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月影映る  作者: 林伯林
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 特筆すべきは五つの障害。

 人型の火魔獣。

 水蛇。

 岩のゴーレム。

 姿の無い鳥。

 飛来する嵐。



 「これしか書かれてないんだよねえ。でもこれってそうでしょ?」


 学者はにこにこしながらその本『浄化の旅覚書』の表紙をぱんぱん叩いた。

 この世界では本は貴重品ではないのだろうか。

 静音は顔をしかめた。

 「それ、お貸し頂いた資料には書かれていませんでしたので、私には詳細は判りません」

 「ん、ごめんね。貸してあげるけど、これって眉唾とも言われているからさあ」

 数百年前の渡り人の旅の手記だと言い伝えられているが、本人が本当に書いたものかどうかは定かではないらしい。

 「でもあれ、僕の知識にもない魔獣だったんだよね。火魔獣」

 「次に水蛇とやらが現れたら真面目に考察します」

 「そうだね。普通はさ、水蛇って湖とか川辺とか、水が豊かな所に生息するんだけど、ここだとね」

 乾いた大地が続いていた。

 もう長い事雨が降っていないらしい。

 「この辺は開拓されていないのですね」

 埃の立つ道を不愉快そうに歩く光魔法の娘達を見やる。

 「この国は北に向かうほどそうなんだよ」

 「北は一年中天候が悪いと聞きました」

 「うん。北の海は一年中荒れているね。その手前に山脈があるんだけど、湿った風が山を越えると乾いちゃってさ」

 「ああ、それでこれですか」

 砂漠と言うべきか荒野と言うべきか。

 草の類は生えていないわけではないのだが、むき出しの地面と岩場の方が面積が大きい。

 「もともとは肥沃な土地だった筈なんだけどね。その証拠にここから少し南に下ると畑が広がってたでしょ?」

 「そうでしたね」

 この国の食糧の大半を賄っていると思われる穀倉地帯。

 魔沼は人が多い所、人にとって不都合な所から順番に浄化してきた。

 勿論、王都周辺の魔沼は真っ先に浄化された。その後は、道々ついでの浄化の為に緩やかに寄り道しながらも、かなりの急ぎ足で南西に広がる穀倉地帯へやってきたのだった。

 「北にも魔沼はあるんだけどね、まだ西に幾つかあってそっちが先だね」

 道は穀倉地帯へ向かっていた。

 これ以上北には道らしい道もないという。

 「明日には村に入れるよ」


 皆は人里が良いようだが、静音はそれもどうかと思っている。

 数は減ったが、それでも村には大所帯が、いきなりやって来るのだ。

 しかも王族を連れて。

 村には宿泊施設もない所が殆どだ。

 勢い、村長などの家へ王子と側近だけでも泊まる事となる。

 そうなればもれなく光魔法の娘達もやってくる。

 どれだけ迷惑だろう、と想像する。

 「君は今回も野営する?」

 学者は勿論王子たちと一緒に屋内だ。

 「ええ」

 「たまにはこっちで一緒に食事でもどうなの?君と話すのに、僕ばかりが出向いているじゃん」

 「私には話す用事もないんですよ。お嬢様がたに近づくとねちねちどころではない仕打ちを受ける可能性もありますし」

 「たとえばどんな?」

 「水ぶっかけられたり、馬の汚物引っかけられたり」

 「ひえ」

 学者は笑いながらも大げさに怖がって見せた。

 「女って恐ろしいねえ」

 「面白がっているくせに」

 学者は首を振った。

 「君なら大丈夫だと知っているからだよ。対処できない子だったらもっと真剣に面倒見てあげるよ」

 「そうですか。めそめそ泣いてばかりいれば良かったですかね」

 「そうだねえ。そうしたら今頃、王子殿下が傍に侍らせて、真綿でくるむように大事にしてくれていたかもねえ」

 「うえ」

 静音は露骨に嫌そうな顔をした。

 「殿下は優秀で容姿も美しいし、立太子はまだだけれど、まず間違いなく次期王だよ。これ以上ない人物だと思うけど」

 「だからなんです?私には遠い身分ですよ」

 「憧れは無いんだ?」

 静音は笑う。

 十代の少女ではないのだ。現実をかみしめて数十年生きた社会人に今更「王子様と恋」とは、笑う前に馬鹿らしくて気が抜ける。

 「命が惜しくないのかと脅しつけられましたよ。あなただったら憧れます?」

 「ああ、そうか……そうだね」

 学者は笑みを消した。

 「彼は優先すべきことを優先しているだけだ。次期為政者としてね」

 「仕えるべき王の資質を測るには良い判断材料なんでしょうね」

 「うん。君もそういうことはある程度理解していると思っているよ」

 「理解していますが、受け入れる必要があるとは思っていません。何度も言いますが私はこの国の人間ではないのですから」

 ちらりと見上げる。

 「用が済んだら、帰るんですよ、私は」

 「うん、そうだね」

 学者は目をそらさなかった。

 代わりにガラス玉のような感情の見えない瞳になった。

 「でも、この国が気に入ったらずっといてもいいんじゃない?」

 「気に入る所がどこにあるとおっしゃるので」

 「え、そう。そうか……」

 流石に具体的に上げることはできなかったらしい。

 静音は手を出した。

 「何?」

 「本を貸してください」

 学者は持っていた『浄化の旅覚書』を差し出した。



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