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月影映る  作者: 林伯林
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 「良かったのか?」

 学者は馬車へ乗り込み、静音の隣にはいつものようにガイキが来、斜め後ろには従者が現れた。

 「何がです?」

 「剣を王子に渡したろう」

 ガイキは不愉快そうな顔をして言った。

 剣士である彼にしてみれば、愛刃はその身の一部。取り上げられるという事は命の危機にも等しい。

 「渡さずに済んだと思います?」

 「……思わんな」

 拒否すれば無理やり取り上げられただろう。

 現状命までとられる事はない筈だが、扱いが変わってどんな目に合わされるか判ったものではない。

 「まあ誰にでも使えるというのなら、誰か剣に優れた人が使えばいい事です。あれが私の手にないという事は私には討伐の義務はないという事ですし。次は岩のゴーレムでしたっけ?ありがたく後ろの方で見学させていただきますよ」

 「いや、あれは、お前さんにしか使えないと思うがな。俺は」

 ガイキは顎をこすりながら言った。

 「使わせてもらったからこそ、そう思うぞ」

 静音は答えず、ただ笑った。



 暫くは順調な旅だった。

 浄化を含めて。

 静音は小さな沼はさっさと消してしまい、騎士たちには手出しさせなかった。

 大き目な沼は相変わらず八割の力で処理して、他の面々に仕事をさせた。

 アリオの仕事の半分は静音に「大したことない」傷を負わせる事で、光魔法の娘達の仕事の半分は嫌がらせだったが。

 そういえば水蛇討伐の時のことについては一応アリオに礼を言われた。

 そのまま放っておけば確実に死んでいたのだ。

 「どういたしまして」と答えておいたが、冷ややかな眼差しを見るに、「馬鹿な女だ」とでも思われていそうだった。

 別にこの男が死のうが生きようが、どうでもよかったのだが。


 例の細剣については、誰が使っているものやら、暫く静音は気づいていなかった。

 だがガイキは気が付いていて、「騎士たちが順番に使っている」と教えてくれた。

 魔沼から這い出してくる魔影をあの細剣なら切れるそうだ。

 手も足も出なくなっていた時だったので、たった一振りと言えど、重宝されているらしい。

 王子は満足げだった。

 ただ、騎士たちの間を一巡して、あの剣が細剣にも関わらず「非常に重いと感じられ」、更に長時間握っていると「異様に疲れる」と報告され、渋い顔をしたそうだ。

 学者が調べると、細剣は、持っているだけで魔力を吸い取る事が判明した。

 魔影に対するあの切れ味は魔力によるものらしく、したがって魔力量が少ないものは使用しない方が良い、と王子には報告された。


 「万事解決とはなかなかいかんな」


 王子はため息をつきながら呟いた。

 「本来の持ち主なら、魔力も重さも問題ないですよ」

 学者の言に王子は渋面をさらにしかめる。

 実質「取り上げた」に等しいのだ。そう言われて今更返すというわけにもいかない。

 「まあそれらに気を付ければ騎士たちでも使えるのだ。このまま順番に持たせるさ」

 学者は笑うだけで何も言わなかった。

 休憩時間になって、馬車が止まったので、さっさと扉を開けて外に飛び出して行った。

 恐らく渡り人の所へ行くのだろう。



 「へえ、そうなんですね」

 静音は学者から細剣の話を聞いて興味なさげに頷いた。

 「しかし、戦闘が長引いたりする場合もある。危険なのではないか」

 ガイキの方が興味を持って首を突っ込んできた。

 「それは色々やってみるしかないね。この状況で試験ってわけにもいかないから実地で試す感じで」

 「予測できない事もあるだろうが……まあ騎士たちの命を守るのは王子の役目か」

 途中で突っ込んだ首を引いてしまった。

 どうやらガイキも騎士たちに仲間意識はあまりないらしい。

 「冷たいなあ。世に並びなき剣士ガイキ殿と同道できると喜んでいる騎士たちもいるのに」

 学者は茶化すように言った。

 「だから時々訓練に付き合っているではないか」

 試合形式の打ち合いになると、ガイキの前には列ができる。


 「もう少し協力してくれてもいいんですよ?」


 柔らかな声が聞こえて、三人は振り返った。

 珍しく馬車を降りてきた王子の側近の姿があった。


 「おや、お珍しい」

 学者が言った。

 彼---宰相の息子であり、侯爵家の令息とも聞いている、名前はリシュリアと言った---が微笑みを浮かべた。

 「僕もたまには外に出たくなってね」

 聞けば、彼は王子の書類仕事の補佐として同道しているらしい。

 「どうしても籠りきりになるから、身体を伸ばしたくて」

 王子の冷ややかな美貌に比べると、随分柔らかい優しい面差しの貴公子だった。

 「先ほどの話ですが、騎士隊の指導者としてもっと中に入って下さってもよろしいんですよ?」

 優しい顔のままでガイキに言う。

 「調子がいいな。そんなことは契約には入ってないぞ」

 「皆の憧れなのですから、少し親しくしてくださるといいなと思っただけですが」

 「俺は騎士ではないんだ。基本、金にならない事はしない主義だ」

 「おや、騎士たちに稽古をつけて下さる事に手当は出ていないはずですが」

 「あれは気まぐれだ。義務じゃないからできるんだ」

 ここまで見てきたガイキの性格を考えるとその方がいいのだろうな、と静音はなんとなく思ってぼんやりとやりとりを眺めていた。

 小さなたき火で沸かした白湯をゆっくりと飲みながら。

 歩き通しの身体を労わる為に、簡易な折り畳み椅子に腰を下ろしている。

 表には出さないようにしていたが、疲労がたまっているなとふと思った。

 「ずっと思っていたのだけど、変わったものに座っているね」

 話しかけられても、暫く自分の事とは思わず、ぼうっと炎を見つめていた。

 「セラ?」

 学者に肩をつつかれて、はっと我に返った。

 「大丈夫?」

 気遣わしげに顔を覗き込まれて、一瞬で背中を伸ばして表情を引き締めた。

 「ええ。ええと、椅子の話でした?」

 「騎士隊が使っているものとは違うようだね」

 実は静音が座っているのは異界渡りをした日に勤め先に届いた、とてもコンパクトになる折り畳み椅子だ。ベランダで花見でもしようと思い立ち、注文したのだった。タイミングが良かったと言えば良かった。

 「この世界のものではありませんよ」

 静音は立ち上がって、椅子を畳んで見せた。

 Xになるフレームをぱたんと閉じ、更に糸でつながれた節足部を引っ張ってぐるっとねじれば筆箱サイズになる。

 「随分軽いね」

 持ってリシュリアは驚いた。

 「この金属は一体何?」

 「多分アルミ合金ですね。こっちにあるのか判りませんが」

 多分ないだろう。精製するのに電気分解する必要があったように思う。こちらに電気の概念は恐らくない。

 アウトドア用品なので、収納する袋もあって、そちらのタグを確認してみる。

 「うん。恐らくこちらでは手に入らない材料で出来てますね」

 座面はポリエステルだった。

 「そうか。残念だよ」

 惜しそうにリシュリアは静音に椅子を返した。

 「作り方判ってるならセラに作れないの?」

 無邪気に学者が尋ねてきたが、静音は首を振った。

 「私の世界では前にも言った通り科学技術が発達していて、専門分化が進んでいるんです。専門家じゃない限り、例えばアルミ合金の作り方なんてよく知りませんよ」

 「そうか~。まあこっちでもみんなが錬金術師ってわけじゃないもんね」

 錬金術---!

 静音は少し驚いた。あるだろうなと思っていたが、本当に存在するとは。

 魔法で金属が精製できるなら、アルミとは言わなくとも、軽い金属は出来るのではなかろうか。

 代替品があれば、割と単純な作りだし、こちらの世界でこれと似た製品も作れるかもしれない。

 と思ったが、言わなかった。

 学者やリシュリアは目端が利きそうだ。こちらが言わなくとも、必要ならやるだろう。

 静音は心の中で「どっこいしょ」と言いながらもう一度椅子に座った。

 「なんか本当に疲れてるようだね。大丈夫?」

 「夜までは持つと思います。今日は早く寝ることにしますよ」

 「君今まで体調崩さなかったから体力あるなと思ってたけど、そろそろ限界?」

 「あ~、そうかもしれませんね」

 白湯を飲み干した。

 こっそり塩を一つまみ混ぜておいたが。

 「僕らは馬車に乗っているし、一見歩いているように見えるお嬢さんたちも実は順番に馬車に乗って休んでるんだよね。君もそうできるといいんだけど」

 それは初耳だった。

 なんというか待遇に差がありすぎないだろうか。

 浄化の神子(まだ神子ではないはずだが)等とありがたがっている割に扱いが悪い。

 本当に使い捨てる気なのか。

 「魔導士団の馬車に乗せてもらうわけにもいかないだろうしね」

 学者の言に激しく首を振った。

 「あんな所に乗せてもらうくらいなら歩いた方がましです」

 余計に疲れる気がする。

 「夜までは持ちますって。もうこの話はおしまい」

 何か予想外の話をもってこられても困るので静音は、なお踏み込んでこようとする学者を遮った。

 「具合が悪くなったら言って。君にとっては不本意だろうけどどうしてもという時になったら私たちが降りて歩くから」

 リシュリアの言葉に内心震え上がった。

 王子の馬車に乗ることになれば、王子は絶対おりないだろうから、下手をすると王子と二人きりになる。

 具合の悪い姿を見られるという事は弱みをさらすという事だ。

 静音は気合いを入れて背中を伸ばした。

 「絶対夜まで持たせます!」



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