の方へ進み出て行った。


 まずは肩でぜいぜい息をしているアリオの数歩前へ出る。


 「雷撃」


 人に聞かれないように口の中で囁くと、たちどころに雷鳴が鳴り響き、紫の稲妻が巨人の身体を走り抜けた。

 ぼこぼこぼこっと巨人の肩から右足にかけて岩が盛り上がり、破裂するように砕けた。

 今までであればすぐさま修復しだす所だったが、巨人は眩暈でも起こしたようにふらふらと身体を揺らして、倒れ伏した。


 「雷撃」


 もう一度静音は唱えた。

 次の雷は頭部に落ちた。


 巨人は完全に動きを止めた。


 「おやまあ、あっけない……」


 学者の小さな声が聞こえてきた。


 ガイキが剣の先で巨人の足先をつついてみたが、巨人はぴくりとも動かない。

 静音は進み出て、巨人の破壊された頭部のむき出しになった眼球部分に近づいた。

 「セラ、危ないから」

 ガイキが声をかけたが、構わず水晶のようなそれに触れた。

 ひやりとした固い表面。

 と、思った途端、すっと手が中に入り、そのままするっと身体ごと中へ吸い込まれてしまった。

 「セラ!」

 ガイキの慌てたような呼び声が聞こえたが、すっぱりと外界から隔てられ、音も途切れた。


 静音は水晶球の中から外を眺めた。


 ガイキが外からがつがつと剣で表面を叩いているようだったが、途中で学者に止められていた。

 「別段、命に別状はないからそのまま待ってて」

 静音はガイキに言ってみたが、外からはこちらが見えていないようだった。

 肩をすくめて球の中心部を見やる。

 そこには光を放つ黄色い石が浮かんでいた。

 「放っとくわけにもいかないし、取っておくべきなんでしょうね」

 誰にともなく呟いて、溜め息をつきつつそれを掴んだ。

 「います?」

 宙に向かって尋ねる。


 ---確保しておいてほしい。


 どこからともなく声、というより思念が頭の中に響いた。

 「まあ邪魔にもなりませんし」

 収納空間へ格納した。

 「そういえば剣を取り上げられてしまいました。今の所困りませんが、他者が持ち続けても大丈夫なものでしょうか?なんだか持つだけで魔力が吸われていくとか言われていたようですが」

 ---握り続けていないのであれば問題は無い。ただ、あれは異界渡りの魔力量に合わせて調整されているので、そなたが持つのが一番効率がいいのだがな。

 肩をすくめる。

 「私は討伐の必要が無いと言われました。為政者の息子の言う事に逆らうのも面倒ですし」

 ---気に入らなければひっくり返しても構わないのだぞ。

 はは、と静音は笑った。

 「それは最後の手段にしておきますよ」

 踵を返して、去ろうとした。

 ---「これ」もそなたにやろう。

 ふと思いついたように『声』が言った。

 「は?」

 ---剣のかわりになるわけではないが、誰かにとられる心配はない。

 「何のことです」

 妙なものなら困ると問いただそうとしたが、先ほど石が浮かんでいた辺りから虹色の光があふれて視界を一杯に染め上げた。

 ---次の魔沼は古い火口だが、生きている。魔は火の地脈を活性化させる。浄化した後も気を抜くな。


 目を眇めると、ぱっと光が弾けとんで、巨人の砕けた頭の中に佇んでいた。


 「セラ!」


 ガイキの呼び声がした。



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