20
静音は、落ちた大蛇の頭に剣を突き立てた。
眉間から青い石が転がり落ちてくる。
無造作にそれを掴んで拾い上げた。
「セラ……」
アディトリウスは声をかけた。掠れて、震えていた。
静音はこちらへ顔を向けた。
「お怪我は?」
ごく落ち着いた声で静かに問う。
「僕は無いよ。ありがとう。ただ、アリオや騎士が」
静音はちらりと倒れ伏したアリオを見たが、直ぐに顔を上げて城の方向を見た。
「援軍と貴族令嬢軍団が来るようですよ」
城へ帰した若い騎士が連れてきたものらしい。
静音は膝をついてうつ伏せになっていたアリオの身体を起こし、仰向けにした。息を確かめ、傷の有無を見る。
「息はあります。一部に先ほどの水攻撃による傷からの出血。深いものもありますが恐らく光魔法で治癒可能でしょう。意識が無い主な原因は魔力切れですね」
次に倒れている騎士の所へ行く。
「毒の影響がありますか」
呼吸がひゅーひゅー言っている。
喉に手を当てて顔を横に向けさせる。
騎士は激しく咳き込んで背中を丸めた。
「苦しいでしょうけど、吐きだして」
咳で気管から押し出されたものを騎士は吐きだした。
血が地面に落ちた。
「口ゆすいで」
腰につけた水袋の口を男の唇に押し当てた。
男は片手をついて半身を起こすと、水袋を受け取って口をゆすいだ。
静音はもう一度喉に掌を当てた。
「毒は体外に出たし、毒によって焼けた喉や肺は修復しました。腫れも引いたと思うので呼吸は楽になったでしょう。大丈夫ですか?」
男は呼吸を確かめながら頷いた。
「大丈夫です。ありがとうございます」
「今から光魔法の使い手が来ますので、ちゃんと見てもらってください」
他の騎士たちを見るが、重症なのはこの男だけだったようだ。
静音は立ち上がった。
「待った、待った、セラ」
アディトリウスが慌てて声をかけた。
静音は振り返った。
「黙って行かないで。もうちょっとここにいて」
「嫌ですよ。あの人達もうそこまで来てますし」
静音は遠くから近づいてくる馬の蹄の音とざわめきに嫌そうに顔をしかめた。
「僕が一緒にいるからさ。君に嫌な思いはさせないから」
「……信用できません」
「いや信用してよ。頼む」
静音はため息をつくと林の方へ手をかざした。
蛇が倒れた後方の下草や枝に炎がちらついていた。
すっと冷たい風が吹いたかと思うと、柔らかな音がして小雨が降り注ぎ火が消えた。
「この蛇、林に潜んでいたのかな?」
「いえ、もっと北の方から近づいてきたと思います」
「気配、感じた?」
「ええ」
「ちょっと前にこの辺、ものすごい魔力が溢れたんだけど、それが原因かな」
「さあ、どうなんでしょう」
「それ、何だと思う?」
「判りません」
静音は蛇の死骸から鱗を一つはぎ取った。
「毒、大丈夫?」
「ええ、解毒できますから」
「さっき眉間から石を取り出したみたいだけどあれ魔核?」
「いえ、魔核は別にあると思います」
「じゃああれって何?」
「水蛇の水の魔法の源、らしいです」
「らしい?」
「ええ」
「誰に聞いたの?」
静音は笑んで振り返った。
「暁の神官に」
「会ったの!?」
「ええ、先ほど」




